アサザ・ガガブタ・スイレンの違いは?葉だけで区別できる?なぜ絶滅危惧種?アサザとガガブタは八方美人な戦略で生き残っていた?(花の生態がわかる写真図鑑 23)

植物
Nymphoides peltata

アサザ・ガガブタ・スイレンは日本の湖沼や溜池で見られる円形の葉を持つ浮葉植物3種で、よく似ていますが、アサザとガガブタはミツガシワ科で、スイレン属はスイレン科であるため、全く異なっています。花があれば確実に区別がつきますが、葉だけでもかなりの精度で区別がつくものと思われます。アサザ・ガガブタは、池沼、溜池の埋め立てや改修工事、水質汚濁の進行により日本では準絶滅危惧に居指定されている一方、侵略的外来種とされている地域もあります。花は雄しべが長いタイプと雌しべが長いタイプがある異型花柱性を持つことで自家受粉を防いでいます。ただ栄養繁殖もかなり行っており、種子繁殖と栄養繁殖を使い分けているというのが実情のようです。そんな補足的な役割を担っているようにも思えるアサザとガガブタの花は特定の昆虫に受粉してもらう役割を絞ることはなく、幅広い分類群の昆虫を呼び込むように進化していました。果実は蒴果で水散布を行い、種子は水中の土壌の中に種子が埋もれて眠ることで、環境条件が悪い時をやり過ごしています。本記事ではアサザ・ガガブタの分類・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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日本の湖沼や溜池で見られる円形の葉を持つ浮葉植物3種

アサザ(浅沙・阿佐佐) Nymphoides peltatum は日本の本州、四国、九州;朝鮮、中国からユーラシアに広く分布し、比較的富栄養な湖沼・溜池に生息する多年草で浮葉植物です(高川,2006)。地域によって扱いが大きく異なり、日本で環境省のレッドリストで準絶滅危惧(NT)に指定されたり、東欧では絶滅危惧種である一方、北米やニュージーランドでは害がある侵略的外来種として知られます。

ガガブタ(鏡蓋) Nymphoides indica は日本の本州、四国、九州;朝鮮、中国、東南アジア、アフリカ、オーストラリアに分布し、湖沼や溜池などに群生する多年草で浮葉植物です(佐竹,1999)。日本で環境省のレッドリストで準絶滅危惧(NT)です。

スイレン(睡蓮)は植物学的には特定の種類を指す言葉ではなく、スイレン属 Nymphaea の総称です。その中でもあえてスイレンと呼ぶのは園芸品種が多いでしょう。温帯および熱帯地域に広く分布し、世界で50種ほど知られています。日本には唯一ヒツジグサ Nymphaea tetragona のみ自生が知られますが、実際は園芸品種も多く見られます。

いずれも日本の湖沼や溜池で見られる円形の葉を持つ浮葉植物で、いずれも園芸で栽培もされ、葉だけでは混同されやすい種類かもしれません。

アサザ・ガガブタ・スイレンの違いは?

しかし、分類としてはアサザとガガブタはミツガシワ科で、スイレン属はスイレン科であるため、全く異なっています。

その違いは花に大きく現れています。

アサザとガガブタでは合弁花で5裂し、フリルや糸状の装飾があるのに対して、スイレン属では離弁花で、萼片は4~5枚、花弁は多数あります。

アサザとガガブタの違いは、アサザでは黄色の花で捻じれ、深く5裂し、不規則に切れ込むのに対して、ガガブタでは白色の花で、裂片の内面と縁に長い毛が密生します。

花が咲いていれば見間違うことはないでしょう。しかし、時期や場所によっては葉だけで区別する場合もあるかもしれません。

浮葉の違いとしては、アサザとガガブタでは普通は卵状円形に近く、基部は耳状であるのに対して、スイレン類は一般的に円形に近く、基部は矢じり状で尖り、バンダイナムコのキャラクター「パックマン」を彷彿とさせるものが多いです。また、アサザとガガブタでは葉縁が全縁ですが、スイレン類には鋸歯のように波打ってる品種もあります。

また、アサザとガガブタでは葉脈が中央部のみが特に白く目立ち、側脈は殆ど目立たないのに対し、スイレン属ではきめ細かい側脈が葉中に通っているのが、外からでも確認できます。

アサザとガガブタの違いとしてはアサザでは耳状となっている葉の基部の開き具合が小さく、葉柄の付け根は赤みを帯びていますが、ガガブタでは葉の基部の開き具合が大きく、葉柄の付け根は赤みはない傾向にあります。

分類上はアサザでは上部の葉は対生状をなし、葉柄は楯形につき、ガガブタでは葉は互生し、葉柄は底着するという違いもあります(神奈川県植物誌調査会,2018)。しかしこの特徴を外から認識するのは難しいかもしれません。

アサザの葉
アサザの葉
アサザの花
アサザの花

ガガブタの葉(ビオトープ ガガブタ 1ポット 休眠株 楽天チャーム)

ガガブタの花(ビオトープ ガガブタ 1ポット 休眠株 楽天チャーム)
スイレン園芸品種'サマーレイン' Nymphaea 'Summer Rain'の花と葉(右)
スイレン園芸品種’サマーレイン’ Nymphaea ‘Summer Rain’の花と葉(右)

なぜ準絶滅危惧種になった?

アサザやガガブタはなぜ準絶滅危惧種になってしまってたのでしょうか?

主な原因は多くの希少浮葉植物のように池沼、溜池の埋め立てや改修工事、水質汚濁の進行によるものだと考えられています(京都府環境部自然環境保全課,2015)。

しかし、後述のように様々な繁殖方法を持ち、上述のように北米やニュージーランドでは害がある侵略的外来種になっています。一見繁殖力が高いようにも思えるこの2種がなぜ絶滅危惧種になってしまったのかは研究が不足している部分もあります。

なぜ雄しべが長いタイプと雌しべが長いタイプがあるのか?

アサザは花期が6~9月。花冠は深く5裂し、直径3~4cm、長さ2.5~3cm、黄色で捻じれて不規則に切れ込みフリルのようになっています。萼片は5個、長さ9~13mm。

ガガブタは花期が7~9月。花は多数つき、節に束生し、花冠は深く5裂し、直径約1.5cm、白色で裂片の内面と縁に長い毛が密生します。萼片は卵形で長さ4〜6mm。

以上のように花期はかなり近いですが、花の形は大きく違っています。

アサザとガガブタの花には少し変わったことがあります。

それは雄しべが長いタイプの個体と雌しべが長いタイプの個体があるということです(高川,2006)。なぜこのようになっているのでしょうか?

これは自家受粉を防ぐ手段であると考えられています。こうすることで昆虫が花に訪れたとき、雄しべが長いタイプの花の場合は長いタイプの花の花粉が雌しべが長いタイプの柱頭につきます。また、雌しべが長いタイプの花の場合は雌しべの長いタイプの花の花粉が雄しべが長いタイプの柱頭につきます。

少し分かりにくいかもしれませんが、要するに空間的に雌雄を分離して、雄しべが長いタイプと雌しべが長いタイプ同士では受粉しますが、雄しべが長いタイプ同士、雌しべが長いタイプ同士では受粉しないということです。

このような性質を「異型花柱性(heterostyly)」と呼び、様々な植物で見られます。

異型花柱性の成立は遺伝的に極めて複雑なため、まれにしか起こらない現象で言われています(渡邊,2022)。また、2タイプに分かれるのですから、事実上、個体群の半分としか交配できないということになります。これも大きなデメリットでしょう。そのため確実に自家受粉を防げるのですが、少数派の戦略となっています。

種子繁殖と栄養繁殖を使い分けていた?

一方で、アサザでは遺伝解析の結果、ほとんどの自生地が1つないし2つのクローンで構成され、種子を作るために必要な異型花柱性を持っている個体が生育するのは茨城県の霞ヶ浦だけとなっていて、日本にわずか61個体しか残存していないとの研究があります(上杉ら,2009)。

アサザは受粉による種子生産だけではなく、走出枝が切れて増殖する栄養繁殖も行います。個体数が減ってしまった日本ではクローン繁殖も盛んに行われているのかもしれません。

その後の研究では福島県の猪苗代湖と滋賀県の琵琶湖において異型花柱性が検出されたり、クローン個体群にも遺伝的多様性があることも示されているので(藤井ら,2015)、結局はどちらも大事な繁殖手段であると考えられそうです。

なお、ガガブタでも同様に栄養繁殖を行い、葉柄基部にバナナの房状の殖芽を形成します。

アサザは色んな昆虫を呼んで受粉する八方美人だった?

アサザの花にはどのような昆虫が訪れるのでしょうか?

ヨーロッパや宮城県伊豆沼での研究では、ハナバチ、特にマルハナバチが主に訪れることが分かっています(高橋ら,2011)。一方で、茨城県霞ヶ浦の研究では、イチモンジセセリ Parnara guttataというチョウが重要であると考えられています。なぜこのような違いが起こるのでしょうか?

国内に関して考えると、イチモンジセセリは宮城県で冬を越すことができず、生息は限られますが、関東以西ではそうではなく普通に見られます。そのためこのような違いが出たようです。つまり、アサザの花の影響、というより周りの環境によって重要な虫が変わってくるようです

アサザの花は皿形の大きく平開する花冠であることや、外から見てもよく分かる太い雄しべや雌しべを持っていることからわかるように、様々な虫を受け入れることができる「ジェネラリスト」なのです。他にもミギワバエといった水生で生息するハエ目の仲間や、どこにでも見られるハナアブ目やチョウ目の仲間が訪れることも確認されています。周りの環境に対して柔軟に生きることができるのかもしれません。

保全という観点でもこのような動物との関わりを詳しく知ることは大事と言えそうです。

ガガブタも八方美人だが受粉には苦労している模様…

一方、ガガブタではどのような昆虫が訪れるのでしょうか?

兵庫県と岡山県で行われた研究によると、イチモンジセセリ、トゲミギワバエ属の複数種 Notiphila spp.、シマアシブトハナアブ Mesembrius flaviceps、セイヨウミツバチ Apis mellifera、サビイロカタコハナバチ Lasioglossum mutilum、カギアシゾウムシ属の複数種 Bagous spp. がやってきてきて、やはりチョウ目、ハエ目、ハチ目、コウチュウ目で幅広い昆虫が訪れていました(Shibayama & Kadono, 2003)。

ガガブタでもアサザと同様にジェネラリストとして進化しているのだと考えられます。

しかし、これらの昆虫は花から花への飛翔距離は20cm以下で、隣花受粉を頻繁に行っていました。これはつまり、異型花柱性なので別のタイプの花を持った個体に昆虫がたどり着いていないということです。そのため本来の種子生産力が落ちてしまっていると考えられています。

なぜそのようになっているかは分かりませんが、個体群が少なくなっていることも影響しているのかもしれません。

アサザ・ガガブタの果実は蒴果で種子は水散布

アサザとガガブタは開花した場合、果実を作ります。果実はアサザ属共通で蒴果です。

アサザの蒴果は長卵形です。種子は扁平でふちに柱状突起があります。

ガガブタの蒴果は楕円形で長さは4〜5mmです。種子は広楕円形で光沢があり、長さは0.8mmです。

アサザについては種子散布の方法が詳しく分かっています。アサザの種子は揮発性の種皮に覆われているので、浮遊性があり、水散布を行い、遠距離にも移動できます(高川,2006)。

ただ、これでは別の水系に移動するのは難しいと思うかもしれません。

実はこれに加えて水鳥にアサザの種子が付着する「動物付着散布」も起こると言われています。

また、種子には休眠性があり、永続的土壌シードバンクを形成します。水中の土壌の中に種子が埋もれて眠っているのです。環境条件が悪い時には無理して芽を出さないというわけです。

実験では種子の発芽は冷湿処理と変温条件により促進され、酸素分圧の低い水中では抑制されることが明らかにされています。これはつまり、暖かくて乾燥していて酸素がある環境で発芽するということです。このことから春先の冠水しない裸地的環境で発芽・定着すると推測されています。

これは普通水中で生きることを踏まえると、少し意外な事実かもしれませんが、裸地的環境に適応した「陸生型」という形態も持っているのです。こんなに適応力があるように思えるのに、絶滅危惧種になるのですから、不思議なものです。

引用文献

藤井伸二・上杉龍士・山室真澄. 2015. アサザの生育環境・花型・逸出状況と遺伝的多様性に関する追試. 保全生態学研究 20(1): 71-85. https://doi.org/10.18960/hozen.20.1_71

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

京都府環境部自然環境保全課. 2015. 京都府レッドデータブック2015 第2巻 野生植物・菌類編. 京都府環境部自然環境保全課, 京都. 611pp.

佐竹義輔. 1999. 日本の野生植物 草本 3 合弁花類. 平凡社, 東京. 259pp. ISBN: 9784582535037

Shibayama, Y., & Kadono, Y. 2003. Floral morph composition and pollen limitation in the seed set of Nymphoides indica populations. Ecological Research 18(6): 725-737. https://doi.org/10.1111/j.1440-1703.2003.00591.x

高川晋一. 2006. 土壌シードバンクを用いたアサザ個体群再生に関する保全生態学的研究. 東京大学博士論文. https://doi.org/10.15083/00004276

高橋睦美・吉田政敬・田村将剛・中井静子・嶋田哲郎・横山潤. 2011. 伊豆沼に生育するアサザ (Nymphoides peltata (SG Gmel.) Kuntze) の訪花昆虫相. 伊豆沼・内沼研究報告 5: 5-11. ISSN: 1881-9559, https://doi.org/10.20745/izu.5.0_5

上杉龍士・西廣淳・鷲谷いづみ. 2009. 日本における絶滅危惧水生植物アサザの個体群の現状と遺伝的多様性. 保全生態学研究 14(1): 13-24. https://doi.org/10.18960/hozen.14.1_13

渡邊謙太. 2022. 「異型花柱性」を巡る生態学と進化生物学の今. 沖縄工業高等専門学校紀要 16: 31-45. https://doi.org/10.51104/nitokinawacollege.16.0_31

出典元

本記事は以下書籍に収録されていたものを大幅に加筆したものです。

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