トキワサンザシ・カザンデマリ・タチバナモドキの違いは?似た種類の見分け方を解説!ピラカンサがレンジャク類の突然死の原因になるというのは嘘?

植物
Pyracantha crenulata

トキワサンザシ・カザンデマリ・タチバナモドキはいずれもバラ科トキワサンザシ属に含まれ、冬につける鮮やかな赤い果実が特徴的で観賞用に頻繁に栽培されますが、園芸では属名からこの仲間を総称して「ピラカンサ(ピラカンタ)」または「ピラカンサス」とあまり種類は区別されずに呼ばれています。そう呼ばれてしまうのは区別が難しいからかもしれません。しかし実際は別種で、タチバナモドキは葉下面の毛と果実の色で簡単に区別できます。問題はトキワサンザシとカザンデマリの区別で葉の形にも違いはありますが、かなりややこしく混乱の元です。それよりも花の毛の状態、果実の形を観察することを強くおすすめします。そんなピラカンサはレンジャク類の突然死の原因とされることがありますが、私は否定的に考えています。本記事ではトキワサンザシ属(ピラカンサ)の分類・形態・生態について解説していきます。

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トキワサンザシ・カザンデマリ・タチバナモドキとは?

トキワサンザシ(常磐山査子) Pyracantha coccinea は地中海沿岸のヨーロッパと西アジア原産で、日本を含む世界中で観賞用に栽培されている常緑低木です(RBG Kew, 2024)。日本へは明治時代に渡来しました。

カザンデマリ(花山手毬) Pyracantha crenulata は別名ヒマラヤトキワサンザシ。中央アジア~中国原産で、日本を含む世界中で観賞用に栽培されている常緑低木です。日本へは昭和初期に渡来したとされます。

タチバナモドキ(橘擬き) Pyracantha angustifolia は別名ホソバトキワサンザシ。中国南部原産で、日本を含む世界中で観賞用に栽培されている常緑低木です。日本へは明治時代に渡来しました。

いずれもバラ科トキワサンザシ属に含まれ、園芸では属名からこの仲間を総称して「ピラカンサ(ピラカンタ)」または「ピラカンサス」とあまり種類は区別されずに呼ばれています。観賞用として非常に人気があり町中でも頻繁に見かける上に、鳥に果実が食べられ逸出して半野生して生えている様子もよく見かけ、外来種ではあるものの、もはや日本に馴染んでしまっています。

常緑樹らしい光沢があり小型の葉を持つ点、小型の赤系統の果実を無数につける点、枝から刺が生えている点などが大きな特徴ですが、3種全てでこの点は共通しており、区別に迷うことはかなり多いでしょう。

トキワサンザシ・カザンデマリ・タチバナモドキの違いは?

3種のうち、タチバナモドキに関しては比較的簡単に区別できます(Flora of North America Editorial Committee, 2015; 神奈川県植物誌調査会,2018;林,2019)。

トキワサンザシとカザンデマリでは葉はある程度幅あり、葉下面は無毛で、果実は鮮紅色に熟すのに対して、タチバナモドキでは葉が狭長楕円形~狭倒卵形で、葉下面に綿毛が密生し、果実が橙黄色に熟すという違いがあります。

問題はトキワサンザシとカザンデマリの違いです。この2種の区別はかなり難しいです。図鑑によって表現に揺らぎがあり、その区別方法は混乱が見られます。

よく挙げられる違いとして、トキワサンザシでは葉が倒披針形または倒卵形であるのに対して、カザンデマリでは葉が長楕円形または狭倒披針形というものがあります。

大雑把に言い換えると、トキワサンザシでは最大幅は先端寄りであるのに対して、カザンデマリでは葉の最大幅が中央寄りということです。

この点も参考になると思いますが、専門用語による表現が非常に分かりにくい上に葉ごと、個体ごとの変異が大きすぎてあまり信用ならないと思っています。

個人的には以下2点を中心に確認すべきだと考えています。

花に関しては、トキワサンザシでは花柄と萼筒に細毛があるのに対して、カザンデマリでは花柄と萼筒は無毛です。これを確認するには花の後ろ側を記録しておく必要があるので注意しましょう。

果実に関しては、トキワサンザシでは球形であるのに対して、カザンデマリでは扁球形(球形が上下のみプレスされたような形)です。

書籍によっては交雑が発生していることを示唆する記述も見られるため、もしかしたら明確に区別できない個体も存在するのかもしれませんが、以上の区別方法でとりあえず問題ないと思います。

種子の長さがトキワサンザシでは約2mm、カザンデマリでは約3mmという違いもよく紹介されますが、流石に実用的にはないでしょう。

トキワサンザシの花|By Agnieszka Kwiecień, Nova – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=118023788
トキワサンザシの果実:赤色・球形|By Hladac – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=123002488
カザンデマリの花
カザンデマリの果実:果実は赤色・扁球形、葉は長楕円形だが葉だけを確認するとトキワサンザシにも見えてしまう
カザンデマリの果実(採取したもの):扁球形であることは明らか|By Thetomcruise – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=94110334
タチバナモドキの葉と刺
タチバナモドキの果実:橙黄色・扁球形

ピラカンサの毒がレンジャク類の突然死の原因になるというのは嘘?

よく、大学以上の教科書などにピラカンサの果実がレンジャク類(キレンジャクとヒレンジャク)の突然死の原因になっているという記述を見かけます。ピラカンサにはアンズやアーモンドなどのバラ科の一部の種類にも含まれるアミグダリンが含まれており、レンジャク類がこれを食べることで胃で消化され、シアン化合物が合成されて有毒成分によって死に至るというわけです。

これは本当なのでしょうか?

個人的にはかなりこれは疑わしいと考えています。

というのも北アメリカの研究でヒメレンジャクという近縁種はスモモ属の複数種 Prunus spp. やニワトコ属の複数種 Sambucus spp. の果実など、アミグダリンを含む果実を大量に摂取していることが分かっています(Struempf et al., 1999)。

追加実験ではヒメレンジャクは野生の果実の4倍量のアミグダリンを含む人工果実を食べ、4時間でラットの経口致死量の5.5倍を摂取しても、震えや運動失調、麻痺などの外見上の毒性は示さないことも分かっています。

その詳しいメカニズムは分かっていませんが、アミグダリンは哺乳類が食べた時のみに毒になるか、シアン化合物に耐性があると考えられるでしょう。そもそもバラ科の果実がアミグダリンを含むのは長距離まで種子を運んでくれる鳥にのみ果実を食べさせるための植物側の進化であるとされています。

したがって、ピラカンサがレンジャク類の死因になるには更に何か日本国内での特殊な追加要因がないと考えにくいです。

この主張の元の研究を確認すると、レンジャクの死体から採取したピラカンサの種子をマウスに与えることによって毒性を確かめています(丸山,1998)。これでは上述の事実からも正しい結果が得られたとは言えないでしょう。この論文内でも哺乳類と鳥類の毒耐性が異なる可能性についてはすでに言及されています。

別の研究では突然死の死因について、殺虫剤の影響や過食による貧血と落下時の内臓破裂や窒息死が挙げられています(宮川,2007)。これが本当の原因であるかは更に研究が必要でしょう。

引用文献

林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447

Flora of North America Editorial Committee. 2015. Flora of North America Volume 9: Magnoliophyta: Picramniaceae to Rosaceae. Oxford University Press, Oxford. 713pp. ISBN: 9780195340297

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

丸山節子. 1998. 渡り鳥レンジャク類の集団突然死について. 衛生化学 44(1): 17-24. https://doi.org/10.1248/jhs1956.44.17

宮川あし子. 2007. 長野県におけるレンジャク類の大量死の原因究明とその経過. 全国環境研会誌 32(4): 189-193. ISSN: 1346-4965, https://tenbou.nies.go.jp/science/institute/region/journal/JELA_3204025_2007.pdf

RBG Kew. 2024. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/

Struempf, H. G., Schondube, J. E., & Del Rio, C. M. 1999. The cyanogenic glycoside amygdalin does not deter consumption of ripe fruit by cedar waxwings. The Auk 116(3): 749-758. https://doi.org/10.2307/4089335

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