ヤシャブシ・ヒメヤシャブシ・オオバヤシャブシの違いは?ハンノキ類との違いは?痩せた土地で生育できる理由は?花も果実も風に頼る生活を送っていた!?

カバノキ科
Alnus sieboldiana

ヤシャブシ・ヒメヤシャブシ・オオバヤシャブシはいずれもカバノキ科ハンノキ属に含まれ、日本固有種です。外生菌根菌と空気中の窒素を利用できる窒素固定放線菌の双方と共生関係にあることから、痩せた土地での生息に適しており、自生するほか緑化などに用いられます。ハンノキ類とは葉の側脈はほぼ真直ぐで平行で、果実に広い翼がある点で区別できますが、ヤシャブシ類内では共通の特徴で識別に迷うことのある3種です。しかし、分布および様々な形態を観察することで区別することができます。特に葉の形は顕著に異なっており、確実な同定の手がかりとなります。花序は展葉前または展葉中にでき、風によって運ばれて送粉し、受粉します。果実は果穂に含まれており、熟すと翼を持った堅果を露出し、風によって運ばれて生息地を広げます。本記事ではヤシャブシ・ヒメヤシャブシ・オオバヤシャブシの分類・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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ヤシャブシ・ヒメヤシャブシ・オオバヤシャブシとは?

ヤシャブシ Alnus firma は日本の本州(福島県~紀伊半島の太平洋側)、四国、九州の山地に生える落葉小高木です(茂木ら,2000;神奈川県植物誌調査会,2018)。

ヒメヤシャブシ Alnus pendula は日本の北海道、本州(日本海側)、四国に分布し、丘陵〜山地に生え、多雪地のやせた土地や崩壊地に多い落葉小高木です。

オオバヤシャブシ Alnus sieboldiana は日本の本州(福島県南部から紀伊半島までの太平洋側)と八丈島に分布し、海岸近くの山地〜丘陵に生え、やせ地でもよく育ち、崩壊地などに侵入して生える落葉小高木です。砂防用や緑化用に種子が蒔かれたりしたため、近年分布域を拡大しています。

和名は漢字で「夜叉五倍子」で、熟した凸凹のある果穂がインド神話の鬼神である「夜叉」に似て、果穂はタンニンを多く含みお歯黒に用いられる五倍子(フシ)の代用としたことに由来するとされます。

いずれもカバノキ科ハンノキ属に含まれ、日本固有種です。いずれの種類も外生菌根菌と空気中の窒素を利用できる窒素固定放線菌の双方と共生関係にあるため、痩せた土地での生息に適しています(石川・奈良,2022)。この性質から緑化として植栽されることもあります。

形態としては葉の側脈はほぼ真直ぐで平行で、果実に広い翼があるといった共通点が多く識別に迷うことのある3種です。

ヤシャブシ類とハンノキ類の違いは?

以上3種を識別する前に同じハンノキ属にはハンノキ Alnus japonica、ヤマハンノキ Alnus hirsuta var. hirsuta、ヤハズハンノキ Alnus matsumurae といった種類も含まれています(神奈川県植物誌調査会,2018)。以上をハンノキ類とここでは総称することにしますが、ヤシャブシ類とこのハンノキ類はどのように区別出来るのでしょうか?

最も代表的な違いとしては上述のようにヤシャブシ類が葉の側脈はほぼ真直ぐで平行で、果実に広い翼があるのに対して、ハンノキ類は葉の側脈は先のほうでやや湾曲するか、分枝し、果実の翼は狭いという点が挙げられます。

ヤシャブシ類は側脈が平行で分岐が少ないという点は特に重要なので抑えておきましょう。ただこの特徴自体はカバノキ科ではよく見られるものです。

この他、ヤシャブシ類は冬芽は無柄で、雄花序は柄がなく、単生するのに対して、ハンノキ類は冬芽には短い柄があり、雄花序は頂生し、短い柄があるという違いもありますが、季節性が強くなかなか見かける機会は少ないかもしれません。

ハンノキの葉上面
ハンノキの葉下面

ヤシャブシ・ヒメヤシャブシ・オオバヤシャブシの違いは?

ヤシャブシ・ヒメヤシャブシ・オオバヤシャブシ3種は分布および様々な形態を観察することで区別することができます(神奈川県植物誌調査会,2018)。

まず、自然分布については四国とヤシャブシとオオバヤシャブシはどちらも本州(福島県~紀伊半島)の太平洋側に分布しますが、ヒメヤシャブシは本州の日本海側に分布しています。そのため自然分布だけを考えれば普通は観察した地点である程度区別することができます。

しかし、いずれの種類も砂防用や緑化用に利用され、逸脱することがあることから混在することがあります。したがって自然度の低い地点でこれだけで判断するのは危険でしょう。

形態としては、オオバヤシャブシでは1年生枝は太く無毛で、葉には鋭重鋸歯があり、果穂は1個であるに対して、ヤシャブシとヒメヤシャブシでは1年生枝は細くはじめ毛があり、葉には低重鋸歯縁があり、果穂は多くは2~6個であるという違いがあります。

ヤシャブシとヒメヤシャブシに関しては、ヤシャブシでは果穂は多くは2個が直生するのに対して、ヒメヤシャブシでは果穂は3~6個が下垂するという違いがあります。

ただこれらも季節性がある特徴なので、結局葉の違いを観察するほうが実用的でしょう(神奈川県植物誌調査会,2018;林,2019)。

葉に関しては、ヤシャブシでは狭卵形で側脈は13~17対で基部は円形、ヒメヤシャブシでは広披針形で側脈は20~26対で基部はくさび形、葉は3角状卵形で側脈は11~15対で基部は円形です。

この特徴は明確な違いなのでしっかり確認しましょう。

ヤシャブシの葉上面
ヤシャブシの葉下面
ヤシャブシの花序
Akiyoshi’s Room – Akiyoshi’s Room, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5250233による

ヒメヤシャブシの葉上面(ヒメヤシャブシ 0.3m 10.5cmポット 苗)
オオバヤシャブシの葉上面
オオバヤシャブシの葉下面
オオバヤシャブシの樹皮
オオバヤシャブシの雌花序
By Yasunori Koide – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=6348260
オオバヤシャブシの果穂

花の構造は?

ハンノキ属は共通で雌雄同株です(茂木ら,2000)。

ヤシャブシは花期が3月~4月で、葉の展開前に開花します。枝先に長さ4~6cmでやや太い雄花序が弓なりに曲がって垂れ下がりその内側に雌花序が1~2個直立で付きます。

ヒメヤシャブシは花期が3〜5月で、葉の展開と同時に開花します。雄花序は無柄で長さ4〜6cm、枝先に1〜3個垂れ下がります。雌花序は雄花序より下方に3〜6個ずつ付きます。雌花序には柄があります。

オオバヤシャブシは花期が3〜4月で、葉の展開とほぼ同時に開花します。雄花序は無柄で長さ4〜5cm、やや太くて弓形に曲がり、前年の葉腋から1個ずつ垂れ下がります。雌花序は長さ1〜2cmの柄があり、雄花序より上に付きます。

葉の展葉時期に微妙な違いがありますが基本的な構造は同じです。

送粉方法は?

これら3種を含めてカバノキ科は共通で風媒花であることが分かっています(吉野,2000;津村・岩田,2003)。

いずれも垂れ下がって長い花序を見せていますが、風によって雄花序から出た花粉が運ばれ、別個体の雌花序につくことで受粉します。この特徴から花粉症の原因になることもあります。ただし日本の花粉症の70%はスギによるものです(大久保,2014)。

雌花序が雄花序より上に付くのは自家受粉を防ぐためであると考えられます。また展開前か展葉直後に花序ができるのは葉によって花粉を運ぶ風を弱められたり、葉に花粉が付いてしまうことを防ぐためだと考えられています(田中,2001)。

果実の構造は?

ハンノキ属の果実は共通で堅果であり、翼果でもあります。堅果は複数の心皮からなり、果皮が木質になって、1個の種子を包むもので、翼果は果実の構造を問わず、翼ができるものを指します。ハンノキ属の場合は果皮が平たく広がり「翼」を形成しています。翼の大きさは種類によって少し違いがあります。

ハンノキ属は「果穂」と呼ばれる楕円形の構造があり、内部に果鱗と堅果をぎっしりすき間なく含んでいます。熟すと果軸を残して果鱗がバラバラに崩れて、堅果が露出され、風によって遠くに運ばれます。

ヤシャブシの果穂は長さ1.5~2cmの卵状広惰円形で、果穂は花時にも黒褐色~暗褐色になって残り、果鱗の間に堅果が残っているものもあります。果鱗は長さ5.5~6.5mm、幅約5mmの扇形で黒褐色です。堅果は長さ3.5~4mmの楕円形、翼の幅は約1mmで果実とほぼ同じ幅です。

ヒメヤシャブシの果穂は長さ1.5〜2cmの楕円形で、垂れ下がります。10〜11月に成熟します。果鱗は長さ4〜4.5mmの扇形で黒褐色です。堅果は長さ2〜3mmの長楕円形で、頂部に花柱が残り、両側に翼があります。翼の幅は果実本体とほぼ同じです。

オオバヤシャブシの果穂は長さ2〜2.5cmの広楕円形で、10〜11月に成熟します。果鱗は長さ約8mmの扇形で黒褐色です。堅果は長さ4〜5mmの狭長楕円形で、頂部には花柱が残り、両側に果実本体より少し幅の狭い翼があります。翼は左右不ぞろいです。

種子散布は?

その果実の形からも予想されるように、ハンノキ属は共通で種子は果実とともに風散布されることが分かっています(津村・岩田,2003)。

ヤシャブシ類はやせた土地や崩壊地にも真っ先に広がることができますが、その理由は窒素固定菌との共生に加えて、送粉や種子散布ともに風に頼ることで昆虫に頼ることなく能動的に生息地を広げることも大きく影響しているでしょう。

引用文献

林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447

石川陽・奈良一秀. 2022. 火山遷移地におけるオオバヤシャブシの共生微生物群集. 日本森林学会大会発表データベース 133: 637. https://doi.org/10.11519/jfsc.133.0_637

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

茂木透・石井英美・崎尾均・勝山輝男・太田和夫・高橋秀男・城川四郎・中川重年. 2000. 樹に咲く花 離弁花1 改訂第3版. 山と溪谷社 東京. 719pp. ISBN: 9784635070034

大久保公裕. 2014. 花粉症 その原因物質とメカニズム. モダンメディア 60(12): 1-5. ISSN: 0026-8054, https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM1412_01.pdf

津村義彦・岩田洋佳. 2003. 遺伝的変異性を考慮した緑化とは. 日本緑化工学会誌 28(4): 470-475. https://doi.org/10.7211/jjsrt.28.470

田中肇. 2001. 花と昆虫、不思議なだましあい発見記. 講談社, 東京. 262pp. ISBN: 9784062691437

吉野豊. 2000. ハンノキ属(Alnus)3種のジベレリン(GA3)処理時期による花芽分化抑制効果の違い. 日本林學會誌 82(4): 388-392. https://doi.org/10.11519/jjfs1953.82.4_388

カバノキ科植物
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