ニガキとニワウルシはいずれもニガキ科に含まれ、日本では植栽されることのある落葉高木です。特にニワウルシは生長が速く世界的に野生化が進んでいることで知られています。しかし、奇数羽状複葉の葉を持っている点などが共通しており、見たことがない人は違いが分からないかもしれません。ただ、2種は属が異なり、小葉・花・果実には大きな違いが現れています。ニワウルシの葉にある「円盤状の腺点」は花外蜜腺です。ニワウルシはウルシやハゼノキを代表するウルシ属とも名前や葉の形が似ていますが、円盤状の腺点の有無に違いがあります。本記事ではニガキ科の分類・形態について解説していきます。
ニガキ・ニワウルシとは?
ニガキ(苦木) Picrasma quassioides は日本の北海道・本州・四国・九州・沖縄;朝鮮半島・中国~ヒマラヤに分布し、シイ・カシ帯~ブナ帯下部の落葉樹林内に生える落葉高木です。庭園樹として栽培されることがあります。
ニワウルシ(庭漆・樗・臭椿) Ailanthus altissima は別名シンジュ(神樹)。中国原産で日本では公園や街路などに広く植栽され、北海道~九州で野生化している落葉高木です。シンジュサン Samia cynthia pryeri という蛾の食樹としても知られ、かつてはシンジュサンでの養蚕目的に栽培されたことがあります。日本だけではなくユーラシア大陸・アフリカ大陸・アメリカ大陸すべての地域で野生化が進んでいます。
いずれもニガキ科に含まれ、日本では植栽されることのある落葉高木です。特にニワウルシは生長が速く世界的に野生化が進んでいることで知られています。
雌雄異株で、奇数羽状複葉(まれに偶数羽状複葉)を持っていることが最大の特徴で、花は地味で緑色の花弁になっています。そのため、判断に迷うことがあるかもしれません。
ニガキとニワウルシの違いは?
ニガキとニワウルシの違いは様々な部分にあります(神奈川県植物誌調査会. 2018;林,2019)。これはニガキがニガキ属に含まれるのに対して、ニワウルシがニワウルシ属に含まれることからも予想できるでしょう。
まず、小葉に大きな違いが現れています。
ニガキでは小葉に特別な構造がないのに対して、ニワウルシでは小葉の下面の基部(葉脚)の葉縁に「円盤状の腺点」があるという違いがあります。
この腺点の存在により、ニワウルシの小葉の基部は少し膨らみ歪な形になっています。この点は腺点が確認できなくても葉を上から見てすぐに分かります。
ニワウルシの葉にある円盤状の腺点は花外蜜腺の一種で唯一無二の形をしているため、他の似た種類から見分ける際にも役に立つでしょう。なお、「腺点」と呼んでいますが、厳密には孔や管はなく組織の裂け目から蜜を分泌していることが最近の研究では分かっています(Poljuha et al., 2023)。
この花外蜜腺からは蜜を分泌し、アリ・スズメバチ・クモなどの肉食性昆虫を惹き寄せることが知られています(Staab et al., 2017)。総個体数の75%はアリで、主に攻撃性の強いアリを惹き寄せることで植食性昆虫から身を守っていると考えられています。ちなみに葉柄と小葉柄の付け根にも別の花外蜜腺が存在しています。
花に関しては、ニガキでは花弁が4枚で平たいのに対して、ニワウルシでは花弁が5枚で筒状に丸まるという違いがあります。
果実に関しては、ニガキでは核果で翼はなく種子は動物被食散布であるのに対して、ニワウルシでは翼果で種子は風散布であるという違いがあります。
ニガキは和名の通り葉を食べると苦いですが、有毒植物との区別も必要になってくるので上級者向けの違いかもしれません。
ニワウルシは葉を千切るとゴマのような匂いがするという特徴もあります。
ニワウルシとウルシ・ハゼノキの違いは?
ニワウルシは「ウルシ」という言葉が入っているのでウルシ Toxicodendron vernicifluum、及びハゼノキ Toxicodendron succedaneum などのウルシ科ウルシ属の仲間との違いが気になる人は多いかもしれません。
確かにウルシやハゼノキなどのウルシ属の葉も奇数羽状複葉でぱっと見はかなり類似しています。
しかし、上述のようにニワウルシにある小葉の基部の「円盤状の腺点」は唯一無二で、ウルシ属の仲間にも存在していません。
そのため、小葉の基部の歪な形もウルシ属では確認できません。
花の形に関しても小さいため確認しにくいですがやや異なり、果実に関してはニワウルシでは上述のように翼果ですが、ウルシ属では脂肪分がたっぷり含まれる核果であるため全く異なります。
更にウルシ属のようにニワウルシはかぶれることはありません。
ウルシとハゼノキの違いなどウルシ属については別記事を御覧ください。
引用文献
林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
Poljuha, D., Uzelac, M., Ferri, T. Z., Damijanić, D., Šimunić, M., Korovljević, H., … & Sladonja, B. 2023. Morphology of extrafloral nectaries of Ailanthus altissima (Mill.) Swingle (Simaroubaceae). Periodicum Biologorum 125(1-2): 27-34. ISSN: 0031-5362, https://doi.org/10.18054/pb.v125i1-2.24852
Staab, M., Methorst, J., Peters, J., Blüthgen, N., & Klein, A. M. 2017. Tree diversity and nectar composition affect arthropod visitors on extrafloral nectaries in a diversity experiment. Journal of Plant Ecology 10(1): 201-212. https://doi.org/10.1093/jpe/rtw017