ヒヨドリジョウゴ・ヤマホロシ・マルバノホロシ・ツルハナナスはいずれもナス科ナス属で、その中でも「つる性」という特徴を持っている4種です。花や果実の基本構造は同じです。そのためよく混同される4種です。しかし、これら4種ははっきりとした違いがあります。ツルハナナスとヤマホロシも全く異なる別種です。これは茎の毛や葉の形を確認することでわかります。花は合弁花でバナナのように黄色い孔開葯を持っています。果実は液果です。本記事ではつる性ナス属の分類・形態について解説していきます。
ヒヨドリジョウゴ・ヤマホロシ・マルバノホロシ・ツルハナナスとは?
ヒヨドリジョウゴ(鵯上戸) Solanum lyratum は日本の北海道、本州、四国、九州、琉球;朝鮮、中国、東南アジアに分布し、林縁に生えるつる性多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。
ヤマホロシ(山桯・山保呂之) Solanum japonense は日本の北海道、本州、四国、九州;朝鮮、中国に分布し、林縁や林内に生えるつる性多年草です(門田ら,2013)。
マルバノホロシ(丸葉保呂之) Solanum maximowiczii は日本の本州(関東地方南部以西)、四国、九州、琉球に分布し、山地山麓の常緑広葉樹林内や谷筋に生えるつる性多年草です(大橋ら,2017)。
ツルハナナス(蔓花茄子) Solanum laxum はブラジル南東部、アルゼンチン、ウルグアイのラ・プラタ川の河口に分布し、大西洋岸森林、ナンヨウスギ林、拠水林、開けた林縁に生えるつる性多年草です(Brazil Flora G., 2023)。日本を含む温帯、亜熱帯の両地域で世界中で広く観賞用に栽培され、オーストラリアやニュージーランドなどでは野生化、帰化しています。
いずれもナス科ナス属で、その中でも「つる性」という特徴を持っている4種です。花や果実の基本構造は同じです。
ヒヨドリジョウゴ・ヤマホロシ・マルバノホロシに関しては、野生種で類似したグループであると言えます。花冠が後方に反り返ることがある点も共通しています。
また、ツルハナナスの別名として園芸で「ヤマホロシ」と呼称されることもあり、混同されやすい2種です。葉だけでの区別は難しそうです。
ヒヨドリジョウゴ・ヤマホロシ・マルバノホロシ・ツルハナナスの違いは?
しかし、これら4種ははっきりとした違いがあります。ツルハナナスとヤマホロシも全く異なる別種です。
まず、ヒヨドリジョウゴ・ヤマホロシ・マルバノホロシは野生種で、ツルハナナスは園芸種であることから、ツルハナナスが日本の自然下で見られることは普通ないと考えて良いでしょう。
形態的な違いも考えていきます。
まず、ヒヨドリジョウゴでは茎に長さが異なる腺毛が密生するのに対して、ヤマホロシ・マルバノホロシ・ツルハナナスでは茎は無毛か僅かに軟毛が生える程度です。
残り3種に関しては、ヤマホロシ・マルバノホロシでは花冠の切れ込みが深く、裂片が後方に反り返ることがあり、色は紫色で喉部内面は黄緑色があるのに対して、ツルハナナスでは花冠の切れ込みが浅く、裂片は後方に反り返らず、色は全体が白~淡い紫色という違いがあります。
ヤマホロシとマルバノホロシに関しては一番判別が難しいですが、ヤマホロシでは葉が卵形または卵状披針形で、基部は心形または円形または切形で、全縁または波状縁または鋸歯縁、ときに基部近くで3~5裂するのに対して、マルバノホロシでは葉が楕円形または卵状披針形で、基部はくさび形で葉柄に流れており、全縁で、不分裂です。
要素が多いですが、葉身の基部の形が一番わかり易いでしょう。和名の「マルバノホロシ」というのは確かに特徴を示してますが、ヤマホロシでも全縁で不分裂になることがあるのは注意が必要です。
他にもヤマホロシでは若い葉の上面には明らかな毛があり、花の喉部内面は濃紫色を帯びるのに対して、マルバノホロシでは若い葉の上面には点状の突起が散生し、花の喉部内面は緑色を帯びるという違いもあります。
他に似た種類はいる?
ナス属にはこの他にも多数が含まれていますが、つる性草本の種類は限られています。
茎が直立しているナス属や木本のナス属の違いを知りたい人は別記事を御覧ください。
花の構造は?
ナス属の花は合弁花で共通しており、これら4種でも同様です。特に雄しべにはナス属共通の大きな特徴があります。
それは雄しべの花粉を含む部分である葯が黄色で大きく目立ってることで、この葯は先端が細まり小さな穴が空いています。このような葯は「孔開葯」と呼ばれています(清水,2001)。
ヒヨドリジョウゴは花期が8〜9月。花は集散花序に多数つきます。花冠は白色で直径1cmほど、深く5裂し、裂片はそり返ります。雄しべは5個、花糸は太く短いです。葯は黄色。
ヤマホロシは花期が7~9月。葉の反対側または茎の途中からまばらに分枝する集散花序をつけ、数個の花をつけます。萼は皿形で、先は5裂します。小花柄は萼の下方で少し太くなります。花冠は淡紫色で5深裂し、径1cmになり、はじめ平開しますが、のちに各裂片は背面に強く反り返ります。裂片の基部には黄緑色の腺体があり、花喉部内面は濃紫色をおびます。雄しべは黄色で5個あり、花の中心部に集まって直立し、葯は長さ約3mmの長楕円形で、雌しべを取り巻きます。
マルバノホロシは花期が8〜9月。茎の途中または葉の反対側からまばらに分枝する集散花序を出します。萼は皿形で浅く5裂します。花冠は淡紫色、先は深く5裂し、径約1cm、喉部内面は黄緑色、裂片は開くと背面に強く反り返ります。葯は長楕円形で先は細くならず、長さ約3mm。
ツルハナナスは花期が6~10月。花序は末生、または後に側生し、長さ5cm以上、多数回分枝しますが、通常は2~3回しか分枝せず、最大50個の花をつけ、無毛です。萼は1~1.5mm、円錐形からやや扁平です。花冠は直径1.8~2.2cm、白色または淡紫色で、星形、基部まで1/2ほど裂け、裂片は7~9×5~6mmで、開花すると平面状に広がります。葯は3.5~4mmの楕円形。
果実の構造は?
これら4種はナス属の他の仲間と同様に液果です。
ヒヨドリジョウゴの液果は球形で直径約8mm、紅色に熟します。
ヤマホロシの液果は径6~7mmになる球形で、まれに楕円形となり、秋に赤色に熟します。種子は径約2mmとなります。
マルバノホロシの液果は球形で熟すと赤色となり、径7〜10mm。種子は径約3mm。
ツルハナナスの液果は直径約1cmの球形。熟すと黒紫色、果皮は薄く光沢があります。種子は果実1個につき10〜20個、約3×2.5mm、扁平な腎形で淡褐色、表面は微細な孔があります。
引用文献
Brazil Flora G. 2023. Brazilian Flora 2020 project. Version 393.387. Instituto de Pesquisas Jardim Botanico do Rio de Janeiro. https://doi.org/10.15468/1mtkaw
門田裕一・永田芳男・畔上能力. 2013. 山に咲く花 増補改訂新版. 山と溪谷社, 東京. 616pp. ISBN: 9784635070218
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
大橋広好・門田裕一・邑田仁・米倉浩司・木原浩. 2017. 改訂新版 日本の野生植物 5 ヒルガオ科~スイカズラ科. 平凡社, 東京. 760pp. ISBN: 9784582535358
清水建美. 2001. 図説植物用語事典. 八坂書房, 東京. xii, 323pp. ISBN: 9784896944792