ヒメイタビ・オオイタビ・イタビカズラはいずれもクワ科イチジク属に含まれ、イチジク属の中でもつる性となる点から区別され、木の幹や岩に絡みつくことで着生する仲間です。最大の特徴は他のイチジク属と同様にまるで果実のような部位を形成することで、これは「花嚢(隠頭花序)」と呼ばれます。3種は主に葉の形が異なり、花嚢でも区別可能です。それぞれの花嚢にはただ1種のみのコバチがやってくることが分かっており、「絶対送粉共生」として知られています。本記事ではSynoecia亜属の分類・形態・生態について解説していきます。
ヒメイタビ・オオイタビ・イタビカズラとは?
ヒメイタビ(姫木蓮子・姫崖石榴) Ficus thunbergii は日本の本州(中部以南)・四国・九州・琉球;朝鮮(済州島)に分布し、暖地の樹林内や林縁に生え、木の幹や岩に着生する常緑藤本(つる性木本)です(神奈川県植物誌調査会,2018)。
オオイタビ(大木蓮子・大崖石榴) Ficus pumila は別名フィカス・プミラ。日本の本州(千葉県以西)・四国・九州・琉球;中国・台湾・インドシナに分布し、暖地の崖や岩上などに見られる常緑藤本(つる性木本)です。園芸でも目隠しや壁面緑化で栽培されます。
イタビカズラ(岩石榴葛) Ficus sarmentosa subsp. nipponica var. nipponica は日本の本州(福島県,新潟県以南)・四国・九州・琉球;朝鮮・中国・台湾に分布し、暖地の樹林内に生える常緑藤本(つる性木本)です。枝から根を出して、木や岩をよじ登り、人家の石垣にもよく生えます。Ficus nipponica はシノニム(旧学名)です。
いずれもクワ科イチジク属に含まれ、イチジク属の中でもつる性となる点から区別され、木の幹や岩に絡みつくことで着生する仲間です。Synoecia亜属と呼ばれます。
最大の特徴は他のイチジク属と同様にまるで果実のような部位を形成することです。これは「花嚢(隠頭花序)」と呼ばれ、実際は花の集まりにあたる部分で、夏でも真冬でも内部で花を「咲かせて」います。
花嚢の内部の花が受粉した後、熟した花嚢は「果嚢」へと変化します。これは有名なところでは、食用にされている「イチジクの実」と呼ばれるものと同じものに当たります。
このようにイチジク属としての特徴を継承しながらつる性を獲得した3種ですが区別に迷うことがあるかもしれません。
ヒメイタビ・オオイタビ・イタビカズラの違いは?
これら3種は主に葉の形によって区別することができます(神奈川県植物誌調査会,2018)。
ヒメイタビとオオイタビでは葉が楕円形・鈍頭であるのに対して、イタビカズラでは葉が卵状楕円形から広披針形・先は長く伸び尖頭という違いがあります。
ヒメイタビとオオイタビでは、ヒメイタビは若い個体の葉は鋸歯があり、成葉は楕円形で全縁で、側脈は主脈に対し、50~60°をなし、5~6対で、成葉は下面脈上に毛があるのに対して、オオイタビは葉はすべて全縁で、側脈は主脈に対し30~40°で4~5対、成葉は無毛という違いがあります。
要素が多いですが、葉下面の毛から確認するのが良いのではないかと思います。
ヒメイタビやオオイタビの葉脈の間が膨らんだり凹んだりする若い個体の小型の葉(幼形葉)は非常に特徴的で類を見ず、別種からの区別には重要です。
花嚢(隠頭花序)に関しては、ヒメイタビでは球形で、直径2cm、花嚢柄は長さ0.5~1.5cm、オオイタビでは果実は球形から倒卵形で、熟すと長さ3.5~5cm、果柄は長さ0.5~1cm、イタビカズラでは花序は球形、径約1cm、ほとんど無柄という違いがあります。
ヒメイタビとオオイタビについては、ヒメイタビでは若い枝に開出毛があるのに対して、オオイタビでは若い枝や葉は始め毛があり、のち無毛という違いもあります。










他に似た種類はある?
イチジク属は他にも多数の種類が知られています。しかし、他は直立する種類ばかりなので区別に迷うことは少ないでしょう。
受粉方法は?たった1種類のみのコバチしかやってこない!?
上述のようにヒメイタビ・オオイタビ・イタビカズラを含むイチジク属はまるで果実のような部位を形成し、これは「花嚢(隠頭花序)」と呼ばれます。
実際は花の集まりにあたる部分で、夏でも真冬でも内部で花を「咲かせて」います。
この内部の花には驚くべきことに特定のたった1種類のコバチ(小さな蜂)のみがやってきます。
具体的にはヒメイタビではヒメイタビコバチ Wiebesia sp.、オオイタビではオオイタビコバチ Wiebesia pumilae、イタビカズラコバチ Wiebesia sp. です。
このようなほぼ1対1の受粉に関する共生関係を「絶対送粉共生」と呼んでいます。
その具体的な過程は別記事で紹介しています。
種子散布方法は?
3種の種子散布方法は動物被食散布であることは確実ですが、具体的な動物についての記録は不十分です。ただし、いくつか記録があります。
ヒメイタビとイタビカズラの果嚢はヤクシマザルに食べられている記録や(大谷,2005)、テンによって食べられている記録があります(高槻,2017)。
オオイタビの果嚢はオリイオオコウモリ、ダイトウオオコウモリに食べられている記録があります(宮城・嵩原,2000)。
ヒメイタビやイタビカズラに対してオオイタビは明らかに大きく、ヒメイタビとイタビカズラは主に鳥や小型哺乳類によって、オオイタビは大型哺乳類によって食べられて種子散布されているというのが考えられそうですが、今後の研究を待ちたいと思います。本土でのオオイタビの種子散布は気になるところです。
引用文献
Azuma, H., Harrison, R. D., Nakamura, K., & Su, Z. H. 2010. Molecular phylogenies of figs and fig-pollinating wasps in the Ryukyu and Bonin (Ogasawara) islands, Japan. Genes & Genetic Systems 85(3): 177-192. https://doi.org/10.1266/ggs.85.177
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
高槻成紀. 2017. テンが利用する果実の特徴―総説. 哺乳類科学 57(2): 337-347. https://doi.org/10.11238/mammalianscience.57.337
宮城朝章・嵩原建二. 2000. 末吉公園の植物とオオコウモリの餌植物について. 沖縄県立博物館紀要 26: 47-84. https://okimu.jp/userfiles/files/page/museum/issue/bulletin/kiyou26/26-4.pdf
大谷達也. 2005. 液果の種子散布者としての中型哺乳類の特性 ―おもにニホンザルを例として―. 名古屋大学森林科学研究 24: 7-43. https://doi.org/10.18999/nagufs.24.7