フジ・ヤマフジ・ナツフジの違いは?フジはなぜ日本人から愛される?花はクマバチ専用だった?藤の豆はカチンと弾け飛ぶ?(花の生態がわかる写真図鑑 51)

植物
Wisteria floribunda

フジ・ヤマフジ・ナツフジは現在でも藤棚が用意されるほど、人気のマメ科の植物です。しかしその3種の判別は慣れるまで大変です。この同定には花期やつるの巻く方向を調べることがとても重要です。歴史も古く日本の奈良時代に成立した最古の文献である『古事記』や『万葉集』には既に登場しています。平安時代にはフジは気品ある特別な花として天皇や貴族に愛されていた記録が残されています。このことが日本では紫色は高貴なイメージと関係していそうです。そんなフジの仲間ですがその生態についてご存知でしょうか?実はキムネクマバチが専門にやってくることが近年の研究で明らかになっています。また、果実はカチンと音を立ててすごい勢いで弾け飛び、種子を飛ばします。この記事ではフジの分類・区別点・送粉生態・種子散布・歴史について解説していきます。

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藤棚も設置されるほど日本で人気のつる性のマメ科3種

フジ(藤) Wisteria floribunda は別名ノダフジ。日本固有種で、本州、四国、九州に分布し、林縁や明るい樹林内に生えるつる性落葉木本です(茂木ら,2000)。専用に藤棚が設置されるほど、観賞用として非常に人気がありますよね。

ヤマフジ(山藤) Wisteria brachybotrys は本州(近畿地方以西)、四国、九州に分布し、低山の林縁や明るい樹林内に生えるつる性落葉木本です。

ナツフジ(夏藤) Wisteria japonica は本州(東海地方以西)、四国、九州に分布し、丘陵から低い山地の林縁や明るい樹林内に生えるつる性落葉木本です。

いずれもマメ科フジ属の奇数羽状複葉のつる性落葉木本で、日本国内ではよく見られる上に、人に育てられる関係から品種も多く区別は難しいです。生物学的には3種に分かれます。

フジ・ヤマフジ・ナツフジの違いは?

この3種は認識するのは慣れないうちは中々難しいものの、同定は以下に従えば可能です(神奈川県植物誌調査会,2018)。

まずフジ・ヤマフジとナツフジの違いとしては、フジ・ヤマフジでは花は藤色から紫色、冬芽は1~2枚の芽鱗で被われるように見えるのに対して、ナツフジでは花は緑白色、冬芽は芒状の托葉と灰褐色毛に包まれる点が挙げられます。

フジとヤマフジの違いとしては、フジではつるは左巻き(前から見て右から左へ巻きながら登る)、成葉はほぼ無毛であるのに対して、ヤマフジではつるは右巻き(前から見て左から右へ巻きながら登る)、成葉の下面に毛が残るという点が挙げられます。

フジとヤマフジは基本的につるの巻き方で区別されますが、少し難しいですね。分布はフジは前述の通り本州・四国・九州ですが、ヤマフジは本州(近畿地方以西)・四国・九州に、ナツフジは本州(東海地方以西)・四国・九州に分布しているのでこの点も区別の考慮に入れることが出来ます。ただし、園芸個体や逸脱個体もいるため、やはり上記の検索表は重要です。

基本的には上記の検索表で問題ないかと思いますが、花の色については困ったことにフジ Wisteria floribunda には花が白いシロバナフジ W. floribunda f. alba や花が淡紅色から白色に変わるアケボノフジ W. floribunda f. alborosea がいます。また、ナツフジ Wisteriopsis japonica にも花が淡桃色のアケボノナツフジ W. japonica var. alborosea がいます…。検索表にはないですが、フジは5月に開花し、ナツフジは夏に開花する、という点もかなり大事でしょう。

フジの葉
フジの葉
フジの花:少し早いためまだ完全に開ききっていない。花柄が捻れて斜めの花がある
フジの未熟果
ナツフジの葉
ナツフジの葉
ナツフジの花、開花時期より判断
ナツフジの花:開花時期より判断

フジの歴史は?藤原氏との関係は?『鬼滅の刃』のように毒はある?

フジは花の美しさは勿論のこと、樹皮が利用される有用性の高い樹木として日本人に親しまれ利用されてきました(有岡,2021)。日本の奈良時代に成立した最古の文献である『古事記』や『万葉集』にはすでにその名前が出ています。

『古事記』ではイズシオトメという女神は誰からの求愛も拒否していたところ、ハルヤマノカスミオトコが「藤衣」をまとい弓矢を持って行くと、着衣も弓矢にもフジの花が一斉に咲き、女神と結婚できたという話が残されています。

藤衣というのはフジの繊維は織り上げることによって作られた衣服で、庶民の仕事着とされたり喪服として着用されることがありました。しかし、ゴワゴワして肌触りが良くなかったという愚痴が『万葉集』の方では記録に残っています。面白いですね。

また『万葉集』ではこの愚痴の歌も含めてフジに関する歌が28首も確認されています。その中では花の美しさから観賞用に栽培を行っていたことや、山の神から祝福を受けるかんざしにする植物の一つとして用いられたことが残されています。現在でも春日大社の巫女や5月の京都の舞妓さんがフジの簪をつけるそうです。

平安時代にはフジは気品ある特別な花として天皇や貴族に愛されていた記録が残されています。日本では紫色は高貴なイメージがあり、そのことと関係していそうです。

ただし、日本で紫色が高貴な色になった理由は別にあり、中国の五行説や古代ギリシアや古代ローマの考えと融合した可能性があります。日本では植物のムラサキ Lithospermum erythrorhizon を用いて、海外では巻き貝のシリアツブリガイ Bolinus brandaris などのアッキガイ科を用いて紫色に染色していましたが、どちらも生産が難しくとても貴重だったということが理由としては大きいかもしれません。飛鳥時代に制定された冠位十二階で紫色が最高冠位になったことはその価値観を固定させるものになったでしょう。

日本史でフジ、といえば「藤原氏」という言葉が最初に出てくるかもしれません。大化の改新を行った中臣鎌足が藤原氏始祖であり、飛鳥時代のことです。天智天皇が大化の改新の舞台となった藤原京から名を授けたと言います。ですから、特別植物のフジに因んだわけではなさそうです。その藤原京の「藤原」は「フジがたくさん見られた場所」ということに由来していると思われますが、ほんとにそうだったのか?というのは考古学で発掘でもされない限り、残念ながら知る由も無いでしょう。加藤、佐藤などの名字も藤原氏から派生しています。

現代では『鬼滅の刃』で出てきたフジが印象的でしょうか?藤襲山での鬼殺隊入隊最終選別は恐ろしかったです…。ただ「鬼を封じる」という伝承が実際にあったわけではないようですし、毒も今のところ確認されていません。現実の世界では子供が七日間もサバイバルすることにはならなそうです。

フジ・ヤマフジ・ナツフジの花の構造は?

フジ・ヤマフジ・ナツフジはマメ科なので「蝶形花」という特有の形になっています(茂木ら,2000)。蝶形花は一番大きく目立つ「旗弁きべん」を持ち、多くのマメ科の種類は旗弁の根元には「蜜標」と呼ばれる昆虫に蜜の在り処を教えるマークがあり、フジ類の場合は黄色が見られます。旗弁の下に突き出すようになっているのが「翼弁よくべん」と「竜骨弁りゅうこつべんまたは舟弁しゅうべん」で、2枚の翼弁は2枚の竜骨弁を覆っています。これらの中央に重なった花弁によって蜜腺が隠されています。

フジは花期が5月で春に咲き、枝先に長さ20〜100cmの総状花序が垂れ下がり、長さ1.5〜2cmの紫色の蝶形花が多数つきます。萼は広鐘形で有毛、萼片は5個です。苞は長さ約1cmの狭卵形で有毛で、早落性です。

ヤマフジは花期が5月で春に咲き、枝先に長さ10〜20cmの総状花序が垂れ下がり、長さ2〜3cmの紫色の蝶形花を多数つけます。萼は広鐘形で有毛で、萼片は5個です。苞は長さ1.5cmほどの卵形で、褐色の毛が密生し、早落性です。

ナツフジは花期が7〜8月で夏に咲き、新枝の脇から長さ10〜20cmの総状花序が垂れ下がり、淡黄白色の蝶形花を多数つけます。旗弁と翼弁はともに長さ1.2〜1.3cmです。萼は広鐘形、萼片は5個です。

フジの花は実質クマバチ専用だった!?

フジの花にはどのような昆虫が訪れるのでしょうか?

マメ科の蝶形花では、普通のマメ科であってもハナバチが翼弁と竜骨弁を力で押し下げて蜜を吸う必要があります。

しかし、フジでは特に大きいためか、より大きな力があるハナバチに限られるとされてきました。押し下げられた花は中から雄しべと雌しべが出て、雄しべはハナバチの腹部に花粉をつけ、雌しべはハナバチから他個体の花粉を受け取ります。

具体的にはどのようなハナバチなのでしょうか?

近年になって日本で行われたフジとヤマフジを総合して訪花昆虫の比率を調べた研究によると、種類としては意外にもハチ目、コウチュウ目、ハエ目、チョウ目と様々な種類がやってきていることが確認されています。

しかし、割合で言うと、キムネクマバチ Xylocopa appendiculata が殆どを占めているという結果になりました(岸,2015)!

これはクマバチ専用の花と言っても間違いでは無いでしょう。クマバチのような大きく力が強い昆虫だけに花粉を運んでもらっているのです。またクマバチ側にとっても専用を餌を与えてもらっていると考えることも出来ますね。

藤棚に行くとクマバチが沢山居て怖かったという話をよく聞きます。そうなる理由も納得ですね。

キムネクマバチ♂がシロバナフジに訪花、筆者撮影

その他の昆虫に関しては、部分的に受粉に貢献している可能性はありますが、きちんと貢献しているかは確認されていません。

チョウや蛾については直接中に入ることはなく、蜜だけを盗み、受粉には貢献しない「盗蜜」であると考えて良さそうです(池ノ上・金井,2010)。

なお、夏に緑白色の花を咲かせるナツフジに関しては不明ですが、インターネットではオオハキリバチ Megachile sculpturalis やスミスハキリバチ Megachile humilis が訪花している写真がみられますので、また別の傾向があるのかもしれません。特に花期が夏になっていることは適応上大きな変化が起こっていそうなものです。

フジは花序を垂れ下げるために花を無理やり180°捻じ曲げていた!?

フジの花序はつる性である関係から地面に向かって垂れ下がるように配置されることになります。元々フジはマメ科なので「総状花序」という付け根から先へ、あるいは周りから中心部へ咲いてゆく方式をとっていました。全体としてはふさのようになっています。しかし、この総状花序をただ単に垂れ下げるだけでは大きな問題が発生してしまいます。

それは花序を垂れ下げることで個々の花が180°逆転してしまうということです(木場,2003)。花は上下非対称なため、これではクマバチにうまく受粉してもらうことはできません。これを解決するにはどうすれば良いでしょうか?勿論クマバチに逆さまに飛んでもらうというのは難しそうです…。

そこでフジは花も180°回転させることで無理やり正しい方向に花を向かせているのです。具体的には花をつけている柄の部分である「花柄」を捻っています。

その証拠に蕾の時はまだ花柄は捻れていません。開花するにつれて徐々に180°回転していくのです。私の写真でも傾いてる花が観察できますね。フジは正しい位置関係にするために2回も回転を行っていたのです。

フジの花序の時間経過による変化
木場(2003): 図3-5より引用

藤の豆はカチンと弾け飛ぶ!?

果実はマメ科であるため豆果、つまりまめさやから構成されます(有岡,2021)。フジやヤマフジは花は沢山つけるのですが、1つの花序に対して2~3個しか果実をつけません。果実は扁平で長さ15〜20cmと細長く、夏の終わり頃から枝にぶら下がります。果皮(莢)は木質化し固く、中には直径1.3cmほどの黒紫色で碁石のような種子(豆)があります。この果実は他の動物に食べられるということはなく、むしろ固く動物から守られています。

ではどのように種子を散布するのか?というと果皮が乾燥によって割れ、種子を飛ばしていることが数々の観察から明らかになっています。

観察によると、冬になって果皮が乾燥すると、カチンっという音がなり、その後種子が落ちてバラバラという音が鳴るといいます。弾けるだけで音がわかるということですから、相当な力があることが分かります。また室内で保存していたフジの果実が偶然乾燥で弾けた時には、天井や壁に当たったといいます。種子は前述の通り碁石のようでかなり大きいので、どれほど強い力を持っているのかということが分かります。

果皮が乾燥によって割れ、種子を飛ばすこと自体はマメ科で広く見られることですが、その規模の大きさは一線を画す違いがあると言えます。これなら弾けるだけで分布を広げることができるのというのは納得できます。

引用文献

有岡利幸. 2021. 藤と日本人. 八坂書房, 東京. 234pp. ISBN: 9784896942835

池ノ上利幸・金井弘夫. 2010. 夜間における蛾の訪花活動. 植物研究雑誌 85(4): 246-260. ISSN: 0022-2062, https://doi.org/10.51033/jjapbot.85_4_10230

木場英久. 2003. フジの花の半回転. 自然科学のとびら 9(1): 5. ISSN: 1341-545X, https://nh.kanagawa-museum.jp/www/pdf/tobira32_4koba.pdf

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

岸茂樹. 2015. キムネクマバチとタイワンタケクマバチのフジへの訪花行動. 昆蟲 ニューシリーズ 18(2): 31-38. ISSN: 1343-8794, https://doi.org/10.20848/kontyu.18.2_31

茂木透・太田和夫・勝山輝男・高橋秀男・城川四郎・吉山寛・石井英美・崎尾均・中川重年. 2000. 樹に咲く花 離弁花 2 第2版. 山と溪谷社, 東京. 719pp. ISBN: 9784635070041

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