ホップとカラハナソウの違いは?似た種類の見分け方を解説!本当の果実はどれのこと? 

植物
Humulus lupulus var. lupulus

ホップ(セイヨウカラハナソウ)とカラハナソウはいずれもアサ科カラハナソウ属に含まれる多年草で、学名から分かる通り、変種の関係にあります。ホップはビールの原料になることから有名でしょう。2変種とも分裂しないか3(~ 5)中裂する葉を持つ点、雌雄異株である点、果穂を形成する点などがほとんど同じです。しかし、全身の毛の生え具合や「松ぼっくり」のように見える「果穂」に含まれる苦味成分となる「ルプリン腺」と呼ばれる黄色い腺体の数が異なることから区別が付きます。このルプリン腺の違いを考えるとカラハナソウでビール造りは難しそうです。なお、本当の果実は果穂の内部に存在しますが、栽培されているホップでは普通受粉しないので存在しません。本記事ではホップとカラハナソウの分類について解説していきます。

スポンサーリンク

ホップ・カラハナソウとは?

セイヨウカラハナソウ(西洋唐花草) Humulus lupulus var. lupulus は一般名ホップ。中国、ロシア、カザフスタン、コーカサス、西アジア、北アフリカ(モロッコ)、ヨーロッパに分布する多年草です。ここでは以下ホップと呼んでいきます。

ホップはヨーロッパで栽培が開始されたのは8世紀ごろと言われていますが、当初は薬用で、1079年以降から苦味付け・香り付け・泡の生成・抗菌を目的にビール造りに利用され、1516年になってバイエルン領邦(現ドイツ)君主ヴィルヘルム4世が出した「ビール純粋令」によってビールへの利用が定常化されたとされています(村上,2010)。

カラハナソウ(唐花草) Humulus lupulus var. cordifolius は日本の北海道、本州(中部以北);中国に分布し、山地に生える多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。花期は9~10月。

いずれもアサ科カラハナソウ属に含まれる多年草で、学名から分かる通り、変種の関係にあります。したがって、分裂しないか3(~ 5)中裂する葉を持つ点、雌雄異株である点、果穂を形成する点など基本構造はほどんど共通しています。そのため違いが気になる人がいるかも知れません。

中にはカラハナソウでビールを作ることを期待する人もいるかもしれません。(なお、本当にアルコール分1%を超えるお酒を一から作りたい場合は酒税法上の許可が必要です。)

ホップとカラハナソウの葉の違いは?

まず、大前提としてこれら2変種は分布している地域が違います。

ホップはユーラシア大陸に広く分布していますが、カラハナソウは日本と中国のみに分布しています。

そのため、日本では栽培個体はホップで、野生個体はカラハナソウであると極稀なケースを除いてすぐに判断することができるでしょう。日本では商業的には北海道、東北地方で栽培されますが、園芸では他の地域でも栽培されます。

形態的にも違いがあります(Small, 1978)。

ホップでは、葉は通常主脈の長さ1cmあたり毛が20本以下、葉脈間の腺体は10mm2あたり25本以下で、節は比較的軟毛が少なく、最も軟毛の多い部分(葉柄と茎の角を除く)では通常0.1mm2あたり15本以下です。

それに対して、カラハナソウでは、葉には通常主脈の長さ1cmあたり20本以上の毛があり、葉脈間の腺体は10mm2あたり25本以上で、節には比較的軟毛が多く、最も軟毛の多い部分(葉柄と茎の角度を除く)には通常0.1mm2あたり15本以上あります。

少し厳密性の高い表現ですが、要するにホップでは全身の毛が少ないのに対して、カラハナソウでは全身の毛が多いと考えてもらって問題ありません。

ホップ(セイヨウカラハナソウ)の不分裂葉上面
ホップ(セイヨウカラハナソウ)の不分裂葉下面
ホップ(セイヨウカラハナソウ)の二分裂葉上面
ホップ(セイヨウカラハナソウ)の二分裂葉下面
ホップ(セイヨウカラハナソウ)の三分裂葉上面
ホップ(セイヨウカラハナソウ)の果穂
カラハナソウの葉|By Krzysztof Ziarnek, Kenraiz – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=116388642
カラハナソウの雄花|By Qwert1234 – Qwert1234’s file, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7860627
カラハナソウの雌花|By Qwert1234 – Qwert1234’s file, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7860643
カラハナソウの果穂|By Qwert1234 – Qwert1234’s file, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=92450112

ホップとカラハナソウの果穂の違いは?

他にも、ホップがビール造りに適していて、カラハナソウが適していない理由となる違いがあります。

カラハナソウ属は雌雄異株ですが、雌花は苞葉と小苞に覆われており、全体としては松ぼっくりのような形になります(廣野,2018)。雌花が果実になるとこの松ぼっくりのような形をしたものは「果穂」と呼ばれるようになります。よく勘違いされますが、これは果実の本体ではありません。本当の果実は(存在する場合)とても小さなものになります。

ホップでは果穂を構成する苞葉と小苞の内側に黄色い腺が密生するのに対して、カラハナソウでは黄色い腺が少ないです。

この黄色い腺はルプリン腺(lupulin gland)と呼ばれるもので、ビールの苦味付け・香り付け・泡の生成・抗菌といった様々な役割を担うものです。

したがって、ホップの果穂の方が苦味が強くビール造りに適していることが分かるでしょう。カラハナソウでもできないことは無いかもしれませんが、効率は悪そうです。

ホップの小苞のルプリン腺|By Stefan.lefnaer – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=125862370

また、もう一つ大きな違いがホップ(栽培個体群)は果穂内に果実・種子を持っていませんが、カラハナソウでは果穂内に果実・種子を持っています。

この理由はホップでは雌株の雌花が受粉・結実しないように、雄株が栽培されないためです。確かにビールの原料として使用する際に果実および種子は不要でしょう。なお、ホップを増やす際は通常は株分けが行われます。

ホップが受粉していないにも関わらず果穂の形成を維持するのは、品種改良され人為選択された結果なのかもしれません。

引用文献

廣野郁夫. 2018. 続・樹の散歩道 ホップの花と果穂の観察. https://kinomemocho.com/sanpo_hop.html

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

村上敦司. 2010. ホップの探究. 日本醸造協会誌 105(12): 783-789. https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan.105.783

Small, E. 1978. A numerical and nomenclatural analysis of morpho-geographic taxa of Humulus. Systematic Botany 3(1): 37-76. https://doi.org/10.2307/2418532

error:
タイトルとURLをコピーしました