トワダオオカは綺麗なだけでなく「蚊を食べる蚊」だった!?生息環境も何もかも特殊な蚊の謎に迫る

動物
Toxorhynchites towadensis

皆さんは蚊といえば、いずれも血を吸う仲間で夏になるととても鬱陶しいと感じる存在かもしれません。しかし、日本には血を全く吸わない蚊が知られています。トワダオオカは成虫では血を吸わず無害で、日本で一番大きくとても美しい見た目をしており、それだけも特徴的です。幼虫はなんと樹洞の水たまりに生息し、そこで他の蚊の幼虫(ボウフラ)を食べていることが明らかになっています。本記事ではトワダオオカの生態について解説していきます。

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トワダオオカは無害で美しい蚊です

皆さんは蚊といえば、いずれも血を吸う仲間で夏になるととても鬱陶しいと感じる存在かもしれません。(ただし、血を吸うのは産卵のために栄養が必要なメスのみです。)

熱帯地方ではデング熱などの感染症を媒介することもあり、その点でもヒトから忌み嫌われています。

ところが、蚊の仲間であるにもかかわらず、血を全く吸わない蚊が日本の森林に生息していることはご存知でしょうか?

その名はトワダオオカ Toxorhynchites towadensis といい、名前の通り非常に大きな蚊で10~13mmで、日本最大の蚊として知られています。ちなみに「トワダ」は初の発見地である十和田湖(青森県~秋田県)に由来しています。実際には北海道・本州・四国・九州・対馬・屋久島と幅広く分布することが分かっています(佐々木ら,1995)。

蚊の仲間は体表に鱗粉がついていますが、トワダオオカでは青藍色に光り、見た目は非常に美しいです。

私は大阪府の箕面公園でこの蚊を見たことがありますが、ゆったりと樹幹の周りを余裕をもって飛び回り、堂々として優雅な印象があります。

トワダオオカの成虫は5~8月に出現し、オスもメスも花蜜などを餌にすることが分かっています。

そのため、全くヒトにとって無害な蚊ということができるでしょう。

環境省レッドリストには入っていませんが、14都道府県のレッドデータリストに掲載されており、絶滅が危惧される種類でもあります。

トワダオオカの成虫

トワダオオカは「蚊を食べる蚊」だった!?

ただ、これほど大きな蚊が何を食べているのか、どのように成長するのか疑問に思う人がいるかもしれません。本来なら蚊のメスは産卵のためのタンパク質を補うために吸血を行っていると言われています。これほど大きな蚊は吸血せずにどのように栄養を得ているのでしょうか?

この点に関しては1916年にトワダオオカが発見されて以来、長らく謎でした。しかし1952年に初めてこの蚊の生態が明らかになったのです(石村,1952)。

その研究によるとトワダオオカの幼虫は樹洞(傷や障害物によって偶然できる根元や幹にできる穴)の中の水たまりに生息し、更にその中にいる他の種類の吸血性の蚊の幼虫(ボウフラ)を捕食していることが分かったのです。

具体的にはシロカタヤブカ Aedes niveus、ブナノキヤブカ Aedes oreophilus、ヤマダシマカ Aedes flavopictus、キンパラナガハシカ Tripteroides bambusa などの蚊が樹洞にいるとされています。

これはつまり、「蚊を食べる蚊」であるということです。この事実は非常に興味深いでしょう。ただし時々はユスリカ類(蚊に似ているが吸血しない別のグループのハエ)やガムシ類(甲虫の仲間)の幼虫を捕食することがあるようです。

7〜8月になると、孵化したトワダオオカ一齢幼虫は自分の体より大形のヤブカ属の幼虫(1〜3齢)に喰いつき、浮上して食べます。普通自ら進んで獲物を追い求めることなく、近接してきた幼虫を頭胸部だけ動かして素早く捕えます。そのまま、噛みついた部分から食い始め最後は頭と胸部の一部を残すのみになってしまいます。

トワダオオカの成虫が大きな体を維持できるのは実は高次捕食者であるからと考えられるでしょう。

もう一つ興味深いのは他のボウフラが高密度になると獲物をまったく消費せずに捕殺だけするようになります(Yasuda, 1995)。

この奇妙な行動の原因はよく分かっていませんが、実は同じ場所にいる他のトワダオオカ個体がかなり強力なライバルとなっており、共食いも発生しています。

そのため獲物かライバルか相手を見ずに先制攻撃している可能性や、ライバルの餌を無くする可能性が考えられていますがまだ仮説段階です。

トワダオオカは役に立つ?

このような生態はもしかしたらヤブカの仲間の個体数を調整しているかもしれません。樹洞がトラップのような働きを持ち、ヤブカがここに産卵すると全滅をもたらすかもしれません。自然界での役割はまだ不明な部分もありますが、トワダオオカは勿論、樹洞、そして樹木の存在がなんらかの役割を持っていることは否定できないでしょう。

更に最近、トワダオオカを含むオオカ属の仲間は生物学的防除剤(生物農薬)として注目されつつあります(Sukupayo et al., 2024)。殺虫剤のような薬剤を使わないで環境に優しくヤブカの仲間を殺すことができるからです。これによって媒介される感染症を減らすことができるかもしれません。

上述のように他のボウフラが高密度になると獲物をまったく消費せずに捕殺するので、単に餌にする以上の効果も考えられるでしょう。

実用されるかどうかはまだ不明な点もありますが、ぜひこのような蚊にも注目して森林を歩いてみてください!

引用文献

佐々木均・楠井善久・西島浩・長谷川勉・金杉隆雄. 1995. 北海道におけるトワダオオカの採集記録. 衛生動物 46(1): 75-76. https://doi.org/10.7601/mez.46.75

Sukupayo, P. R., Poudel, R. C., & Ghimire, T. R. 2024. Nature’s Solution to Aedes Vectors: Toxorhynchites as a Biocontrol Agent. Journal of Tropical Medicine 2024(1): 3529261. https://doi.org/10.1155/2024/3529261

Yasuda, H. 1995. Effect of prey density on behaviour and development of the predatory mosquito, Toxorhynchites towadensis. Entomologia experimentalis et applicata 76(1): 97-103. https://doi.org/10.1111/j.1570-7458.1995.tb01949.x

石村清. 1952. トワダオオカの幼生期について. 衛生動物 3(1-2): 12-19. https://doi.org/10.7601/mez.3.12

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