アサガオ・マルバアサガオ・ノアサガオ・アメリカアサガオはいずれもヒルガオ科サツマイモ属に含まれ、「アサガオ」とつく種類の中でも花冠が直径3cm以上と大型で盛んに観賞用に栽培される仲間です。非常に人気がある仲間ですが品種としての個体差が大きく、本来交配できない「種」レベルに異なる4種が混同されていることは多いかもしれません。4種は萼の形を見ることで最も正確に区別することが出来ます。あとは花や葉の形も調べて総合的に判断しましょう。日本のアサガオの起源は謎が多く、本来アメリカ大陸原産のアサガオが奈良時代には日本には渡来したとされており、ヨーロッパのアメリカ大陸再発見以前から確認されています。本記事ではサツマイモ属の分類・形態について解説していきます。
アサガオ・マルバアサガオ・ノアサガオ・アメリカアサガオとは?
アサガオ(朝顔) Ipomoea nil は日本ではヒマラヤ原産とされることがありますが、世界的には中央アメリカ~南アメリカ原産というのが定説で(RBG Kew, 2024)、世界中で栽培され、日本では奈良時代には唐(中国)経由で渡来したとされ、すでに下剤として薬用に栽培されており、江戸時代以降は栽培ブームとなり、観賞用として極めて一般的に見られる一年草です。しかし、その歴史的経緯については後述のように謎が多いです。各地の沖積地に逸出し野生化していることもあります。
マルバアサガオ(円葉朝顔) Ipomoea purpurea は熱帯アメリカ原産で、江戸時代に観賞用として渡来し、帰化していたとされる一年草です。観賞用に栽培されます。
ノアサガオ(野朝顔) Ipomoea indica は中央アメリカ~南アメリカ原産で、野生化し自生してる琉球列島では海岸の草地や崖地に生える多年草です。琉球列島以外の日本では近年壁面緑化や鑑賞目的で盛んに栽培されるようになっています。
アメリカアサガオ(亜米利加朝顔) Ipomoea hederacea var. hederacea は熱帯アメリカ原産で、江戸時代の末期に観賞用に導入された後、第二次世界大戦後に帰化が認められた一年草です(清水ら,2001)。現在では各地の道ばたなどで見られます。
いずれもヒルガオ科サツマイモ属に含まれ、「アサガオ」とつく種類の中でも花冠が直径3cm以上と大型で盛んに観賞用に栽培される仲間です。
きれいな円形の花冠をつけることに加えて、土壌環境によって花冠の色が赤色~青色に変化し、栽培も用意なことから特に日本では非常に人気があり、そのブームの最初は江戸時代だと考えられています。
小学校の理科の授業でもアサガオを育てるカリキュラムが取り入れられることもあり、日本人とは切っても切り離せないグループですが、園芸品種が盛んに創出されたこともあり、生物学的に「種」レベルで異なる上記4種が混同されてしまうことがあります。
アサガオ・マルバアサガオ・ノアサガオ・アメリカアサガオは生物学的に全く異なる別種、つまり普通交配しないレベルで異なるということを抑えておいてください。
アサガオ・マルバアサガオ・ノアサガオ・アメリカアサガオの違いは?
具体的に4種は以下のように区別できます(神奈川県植物誌調査会,2018)。
まず、アサガオとアメリカアサガオでは萼裂片の先が細く線状に長く伸び、葉が薄いのに対して、マルバアサガオとノアサガオでは萼裂片が鋭角三角形にやや近く先が短く、葉が厚いという違いで大別できます。
葉の厚さというのは少しわかりにくいかもしれませんが、萼、つまり花冠の後ろについている緑色の葉のようなものを確認することで簡単に分かります。
アサガオとアメリカアサガオに関しては、アサガオでは萼裂片の先がほとんど反曲せず線形に長く伸び、花冠は直径約5~8cmと大きいに対して、アメリカアサガオを萼裂片の先は管状で反り返り、花冠は直径3~4cmとやや小さいという違いがあります。
更に加えるとアメリカアサガオでは花冠の色は紫色~紅色となることもありますが普通一様に鮮やかな空色であることが多いのに対して、アサガオは固定的な色はなく、濃い青色~紅色まで様々で、品種改良により斑紋を伴う場合もあります。
マルバアサガオとノアサガオに関しては、マルバアサガオでは花序柄はふつう葉柄より長く、花は直径5~8cm、果実は下垂し、葉は卵心形で分裂せず、上面に短毛が散生するのに対して、ノアサガオでは花序柄はふつう葉柄より短く、花は直径8~12cm、果実は上向きで、葉は卵心形でときに3浅裂し、疎らに毛があるという違いがあります。
要素がかなり多いですが、実用的には葉上面にたくさん毛が生えていればマルバアサガオ、そうでなければノアサガオといった程度の理解でいいでしょう。花は明らかにノアサガオが大きいです。
名前の通り、マルバアサガオは全ての葉が分裂せず丸いですが、ノアサガオでも分裂葉にまじって丸い不分裂葉が存在するので注意が必要です。
アサガオとマルバアサガオ・ノアサガオは上述のように萼裂片の形で区別できますがこの部分が確認できず判断にまようことがあるかもしれません。この場合確実な区別方法はないですが、アサガオでは分裂葉(切れ目がある葉)が多く、「蝉葉」が代表的ですが、品種によって様々な形があります。
他に似た種類はいる?
アメリカアサガオにはマルバアメリカアサガオ Ipomoea hederacea var. integriuscula という変種が存在します。こちらはほぼアメリカアサガオと同じですが、名前の通り葉が全縁で丸い不分裂です。
サツマイモ属には他にも多数の種類が含まれていますが、多くは花冠が小型でここでは違いは省略します。
ヒルガオ Calystegia pubescens などヒルガオ属の仲間はアサガオと同じヒルガオ科で、混同する人がいるかもしれません。
しかし、ヒルガオは通常花冠がピンク色で、決定的な違いとしては花冠の萼が包むように苞または苞葉と呼ばれる葉のようなものに包まれています。
ヒルガオ属の違いは別記事を御覧ください。
日本のアサガオの起源は謎だらけだった!?
上述のようにアサガオは世界的には中央アメリカ~南アメリカ原産というのが定説となっています。日本ではヒマラヤ原産とする文献もありますが(神奈川県植物誌調査会,2018)、中国の文献でもイギリスの文献でもアメリカ大陸原産と記されています(RBG Kew, 2024)。
その根拠はサツマイモ属の殆どが栽培による逸出を除くとアメリカ大陸に存在し、最も多様化がおこっている地域であることにあります。
このことから考えるとヨーロッパ人がアメリカ大陸を発見した以降、アサガオはユーラシア大陸に広がり、日本にやってきたと思われるかもしれません。つまり「コロンブス交換」の1つというわけです。
しかし、そうではありません。実は1164年(平安時代)に成立した『平家納経』という写経内で挿絵が出てくるのです(Austin et al., 2001)。
これはなぜなのでしょうか?
その理由は残念ながらはっきりとは分かってません。以下のような仮説が考えられています。
- 動物による長距離の種子散布によって野生化した。
- コロンブスによるアメリカ大陸の再発見以前にアジア・中国経由で導入された。
- 『平家納経』に描かれている「アサガオ」のような植物は別物で、本物のアサガオはコロンブスの後の時代にヨーロッパ経由で導入された。
最近の論文では(2)であることを指摘するものが増えています(仁田・星野,2019)。
ただ、日本にコロンブス交換以前にアメリカ大陸の植物がやってきているのは不思議に思われるかもしれません。実際、その経緯についてはよく分かっていません。
私の考察ですがデネ・エニセイ語族(Dené–Yeniseian languages)はアメリカ大陸とユーラシア大陸をまたぐ言語グループであることが知られており、これが事実ならデネ・エニセイ祖語を話すネイティブ・アメリカン(インディアン)がユーラシア大陸に戻ったということであり、コロンブス以前のアメリカ大陸とユーラシア大陸の関係を示す証拠になるのかもしれません(Sicoli & Holton, 2014; Wilson, 2023)。
他の言語学の研究では4世紀(五胡十六国時代)の中国北部の山西に存在した小部族で、五胡の1つである「羯」は北米先住民にルーツがある「ケット人」のことである可能性が指摘されています(Vovin et al., 2016)。ケット人が話すケット語はエニセイ語族なので、これもアメリカ大陸とユーラシア大陸の関係を示唆するものでしょう。
引用文献
Austin, D. F., Kitajima, K., Yoneda, Y., & Qian, L. 2001. A putative tropical American plant, Ipomoea nil (Convolvulaceae), in pre-Columbian Japanese art. Economic Botany 515-527. https://www.jstor.org/stable/4256486
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
RBG Kew. 2024. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/
仁田坂英二・星野敦. 2019. アサガオの多様な変異体リソースと高精度ゲノム情報. 植物科学の最前線 10: 169-178. ISSN: 2432-9819, https://doi.org/10.24480/bsj-review.10c8.00168
清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七. 2001. 日本帰化植物写真図鑑 plant invader 600種 改訂. 全国農村教育協会, 東京. 553pp. ISBN: 9784881370858
Sicoli, M. A., & Holton, G. 2014. Linguistic phylogenies support back-migration from Beringia to Asia. PLoS One 9(3): e91722. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0091722
Vovin, A., Vajda, E., & De La Vaissiere, E. 2016. Who were the *Kjet and What Language did they Speak?. Journal Asiatique 304(1): 125-144. https://doi.org/10.2143/JA.304.1.3146838
Wilson, J. A. 2023. Late Holocene Technology Words in Proto-Athabaskan: Implications for Dene-Yeniseian Culture History. Humans 3(3): 177-192. https://doi.org/10.3390/humans3030015