イワナンテン・アメリカイワナンテン(セイヨウイワナンテン)・アキシラリスイワナンテンの違いは?似た種類の見分け方を解説

植物
Leucothoe fontanesiana

イワナンテン・アメリカイワナンテン(セイヨウイワナンテン)・アキシラリスイワナンテンは日本では代表的なツツジ科イワナンテン属の常緑低木です。葉の先端が尖り、細かい鋸歯がある点など似てる他、『Google検索』の結果はこれらの種類が入り乱れており混乱することは多そうです。和名も混同されています。しかし、イワナンテンは日本に自然分布し森林でしか見られませんが、アメリカイワナンテンとアキシラリスイワナンテンは園芸で栽培される個体のみで町でしか見られないという大きな違いがあります。勿論形態的な違いも多くあります。アメリカイワナンテンとアキシラリスイワナンテンは日米ともにかなり混同されているようですが、花の萼片の形と葉柄の長さを確認するのが確実そうです。花はツツジ科でよく見られる壺形花冠を持ち白色で全く訪花昆虫の研究は発見できませんでしたが、おそらくハナバチ類が好むと思われます。果実は蒴果で熟すと裂開し、種子が重力散布や風散布されると思われます。本記事ではイワナンテン属の分類・形態・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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イワナンテン・アメリカイワナンテン・アクシラリスイワナンテンとは?

イワナンテン(岩南天) Leucothoe keiskei は日本の本州(関東南部、中部地方南部、紀伊半島)に分布する日本固有種で、深山の崖に生え、垂れ下がって生える常緑低木です(北村・村田,1979)。

アメリカイワナンテン(亜米利加岩南天) Leucothoe fontanesiana はアメリカ合衆国東部(アラバマ州、ジョージア州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、テネシー州、バージニア州)に分布し、渓流沿いの森林、山の峡谷、湿った斜面に生える常緑低木です(Flora of North America Committee, 2009)。日本ではグランドカバーや観賞用として公園樹、庭木にやや普通に栽培されます。別名はセイヨウイワナンテンですが、ヨーロッパには分布しておらず、誤解を生む和名でしょう。

アキシラリスイワナンテン Leucothoe axillaris はアメリカ合衆国東部(アラバマ州、フロリダ州、ジョージア州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、バージニア州)に分布し、ブラックウォーター(木の茂った湿地や沼地を通る、水深が深く、流れが遅い河川)の氾濫原、海岸平野に生える常緑低木です。日本ではグランドカバーや観賞用として公園樹、庭木に稀に栽培されます。適切な和名はなく、ここでは学名からアキシラリスイワナンテンと呼んでいきます。

いずれもツツジ科イワナンテン属の常緑低木であるという点が共通しています。葉は互生に生え、葉の先端が尖り、細かい鋸歯がある点などかなり似ています。

その他細かいですが、苞と小苞は宿存し、花の萼裂片は瓦重ね状に並び、葯に突起があり、果実が蒴果で胞背裂開、種子は小さくて多いという共通点もあります(神奈川県植物誌調査会,2018)。

アメリカイワナンテンが著名すぎるせいで本来のイワナンテンの『Google検索』の結果にアメリカイワナンテンが入り込み見たことがない人は混乱するでしょう。

また、特にアメリカイワナンテンとアキシラリスイワナンテンは北アメリカ原産でグランドカバーや観賞用に利用され園芸でも著名で、形もよく似ています。そのためか誤同定されるだけではなく、和名についてもインターネットの記事や販売サイトでかなり混乱が見られています。中には「Leucothoe axillaris の和名がアメリカイワナンテンやセイヨウイワナンテンである」と誤解しているものまで見られます。かなり一般化してしまっていますが、本来は誤りとしたいところです。

イワナンテンとアメリカイワナンテン・アキシラリスイワナンテンの違いは?

これら3種の大きな違いはそもそもとして、イワナンテンは日本に自然分布し普通は栽培されませんが(稀に鉢植えされますが)、アメリカイワナンテンとアキシラリスイワナンテンは栽培個体のみであるという点です。したがって、森林で見かける場合はイワナンテンで、町中で見かける場合はアメリカイワナンテンかアキシラリスイワナンテンであると基本的にはすぐに判断できます。

イワナンテン属は東アジアに3種、北アメリカに3種が知られ、日本には2種分布するという興味深い分布をしています(神奈川県植物誌調査会,2018)。東アジアと北アメリカの種類では隔離されてから長い時間が経ったためか、その形にも大きな違いが出ています。念のため形態も確認しておきましょう(Flora of North America Committee, 2009;林,2019)。

まず、イワナンテンでは葉柄は無毛で緑色であるのに対して、アメリカイワナンテン・アキシラリスイワナンテンでは葉柄は微毛があり赤色という違いがあります。

また、イワナンテンでは葉下面は無毛ですが、アメリカイワナンテンでは微細な褐色の伏毛があり、アキシラリスイワナンテンでは無毛~まばらな毛があります。

花に関しては、イワナンテンでは花序に1~7個の少しの花がつき、花冠の大きさは17~23mmと大きく、萼は緑色であるのに対して、アメリカイワナンテンとアキシラリスイワナンテンでは花序に8~60個の沢山の花がつき、花冠の大きさは5~8mmと小さく、萼は白色です。

なお、日本に分布するもう1種類のハナヒリノキ Leucothoe grayana は葉は落葉性で紙質で、葉脈が著しく目立つなど全く異なります。

イワナンテンの葉|By Keisotyo – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=34561266
イワナンテンの花|By Keisotyo – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=34561267

アメリカイワナンテンとアキシラリスイワナンテンの違いは?

問題はアメリカイワナンテンとアキシラリスイワナンテンの違いです。こちらはかなりのサイトで混同されています。しかし、アメリカの植物図鑑を調べると以下のような違いが分かります(Flora of North America Committee, 2009)。

まず検索表では、アメリカイワナンテンでは萼片が披針形で、萼片先端は鋭角か亜鋭角、花序が4~10cmであるのに対して、アキシラリスイワナンテンでは萼片が広卵形で、萼片先端は鈍角または丸く、花序が2~4(~5)cmであるという違いが挙げられています。

ただ、これの判別が可能なのは花期だけです。葉に関する違いも記述を見比べると発見できました。

葉柄に関しては、アメリカイワナンテンでは10~15mmと長いのに対して、アキシラリスイワナンテンでは5~10mmと短いです。

また、葉先に関しては、アメリカイワナンテンでは鋭形~長尖形とかなり尾状に近いものも見られるのに対して、アキシラリスイワナンテンでは鋭形~急に短い尖形となっています。

これらに加えて、例外はありますが日本で栽培される品種はアメリカイワナンテンでは斑入りの品種 ‘Rainbow’ が多いのに対して、アキシラリスイワナンテンは紅葉するものが多いようです。国内では大きな手がかりになるでしょう。ただ真のアキシラリスイワナンテンがどれほど栽培されているのか筆者はまだよく分かっていません。

アメリカイワナンテンの葉上面
アメリカイワナンテンの葉下面
アメリカイワナンテンの茎
アメリカイワナンテンの花
アクシラリスイワナンテンの葉(アメリカの野生個体):光沢が強く濃緑色、葉柄が短い|『Louisiana Plant Identification and Interactive Ecosystem Virtual Tours』より引用
アクシラリスイワナンテンの花(アメリカの野生個体):花序は短く、花の萼は広卵形で先が丸い|『Louisiana Plant Identification and Interactive Ecosystem Virtual Tours』より引用

花の構造は?

イワナンテン属は共通でツツジ科でよく見られる壺形花冠(urceolate corolla)を持っています。名の通り、花冠が壺形に変形しています。

イワナンテンは花期が7~8月。花柄は前年の枝の葉腋から出て、長さは1~9cmで総状に1~7個の花をつけます。個々の花は垂れ下がって咲きます。苞は広卵形で長さ1mm、小苞はやはり広卵形で長さ1mm、2枚が花柄の基部にあります。花柄は長さ7~12mm。萼は長さ3mmで、5裂してそれぞれの裂片は先端が尖らず、縁には微毛があります。花冠は白くて円筒状になり、長さ17~23mm、先端は5つに裂け、それぞれの裂片は反ります。花柱は13~18mm。雄しべは10本あり、花糸には毛が密生します。葯は二つに分かれ、それぞれの先端に開口があって、そこに芒状の突出部がそれぞれ二本ずつあります。

アメリカイワナンテンは花期が春の半ば、日本では4~5月。花序が束生または単生で、花序柄は無く密で、花が20~60個つき、長さ4~10cmです。苞には宿存性があり、卵状三角形で、長さ1.7~2.2mm。花柄は長さ2~2.5mm。花は萼片が白色で、披針状卵形で、長さ1.7~2mm、先は鋭形またはほぼ鋭形。花冠は円筒形、長さ5~7mm。花糸は乳頭状になります(ときに開出毛もあります)。葯は長さ1.2~1.5mm、半葯は先が散開します。

アキシラリスイワナンテンは花期が春の初め~中頃。花序は束生または単生で、花序柄は無く密で、花が8~30個つき、長さ2~4(~5)cmです。苞は脱落性があり、卵形で、長さ2~2.5mm。花柄は長さ2.2~2.5mm。花は萼片が白色、広卵形で、長さ1.5~2mm、先は鈍形または円形。花冠は円筒形、長さ6~8mm。花糸は開出毛があり、乳頭状になります。葯は長さ0.7~1.2mm、2本の芒をもち、半葯は上部が散開します。

受粉方法は?

明らかに昆虫に目立つ構造であることから虫媒花であると考えられますが、訪花昆虫の研究は日米ともに発見できませんでした。ただ、ツツジ科は一般的にその下向きの花によって訪花昆虫を一部のハナバチ類に絞っていることが多く、イワナンテン属でも同様の可能性もあります。アメリカイワナンテンのような小型の花に訪れる昆虫はどのような種類かは気になるところです。

果実の構造は?

イワナンテン属の果実は共通で蒴果です。蒴果は乾いた果実(乾果)の一種で、一つの果実が複数の癒着した袋状果皮からなります。

イワナンテンは花が果実になると、花柄は先端が太くなり、曲がって上を向きます。朔果は扁平な球形をなし、直径7mmです。

アメリカイワナンテンの蒴果は幅5~6mmです。種子は楕円形または長円形です。種皮は硬く、網目があります。

アキシラリスイワナンテンの蒴果は幅(4.5~)5~6mmです。種子は角があります。 種皮は硬く、乳頭状になります。

種子散布方法は?

蒴果は一般的に熟すると裂開して種子を露出し零すため、種子散布方法としては重力散布は行われているでしょう。また種子に角がある種類の場合は風を受けている可能性があり、ある日本の研究では同属のハナヒリノキを風散布植物として扱っています(Tsuyuzaki & Miyoshi, 2009)。他の種類でも同様の可能性は高そうですが、その分散能力も含め殆ど研究はありません。

引用文献

Flora of North America Committee. 2009. Flora of North America Volume 12 Magnoliophyta: Paeoniaceae to Ericaceae. Oxford University Press, Oxford. 585pp. ISBN: 9780195340266

林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447

Tsuyuzaki, S., & Miyoshi, C. 2009. Effects of smoke, heat, darkness and cold stratification on seed germination of 40 species in a cool temperate zone in northern Japan. Plant Biology 11(3): 369-378. https://doi.org/10.1111/j.1438-8677.2008.00136.x

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

北村四郎・村田源. 1979. 原色日本植物図鑑 木本編 2. 保育社, 大阪. 630pp. ISBN: 9784586300501

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