スイカズラ・ツキヌキニンドウ・ハマニンドウ・キンギンボクの違いは?スイカズラとツキヌキニンドウの花の形はなぜ違う?夕方に咲くのはなんのため?(花の生態がわかる写真図鑑 43)

植物
Lonicera japonica

スイカズラは日本では最も一般的なスイカズラ属で、野生でも園芸でも頻繁に見かけます。いくつか近い仲間が知られていて、スイカズラ・ツキヌキニンドウ・ハマニンドウ・キンギンボクの4種は樹形、花、実、葉の形を総合的に見ることで確実に区別が付きます。スイカズラの仲間のうちいくつかは独特の唇形の花を持っていますがこの形にはどのような役割があるかご存知でしょうか?これはスズメガという夕方から夜間に活動する蛾に向けて進化したものだと考えられています。しかし、それだけではなく最近の研究ではハナバチにもアピールしていることが分かりつつあります。一方で、ツキヌキニンドウも近い仲間ですがスイカズラとは全く異なる形を持っています。こちらはアメリカ大陸固有のハチドリに適応した結果だと考えられているのです。本記事ではスイカズラ類の分類・送粉生態・種子散布について解説します。

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野生でも園芸でも頻繁に見かけるスイカズラ属の仲間達

スイカズラ科スイカズラ属の種類が日本には多数生息します。

スイカズラ(吸い葛) Lonicera japonica は別名ハニーサックル・忍冬。日本を含む東アジアに分布し、山野や道端に生息し、植栽もされる半常緑つる性木本です(茂木ら,2003)。

ハマニンドウ(浜忍冬) Lonicera affinis は本州(紀伊半島、中国地方)~沖縄;中国に分布し、海岸の近くの林縁に生える半常緑つる性木本です。

ツキヌキニンドウ(突抜忍冬) Lonicera sempervirens は北アメリカ原産で日本では園芸植物として庭で栽培される常緑木性つる植物です。

キンギンボク(金銀木) Lonicera morrowii は別名ヒョウタンボク(瓢箪木)。北海道南西部、本州東北地方と日本海側、四国、韓国の鬱陵島に分布し、山地や海岸に生え、植栽されている場合もある落葉低木です。和名は漢字で「金銀木」と書くように、花冠は初め白く、のちに黄色くなり、同時に一つの枝に白い花と黄色い花が入り混じるのを金と銀に例えたことに由来します。ただし、この点はスイカズラと共通です。

スイカズラ属はウグイスカグラ類のように花冠が漏斗状のグループもありますが、唇形の物も多く、少し混乱することがあるかも知れませんね。

スイカズラ・ハマニンドウ・ツキヌキニンドウ・キンギンボクの違いは?

ここではよく検索されているスイカズラ・ハマニンドウ・ツキヌキニンドウ・キンギンボクに絞って見分け方を解説します。

まずこれらの種類はつる性木本と直立低木に大別されます(神奈川県植物誌調査会,2018)。つる性木本とは名前の通り他の植物や物に絡みつくように生える種類のことを指します。直立低木は通常の植物と同様に自力で立っています。

つる性木本なのはスイカズラ、ツキヌキニンドウ、ハマニンドウで、直立低木なのはキンギンボクとなります。

他の区別点としては、キンギンボクは花冠がスイカズラやハマニンドウと似ていますが、雄しべの葯がかなり長いです。またキンギンボクの葉上面は特にしわが多いです。

つる性木本3種のうち、スイカズラとハマニンドウでは花が白色から黄色に変わり、液果は黒熟し、花序直下の対生葉は合着しないのに対して、ツキヌキニンドウでは花は赤橙色で、液果は赤熟し、花序直下の対生葉は合着するという違いがあります。またツキヌキニンドウの花冠は筒形なので他2種とは全く異なります。

残りのスイカズラとハマニンドウの違いとしては、スイカズラでは苞が葉状で卵形になり、茎に毛があるのに対して、ハマニンドウでは苞が披針形で葉状にならない、茎に毛がないという点が挙げられます。生息地に関してもスイカズラでは北海道南端〜九州の山野や道端などに生えるのに対して、本州(紀伊半島、中国地方)~沖縄の海岸の近くの林縁に限定して生えます。

なお、異名ですが、スイカズラ(標準和名)=ハニーサックル(英名)=忍冬(漢名)です。

また、キンギンボク(標準和名)=ヒョウタンボクですので混乱しないようにしましょう。

この他にも直立低木のニッコウヒョウタンボクやオオヒョウタンボク、タマヒョウタンボク、ベニバナヒョウタンボクが居ますが、ここでは省略します。キンギンボクも含め「ヒョウタンボク」とつく種類は赤熟した果実が2つ合着してひょうたん状になることに由来します。この点も良い識別点になりますが、花冠が漏斗状で下垂するウグイスカグラ類も同様の特徴を持つので注意が必要です。

スイカズラの葉
スイカズラの葉
ツキヌキニンドウの葉上面
ツキヌキニンドウの葉上面
ツキヌキニンドウの葉下面
ツキヌキニンドウの葉下面
ツキヌキニンドウの樹皮
ツキヌキニンドウの樹皮
キンギンボクの葉
キンギンボクの葉

スイカズラの白く細い花筒で甘い匂いがする花の役割は?

スイカズラ属の花はかなり多形で近い仲間であるはずですが、様々な特徴があります。

大まかに言ってスイカズラやヒョウタンボク類のような唇形の物、ツキヌキニンドウのように筒形の物、ウグイスカグラ類のように花冠が漏斗状の物のものがあります。

それぞれに進化の歴史がありますが、ここではスイカズラとツキヌキニンドウの花に着目して生態を解説していきます。

スイカズラの花は5〜7月に咲き、花冠は初め白く、のちに黄色くなり、同時に一つの枝に白い花と黄色い花が入り混じります。細い花筒があり、甘い匂いがします。また、雄しべと雌しべが長く遠くから目立つのも人気の理由かもしれません。

スイカズラの花1
スイカズラの花1
スイカズラの花2
スイカズラの花2

しかし、一般的な花の形からはかなりかけ離れているように感じます。このような花にはどのような役割があるのでしょうか?

実はこれらの特徴は口が長く、夜に活動するスズメガによって花粉を運ぶ花に広く見られるもので、スイカズラでも実際にスズメガがやってくることが多くの研究で分かっています(田中・平野,2000; Miyake & Yahara, 1998)。

雄しべと雌しべが長く、雄しべの葯がT字状になっているのも、口が長く遠くから蜜を吸おうとするスズメガの体に確実につくようにするためだと考えられています(田中・平野,2000)。

また白色であることや甘い匂いがすることもスズメガの仲間が好む花の共通の特徴で、このような特定の動物にアピールする花の特徴は「送粉シンドローム」と呼ばれます。

スイカズラの花が夕方に咲く生態学的理由

しかしそれだけこの花の役割はこれだけではありませんでした。この花は夕方に咲くことが分かっています。スズメガのためだけなら夜でいいですよね?なぜ夕方にも咲くのでしょうか?

研究によると、夕方に咲くと昼行性のハナバチの仲間もやってきます。どうやらハナバチの仲間の方が花粉を運ぶ効率が良いため、受粉効率という意味ではハナバチが好まれるようです(Miyake & Yahara, 1998)。つまり元々スズメガに適した花の形を変えるという面倒を避けて、咲く時間を変えるだけで、ハナバチとスズメガ両方呼んで、最大限花粉を運ばせているという訳です。

また形態的にも先端が上下に切れ込んで左右相称になっているのはハナバチに雄しべや雌しべを足場にさせるためという考えもあります(田中・平野,2000)。ハナバチとスズメガ両方に対応した花ということができるでしょう。

ツキヌキニンドウの赤くて垂れ下がった花の役割は?

一方でツキヌキニンドウの花の形は大きく異なっています。花期は5~10月。花冠は長さ4~5cm、細い筒形、先に5個の短い裂片があり、色は鮮やかな赤色、内側が黄色または橙色。雄しべ5本、雌しべ1本、ともに突き出ます。花は普通は垂れ下がります。この花にはどのような役割があるのでしょうか?

ツキヌキニンドウの花
ツキヌキニンドウの花

原産地である北アメリカでは詳しく解説されています(Hayden, 2014)。これによるとアメリカ大陸にのみ生息するハチドリという鳥に適応するためであることが示されています。具体的にはノドアカハチドリが挙げられています。

赤い色は色覚の関係から、昆虫の中では見える種類が限られているのに対して、鳥は強く引き寄せられることが分かっています。

また匂いもスイカズラと対照的で殆どありません。ハチドリは視覚が優れているのに対して嗅覚が乏しいため分泌しなくなってしまったようです。

蜜もハチドリが好むため豊富に分泌されます。花が垂れ下がっているのも雨で蜜が希釈されないようにするためだと考えられています。

スイカズラよりも明らかに長い筒形という形もハチドリの舌の長さに対抗するためだと考えられるでしょう。

そのようにして誘き寄せたノドアカハチドリのようなハチドリは嘴を花に突っ込み、雄しべが当たることで襟、頬、顎などに花粉が付き、別の株の雌しべに付くことで受粉が完了します。

スズメガとハナバチに狙いを定めたスイカズラと北米固有のハチドリに狙いを定めたツキヌキニンドウ、非常に対照的な進化が起こった結果で興味深い事例です。

果実は液果で種子は鳥によって散布される

スイカズラ属の果実は液果で、一般に鳥類によって散布されると考えられています。

しかし、紹介してきたように種類によって黒熟するものと、液果は赤熟するものがあります。この違いは何かあるのでしょうか?まだ十分研究されていないと思われますが、今後に期待したいと思います。

スイカズラの果実
スイカズラの果実

引用文献

Hayden, W. J. 2014. Humming Birds: Pollination Facts and Fancy. Bulletin of the Virginia Native Plant Society 33(2): 1,5,8. ISSN: 1085-9632, https://scholarship.richmond.edu/biology-faculty-publications/137/

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

Miyake, T., & Yahara, T. 1998. Why does the flower of Lonicera japonica open at dusk?. Canadian Journal of Botany 76(10): 1806-1811. ISSN: 1916-2804, https://doi.org/10.1139/b98-119

茂木透・高橋秀男・勝山輝男・石井英美. 2003. 樹に咲く花 合弁花・単子葉・裸子植物. 山と溪谷社, 東京. 719pp. ISBN: 9784635070058

田中肇・平野隆久. 2000. 花の顔 実を結ぶための知恵. 山と渓谷社, 東京. 191pp. ISBN: 9784635063043

出典元

本記事は以下書籍に収録されたものを大幅に加筆したものです。

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