アカネ(日本茜)・セイヨウアカネ(西洋茜)・インドアカネ(インド茜)の違いは?似た種類を解説

アカネ科
Rubia argyi

アカネ(日本茜)・セイヨウアカネ(西洋茜)・インドアカネ(インド茜)はいずれもアカネ科アカネ属に含まれ、主に根が赤系統の染色に用いられてきたことは有名で、「茜色」という色は植物の「アカネ」に由来しており、人名にも多く、利用が衰退した現在でも誰もが知る日本語単語としてその存在を残しています。しかし、植物としてのアカネを知っている人は少ないかもしれません。また、染色加工業においても上記3種が一般的に知られているものの、かなり混同された記述が目立ちます。これら3種を区別する場合、1ヶ所から出る葉の数と茎の刺、花の色が重要になってきます。利用方法はいずれも同じで染色用ですが、歴史には大きな違いがあります。これは3種の成分の違いも大きく異なっていることも影響しているのでしょう。成分が違うため実は日本の「茜色」と海外の「茜色」は異なるものになっています。本記事ではアカネ属の分類・利用方法・成分について解説していきます。

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アカネ・セイヨウアカネ・インドアカネとは?

アカネ(茜) Rubia argyi は別名日本茜。日本の本州、四国、九州;朝鮮、台湾、中国南部に分布し、林縁や藪に生えるつる性多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。日本では染色に利用されてきました。現在では利用は衰退しましたが、普通に野生では見られます。

セイヨウアカネ(西洋茜) Rubia tinctorum はヨーロッパ・北アフリカに分布し、西アジア・中央アジア・南アジアを中心に世界中で染色用に栽培されていたものが各地で逸脱しているつる性多年草です(RBG Kew, 2023)。日本では植物自体は植物園などで稀に栽培される程度です。

インドアカネ(印度茜) Rubia manjith は中国南部・ネパール・インドに分布するつる性多年草です。原産地を中心に主に染色用に栽培されてきました。

いずれもアカネ科アカネ属に含まれ、主に根が赤系統の染色に用いられてきたことは有名で、セイヨウアカネに関しては日本でも2004年までは食品添加物として利用されてきました。「茜色」という色は植物の「アカネ」に由来しており、人名にも多く、利用が衰退した現在でも誰もが知る日本語単語としてその存在を残しています。昆虫の「アキアカネ」や「ナツアカネ」という名前は色に由来しますが、アカネなしではこの名前が付けられることはなかったでしょう。

しかし、植物としてのアカネを知っている人は少ないかもしれません。アカネ属は托葉は葉と同形で、4~10枚の葉が輪生するように見え、花は有柄で、花冠は5裂で、果実は石果であることから特徴づけられます。

染色加工業においては上記3種が一般的に知られているものの、かなり混同された記述が目立ちます。特に本来セイヨウアカネであるものを、「アカネ」と読んでいることが多いです。

アカネ・セイヨウアカネ・インドアカネの違いは?

生物学的にはアカネ・セイヨウアカネ・インドアカネは全くの別種です(Wu et al., 2011)。

大前提として、上述のように日本・ヨーロッパ・南アジアと、分布がそれぞれ異なっており、元々は地域によって染色に用いられる種類は異なっていました。

形態としてはまず、アカネ属の仲間はいずれも葉(厳密には葉と托葉)が輪生しますが、アカネとインドアカネは輪生する葉が4枚であるのに対して、セイヨウアカネでは6枚という違いがあります。

また、葉の葉脈に関しては、アカネとインドアカネでは掌状脈(葉の基部から掌(てのひら)状に走る葉脈)であるのに対して、セイヨウアカネでは羽状脈(主脈と側脈から構成される一般的な葉脈)であるという違いがあります。

アカネとインドアカネに関しては、アカネでは茎に下向きの刺があるのに対して、インドアカネでは茎にがないという違いがあります。

また、花に関しては、アカネでは白色であるのに対して、インドアカネでは赤色であるという違いがあります。

以上で植物としての3種は区別できるでしょう。

なお、日本には他にクルマバアカネ Rubia cordifolia var. lancifolia やオオアカネ Rubia hexaphylla がいますが、いずれも葉が6~8輪生ですし、アカネムグラ Rubia jesoensis はつる性ではなく直立することから区別がつきます。

アカネの葉上面:葉は4輪生、葉脈は羽状脈、白色は単なる「絵描き虫」による虫食い
アカネの葉下面
アカネの花
セイヨウアカネの葉と花:葉は6輪生で、葉脈は羽状脈
By Robert Flogaus-Faust – Own work, CC BY 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=132016673
インドアカネの葉:葉は4輪生で、葉脈は掌状脈、茎に刺なし
By Dinesh Valke from Thane, India – Rubia manjith, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=51503848

アカネ・セイヨウアカネ・インドアカネの用途の違いは?実は平安時代には衰退していた!?

アカネ・セイヨウアカネ・インドアカネはいずれも歴史的には根から色素を抽出し、布を染めるために利用されてきました。アカネの名は「赤根」に由来しています。その利用は日本・ヨーロッパ・インドでそれぞれ独立に発展してきたようです。しかし現在ではいずれも単なる布の染色という利用方法は衰退しています。

アカネは日本では赤系染料の中では最も古くから利用されており、文献記録としては奈良時代に編纂された『古事記』(712年成立)には既に登場していますが(牛腸ら,2023)、それ以前から利用されていた可能性は高いでしょう。その色は化学反応によって様々な色に変化し、灰汁媒染で赤紫色、アルミニウム媒染で緋色、アルカリとアルミニウムの併用で赤色になります(都甲・駒城,2007)。平安時代には士気を高める効果を狙ってか、鎧兜の染色にも利用されました。

しかし、茜染めの技法は手間がかかる上に難しいことから平安時代後期ごろから衰退しており、ベニバナ(紅花) Carthamus tinctorius var. spinosus やスオウ(蘇芳) Biancaea sappan による染色へと移行していきました。つまり日本のアカネによる染色方法は現在では「ロストテクノロジー」になっているのです。

セイヨウアカネに関しては中央アジアやエジプトで古代から染料として栽培されており、紀元前1500年には既に記録があります。ファラオのツタンカーメンの墓に利用されてることは特筆すべき事例でしょう(Pfister, 1937)。ヨーロッパでは記録は遅れますが、565~570年の間に作られたパリのメロヴィング朝の女王アルネグンディスの墓から出土した織物での利用が最古です。イギリスのニューモデル軍(清教徒革命の軍隊)も利用しました。

粘土と混合し、ミョウバンとアンモニアで処理したものが「マダーレーキ」です。日本のアカネは茜色でしたが、セイヨウアカネによって染色された色は「ガランス(garance)」と呼ばれます。

セイヨウアカネに関しては製造方法がアカネよりも簡単だったためか長らく利用され、19世紀までは栽培されていましたが、1869年にはドイツの化学者によってセイヨウアカネの染色の主成分であるアリザリンが化学合成され、1871年以降には工業的に生産されるようになったことから、セイヨウアカネの栽培は衰退します。

アリザリンに関しても1958年にデュポン社で開発された、より耐光性の高いキナクリドン顔料に大部分が置き換えられてしまいましたが、現在では骨形成系細胞による石灰沈着の有無を比色法で定量的に判定する生化学的アッセイへの用途が見出されました(Smith et al., 2018)。つまり骨の有無をアリザリンによって確認できるのです。これは重要な用途と言えるでしょう。

日本ではセイヨウアカネの赤色成分は「アカネ色素」として食品添加物として利用されてきましたが、発がん性が疑われ、2004年には禁止されています。

最後にインドアカネですが、こちらもインドのモヘンジョ・ダロ(紀元前3000年)の遺跡から、茜で染めた綿花が出土しており、古代からの利用があります。サンスクリット語で「マンジシュタ(manjishtha)」という名で知られており、出家人が衣服を染めるために用いられました。

アカネ・セイヨウアカネ・インドアカネの成分と色の違いは?

アカネ・セイヨウアカネ・インドアカネから抽出される色素の成分に違いはあるのでしょうか?

これにはかなり大きな違いがあります(大下・坂本,2014)。

アカネは主成分としてプルプリンやムンジスチンを含み、副成分としてプソイドプルプリンが含まれます。

セイヨウアカネはアリザリンが主成分として含まれ、副成分としてルビアジンやアリザリン配糖体が含まれています。

インドアカネではアリザリンとプルプリンが含まれ、アントラキノン系の色素が主成分です。

したがって、色合いにも違いがあります。

セイヨウアカネやインドアカネでは繊維は赤色に染まり、アカネでは黄色味のある赤色に染まります。

このことを考えると、日本の茜色と西洋のガランスはどちらも赤系統ではありますが、別物であると考えていいでしょう。

引用文献

牛腸ヒロミ・牟田緑・塚崎舞・塩原みゆき. 2023. 平安時代の染色法と色の特徴実践. 女子大学文芸資料研究所年報 42: 1-12. ISSN: 0910-0679, https://doi.org/10.34388/1157.00002449

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

大下浩司・坂本あかね. 2014. 茜染の染色挙動に関する一考察. 文化財情報学研究 吉備国際大学文化財総合研究センター紀要 11: 21-24. https://www1.kiui.jp/pc/bunkazai/kiyo11/04_oshita_pp21-24.pdf

Pfister, R. 1937. Les textiles du tombeau de Toutankhamon. Revue des arts asiatiques 11(4): 207-218. https://www.jstor.org/stable/43475067

RBG Kew. 2023. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/

Smith, W. L., Buck, C. A., Ornay, G. S., Davis, M. P., Martin, R. P., Gibson, S. Z., & Girard, M. G. 2018. Improving vertebrate skeleton images: fluorescence and the non-permanent mounting of cleared-and-stained specimens. Copeia 106(3): 427-435. https://doi.org/10.1643/CG-18-047

都甲由紀子・駒城素子. 2007. 赤色系の天然染料. 生活工学研究 9(1): 136-139. http://hdl.handle.net/10083/3267

Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. eds. 2011. Flora of China. Vol. 19 (Cucurbitaceae through Valerianaceae, with Annonaceae and Berberidaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781935641049

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