ノボタンとシコンノボタンはいずれもノボタン科に含まれ、特にシコンノボタンは有名で南方系ではあるものの、寒さに比較的強く本州でもよく栽培されているのを見かけます。園芸ではシコンノボタンのことを「ノボタン」と呼ぶことがあり、混乱の元となっています。『Google画像検索』でも2種が混ざって表示されています。そのため区別に迷うことはあるかもしれません。しかし、2種は全くの別種で、ノボタンは在来種、シコンノボタンは園芸種です。形態的には花弁の色や雄しべの色で区別することが出来るでしょう。本記事ではノボタンとシコンノボタンの分類について解説していきます。
ノボタン・シコンノボタンとは?
ノボタン(野牡丹) Melastoma candidum は日本の南西諸島(奄美大島以南);中国南部・台湾・インドネシア・フィリピンに分布し、開けた野原・草原・低木林・雑木林・疎林・竹林・登山道脇に生える低木です(Wu et al., 2007)。世界的にはコウトウノボタン Melastoma malabathricum と同種とする見解も多くその場合、分布は東南アジア・南アジア・オーストラリアにまで広がります(RBG Kew, 2023)。
シコンノボタン(紫紺野牡丹) Pleroma urvilleanum はブラジル原産で中米で野生化しており、日本を含む世界中で観賞用に栽培されています(RBG Kew, 2023)。日本では『Ylist』や『日本語版Wikipedia』で Tibouchina urvilleana という学名がまだ使用されていますが、世界的には分子系統解析による研究結果を踏まえて、シノニム(旧学名)とされています(Guimarães et al., 2019)。また、Tibouchina semidecandra という学名は「コバノシコンノボタン」と対応し、別種です。こちらも世界的には Pleroma semidecandrum が普通です。
いずれもノボタン科に含まれ、特にシコンノボタンは有名で南方系ではあるものの、寒さに比較的強く本州でもよく栽培されているのを見かけます。特に鉢物向きの矮性である「コート・ダジュール ‘Cote d’Azur’」はよく流通している品種です。
2種の卵形~卵状楕円形で、葉脈は掌状脈で、毛が多く、光沢がある葉をつけるという点はノボタン科に含まれる種類の共通の特徴です。
園芸ではシコンノボタンのことを「ノボタン」と呼ぶことがあり、混乱の元となっています。『Google画像検索』でも2種が混ざって表示されています。そのため区別に迷うことはあるかもしれません。
ノボタンとシコンノボタンの違いは?
しかし、ノボタンとシコンノボタンは全く別の種類です(Spencer, 2002; Wu et al., 2007)。
分類上はノボタンはノボタン属に含まれるのに対して、シコンノボタンはシコンノボタン属に含まれます。
具体的な違いとしては、ノボタンでは花(花弁)の色がピンク色であるのに対して、シコンノボタンでは濃い紫色です。これは「紫紺野牡丹」という和名通りです。
これだけでも十分な違いですが他にも違いが挙げられます。
ノボタン科の仲間の雄しべは「短い雄しべ」と「長い雄しべ」の2タイプが混ざって生えていることが知られています。長い雄しべの方は途中で「結節(tubercle)」があるため、途中で直線的に折れ曲がるという独特の構造を持っています。
この雄しべに関して、ノボタンでは短い雄しべは黄色で、長い雄しべも結節があるところまでは黄色であるのに対して、シコンノボタンでは短い雄しべも長い雄しべも全ての部分が紫色であるという違いがあります。
そのため、この点に着目すれば花弁の色に万が一変異がある場合でも区別できるでしょう。
日本での分布は上述のようにノボタンは南西諸島で野生個体が見られるのに対して、シコンノボタンは普通は栽培個体のみです。
なお、ノボタンとコウトウノボタンを分ける場合は、ノボタンでは葉脈が5本はっきり見え葉縁ぎりぎりに更に2本あるのに対して、コウトウノボタンでは葉脈が3本のみが目立ち、葉縁ぎりぎりにある2本は僅かにしか見えないという違いがあります。
他に似た種類はいる?
ノボタンには花弁が白い品種のシロバナノボタン f. albiflorum があり、北硫黄島の固有変種で花弁が反り返るイオウノボタン var. alessandrense も知られています。
引用文献
Guimarães, P. J. F., Michelangeli, F. A., Sosa, K., & de Santiago Gómez, J. R. 2019. Systematics of Tibouchina and allies (Melastomataceae: Melastomateae): a new taxonomic classification. Taxon 68(5): 937-1002. https://doi.org/10.1002/tax.12151
RBG Kew. 2023. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/
Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. 2007. Flora of China. Vol. 13 (Clusiaceae through Araliaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781930723597
Spencer, R. 2002. Melastomataceae. In: Spencer, R. Horticultural Flora of South-eastern Australia. Volume 3. Flowering plants. Dicotyledons. Part 2. The identification of garden and cultivated plants. University of New South Wales Press. ISBN: 9780868406602, https://hortflora.rbg.vic.gov.au/taxon/1d6e97d2-21dc-4049-a530-ed8b1a76755d/key