ハゼノキ・ヤマハゼ・ウルシ・ヤマウルシの違いは?似た種類の見分け方を解説!なぜかぶれる?なぜヤマハゼは和蝋燭の原料になった?自然界ではどんな鳥が好む?紅葉には役割があった!?

植物
Toxicodendron succedaneum

ハゼノキ・ヤマハゼ・ウルシ・ヤマウルシはいずれもウルシ属で比較的都市部でもよく見られ、特徴的な奇数羽状複葉で庭や道路脇で見かけるよく似た種類です。その区別は難しいですが葉をよく観察しなければなりません。小葉の数、毛の生え具合は大きな手がかりになるので必ず記録しましょう。ハゼノキは和蝋燭になり、ウルシは漆塗りに用いられるなど日本人には非常に長い間利用されてきました。ウルシのかぶれはウルシオールが原因のアレルギー性接触性皮膚炎の一種でこれは人間の体側が誤作動を起こした結果です。しかし、その反応を意図的にウルシの仲間は狙ってる可能性はあります。花は地味であまり目立ちませんが花粉が多いためか昆虫にはかなり人気があります。脂肪を多く含む果実はカラスなど一部の鳥では根強い人気があるようです。更に紅葉にも進化的な秘密があり、そのコントラストによって果実を目立たせているという説があります。本記事ではウルシ・ハゼノキ類の分類・歴史・送粉生態・種子散布を解説していきます。

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ハゼノキ・ヤマハゼ・ウルシ・ヤマウルシとは?

ハゼノキ(櫨の木・黄櫨の木) Toxicodendron succedaneum は日本の本州(関東地方以西)、四国、九州、琉球;中国、台湾、マレーシア、インドに分布し、暖地の山野、特に沿海地に多く逸出し、野生化している落葉高木です。

ヤマハゼ(山櫨・山黄櫨) Toxicodendron sylvestre は日本の本州(関東地方以西)、四国、九州、琉球;中国、台湾に分布し、低地や山地に生える落葉小高木です。

ウルシ(漆) Toxicodendron vernicifluum は中国~インド原産で、日本ではウルシ採取のため植栽され、丘陵に逸出している落葉高木です。

ヤマウルシ(山漆) Toxicodendron trichocarpum は日本の北海道、本州、四国、九州;千島、朝鮮、中国に分布し、山地に多く稀に低地丘陵に生える落葉低木です。

いずれもウルシ科ウルシ属で特徴的な奇数羽状複葉で庭や道路脇などにもよく生えるパイオニア種として知られますが、とてもよく似ているので混同されています。「雄の木」=雄株と「雌の木」=雌株が存在する雌雄異株であることも共通点として挙げられます。

ハゼノキ・ヤマハゼ・ウルシ・ヤマウルシの違いは?

しかし主に葉をよく観察することで以下のようにきちんと区別することが出来ます(林,2014;神奈川県植物誌調査会,2018)。

まずウルシは小葉は大きく長さ約15cmもあり、普通4~5対と少なくなっています。一方、他3種では小葉はやや小さく長さ約10cm、普通4~8対と多めです。ウルシは元は栽培種ですので野生種の3種に比べて中々見かける機会は少ないということも抑えておきましょう。

残り3種については、ハゼノキでは植物体と葉に毛がなく(稀に冬芽に毛が出る個体がある)、葉の下面は脂質により白く見え、側脈はヤマハゼに比べ目立ちません。一方、ヤマハゼとヤマウルシでは植物体と葉に毛があり、葉の下面は白くはありません。

ヤマハゼとヤマウルシの違いとしては、ヤマハゼでは小葉の側脈は数が多く目立ち、一般に長い側脈と短い側脈が交互に出て、果実に剛毛がないのに対して、ヤマウルシでは小葉の側脈は数が少なく、複葉の最下の1対はほかよりも一般にやや小さく、果実に剛毛があるという点が挙げられます。

ヤマハゼとウルシはどちらも果実が無毛で迷うこともあるかも知れませんが、ヤマハゼは小葉の両面有毛なのに対して、ウルシは小葉上面のみ無毛です。

葉軸の赤みから種類を判断することはヤマハゼとウルシでは赤い傾向にあるものの例外もあり、おそらく出来ないと思われます。

なお、ヌルデは同じくウルシ科ですが属が違い、葉軸の小葉間に翼が出るため一目で分かります。

ハゼノキの葉
ハゼノキの花
ハゼノキの樹皮
ヤマハゼの葉上面
ヤマハゼの葉下面
ニワウルシの葉(幼木)

ウルシ属の利用方法は?ハゼノキは和蝋燭に、ウルシは漆塗りに利用される

ハゼノキの果実には沢山の脂肪分が含まれています。そのため和蝋燭に用いられました。特に櫨蝋と呼ばれます。

洋蝋燭は綿糸を芯として、蜜蝋または動物性油脂またはパラフィンを型に入れて固めたものですが、和蝋燭はイグサ科の植物からとる灯芯と和紙を芯にして、ハゼノキからとる木蝋を塗り重ねて作られます。

和蝋燭の始まりは1375年頃の『太平記』の記述に出てくることから南北朝時代以降と言われています。その後江戸時代から江戸時代後期にかけて生産量はピークに達します。和蝋燭の消費は当時のごく一部の商人や武家が主で庶民は利用できませんでした。

ウルシは、樹皮を傷つけて生漆(きうるし)を採取します。漆の乾燥硬化はラッカーゼと酸素の働きでウルシオールを酸化重合させることで起こります。漆は一旦硬化すると熱や湿気、酸、アルカリ、アルコール、油に強く、腐敗防止、防虫の効果もあるため、漆塗りを行い、食器や家具に用いられていきました。現在はプラスチックなどの普及もあり生産地は限られています。

漆塗りは縄文時代から既に行われていたと考えられています。現在日本の山中見られる野生のウルシは人が植栽したものの名残です(能城,2007)。

ウルシはなぜかぶれる?

ウルシ科には共通でウルシオールが含まれ、この物質に対してアレルギー反応が起こることによって炎症を起きます。人によって炎症の程度は様々で、漆液が付着した部分にのみ症状がでる場合もあれば、全身に炎症がでる場合もあります(能城,2007)。多くは水疱と痒みが起こり、1週間がもっとも激しく、普通は2、3週間ほどで消滅します。

その強さもウルシ科の種類によって様々で日本の種類ではウルシが一番強く、ヌルデが一番弱いとされています。

このアレルギー反応は(ウルシオールに限らず)本来大きな寄生虫に対して起こるものですが、ヒトの体がウルシオールを誤認してしまった結果、発生するものなのです(Palm et al, 2012)。

しかし、そうだとすると、このような「かぶれ」は植物側が意図して起こしているのでしょうか?

これはとても難しい問題ですが、その可能性はあります。実際、ヤマウルシに関してはニホンジカの不嗜好性植物であることが分かっています(石田ら,2012)。

そうだとするとウルシの仲間は哺乳類の免疫の誤作動すら利用しているといえるのかもしれません。

一方、強力な抗真菌作用もあるため(Kim et al., 1997)、こちらの目的で進化した可能性もありそうです。

花の構造は?

ハゼノキは花期は5〜6月(茂木ら,2000)。黄緑色の小さな花を円錐状に多数つけます。花序は長さ5〜10cm。花弁は5個、長さ約2mmで、そり返ります。

ヤマハゼは花期は5〜6月。黄緑色の小さな雄花または雌花を円錐状に多数つけます。花序は長さ8〜15cmで、湾曲する開出毛があります。雌花序より雄花序のほうが花の数が多いです。花弁は5個、長さ約2mmの楕円形。雄花の花弁はそり返り、雄しべは花の外につきでます。

ヤマウルシは花期は5〜6月。黄緑色の小さな花を円錐状に多数つけます。花序は長さ15〜30cmで、花序の軸には粗い毛が密生します。花弁は5個、長さ約2mmの狭長楕円形。雄花の花弁はそり返り、雄しべは花の外につきでます。雌花の子房には刺毛が密生します。花柱は花の外につきだし、柱頭は3裂します。

ウルシについても以上3種とよく似ており、総じてあまり違いはありません。雄花で花弁が反り返っているのは、花粉が目立つようになっているのかもしれません。

ハゼノキの花

訪花昆虫は研究不足だが花粉目当ての昆虫が多かった!?

ハゼノキにやってくる昆虫は文献では発見できませんでしたが、インターネット検索ではジュウシチホシハナムグリ、アオハナムグリ、ベニカミキリ、ルリシジミ、コマルハナバチがやってきた記録が確認できました。

ヤマハゼの花にやってくる昆虫も調べたところ、まとまった研究は確認できず、ニホンミツバチ(藤原ら,2014)、ヒメハナバチ属(宮本,1960)、ムモントックリバチ(市川・大原,2009)などハチの記録ばかりでした。

しかし、興味深いことにヒサマツハチモドキハナアブというムモントックリバチに擬態した、人間も見間違うほどそっくりのハエがやってきた記録があります(市川・大原,2009)。よくあることなのかは不明ですが、ハチに擬態して蜜を吸っているハエが存在していたということは、この花を巡って複雑な生態系がある可能性もあります。

ヤマウルシについては詳しい研究が行われており、大多数の非社会性バチ、ハエ、甲虫と少数の社会性ハナバチ類の2タイプが花にやってくることが分かっています(松山ら,2008)。

総合するとウルシ属全体で花粉目当てのハチ類・ハエ・甲虫が多くやってくる、ということなのかもしれません。

ところで、ウルシ属は雌雄異株ですが、やってくる昆虫が豊富な蛋白質源となる花粉を含む雄花に偏ってしまい、うまく受粉できないといった危険はないのでしょうか?

ヤマウルシの研究によると、確かに一部の社会性ハナバチは雄花ばかりにやってきて受粉が不十分なことがあります(松山ら,2008)。しかし、その他の大多数の非社会性バチ、ハエ、甲虫はそういったことを気にせずやってくるため最低限の受粉ができるようです。

そのメカニズムについてはこの研究では言及されていませんが、雌花を雄花に昆虫に誤認させる、つまり「擬態する」ことによって昆虫を騙しているのかもしれません。このような事例は他の植物ではよく確認されています。また、そういった昆虫にとっては蜜も同じくらい大事である、ということを反映した結果かも知れませんね。

なぜ果実には油が多い?「脂肪好き」のあの鳥が好んで食べていた!?

ウルシ属の果実は剛毛のある無しといった違いはありますが、総じて核果で扁平な形をしており、果肉部分に多量の脂肪分が含まれています。上述の通りこれが和ろうそくの原料になった理由ですが、自然界では誰によって利用されるのでしょうか?

ハゼノキの果実
ヤマハゼの果実

研究によるとこの果実は鳥によって食べられ種子が散布されることが分かっています。

しかし果実といえば甘い方が好まれる、というのがヒトは考えてしまうところかも知れませんが、なぜこのような形や成分を持っているのでしょうか?

これは完全にわかっているわけではありませんが、成分を変えることによって窒素エネルギー源となる脂質のような栄養素を加えることで、他の植物の果実と差別化を行っているのかもしれません。それによって好き好む鳥の種類も変わってきそうです。

実際、ウルシ属を特に好む鳥が確認されています(上田,1999)。それはカラスです。大阪府での研究ではカラス類が吐き出したペリットや糞を調べることにより、種子全体の約64%がウルシ属のものであることが分かりました。カラス類は甘い果実よりも脂肪の多い果実を好んでいるようです。

また日本で直接双眼鏡でヤマハゼの果実を食べる動物を調べた別の研究ではシロハラ、ツグミ、ヒヨドリ、ジョウビタキ、モズの5種類によって摂食され、特にシロハラとツグミはヤマハゼ上での滞在時間が長く種子の散布に貢献していると考えられています(佐藤・酒井,2001)。最も種子の散布に貢献していると考えられる鳥はツグミで、シロハラのように冬期のなわばりを持たないため広い範囲で糞をしてくれます。

ウルシ属の幼木を小さな緑地でも見かけることがあるのは、このような脂肪好きの鳥による種子散布が理由であると考えられます。

ウルシ属は「果実を目立たせるために」紅葉していた!?

ウルシ属の果実に関連して面白い仮説が提唱されています(紙谷,1999;Lev-Yadun, 2022)。

それはウルシ属は初秋に紅葉を行いますが、それは果実をコントラストによって目立たせ、鳥に食べてもらうからだという説です。これを葉群果実旗(foliar fruit flags)仮説と言います。

実際に果実をつけた雌株が、未熟な木や雄株に比べて早く紅葉するとする主張もあります。

しかし仮説に対しては、そのような事実はそもそもないし、早く紅葉してしまうことによるデメリットが大きすぎるという反論もあります。また、風散布の果実を持つ植物もよく紅葉しているので、これは鳥にとっては混乱するでしょう。

しかし、果実の周りに作った人工的な赤色に、鳥を引き付ける効果があることは実験によって証明されてたので、非常に限定的ですが、存在するのではないかと近年では考えられています。

季節を彩る紅葉も本当は植物にとっては葉を捨てる以上の重要な役割に担っている種類も居るのかもしれません!

引用文献

藤原愛弓・西廣淳・鷲谷いづみ. 2014. さとやま自然再生事業地におけるニホンミツバチの生態系サービス評価:花資源利用およびコロニーの発達. 保全生態学研究 19(1): 39-51. ISSN: 1342-4327, https://doi.org/10.18960/hozen.19.1_39

林将之. 2014. 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類. 山と溪谷社, 東京. 759pp. ISBN: 9784635070324

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神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

Kim, M. J., Kim, C. J., & Kwak, S. S. 1997. Antifungal activity of urushiol components in the sap of Korean lacquer tree (Rhus vernicifera Stokes). Korean Journal of Plant Resources 10(3): 231-234. https://koreascience.kr/article/JAKO199711920278770.page

Lev-Yadun, S. 2022. The phenomenon of red and yellow autumn leaves: Hypotheses, agreements and disagreements. Journal of Evolutionary Biology 35(10): 1245-1282. https://doi.org/10.1111/jeb.14069

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出典元

本記事は以下書籍に収録されているものを大幅に追記しました。

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