ヒガンバナ(彼岸花・曼珠沙華)・コヒガンバナ・シロバナマンジュシャゲ・ショウキズイセンはいずれもヒガンバナ科ヒガンバナ属に含まれる多年草で、毒性があることと、秋に花が群生することで日本人にはとても馴染みのある仲間です。しかし、その種類は多く、見たことがない人は違いがわからないかもしれません。ヒガンバナ・コヒガンバナとシロバナマンジュシャゲ・ショウキズイセンの区別は簡単で、花の色によって区別できます。ヒガンバナとコヒガンバナの区別は難しく、発芽する種子を作るか否かによって決められていますが、中々観察できず、どうしても区別したい場合は花期や花の色の濃さなども重要になってくるでしょう。その他混同されやすい変種・品種も紹介しています。本記事ではヒガンバナ類の分類について解説していきます。
ヒガンバナ・コヒガンバナ・シロバナマンジュシャゲ・ショウキズイセンとは?
ヒガンバナ(彼岸花) Lycoris radiata var. radiata は別名マンジュシャゲ(曼珠沙華)。シナヒガンバナの突然変異で、古い時代に日本に渡来し広がったと考えられており、現在では本州、四国、九州、琉球に分布し、田畑の縁、堤防、墓地などに群生する多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。
シナヒガンバナ(支那彼岸花) Lycoris radiata var. pumila は別名コヒガンバナ。中国、韓国、ネパールに分布し、斜面の日陰や湿った場所、川岸の岩場に生える多年草です(Wu & Raven, 2000)。コヒガンバナという和名の方がよく検索されているようなので以下ではコヒガンバナと呼んでいきます。
シロバナマンジュシャゲ(白花曼珠沙華) Lycoris x albiflora はシナヒガンバナとショウキズイセンの雑種。日本;中国(江蘇省)、朝鮮に分布し、田のあぜ、土手など民家の近くに生える多年草です。
ショウキズイセン(鍾馗水仙) Lycoris traubii は日本の九州~南西諸島;中国、インド、インドネシア、ラオス、ミャンマー、パキスタン、タイ、ベトナムに分布し、草地、林縁に生える多年草です。
いずれもヒガンバナ科ヒガンバナ属に含まれる多年草で、人間との関わりとしては球根の一種である「鱗茎」を含む全草にはリコリンやガランタミンなどのアルカロイドを含み、鎮咳去痰や鎮痛、降圧、催吐などの薬理作用が知られているほか、科学的に正しいかはわかりませんが地中のモグラやネズミを避けるために植えられたことや、水に晒して荒食になることでも有名でしょう。
形態的には他のヒガンバナ属と同様に葉と花茎が別の時期に出るのが大きな特徴といえるでしょう(神奈川県植物誌調査会,2018)。つまり、花が見られる時期に葉を見つけることはできません。葉がなくなる時期は種類によって異なりますが、ここで挙げたヒガンバナ類では晩秋に出て春に枯れます。
また、ヒガンバナ属の中でもここで挙げた種類は9~10月頃に花被片がカールし、雄しべと雌しべが非常に長い花をつけるという特徴もあります。更に花被片の縁は波打ち、葉幅は8mm以下です。
したがって、見たことがない人は違いがわからないかもしれません。
特にヒガンバナとコヒガンバナは区別が難しいです。
ヒガンバナ・コヒガンバナ・シロバナマンジュシャゲ・ショウキズイセンの違いは?
ただ、ヒガンバナ・コヒガンバナとシロバナマンジュシャゲ・ショウキズイセンの区別に関してはかなり簡単です(Wu & Raven, 2000)。
まず大前提として、ヒガンバナ(彼岸花)の別名がマンジュシャゲ(曼珠沙華)であり全く同じ種類を指していることは抑えておきましょう。
一番大事なのは花の色です。ヒガンバナ属の花は「花被片」から構成されます。花弁と萼が区別できないことからこのように呼ばれます。
その花被片はヒガンバナ・コヒガンバナでは赤色、シロバナマンジュシャゲでは白色、ショウキズイセンでは黄色という違いがあります。一目瞭然でしょう。
花が咲いていない時期に見られる葉に関しても若干の違いがあり、ヒガンバナ・コヒガンバナでは幅0.5cm、シロバナマンジュシャゲでは幅1.5cm、ショウキズイセンでは幅0.8cmとなっています。
そもそも葉だけの時期でヒガンバナ属を見分けるのが難しいかもしれませんが、一応参考になるかもしれません。
ヒガンバナとコヒガンバナの違いは?
問題はヒガンバナとコヒガンバナの違いです。
決定的な違いはヒガンバナでは染色体が2n=33で3倍体のため、不稔である(発芽する種子を作らない)のに対して、コヒガンバナでは2n=22で2倍体のため、稔性がある(発芽する種子を作る)ということです(西山,1939)。
染色体に関しての詳しい説明は省きますが、要するにヒガンバナでは染色体が3セットあるため、うまく減数分裂することができず種子を作れないのです。そのため、ヒガンバナは種子によって遠くに分布を広げることはなく、基本的には地中にある鱗茎がヒトの手で移植されるか、栄養生殖することによってのみ増えることできます。
ヒガンバナは中国のコヒガンバナが突然変異を起こし、これが日本にもたらされたと考えられています。つまり日本のヒガンバナはほとんどクローンということになります。
ところが、近年の研究では非常に稀ですが稔性のある種子を作る例が知られています(瀬戸ら,2015)。そのメカニズムは詳しくわかっていませんが極稀に減数分裂に成功する例があるのかもしれません。
ここまで説明してきましたが、以上の説明は形態的な特徴ではない上に例外もあるため、一目で2種を区別することはできないでしょう。
区別の役に立つ違いはかなり古い論文によると以下が挙げられています。
鱗茎に関しては、ヒガンバナでは固いのに対して、コヒガンバナでは柔らかいという違いがあります。
花期に関しては、ヒガンバナでは9月中旬~下旬であるのに対して、コヒガンバナでは9月初旬という違いがあります。
花の色に関しては、ヒガンバナでは濃紅色であるのに対して、コヒガンバナでは淡い紅色であるという違いがあります。
葉に関しては、ヒガンバナでは手触りが硬いのに対して、コヒガンバナでは柔らかいという違いがあります。
この他、この論文では触れられていませんが、インターネットではコヒガンバナの方が花が小さく、花序の花の数も少ないとされています。しかし、具体的にいくつなのかというデータは私は発見できていません。このことが正しいのかも含めて調査が必要ですが、花が少なく該当する可能性がある写真を置いておきます。
このように形態的な区別が微妙なためか、海外では特に区別されないこともあります。
ヒガンバナの他の変種・品種は?
ヒガンバナにはいくつか他にも変種・品種が知られています。
ニシキヒガンバナ Lycoris radiata f. bicolor はほとんど形はヒガンバナと同じで、花被片の縁、雄しべ・花柱の一部が退色している品種です(米澤,1989)。「ニ色」に由来し、色の境がはっきりしています。
ワラベノカンザシ Lycoris radiata var. kazukoana は花が小さく、花被片の縁がほとんど波打たず、花被片が強く反り返らず、花の色がピンク色~白色となっている変種です。ニシキヒガンバナと混同されますが、花被片がまっすぐで色の境がはっきりしていません。除草剤による奇型とも考えられています(Iwatsuki et al., 2016)。
論文(米澤,1989)には2種のカラー写真が掲載されているので、迷うようなら確認してみてください。
引用文献
Iwatsuki, K., Boufford, D. E., & Oba, H. 2016. Flora of Japan, Vol. IV-b. Kodansha, Tokyo. 352pp. ISBN: 9784061546080
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
西山市三. 1939. 支那産 Lycoris の染色體數. 遺伝学雑誌 15(2): 83-85. https://doi.org/10.1266/jjg.15.83
瀬戸良久・武市早苗・中嶋克行. 2015. 実生ヒガンバナ2例における成長と初花の形態学的観察. 神奈川自然誌資料 36: 7-10. https://doi.org/10.32225/nkpmnh.2015.36_7
Wu, Z. Y., & Raven, P. H. eds. 2000. Flora of China. Vol. 24 (Flagellariaceae through Marantaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. 431pp. ISBN: 9780915279838
米澤信道. 1989. ヒガンバナの一新変種と一新品種. 植物地理・分類研究 37(2): 73-74. https://kanazawa-u.repo.nii.ac.jp/records/49655