ヨモギ・フーチバー(ニシヨモギ)・ニガヨモギ・オトコヨモギはいずれもキク科ヨモギ属に含まれ、多くの種類で町中から山野までのちょっとした空き地に優占して生えている極めて普通の多年草です。葉の下面が綿状でふわふわとしていることに加えて、キク科にしては珍しく風媒花であることが大きな特徴です。しかし、花や果実が地味なため分類が難しく野外で区別が難しい場合があります。ヨモギ属は非常に大きなグループなので正確にはきちんと図鑑を見る必要がありますが、4種に限れば葉の形や毛の生え具合でおおよその区別がつきます。3種は本州では稀で、ヨモギがほとんど優占しています。今でこそ利用は草餅(蓬餅)ぐらいに思えますが、ニシヨモギは沖縄ではよく利用されていますし、薬用としても研究が盛んなグループです。更にお灸にもなります。本記事ではヨモギ属の分類・形態・生態・利用方法について解説していきます。
ヨモギ・フーチバー(ニシヨモギ)・ニガヨモギ・オトコヨモギとは?
ヨモギ(蓬・艾・蕭) Artemisia indica var. maximowiczii は別名カズザキヨモギ、モチグサ。ネットでは Artemisia princeps が使用されているのを見かけますがシノニム(旧学名)です。日本の本州・四国・九州・小笠原;朝鮮に分布し、町中から山野まで幅広い範囲で生える多年草です。
ニシヨモギ(西蓬) Artemisia indica var. indica は別名オキナワヨモギ、フーチバー。日本の本州(関東地方以西)・九州・琉球;朝鮮・中国・台湾・東南アジア(タイ・カンボジア・ミャンマー・ベトナム・フィリピン)・南アジアに分布し、造成地や林道の法面等に生える多年草です(下野,2014)。
ニガヨモギ(苦蓬) Artemisia absinthium はヨーロッパ・ロシア・コーカサス・西アジア・北アメリカ原産で、日本を含む世界中で逸出・帰化している多年草です。
オトコヨモギ(男蓬) Artemisia japonica subsp. japonica var. japonica は日本の北海道・本州・四国・九州・琉球;朝鮮・中国・台湾・フィリピン・アフガニスタンに分布し、川原・草原・林縁・線路の土手などに生える多年草です。和名は種子が小さいことに由来するとされます。
いずれもキク科ヨモギ属に含まれ、多くの種類で町中から山野までのちょっとした空き地に優占して生えている極めて普通の多年草です。ただしニガヨモギは外来種です。
形態的には葉の下面が綿状でふわふわとしていることに加えて、頭花(キク科特有の花序)は、通常は下向き(稀に上向き)につき、筒状花で構成されています。
最大の特徴はキク科の多くは通常虫媒花で、昆虫を派手な色で惹き寄せて送粉・受粉を行いますが、ヨモギ属では筒状花が風媒花として風に花粉を運んでもらっている点です。
この特徴は一説ではキク属 Chrysanthemum に近いヨモギ属の祖先が虫の少ない乾燥地帯に進出したことにより、風媒花に転向したことによって進化したと考えられています。
実際、ヨモギ属はコンクリートまみれの乾燥した場所でも適応して生えているのでこの事実とも符合します。
ヨモギの仲間は食用や薬用に利用されてきた歴史が長く、現代ではどこにでも見かける割には利用されることが減っているようにも感じますが、日本人のほとんどはヨモギからできたよもぎ餅を食べた事があると思いますし、沖縄ではニシヨモギをフーチバーと呼び、癖があるものの、普通に食用にされています。
その他、オトコヨモギも食用になっていますが、これらの区別は地味な花であることも拍車をかけ、特徴が見えづらく野外では非常に難しいと感じることが多いです。
ヨモギ・フーチバー(ニシヨモギ)・ニガヨモギ・オトコヨモギの違いは?
ヨモギ属は日本だけでも約30種が確認されており、実際に区別するのはかなり難しいです。
ただここでは参考のために4種に限って区別方法を考えています。4種に限ればニガヨモギとオトコヨモギは葉をしっかり観察さえすればきちんと区別できます。
まず、ヨモギ・ニシヨモギ・ニガヨモギでは葉が羽状複葉、つまり葉が鳥の羽毛のように細かく切れ込むのに対して、オトコヨモギでは中部の葉では切れ込みが浅く、通常へら状くさび形であるという違いがあります。葉の変異が非常に大きいので何枚か確認する必要がありますが、比較的すぐ分かると思います。
また、ヨモギ・ニシヨモギ・ニガヨモギでは葉にある白い毛が目立つのに対して、オトコヨモギでは白い毛はほとんどありません。
その他、ヨモギ・ニシヨモギ・ニガヨモギでは雌花も両性花もつけるのに対して、オトコヨモギでは雌花をつけるものの両性花はつけないという違いも分類学上は重要ですが、これを確認するのは花期に限られますし、普通の人は難しいでしょう。
残り3種に関しては、ヨモギとニシヨモギでは白い毛が下面のみに生え、羽状複葉があまり細かく分かれず、複葉の先は比較的鋭いのに対して、ニガヨモギでは白い毛が上面にも生え、羽状複葉がより細かく分かれ、複葉の先は比較的丸いという違いがあります。
そのため、ニガヨモギでは明らかに外観からして白っぽいということが分かると思います。
上記2種はヨモギに比べれば圧倒的に稀で、町中で優占して生えているものはたいていヨモギです。





ヨモギとフーチバー(ニシヨモギ)の違いは?
一番難しいのはヨモギとニシヨモギです。
ヨモギは頭花が直径1.2~1.8mmであるのに対して、ニシヨモギでは頭花が直径1.8~2.5mmという点が唯一の違いとして図鑑では挙げられています。ニシヨモギの方が花のように見えるもの(実際は花が集合した塊)のサイズが大きいということです。
そのため、花期以外ではほとんど区別することができないかもしれません。
ニシヨモギは葉の裂片の幅が広い変種ともされているので、こちらで区別できる可能性もありますが、具体的にどのくらい広ければニシヨモギであるという記述はありません。
分布の観点では本州の関東より東のものはヨモギで、沖縄のものはニシヨモギであると現状は確定できそうです。
ただ味に関してははっきりと違いがあり、ニシヨモギの方が苦みが弱く、食感も柔らかいため食用に適しています。
食用という観点では区別は重要でありますが、ヨモギとニシヨモギは広義では Artemisia indica という種の中の変種関係に位置づけられており、国や時代によってはヨモギ・ニシヨモギに加えてチシマヨモギ・ハタヨモギを全て1種類扱いにしてしまう分類もあり、 極めて近縁なグループであると言えます(下野,2014)。







他に似た種類はいる?
上述のように非常に種類が多いのですが、葉の形を丁寧に見れば意外に似た種類は少ないです。とはいえかなり難しいと感じるかもしれません。
オオヨモギ Artemisia montana はヨモギやニシヨモギに似ますが、ヨモギやニシヨモギとは異なり、葉柄の基部に仮托葉がほぼなく、頭花は球鐘形です。「仮托葉」というのは植物体についている葉柄の基部から左右に伸びる葉のようなもののことです。これは比較的わかりやすいですが、頭花は正直曖昧すぎます。北海道に多く、本州では標高の高い山地で普通見られるので、低地のものは大型のヨモギである可能性が高いです。
キレハノオトコヨモギ Artemisia japonica var. lacinifolia はオトコヨモギと似ますが、オトコヨモギとは異なり葉は羽状に中深裂し、裂片は線状披針形です。
ハイイロヨモギ Artemisia sieversiana はニガヨモギに似ますが、ニガヨモギとは異なり葉の裂片は徐々に狭まり先端は鋭頭です。
ハタヨモギ Artemisia vulgaris はヨモギやニシヨモギに似ますが、現在は日本の図鑑に記載されていません。ただ海外の研究では日本での分布が指摘されており、実際の分布はまだよく分かっていません(下野,2014)。

ヨモギ・フーチバー(ニシヨモギ)・ニガヨモギ・オトコヨモギの利用方法の違いは?
ヨモギの利用方法は?
ヨモギは特有の香りがあり、春に摘んだ新芽を茹で、おひたしや汁物の具、また草餅(よもぎ餅)にしたり、天ぷらにして食べることもできます(尾立・檜山,2013)。
草餅(関西ではよもぎ餅)は平安時代の草餅は春の七草のハハコグサを練りこんだ餅だったとされていますが、江戸時代にはヨモギを使用することが定着しています(山下,2019)。
灸、つまり「お灸」に使う「艾」も重要な用途で、ヨモギの葉を乾燥させ裏側の綿毛を採取したものです(織田,1984;尾立・檜山,2013)。東洋医学の一種で、もぐさを体表(皮膚上)の選択した部位で燃焼させることで温熱刺激を与え、疾病の予防や治療などを行います。ただし、一部ではオオヨモギ(ヤマヨモギ) Artemisia montana も使用されています。また中国に分布するのはヨモギではなく、チョウセンヨモギ Artemisia argyi であることから中国などの国外ではこちらが使用されている可能性が高いです。
薬用としても用途が多く、葉は、艾葉という生薬になり、止血作用があります。艾葉でも一部はオオヨモギで、中国ではチョウセンヨモギです。
若い芽や育ち始めた若い株は、干しておいたのちに煎じて飮むと、健胃・腹痛・下痢・貧血・冷え性などに効果があるとされ民間療法として昔から伝承されてきています。またもう少し育ったものは干しておき風呂に入れ、腰痛をはじめ痔対策の入浴剤に使用されています。
ヨモギは高い栄養価を含むことが知られており、特にミネラル・ビタミンの含量が高く、野菜において、カリウムはフダンソウとパセリに次いで3番目、鉄はパセリに次いで2番目、β-カロテンは8番目に含量が多いです(安藤ら,2022)。さらに、ヨモギはビタミン・ポリフェノールを多く含むことから強い抗酸化作用を持つことが知られています。
特有の成分としてはシネオール・ツヨン・β-カリオフィレン・ボルネオール・樟脳(カンファー)が含まれています(尾立・檜山,2013)。
ニシヨモギの利用方法は?
ニシヨモギはヨモギと分布が異なるため、使用される地域は異なりますが、ヨモギとよく似た用途です。
西ヒマラヤでは「ティテパティ」と呼ばれ、先住民は消化不良、慢性発熱、その他の肝臓疾患などの病気を治すために使用しています(Koul et al., 2017)。ネパールでは、この植物の汁は赤痢・腹痛・下痢の治療に使用されます。若い葉は、大麦と一緒に調理して食べられ、米に色と風味を与えます。
食用としてはガロ族 (インド、メガラヤ州のノクレク生物圏保護区に住む部族)の人々は、柔らかい芽を野菜として食べます。
ネパール人は、葉の汁を皮膚病の治療に使用し、乾燥させた葉と花は虫除けとして使用されます。
沖縄では、琉球語で「フーチ(風気:病気のこと)」を治す「バー(葉)」と呼ばれ、日本語に対応させると「風気葉」という意味であるように、解熱・胃腸病・婦人病に効果があるとして、薬草として幅広く家庭で利用されてきました(日本調理科学会,2021)。
料理としてはフーチバージューシー(ニシヨモギ入り炊き込みご飯)やボロボロジューシー(ニシヨモギ入りオジヤご飯)に使用されることが多いです(渡邊,2008;日本調理科学会,2021)。ジューシーは雑炊のことです。その使用には地域差があります。
また、沖縄そばに生のまま入れることがある他、ヒージャー汁(山羊汁)に用いられる場合は、臭い消しの役割があります。
このようにニシヨモギでは積極的に生のまま食用できているのは、ヨモギよりも葉が香り高く(山下,2019)、食べやすいからかもしれません。
化学成分としてはβ-ツジョン・ヘルニアリン・1,8-シネオール・エストラゴール・サビニルアセテート・シスクリサンテニルアセテート・ダバノン油・テルピネオールなどの揮発性油を含み抗真菌性を持ちます(Koul et al., 2017)。クロマトグラフィー蒸留ではトランス-エチルシンナメートとピペリトンという2つの新規化合物が単離されています。
ニガヨモギ・オトコヨモギの利用方法は?
ニガヨモギは外来種なので日本での古来からの利用方法はありませんが、ヨーロッパやトルコでヨモギと似た薬用として利用されてきた歴史があります(Koul et al., 2017)。食用としてはそもままでは苦みが強く、薬草酒「アブサン」に利用されます。
科学的にも抗寄生虫作用・抗菌作用・抗酸化作用・肝保護作用が証明されており、実験的にはニガヨモギの精油が出芽酵母やカンジダ・アルビカンスに対して抗菌作用を示しました。
オトコヨモギは日本での利用は乏しいですが、海外に分布する同亜種では湿疹や発熱の治療のための民間療法で広く使用されてきました。
受粉方法は?
ヨモギ属は普通茎の先に大きな円錐花序をだし、小さな頭花を下向きに多数つけます。頭花はキク科特有の構造で、花そのものではなく、花序(花の集まり)です。雄しべと雌しべを持ちうる小さな花(小花)が無数に集まっています。
小花は舌状花と筒状花の2種類ありますが、ヨモギでは筒状花のみで、更にその筒状花は、頭花の内側は両性花(雄しべと雌しべ両方あり)で、周辺は雌花(雌しべのみあり)となっています。
上述のようにキク科にしては珍しく風媒花です(下野,2014;山下,2019)。ただし2022年には虫媒花の種類も確認されています(Hussain et al., 2024)。
花粉に関しても動物媒の花粉では表面に棘がある場合もありますが、ヨモギ属では滑らかになっており、これは一説では風で飛散するときに有利であると考えられています(Bolick, 1990)。
種子散布方法は?
ヨモギ属の果実は痩果は倒卵形で、無毛または有毛。冠毛はないか、またはごく短いです。非常に小さな痩果の内部に種子が含まれ、生産量が非常に多いです。
そのことから特別な種子散布方法はないと思われますが、果実及び内部の種子が非常に小さく生産量が非常に多いため、少なくともニガヨモギでは重力散布に加えて水や動物によって容易に分散すると考えられています(Goud et al., 2015)。
引用文献
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