ビワは中国原産で、世界中で果樹として果実を食用にするために栽培される常緑高木です。日本では食用だけではなく観賞用にも頻繁に栽培されています。よく似た名前の種類としてイヌビワという落葉低木も知られており楕円形で実のようなもの付ける点から混同されることがあるかもしれませんが、分類学的には全く異なる種類です。これは花・果実・葉の全ての器官で違いを確認することが出来ます。アンズ(杏)・カキ(柿)・マンゴーとの違いも果実の色が似ているためかよく検索されていますが、味も果期も葉の形も異なります。ビワの花は真冬にも咲きますが、中国での研究によると初冬は昆虫が、晩冬はヒヨドリやメジロが訪れることが分かっています。ビワは受粉のためにハイブリッド戦略を取っていると言えるでしょう。本記事ではビワの分類・生態について解説していきます。
ビワ・イヌビワとは?
ビワ(枇杷) Eriobotrya japonica は中国原産で、世界中で果樹として果実を食用にするために栽培される常緑高木です(茂木ら,2000)。日本でも奈良時代に記述があり少なくともこの時点から栽培され、現在では庭や公園にも植栽されます。野生個体は栽培個体が逸脱したものだと思われますが、西日本に自生と見られる生育地があるため、在来種とする説もあります(神奈川県植物誌調査会,2018)。しかし、私見ですが世界的な分布を見るとあまり信用できません。和名は楽器の琵琶にビワの果実の形が似ていたことに由来します。
ビワの学名は『日本語版Wikipedia』では Rhaphiolepis bibas としてシャリンバイ属に含める考えを採用していますが、その後の分子系統解析の研究からやはり従来通りシャリンバイ属とビワ属を分ける考えが主流で(Dong et al., 2022)、世界的にも Eriobotrya japonica が正しい学名とするものが多いです(RBG Kew, 2024)。
イヌビワ(犬枇杷) Ficus erecta は日本の本州(関東地方以西)・四国・九州・琉球;朝鮮(済州島)に分布し、シイ・カシ帯の樹林内に生え、海岸近くに多い落葉低木です。
いずれも「ビワ」という名前がついており、何となく近い仲間のような印象を受けることがあるかもしれません。
野外で植物体に楕円形で熟すと動物が可食な部分をつける点は共通していると言えなくは無いかもしれません。
ビワとイヌビワの違いは?
しかし、分類学的にはビワとイヌビワは全く異なる種類で似ている部分を探すほうが難しいほど異なっています。
ビワはバラ科ビワ属に含まれるのに対して、イヌビワはクワ科イチジク属に含まれます。
具体的な違いとしてはまず、ビワが植物体につけているのは「花」や「果実」そのものですが、イヌビワでは花や果実ではなく、「花嚢」または「隠頭花序」と呼ばれるものであるということが真っ先に挙げられるでしょう。
この花嚢はイチジク属特有の構造で、嚢状の部分の内部に花を咲かせており、ただ唯一イヌビワコバチ Blastophaga nipponica と呼ばれる小蜂が花嚢の内部に侵入して送粉・受粉に貢献します(東ら,2003;Azuma et al, 2010)。この関係は「絶対送粉共生」と呼ばれます。この関係の詳細は別記事を御覧ください。
熟すと花嚢は「果嚢」に変化し、先程の内部の花が果実に変化します。つまり、イヌビワの本当の果実は果嚢の中に付いているということになります。
一方、ビワは円錐花序に花弁が白色で5枚ある花をつけ、果実は黄橙色のナシ状果です。
したがって、ビワとイヌビワでは花や果実の特性は全く異なっていることが分かるでしょう。イヌビワの「犬」は役に立たないという意味であり、イヌビワはヒトが食べられないわけではないですが、ビワのように美味しくありません。
葉も全く異なっており、ビワでは広倒披針形〜狭倒卵形で鋸歯があり、綿毛が目立つのに対して、イヌビワでは倒卵形で全縁で、綿毛はありません。
更にビワは雌雄同株ですが、イヌビワは雌雄異株です。
なお、日本にはビワ属の他種は知られていませんが、中国では多数の種類が知られています(Wu et al., 2003)。
ビワ(枇杷)とアンズ(杏)・カキ(柿)・マンゴーの違いは?
『Google検索』でのサジェストを確認すると、ビワとアンズ Prunus armeniaca var. ansu ・カキノキ Diospyros kaki ・マンゴー Mangifera indica の違いが気になる人が多いようです。
しっかり観察した人からすると混同することはないようにも思えますが、いずれも果実が黄色っぽく、違いがわからない人がいるのかもしれないので、ここでは簡単に違いについて解説しておきます。
まず、分類としてはビワとアンズはバラ科、カキノキはカキノキ科、マンゴーはウルシ科に含まれるため、ビワとアンズを除いてはかなり遠い関係にあり、葉や花などの基本構造は大幅に異なります。ここでは詳細な違いは省略しますが、以下の写真を確認すれば全く異なる形をしている事がわかるでしょう。
果実の形と味については以下のようになっています。
ビワの果実はナシ状果の広楕円形で、直径3〜4cm。5〜6月頃に黄橙色に熟します。味は甘さ控えめで、さわやかな風味があります。
アンズの果実は核果で、直径約3cm。6~7月頃に黄色~濃い黄色に熟します。味は目が覚めるほど酸っぱく、近縁種のアプリコットでは酸味があるものの甘みも強いです。普通ドライアプリコットの形で食されます。
カキノキの果実は液果で、直径3.5~8.5cm(栽培品種では10cm以上になる大きいものも多い)。10~11月頃に黄赤色に熟します。味はパリっとしたさわやかな甘さがあり、サクサクした歯触りがあります。
マンゴーの果実は核果の広卵形~勾玉形で、長さ3~25cm、幅1.5~15cmと品種によって大きさに開きがあります。4月中旬から7月頃に緑色または黄色~桃紅色に熟します。味は品種によって異なりますが、日本で一般的なアップルマンゴーでは甘みや香りが非常に強く濃厚になります。
更にこれらの植物について知りたい人は別記事を御覧ください。
ビワの受粉方法は?冬に咲く花にやってくる動物は?
ビワは少しだけ自家和合性があり自家受粉がわずかに可能ですが、他家受粉により結実率や果実の大きさ・果実の重さ・種子数・果肉の重さ・糖分量といった品質が向上することが分かっています(Khan et al., 2022)。簡単に言えば、昆虫などによって他家受粉してもらう方が沢山美味しい果実ができるということですね。
ビワは花期が11〜1月で、長さ10〜20cmの円錐花序に芳香のある小さな花が100個前後つきます。花は直径約1cm、花弁は白色で5枚あります。花弁の内側の下部、萼、花序には褐色の綿毛が密生します。
この冬に咲くという性質は植物の中では少数派ですが、どのように受粉を行っているのでしょうか?冬は受粉に貢献する送粉者である動物は少ないはずです。
ビワは世界中で商業的に果樹として栽培されているのでこの点の研究は進んでいます。日本よりも果樹としてのビワが人気があるのは興味深い点です。
ヨルダンの研究によるとセイヨウミツバチ・コシブトハナバチ属の一種・クマバチ属の一種が(Freihat et al., 2008)、パキスタンイスラマバードの研究によるとイエバエ科・クロバエ科・ハナアブ科・ミツバチ科が(Sarwar et al., 2012)、パキスタンパンジャブ州の研究によると、ミツバチ科・コハナバチ科・ハナアブ科が(Ahmad et al., 2021)、訪花するという結果が出ています。
地中海性気候のヨルダンを除いて、基本的には冬の寒さに強い小型昆虫が訪花するということが見て取れるでしょう。
ただこれらの結果は原産地以外での記録となります。ビワの送粉生態は原産地の中国でも研究されていますが、ここでは少し面白い結果が出ています(Fang et al., 2012)。
こちらの研究では、初冬は他の国と同じようにトウヨウミツバチ Apis cerana ・ツマアカスズメバチ Vespa velutina・クロバエ科・ハナアブ科といった昆虫が訪花していましたが、晩冬になると昆虫の数は減少し、ヒヨドリ Pycnonotus sinensis やメジロ Zosterops japonicus といった鳥類が主要な送粉者であることが判明したのです。しかもその受粉への貢献度は実験によってかなり大きいことも分かりました。どちらにとっても餌は主に蜜でした。
ビワの花は豊富に蜜を長期間分泌するので鳥にとっていい餌ですが、一方で花からは良い匂いもします。鳥は嗅覚がかなり弱いと考えられているので、この特徴は昆虫への特化だと考えられます。
つまりまとめると、このような原産地での結果からビワの花は寒さに強い小型昆虫と鳥類の両方にアプローチするように進化したのだと考えられそうです。
引用文献
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