クロガネモチ・モチノキ・ソヨゴ・ナナミノキはいずれもモチノキ科モチノキ属に含まれ、照葉樹林に生えるだけでなく、公園や庭で頻繁に植樹されているのを見かけ、日本で極めて身近で一般的な常緑高木であると言えるでしょう。厚い葉や美しい赤い果実が共通してるため、その区別は難しいことが多いかもしれません。葉をよく観察することでも大体区別することができますが、花や果実を確認するとより確実です。本記事ではモチノキ属の分類・形態について解説していきます。
クロガネモチ・モチノキ・ソヨゴ・ナナミノキとは?
クロガネモチ(黒鉄黐・黒金餅) Ilex rotunda は別名フクラシバ(膨ら柴)。日本の本州(関東地方・福井県以西)・四国・九州・琉球;朝鮮・中国南東部・台湾・ベトナム・ラオスに分布し、暖帯の丘陵の照葉樹林内に生える常緑高木です。
モチノキ(餅の木・黐の木) Ilex integra は日本の本州(東北地方南部以西)・四国・九州・琉球;朝鮮・中国南東部・台湾に分布し、照葉樹林内に生える常緑高木です。
ソヨゴ(冬青) Ilex pedunculosa は日本の本州(新潟県・関東地方以西)・四国・九州・屋久島;中国・台湾に分布し、山地の乾いた林内や林縁に生える常緑高木です。
ナナミノキ(長実の木・七実の木) Ilex chinensis は日本の本州(東海以西)・四国・九州に分布し、沿海~低山の乾いた照葉樹林やアカマツ林などに生える常緑高木です。
いずれもモチノキ科モチノキ属に含まれ、照葉樹林に生えるだけでなく、公園や庭で頻繁に植樹されているのを見かけ、日本で極めて身近で一般的な常緑高木であると言えるでしょう。冬には鮮やかで美しい赤く球形の果実をつけることも人気の理由でしょう。
形態的には常緑樹特有の光沢のある厚い葉になっている点、上述のように赤く球形の果実をつける点などかなり共通点が多いです。雌雄異株です。
また、植物自体の特徴ではないですがソヨゴタマバエ Asteralobia soyogo というハエの幼虫が芽に虫瘤(虫癭)と呼ばれる変な塊を形成することがあるのでこれは他種から良い区別点となるでしょう(Tokuda et al., 2004)。それぞれモチノキメタマフシ、ソヨゴメタマフシ、ナナミノキメタマフシと呼ばれます。
ただこれら4種内の区別はかなりが難しく、葉に特徴が乏しいことも区別の難しさに拍車をかけています。
クロガネモチ・モチノキ・ソヨゴ・ナナミノキの違いは?
これら4種の区別を葉だけで行うのはかなり難しいですが、できるだけ分かるように紹介していきます(林,2019)。
まず、クロガネモチ・モチノキ・ソヨゴでは成木の葉に鋸歯がないのに対して、ナナミノキでは成木の葉に低い鋸歯があるという違いがあります。
ただし幼木ではクロガネモチ・モチノキ・ソヨゴでも鋸歯がある場合があるので注意しましょう。いくつかの葉を確認することが重要です。
幼木でもこれら4種は細かく植物図鑑を確認すればできると思いますが、ここでは煩雑になるので省略します。
残り3種に関しては、クロガネモチとソヨゴでは葉脈が肉眼で確認できるのに対して、モチノキでは葉脈が肉眼ではかなり見にくいという違いがあります。
また、クロガネモチとソヨゴでは葉先が尖るのに対して、モチノキでは葉先が突き出るものの丸くなります。
クロガネモチとソヨゴに関しては、クロガネモチでは葉の波打ちは少なめで、葉下面から主脈の色を見ると緑色~わずかに黄色みがかっている程度であるのに対して、ソヨゴでは葉はかなり大きく波打ち、葉下面から主脈の色を見ると明るい黄色になっているという違いがあります。またクロガネモチはヤブツバキと同程度まで大きくなります。
以上である程度区別できると思います。ここまでは葉だけに注目してきましたが、6~7月の初夏に咲く花や秋~冬につける果実があればより確実に判断できます。
花に関しては、モチノキでは花弁が4枚であるのに対して、クロガネモチ・ソヨゴ・ナナミノキでは花弁が5枚であるという違いがあります。
更にクロガネモチでは花弁が緑色で雄しべがやや赤みがかり、ソヨゴでは花弁が白色、ナナミノキでは花弁が鮮やかな紫色です。
果実に関しては、いずれも真っ赤でかなり似ていますが、ソヨゴだけは確実に区別できます。クロガネモチ・モチノキ・ナナミノキでは散形花序で果実は集まって果柄が短く塊になっていますが、ソヨゴでは単生で果柄がとても長いです。
ナナミノキでは果実がやや長楕円形になることがあります。ナナミノキという名前の由来は「長実の木」が転訛した結果という説もあります。
他に似た種類はいる?
日本にはモチノキ属は30種類も知られており、ここで全てを挙げることはできませんが、ここで紹介した4種に似ている種類は限られています。
モチノキに似た種類としてはヒメモチ Ilex leucoclada やツゲモチ Ilex goshiensis があり、ヒメモチはモチノキより低木で葉は長い種類で、ツゲモチはモチノキよりずんぐり小さい種類です。ヒメモチはモチノキが多雪地帯の日本海側気候に適応した種類で、「日本海側要素」の1種です。
ソヨゴに似た果実の付け方をする種類としてはクロソヨゴ Ilex sugerokii var. sugerokii がありますが、ソヨゴとは異なり葉の先半分に鋸歯があります。
イヌツゲはとてもメジャーなモチノキ属の1種ですが、葉はかなり小型で似ていません。
モチノキと他の科の葉が全縁の植物との区別は別記事を御覧ください。
引用文献
林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447
Tokuda, M., Tabuchi, K., Yukawa, J., & Amano, H. 2004. Inter-and intraspecific comparisons between Asteralobia gall midges (Diptera: Cecidomyiidae) causing axillary bud galls on Ilex species (Aquifoliaceae): species identification, host range, and mode of speciation. Annals of the Entomological Society of America 97(5): 957-970. ISSN: 0013-8746. https://doi.org/10.1603/0013-8746(2004)097[0957:IAICBA]2.0.CO;2