ロウバイは中国原産で日本では庭木などとして利用されます。あまり知られていませんが、種子や葉には毒性があるので注意が必要です。ロウバイとソシンロウバイは花の色合いで区別することが出来ます。そんなロウバイは真冬に咲き、他の植物が咲かない時期に庭を鮮やかにしてくれますが、なぜロウバイはそのようなことをしているのかご存知でしょうか?日本ではあまり知られていませんが、中国では研究されていて冬でも行動可能なハエに受粉を頼ることにより、他の植物と差別化を図っていました。本記事ではロウバイの分類・毒性・歴史・送粉生態・種子散布について解説していきます。
中国原産の落葉低木
ロウバイ(蝋梅) Chimonanthus praecox は中国原産で、日本を含む温帯地域で栽培され(Wu et al., 2008)、中国では山地の森林に生息する落葉低木です。
ロウバイ科ロウバイ属に含まれ、葉は有柄で対生し、長さ約15cmの卵形または卵状楕円形で両端はとがり、全縁で表面はざらつきます。
あまり知られていないロウバイの毒性
あまり知られていませんが、ロウバイには毒性があります。
種子や葉にはアルカロイドの一種であるカリカンチンが含まれることが知られています(春山,2020)。
動物がカリカンチンを摂取すると、中枢神経の抑制性神経伝達物質であるGABAの放出が阻害され、ドパミンの放出量が増えることで、強直性痙攣や呼吸促迫になります。
2016年には実際に日本で放牧していた羊がロウバイの種子を摂食し、中毒症状を起こしています。ただ、人間の例は今のところ知られていないようです。
動物種による差や個体差も大きく、どの程度強い毒なのかは今のところ不明ですが、わざと葉や種子を摂取するのは避けたほうが良いでしょう。
ロウバイは日本にいつやってきた?
ロウバイの名は室町時代後期の1484年に成立した国語辞典である『温故知新書』に既に表れています。そのためこの時期に日本に渡来したものと考えられています(磯野,2007)。しかし、それ以降はしばらく記録がありません。
ロウバイが再び姿を表すのは江戸時代初期の1666年に描かれた狩野派の絵師である狩野常信の図巻や、1674年に描かれた狩野探幽の『草花写生図巻』で、実質的にはこの時期以降に人気が出たのかもしれません。
以降さまざまな掛け合わせが行われ、品種改良が進んでいます(春山,2020)。国内ではおもに観賞用として農園や庭園などに栽植されています。
真冬に咲く、花びらの赤い部分は虫のため?
1~2月という真冬に下向きに艶のある黄色の花が、葉が出る前に咲きます。輪状に花びらは配置され、何層かに重なり、外側の花びらは長楕円形に近く、内側になるほど楕円形になっていきます。内側の花びらは紫がかった赤色になっていて、ここから蜜を分泌しています(廣野,2017)。これは虫に蜜の在り処をわかりやすくしているものと考えられます。ただしソシンロウバイ C. praecox f. concolor では黄色です。
冬に咲かせる少数派戦略
虫の活動が非常に少ない真冬に咲くのは不思議に思えますよね?このことは日本では注目されていませんが、とても特異的なことです。こんな時期にどのような昆虫がやってくるのでしょうか?
中国の湖北省武漢市と江蘇省南京市でそれぞれ独立に研究が行われましたが、その結果どちらも、ハナアブ、ハエ、イタリアミツバチ(セイヨウミツバチ)が主にやってくることが分かっています(Lihua et al., 2006;Du et al., 2012)。
しかし、このうち、ハナアブは花粉を付けず、イタリアミツバチはやって来る数が少ないので、実質的にはハエのみが花粉を運んでいることも分かりました。
ハエは他の虫に比べると寒さに強いという性質があります。ロウバイは他の花がない冬にあえて花を咲かせることで、ハエに確実な受粉を行ってもらっているのだと考えられます。
果実は偽果に包まれる!?
花の後は果実を形成しますが、その形成の仕方は変わっています。
ロウバイでは果実が入る肉質の果床が大きくなることで偽果を形成するのです。その見た目はまるで壺のような形です。
偽果の中には5~20個の真の果実(痩果)があり、その果実の中に種子を内包しています。偽果は熟すると下部が裂け、真の果実が重力によって散布されます(Yang et al., 2013)。
引用文献
Du, W., Wang, S., Wang, M., & Wang, X. 2012. Who are the major pollinators of Chimonanthus praecox (Calycanthaceae): insect behaviors and potential pollination roles. Biodiversity Science 20(3): 400-404. ISSN: 1005-0094, https://doi.org/10.3724/SP.J.1003.2012.05033
春山優唯. 2020. 羊のロウバイ中毒疑い事例. 日本獣医師会雑誌 73(5): 249-252. ISSN: 0446-6454, https://doi.org/10.12935/jvma.73.249
磯野直秀. 2007. 明治前園芸植物渡来年表. 慶應義塾大学日吉紀要 自然科学 42: 27-58. ISSN: 0911-7237, https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN10079809-20070930-0027
廣野郁夫. 2017. 続・樹の散歩道 ロウバイの花はのぞき見てもようわからん!. https://kinomemocho.com/sanpo_Chimonanthus.html
Lihua, Z., Riming, H., & Jianzhong, W. 2006. The pollination biology of Chimonanthus praecox (L.) Link (Calycanthaceae). Acta Horticulturae Sinica 33(2): 323-327. https://www.ahs.ac.cn/EN/Y2006/V33/I2/323
Wu, X., Raven, P. H., & Hong, D. 2008. Flora of China vol. 7 Menispermaceae through Capparaceae. Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. xii, 499pp. ISBN: 9781930723818
Yang, J., Dai, P., Zhou, T., Huang, Z., Feng, L., Su, H., … & Zhao, G. 2013. Genetic diversity and structure of wintersweet (Chimonanthus praecox) revealed by EST-SSR markers. Scientia Horticulturae 150: 1-10. https://doi.org/10.1016/j.scienta.2012.11.004
出典元
本記事は以下書籍に収録されていたものを大幅に加筆したものです。