イヌホオズキ・オオイヌホオズキ・アメリカイヌホオズキ・テリミノイヌホオズキはいずれもナス科ナス属に含まれ、町中で非常に頻繁にみかけ、大都会の緑地ですら見かけることがあるほど身近な仲間です。丸く黒く熟す果実が特徴ですが4種は非常に類似しており識別はときに困難です。様々な識別方法が提案されていますが、花と果実の特徴に着目するのが最もシンプルだと思います。時として識別不能な個体があることはそういうものだと割り切るしかないかもしれません。本記事では丸く黒い果実を作るナス属の分類・形態について解説していきます。
イヌホオズキ・オオイヌホオズキ・アメリカイヌホオズキ・テリミノイヌホオズキとは?
イヌホオズキ(犬酸漿・犬鬼灯) Solanum nigrum は日本の北海道・本州・四国・九州・琉球;ユーラシアに広く分布し、アメリカ大陸に帰化している一年草です(神奈川県植物誌調査会,2018;RBG Kew, 2025)。日本では路傍・畑地・荒地・河川敷などに生えます。
オオイヌホオズキ(大犬酸漿) Solanum nigrescens はアメリカ合衆国南部・中央アメリカ・南アメリカ北部原産で、世界中に帰化している一年草または多年草です。日本では本州以南の各地の市街地だけでなく、河川敷・畑地・やや山よりの林縁などに生えます。
アメリカイヌホオズキ(亜米利加犬酸漿) Solanum emulans はカナダとアメリカ合衆国東部が原産で、ヨーロッパと日本などで帰化している一年草です。日本各地の港湾や畑地に生えます。『神奈川県植物誌2018』など古い文献では Solanum ptychanthum とされますが現在ではシノニム(旧学名)です(Knapp et al., 2019)。
テリミノイヌホオズキ(照り実の犬酸漿) Solanum americanum はカナダ~南アメリカ原産で、世界中に帰化している一年草または多年草です。日本では農耕地周辺・河川敷・海岸・山麓の林縁などに生えます。
いずれもナス科ナス属に含まれ、町中で非常に頻繁にみかけ、大都会の緑地ですら見かけることがあるほど身近な仲間です。
ナス属特有の「孔開葯」を持っており、雄しべの葯が黄色で大きく目立ち、葯は先端が細まり小さな穴が空いています。
これに加えて、上記4種では葉は多形で、花が小型で、果実はほぼ球形で紫~黒色に熟すという特徴があります。
上記4種は非常に類似しており、識別は困難です。野外で歩いていてぱっと見で識別することはほぼ不可能でしょう。
しかも各種の中間的なものも存在しており、正しく識別するのを困難にしている要因でもあります。
イヌホオズキ・オオイヌホオズキ・アメリカイヌホオズキ・テリミノイヌホオズキの違いは?
これら4種を識別する方法は様々な図鑑やサイトで色々な方法が指摘されています。
しかし、その着目点が多すぎるがゆえに、かえって識別を難しくしている印象があります。
そこでここでは本当に重要な点のみを絞って解説しておきます(神奈川県植物誌調査会,2018)。
まず、イヌホオズキでは花冠が浅く切れ込むのに対して、オオイヌホオズキ・アメリカイヌホオズキ・テリミノイヌホオズキでは花冠が基部近くまで深く切れ込むという違いがあります。
残り3種に関して、オオイヌホオズキとアメリカイヌホオズキでは果実は直径7~10mm、黒色で光沢がやや鈍く、よく熟すまでは果肉は緑色であるのに対して、テリミノイヌホオズキでは果実は直径4~7mm、黒紫色に熟し強い光沢があり、果肉は早くから紫色になるという違いがあります。
残り2種に関して、オオイヌホオズキでは1花序に花が5~8個咲き、花冠は直径8~12mmと大型であるのに対して、アメリカイヌホオズキでは1花序に花が1~4個咲き、花冠は直径4~6mmという違いがあります。
基本は以上を観察するシンプルな考え方が良いと思います。他にも果実中の球状顆粒や種子の数を調べることがよく図鑑に書かれていますが、普通の人が野外で観察するのは現実的ではないのでここでは省略します。詳しく知りたい人は神奈川県植物誌調査会(2018)や Knapp et al.(2019)を確認してみてください。
ただ、中間的な個体があり、特にオオイヌホオズキとアメリカイヌホオズキは区別がつかない場合があります。イヌホオズキを識別する花冠の切れ込みも花冠が小さいためしっかり複数を確認しないと角度によっては判然としない場合もあります。
花色や花冠裂片の反り返りなどは個体変異であり参考にしてはいけません。










他に似た種類はいる?
ナス属にはイヌホオズキとつく仲間がケイヌホオズキ Solanum sarrachoides やヒメケイヌホオズキ Solanum physalifolium var. nitidibaccatum、ビロードイヌホオズキ Solanum villosum subsp. villosum やアカミノイヌホオズキ Solanum villosum subsp. miniatum などいくつかいます。
しかし、ケイヌホオズキやヒメケイヌホオズキでは花後に萼が大きくなり果実を半ばまたはそれ以上を被うので見た目が大きく異なります。
ビロードイヌホオズキやアカミノイヌホオズキでも果実は縦に長い楕円体で、黄色~赤色に熟すので混同することはないでしょう。
他のナス属は大型で果実の形が異なったり、トゲがあったりするので混同することは少ないでしょう。詳しくは別記事を御覧ください。ホオズキは果実を宿存萼が包みます。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
Knapp, S., Barboza, G. E., Bohs, L., & Särkinen, T. 2019. A revision of the Morelloid clade of Solanum L. (Solanaceae) in North and Central America and the Caribbean. PhytoKeys 123: 1-144. https://doi.org/10.3897/phytokeys.123.31738
RBG Kew. 2025. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/