ルリマツリ(プルンバゴ)とルリマツリモドキの違いは?似た種類の見分け方を解説!雄しべの長さには2タイプある?花の蜜を吸えるのは「口の長い昆虫」だけだった!?

植物
Plumbago auriculata

ルリマツリ(プルンバゴ)とルリマツリモドキは少し珍しい青色の花を咲かせるイソマツ科の園芸種2種です。日本では観賞用に庭などで栽培され、ネーミングに加えて、青系の花の色で形もそっくりであることから混同されやすいでしょう。しかし、その分類は属レベルで異なり、区別はきちんとできます。最もわかりやすいのは花の萼筒にある頭状の大きな腺のある剛毛の有無です。花筒の長さも大きな判断材料です。葉でも区別することが出来、ルリマツリモドキでは葉縁に毛があります。そんなルリマツリとルリマツリモドキですが、生態学的な研究もいくつか行われています。花には雄しべが長いタイプと雌しべが長いタイプがあるのです。これは自家受粉を防ぐために進化させたと考えられています。野生下で訪れる昆虫についても研究されており、アフリカ固有の特別に口吻が長いツリアブ科やアゲハチョウ科の仲間がやってくることが分かっています。本記事ではルリマツリとルリマツリモドキの分類・送粉生態について解説していきます。

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少し珍しい青色の花を咲かせるイソマツ科の園芸種2種

ルリマツリ(瑠璃茉莉) Plumbago auriculata は別名プルンバゴ。南アフリカ東部原産で、原産地では低地の雑木林に生える常緑低木です(Ferrero et al., 2009)。日本では観賞用に園芸で栽培されます。

ルリマツリモドキ(瑠璃茉莉擬き) Ceratostigma plumbaginoides は中国(北京市、河南省、江蘇省、山西省、浙江省)原産で原産地では岩場、しばしば麓の丘陵地に生える多年草です(Wu & Raven, 1996)。日本では観賞用に園芸で栽培されます。

どちらもイソマツ科で日本では観賞用に庭などで栽培され、青系の花の色で形もそっくりであることから混同されやすいでしょう。葉もどちらも全縁で丸い印象です。名前も「モドキ」をつけるなど混同されやすいネーミングとなってます。

ルリマツリとルリマツリモドキの違いは?

しかし、植物学的にはルリマツリはルリマツリ属 Plumbago、ルリマツリモドキはルリマツリモドキ属 Ceratostigma に含まれ分類が異なります。

まず違いとして挙げられるのはルリマツリは常緑低木であるのに対して、ルリマツリモドキは多年草です。したがって、ルリマツリの方が木化し、枝や茎が固い印象があるでしょう。ルリマツリモドキでは柔らかいです。しかし、ルリマツリも若いうちは柔らかい部分が多く個体によっては区別は難しいのかもしれません。

植物学的に最も大きな違いは花の形に現れています(Wu & Raven, 1996)。

ルリマツリでは花の萼筒に長さ約1mmの頭状の大きな腺のある剛毛が生えるのに対し、ルリマツリモドキでは萼筒にはなにもありません。

また、ルリマツリでは花全体の長さが3.7~5.3cmと非常に長く特に花筒(花冠の細く伸びている部分)が長いのに対して、ルリマツリモドキでは2.5~2.8cmと短く花筒もルリマツリほど長くありません。

更に、ルリマツリでは花冠の舷部(花びらのようになっている花冠の先端部分)は長楕円に近いですが、ルリマツリモドキではΔ(デルタ)状の二等辺三角形に近いです。

花の色もルリマツリでは淡青色ですが、ルリマツリモドキでは青色です。この点は品種や個体によって異なる可能性があるので参考程度に留めておきましょう。ルリマツリモドキの品種ブルーサファイア ‘Blue Sapphire’ では濃青色となっているようです。

葉にも違いがあります。ルリマツリでは葉縁にはなにもありませんが、ルリマツリモドキでは内向きの毛が目立ちます。

以上を確認すれば確実に区別することができるでしょう。

ルリマツリの葉上面:葉縁に毛はない
ルリマツリの葉下面
ルリマツリの花:萼に大きな腺のある剛毛が見える、花筒は明らかに長く細い
ルリマツリモドキの葉と花序:葉の葉縁には毛あり、花には剛毛なし、花筒は短め|By André Karwath aka Aka – Own work, CC BY-SA 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=629897
ルリマツリモドキの花:花冠の先はΔ状|By Krzysztof Ziarnek, Kenraiz – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=56583200

花の構造は?

ルリマツリは花期が5~11月。花序は長さ2.5~3cm、花序軸は短い軟毛があり、腺毛はありません。苞は披針形、長さ3~9mm、幅1~2mm。花は3花柱。萼は長さ10~13mm、萼筒は普通、短軟毛があり、肋の約先半分に長さ約1mmの頭状の大きな腺のある剛毛があります。花冠は淡青色、細長く漏斗状で、細い筒状の部分があり、直径約15mm、長さ37~53mm。舷部(げんぶ、花冠の先端部分)は5裂になっており(塚本,1994)、筒部は28~40mm。花冠裂片は長さ10~16mm、幅6~15mmです。

ルリマツリモドキは花期が7~9月。花序は頂生または腋生し、花が15~30個またはそれ以上つき、各花は基部に披針形~長楕円形の苞がつきます。小苞は卵形、先が鋭形で微突形。萼は長さ13~15mm、幅1.5~2mm、脈にまばらに剛毛があり、萼片は長さ約2mm。花冠は長さ2.5~2.8cmで、細長く漏斗状で、細い筒状の部分があります。筒部は赤紫色、舷部は5裂になっていて、青色で倒デルタ形、長さ8mm、幅8mmで、先は凹形で狭く、三角形の微突形となっています。

どちらも青色で似ていますが、上述の通り、違いがあります。他にも花期の期間は大きく違います。これは南アフリカと中国、全く異なる地域で進化してきた結果だと思われます。

ルリマツリの花

なぜ雄しべが長いタイプと雌しべが長いタイプがあるのか?

ルリマツリ属とルリマツリモドキ属の雄しべには少し変わったことがあります。

それは雄しべが長いタイプの個体と雌しべが長いタイプの個体があるということです(Ferrero et al., 2009)。私の写真については前者と思われます。なぜこのようになっているのでしょうか?

これは自家受粉を防ぐ手段であると考えられています。こうすることで昆虫が花に訪れたとき、雄しべが長いタイプの花の場合は長いタイプの花の花粉が雌しべが長いタイプの柱頭につきます。また、雌しべが長いタイプの花の場合は雌しべの長いタイプの花の花粉が雄しべが長いタイプの柱頭につきます。

少し分かりにくいかもしれませんが、要するに空間的に雌雄を分離して、雄しべが長いタイプと雌しべが長いタイプ同士では受粉しますが、雄しべが長いタイプ同士、雌しべが長いタイプ同士では受粉しないということです。

このような性質を「異型花柱性(heterostyly)」と呼び、様々な植物で見られます。

ただ、異型花柱性の成立は遺伝的に極めて複雑なため、まれにしか起こらない現象で言われています(渡邊,2022)。また、2タイプに分かれるのですから、事実上、個体群の半分としか交配できないということになります。これも大きなデメリットでしょう。そのため確実に自家受粉を防げるのですが、少数派の戦略となっています。

これはやってくる訪花昆虫の特性にも大きく依存していると思われますが、残念ながらこの観点ではあまり研究が進んでいません。

それにしても、それなら雄しべだけの花、雌しべだけの花を作れば良いのでは……?とも思うかもしれません。つまり雌雄異株になるということです。実際にそうしている植物もあります。なぜルリマツリでは性別をはっきり分けずにこのようなことをしているのでしょうか?

これもまだはっきり分かっているわけではありませんが、雌雄異株になるとどちらかの性機能に遺伝子の残す可能性を託すことになるわけですから、雌雄同株よりさらに子孫を残せる可能性が更に半分になるということになります。そのデメリットを嫌っているのかもしれません。

異型花柱性というのは雌雄異株への進化的な中間段階である可能性がありますが(Lloyd, 1979)、植物の性の進化は未解決なことが多く、世界中の研究者によって調査が進められています。

花の蜜を吸えるのは「口の長い昆虫」だけだった!?

ではこのルリマツリとルリマツリモドキにはどんな昆虫が訪れるのでしょうか?日本で鑑賞する分には気になりませんが、本来はとても大事なことです。

花筒が明らかに長いので、口の長い昆虫に依存していることは間違いないでしょう。

ルリマツリについては南アフリカで行われた研究ではツリアブ科の一種 Philoliche aethiopica やアフリカオナシアゲハ Papilio demodocus、ニレウスアゲハ Papilio nireus、ツマアカシロチョウ属の一種 Colotis auxo、モンシロチョウ属の一種 Pieris sp. などの昆虫がやってくることがわかっています(Ferrero et al., 2009)。これらはいずれも口吻が特別に長く、これほどの長さがないと蜜を吸うことはできないようです。

しかし一方で、花粉目当てにアオスジハナバチ属の一種 Nomia sp. というハナバチもやってくることも分かっています。日本でもセイヨウミツバチがやってきた例があります(山田ら,2011)。

以上のことから2タイプの昆虫がやってくると言えそうです。ただ、ハナバチが訪れるのは非常にわずかであるため、どれほど受粉に影響するのかはよく分かっていません。ハナバチがやってくる場合、理屈的には長い方の雄しべや雌しべは受粉可能であるように思えますが、短い方の雄しべや雌しべが受粉できる可能性は低いように思われます。

このような訪花昆虫についてスペシャリストの傾向にあるルリマツリの花が異型花柱性を進化させたのはなんらかの関係がありそうですが、まだ良く分かっていません。

なお、ルリマツリモドキについてはまとまった研究は確認できませんしたが、北アメリカでの研究によるとヘリチャキマダラセセリ属の一種 Poanes taxiles が花に訪れた記録がありました(Scott, 2014)。勿論ルリマツリモドキは中国原産なので自然下での記録ではありませんが、ルリマツリの研究を踏まえるとチョウのような昆虫が訪れている可能性が高そうです。しかし、花筒がルリマツリより短いため、中国では全く異なった進化を遂げていることも考えられます。

皆さんもルリマツリのアフリカでの生活に思いを馳せながら鑑賞してみてはいかがでしょうか?

果実は蒴果で重力散布?

果実はどちらも蒴果です。ルリマツリでは長楕円形、長さ約8mm。種子は褐色、長さ約7mmで、ルリマツリモドキでは淡黄褐色、楕円状卵形、長さ約6mm。種子は赤褐色となっています。おそらく重力散布だと思われますが、詳しいことは分かっていません。

引用文献

Ferrero, V., De Vega, C., Stafford, G. I., Van Staden, J., & Johnson, S. D. 2009. Heterostyly and pollinators in Plumbago auriculata (Plumbaginaceae). South African Journal of Botany 75(4): 778-784. ISSN: 0254-6299, https://doi.org/10.1016/j.sajb.2009.06.014

Lloyd, D. G. 1979. Evolution towards dioecy in heterostylous populations. Plant Systematics and Evolution 131(1): 71-80. https://doi.org/10.1007/BF00984123

Scott, J. A. 2014. Lepidoptera of North America 13. Flower visitation by Colorado butterflies (40,615 records) with a review of the literature on pollination of Colorado plants and butterfly attraction (Lepidoptera: Hesperioidea and Papilionoidea) (Doctoral dissertation, Colorado State University. Libraries). https://mountainscholar.org/bitstream/handle/10217/81411/BSPMGILL_LepidopteraofNorthAmerica13.pdf?sequence=1

塚本洋太郎. 1994. 園芸植物大事典 コンパクト版. 小学館, 東京. 3710pp. ISBN: 9784093051118

渡邊謙太. 2022. 「異型花柱性」を巡る生態学と進化生物学の今. 沖縄工業高等専門学校紀要 16: 31-45. https://doi.org/10.51104/nitokinawacollege.16.0_31

Wu, Z. Y., & Raven, P. H. eds. 1996. Flora of China. Vol. 15 (Myrsinaceae through Loganiaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. 387pp. ISBN: 9780915279371, http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=10710

山田順之・曽根佑太・古谷勝則. 2011. 都市域の自然体験活動としてのミツバチプロジェクトに関する研究. ランドスケープ研究 74(5): 585-590. ISSN: 1340-8984, https://doi.org/10.5632/jila.74.585

出典元

本記事は以下書籍に収録されているものを大幅に加筆したものです。

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