ヤブガラシ(ヤブカラシ)とノブドウの違いは?似た種類の見分け方を解説!なぜ駆除させられる?実は食べられる?皿状の花にやってくるスズメバチは用心棒として雇われていた!?

植物
Cayratia japonica

ヤブカラシやノブドウは最も身近なブドウ科のつる性植物です。同じ科でつる性であることから違いに迷うことがあるかもしれませんが、その区別は葉の形と花の形で簡単にできます。ヤブカラシはその繁殖力の強さと景観への影響、更にはハチを呼ぶことから駆除対象となることがあります。しかし、その生態は興味深く、花は皿状でハチを呼ぶことに特化し、ニホンミツバチに受粉を頼み、スズメバチに葉を害虫を駆除してもらうという驚きの利益を得ています。果実は液果で付けるのが稀な地域もありますが、付ける場合は鳥や哺乳類に利用されています。本記事ではヤブカラシとノブドウの分類・人との関わり・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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野生のブドウ科を代表する2種

ヤブカラシ(藪枯らし・烏蘞苺) Cayratia japonica は別名ビンボウカズラ(貧乏葛)。朝鮮・中国・インド・マレーシア・日本(北海道西南部・本州・四国・九州・琉球)に広く分布し、藪や畑地に生息するつる性の多年草です(角谷,1994)。「ヤブガラシ」と呼ばれることもありますが、植物学上の和名は「ヤブカラシ」で、濁点は付きません。

一方、ノブドウ(野葡萄) Ampelopsis glandulosa var. heterophylla は朝鮮・中国・千島・ウスリーに分布し、山野に生息する落葉つる性木本です(神奈川県植物誌調査会,2018)。2分岐した巻きひげで他物にからみつき、茎は暗灰褐色で節の部分は膨らみます。茎は毎年枯れ、基部は木質化して直径4cmほどになります(林ら,2013)。

これら2種は同じくブドウ科のつる性植物で、皿状の花をつけるという共通点を持ち、都心の植え込みや民家の庭でも頻繁に見ることが出来ます。

ヤブカラシとノブドウの違いは?

これら2種は同じくブドウ科ですが、属が異なるため、分類学的には隔たりがあり区別は容易です(神奈川県植物誌調査会,2018)。

最もわかりやすい違いとしてはヤブカラシでは葉が「鳥足状複葉」という一枚の葉が3~9小葉に分かれた形をしているのに対して、ノブドウでは葉が「単葉」、すなわち一般的な普通の葉の形をしています。

鳥足状複葉の「鳥足状」というのは葉が分かれている様子を鳥の足(厳密には爪先)に例えたものです。

また、ヤブカラシでは花の花盤と呼ばれる橙色の部分が目立ちますが、ノブドウでは淡緑色で特に目立ちません。そのため花をみても明確に区別できます。

なお、ノブドウにはキレハノブドウ f. citrulloides という葉が深裂し、裂片にスイカの葉のような湾入のはいるノブドウの品種も知られています。しかし変わらず単葉です。

ヤブカラシとよく似たアマチャヅルとの違いは別記事を御覧ください。

ヤブカラシの葉
ノブドウの葉上面
ノブドウの葉下面
キレハノブドウの葉上面
キレハノブドウの葉下面
キレハノブドウの果実

ヤブカラシはなぜ駆除される?

ヤブカラシは嫌われ、駆除の対象になることもあります。これは生育の旺盛にあり、和名の由来も「藪を覆って枯らしてしまうほど生育する」ということに由来するとされます。

またビンボウカズラとも呼ばれ、手入れがなされていない庭でよく見られるということに由来するとされます。つる性植物であるためあちこちに巻き付く様子があまり好まれないのかもしれません。

実際に藪を枯らすというのは誇張である可能性がありますが、つる植物という性質上、他の植物の光合成を行う機会を奪っている可能性は高そうです。

駆除も難しく、地上部を抜き取っても土中に根茎を残すと春から夏にかけて芽を出し、地下茎は横に長く伸びるため、一度広がってしまうと、その土地から完全に取り除くのは難しいです。

その上後述のようにスズメバチやアシナガバチを呼び寄せてしまうので、この点が最も危険かもしれません。しかし、これにはヤブカラシ側の事情もあることが分かりつつあります。

ただ、非常にありふれた植物であるため、あまり偏見を持たず、適切な処置でうまく共存するということが求められそうです。

一方ノブドウに関してはそれほど悪評はなく、むしろ果実が面白いためか、園芸として用いられることもあるようです。不思議な評価の分かれ方です。

蜜入りの皿はニホンミツバチ専用だった!?

ヤブカラシとノブドウは共通して集散花序を作り、皿状の構造の花を作っています。しかし、その色や構造は微妙に違います。

ヤブカラシは地下茎をつかって、無性生殖によっても増えますが、花を咲かせる場合は、6〜8月に咲き、開放的な皿状で、花盤と呼ばれる橙色の部分から蜜を出しています(角谷,1994;林ら,2013)。始めは紅色で後に橙色に変わっていきます。直径は5mmで、淡緑色の花弁は4個あり、雄しべは4個、雌しべは1個あります。雄しべを最初につけた後、性転換して雌しべをつけて、自家受粉を防ぐ「雄性先熟」を行います(角谷,1994;福原,2014)。

ノブドウも同じく皿状の花を7〜8月に咲かしますが、花は直径3〜5mmで、雌しべは1個というのはヤブカラシと同じですが、花弁と雄しべは5個である点は異なります(林ら,2013)。また、花盤は淡緑色のままです。

ヤブカラシの花
ノブドウの花

このような皿状の花は明らかに特定の昆虫が訪れることに特化していそうです。皿状の構造は口がストロー状の昆虫が蜜を舐めるには適しておらず、また舐められたとしても管の奥にたっぷり蜜が入っている花に比べれば、非常に効率が悪いでしょう。逆に口が短い昆虫にとっては非常にありがたい存在と言えそうです。

2種のうちヤブカラシについては実際に日本で訪れる昆虫に関する研究が行われています。その結果によると、アゲハチョウやアオスジアゲハといった口がストロー状の昆虫もわずかに観察されたものの、やはり蛾や口の長いマルハナバチなどは全く観察されず、口の比較的短い、ハチの仲間が大部分を占めていました(Kakutani et al., 1989; 角谷,1992;1994)後は少数のコウチュウの仲間とハエの仲間が観察された程度です。

やってくるハチの仲間は受粉にあまり貢献しないとされるアリを除けば、ニホンミツバチが最も多く見られました。しかしそれだけではなく、スズメバチやアシナガバチもミツバチの次に多く見られました。

ニホンミツバチ♀成虫ワーカー

普通に考えればこのようなスズメバチやアシナガバチも受粉に貢献していると感じるかもしれません。

ところが、観察によると、花粉の付着が確認されたのは全ての昆虫の中でニホンミツバチだけでした。

しかもそれだけではなく、ヤブカラシはミツバチのために蜜の糖度や蜜の分泌時間を調整していると言われています。ニホンミツバチは糖度が60%の時に吸蜜効率が最大になるのですが、ヤブカラシの蜜も60%の糖度になっています。蜜の分泌時間は日中のみとなっており、午前と午後にピークがあった後、夜には蜜を盗まれないように、蜜を再吸収してしまいます。これはヤブカラシのニホンミツバチへの高度な適応と言えます。

つまり他の昆虫がタダで蜜を盗んでいるだけということになり(盗蜜)、ヤブカラシ側にはなんの利益もない、偶然やって来た昆虫であるということになります。

また、ノブドウに関しても論文にはなっていませんが、このヤブカラシの研究を行った角谷氏によると、花蜜生産の日周パターンが有効な送粉者と思われるニジイロコハナバチというハチの訪花の日周パターンと一致していたと言います(角谷,2001)。ニジイロコハナバチがどこにでもいるハチであるかは現状不明ですが、ノブドウはヤブカラシよりももう少し小型のハナバチの仲間が花に訪れるのかもしれません。

ヤブカラシはスズメバチに用心棒を頼んでいた!?

しかし、ヤブカラシにスズメバチやアシナガバチがよくやってくることはヤブカラシと身近な人にとってはとてもよく知られているかもしれません。

通常花にやってくるハチの仲間はハナバチと呼ばれるグループで比較的小型で、肉食性ではないことが多いです。肉食性のハチがやってくるというこの特別な現象は本当にヤブカラシにとって何の意味もないのでしょうか?

ヤブカラシに訪花するコガタスズメバチ成虫

このことについて岐阜大学が研究を行っています。その研究によると、ヤブカラシ上で肉食性のスズメバチ科の仲間は8〜9月に増加しますが、その時期のチョウ目の幼虫の個体数が減少する傾向が確認されました(河辺ら,2015)。

これはつまり、ヤブカラシはあえてスズメバチの仲間を受粉に関わらず花から蜜を提供する代わりに、自身について葉を食害する芋虫または毛虫をハチに食べさせているということを意味している可能性があります。これは「相利共生」の関係にあります。

ヤブカラシにはセスジスズメやブドウスズメ、コスズメの幼虫などが寄生することが知られています。ヤブカラシはこのような蛾から身を守っているのかもしれません。

セスジスズメの幼虫
コスズメの幼虫

まだこのことは研究段階にありますが、もし事実だとすると人間にとっては非常にやっかいかもしれません。しかし、ヤブカラシ側の事情を理解してあげる、というのも共存の上では重要ではないでしょうか?

果実はブドウに似ている?食べられる?

果実は2種とも液果です。ブドウ科ですからイメージはしやすいでしょう。

ヤブカラシの果実は球形まれにややだるま形をしていて、黒色に熟します(林ら,2013)。しかし、関東以西に分布する2倍体のものはよく結実しますが、近畿以東に分布し東日本に多い3倍体のものは結実することはありません。そのためヤブカラシの果実は見る機会は少ないかも知れません。

一方、ノブドウは普通に確認でき、果実は同じく球形ですが、色は白~紫色や碧色となっています(林ら,2013)。

ただし、ノブドウの果実の色については不明な点があります。このような紫色や碧色はブドウミタマバエやブドウトガリバチの幼虫が寄生してできたもの(虫こぶ、虫えい)で正常な果実はほとんどないとする説と、自然な成熟の経過であるという説が存在しているのです。

現在科学的な研究がなされておらず、どちらが正しいかは不明ですが、この果実を実際に切って、幼虫が入っているかを観察した人によると、青みがかっていても、中に幼虫が入っていなかったり、白色でも幼虫が入っていたことがあったそうです(廣野,2017)。

このことからブドウミタマバエの虫こぶ(ノブドウミフクレフシ)やブドウトガリバチの虫こぶを見つけたい場合、色で区別することは難しそうです。ただし、虫こぶであった場合は不規則に歪み、明らかに肥大するとされているので、色だけではなく、周りの果実との違いを慎重に確認する必要がありそうです。

ノブドウの果序
ノブドウの果実:ノブドウミフクレフシであるかは不明

ところで、これらの果実は美味しく食べられるのでしょうか?ブドウ科なので期待してしまうかもしれません。

ヤブカラシについては実際に食べた人によると「少し甘味を感じますがぬるっとして、エビヅルのまだ熟していない青臭い実を食べてるよう」と評しています(わきです,2011)。

また、ノブドウについても多くの図鑑でまずくて食べられないとされています。ただこの評価は虫こぶに関するものなのか不明です。

人間にとっては美味しくなくても野生動物にとっては貴重な食べ物であり、ヤブカラシにとっては種子散布を行う大事な手段です。どのような野生動物が食べているのでしょうか?

ヤブカラシは鳥によって食べられた記録のみ確認できました(高槻,2021)。

一方、ノブドウも鳥によって食べられた記録がありますが(高槻,2021)、ツキノワグマ、テン、タヌキのような哺乳類が果実を食べていた記録があります(小池・正木,2008)。意外にも哺乳類と鳥類、両方にアプローチしている果実なのかもしれません。ヒトにとってまずいはずの果実が人気なのですから不思議なものです。

まだヤブカラシが本当に鳥だけを対象にしているのかなどは不明ですが、2種の色彩や味の違いが野生の哺乳類や鳥にどう評価されるのかは興味深い謎として残されています。

引用文献

福原達人. 2014. あれ?昨日と違う!花の性転換. 自然保護 542: 22-23. ISSN: 0386-4138

林弥栄・門田裕一・平野隆久. 2013. 山溪ハンディ図鑑 1 野に咲く花 増補改訂新版. 山と渓谷社, 東京. 664pp. ISBN: 9784635070195

廣野郁夫. 2017. 続・樹の散歩道 ノブドウの果実の多様な色は虫えい故なのか? そもそも正常な果実とはどんな色なのか?. https://kinomemocho.com/sanpo_nobudo.html

角谷岳彦. 1992. ヤブガラシの花蜜分泌とミツバチの訪花行動. ミツバチ科学 13: 27-34. ISSN: 0388-2217

角谷岳彦. 1994. 訪花昆虫群集に関する送粉生態学的研究: 花蜜分泌様式と昆虫間競争からみた群集構成. 京都大学博士論文. https://doi.org/10.11501/3096539

角谷岳彦. 2001. 角谷・ホーム. https://www.museum.kyoto-u.ac.jp/english/staff/kakutani/kakutanij.html

Kakutani, T., Inoue, T., & Kato, M. 1989. Nectar secretion pattern of the dish-shaped flower, Cayratia japonica (Vitaceae), and nectar utilization patterns by insect visitors. Population Ecology 31(2): 381-400. ISSN: 1438-3896, https://doi.org/10.1007/BF02513213

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

河辺穂奈美・古川友紀子・川窪伸光・土田浩治. 2015. ヤブガラシで吸蜜する昆虫の多様性 ―みえてきたスズメバチ訪花の生態的機能―. 日本生態学会講演要旨 62: PA1-149.

小池伸介・正木隆. 2008. 本州以南の食肉目3種による木本果実利用の文献調査. 日本森林学会誌 90(1): 26-35. ISSN: 1349-8509, https://doi.org/10.4005/jjfs.90.26

高槻成紀. 2021. 麻布大学キャンパスのカキノキへの鳥類による種子散布. 麻布大学雑誌 32: 1-9. ISSN: 1346-5880

わきです. 2011. 江田島って・・・どんなとこ? ヤブガラシ 実(ブドウ科). http://wakiwakidonn.blog97.fc2.com/blog-entry-2781.html

出典元

本記事は以下書籍に収録されてるものを大幅に加筆したものです。

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