キュウリグサとミズタビラコはいずれもムラサキ科キュウリグサ属に含まれ、全縁の葉・さそり型花序・青い花冠・付属体の存在で特徴づけられる越年草です。特にキュウリグサは知名度が高く、春になると咲く青色の可愛い花として人気があります。キュウリグサとミズタビラコは小花柄の長さなどを確認すると簡単に区別できるでしょう。ハナイバナは属は異なりますが似た場所に生えキュウリグサに似た種類として知られます。こちらは花の付き方を観察するのが最も簡単に区別できると思います。ワスレナグサやノハラムラサキも似ていますが、生長の仕方やサイズがかなり異なっています。本記事ではキュウリグサ属の分類・形態について解説していきます。
キュウリグサ・ミズタビラコとは?
キュウリグサ(胡瓜草) Trigonotis peduncularis は別名タビラコ(田平子)。日本の北海道・本州・四国・九州・琉球;アジアの温帯~暖帯に広く分布し、畑や路傍に生える越年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。和名は揉むとキュウリのような匂いがすることに由来します。
ミズタビラコ (水田平子)Trigonotis brevipes は日本の本州・四国・九州に分布し、山地の渓谷の湿地に生える多年草です。
いずれもムラサキ科キュウリグサ属に含まれ、葉は全縁で、「さそり型花序」というサソリの尾(厳密には「終体」または「後腹部」と呼ばれる部分)に似た特殊な花序をつける点が大きな特徴です。また花は多くのムラサキ科と似ており、花冠の中央には「付属体」と呼ばれる突起物がある点が独特でしょう。キュウリグサ属としては分果が四面体になるという共通点もあります。
特にキュウリグサに関しては春の3〜5月になると直径約2mmしかない小さな淡青紫色の花を咲かせ、都市部の路肩でも頻繁に観察することができる雑草の一種であると言えとても有名です。植物図鑑でも真っ先に取り上げられる一種です。
ただ、キュウリグサにはキュウリグサ属だけでなく、ムラサキ科にもいくつかよく似た近縁種が知られており、慣れればそれほど区別が難しいことはありませんが、最初は判断に迷うことがあるかもしれません。
キュウリグサとミズタビラコの違いは?
キュウリグサとミズタビラコを区別するのは比較的簡単です(神奈川県植物誌調査会,2018)。
キュウリグサでは小花柄(花と植物体を繋ぐ細い部分)は萼と同長かより長く、花後は花序が反曲するのに対して、ミズタビラコでは小花柄は萼より短く、花後も花序が直立するという違いがあります。
要するにキュウリグサでは小花柄が明らかに長く、花序が曲がりくねっていることが多いということです。
また生息環境に関しても、キュウリグサでは畑や路傍に生え、極めて一般的に観察することができますが、ミズタビラコは山地の渓谷の湿地という局所的な環境にしか生えておらず、中々観察することは難しいでしょう。
変種として分果の背面に環状の付属体があるコシジタビラコ Trigonotis brevipes var. coronata も知られています。
キュウリグサとハナイバナの違いは?
分類上はキュウリグサはミズタビラコと近いですが、実際に生えている生息地という観点ではむしろハナイバナとの違いの方が気になる人が多いかもしれません。
ハナイバナ(葉内花) Bothriospermum zeylanicum は日本の北海道・本州・四国・九州・琉球・小笠原;朝鮮・中国・東南アジア・インド・中央アジアに分布し、畑や道ばたに生える一年草〜越年草です。
分類学上重視されるキュウリグサとハナイバナの一番大きな違いとしては果実の形で、キュウリグサでは表面が平滑なのでツルツルですが、ハナイバナでは表面が短い突起が密生するためザラザラしているという点です。
ただ、果実は地味なので分かりにくいかもしれません。
別の分かりやすい違いとしては、キュウリグサではさそり形花序を作るのに対して、ハナイバナでは花が単生し上部の葉腋につくという点が挙げられます。
したがって、ハナイバナではキュウリグサのようなクネクネした花序を見ることはありません。この特徴は「葉内花」という和名の由来になっており、葉と葉の間に花がつくことから命名されています。
また、花の色もキュウリグサでは花冠が淡青紫色で、中央の付属体は黄色ですが、ハナイバナでは花冠が白色がベースで裂片の基部のみ淡青紫色で、中央の付属体は白色です。
ハナイバナにのみ苞葉があるという違いもありますが、通常の葉との区別が難しく分かりにくいかもしれません。
私の感覚ではキュウリグサほどハナイバナは個体数が多くなく、群生することはない印象です。
キュウリグサとワスレナグサ・ノハラムラサキの違いは?
キュウリグサとワスレナグサやノハラムラサキとの違いが気になる人も多いかもしれません。ワスレナグサやノハラムラサキもキュウリグサと同じような花の色・形で、花冠中央の付属体も黄色です。
シンワスレナグサ(真勿忘草) Myosotis scorpioides やノハラムラサキ(野原紫) Myosotis arvensis はいずれもワスレナグサ属に含まれ、ヨーロッパ原産で普通園芸で観賞用に栽培されますが、逸出して野生化していることがあります。
分類学上はここでも果実の形が重視されています(清水ら,2001;神奈川県植物誌調査会,2018)。
キュウリグサ属とワスレナグサ属の果実は次第に4つに別れ「分果」になるのですが、キュウリグサ属ではその分果が四面体となりカクカクしていますが、ワスレナグサ属では卵形となり丸いという違いがあります。
ただやはりそのような部分を野外で観察するのは難しいと感じるかもしれませんね。
もっとも分かりやすいのは生長の仕方の違いで、キュウリグサでは茎が基部でさかんに分枝して平面的に広がり枝は斜上して高さ6cmほどになる程度ですが、ワスレナグサやノハラムラサキでは茎が直立するのみで、高さ20~50cmにもなります。
花のサイズはキュウリグサでは直径2mm、ノハラムラサキでは直径3mm、シンワスレナグサでは直径8mmとなっており、ワスレナグサ属の方が大きく園芸向きの大きな花をつけています。
ワスレナグサ属の違いについて知りたい人は別記事を御覧ください。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七. 2001. 日本帰化植物写真図鑑 plant invader 600種 改訂. 全国農村教育協会, 東京. 553pp. ISBN: 9784881370858