スノードロップとスノーフレークはいずれもヒガンバナ科に含まれ、日本では冬に開花する観賞用の園芸植物として極めて一般的に栽培されています。どちらもヨーロッパ原産である他、白をベースに緑色の斑点がある上に、名前も似ていることから混同されることがあるかもしれません。しかし、2種は属レベルで異なる種類で、主に花序・花被片・花期を確認することで簡単に区別することができるでしょう。2種の花被片が「緑色」であることはかなり大きな特徴ですが、これは花にやってくる昆虫の蜜標になる他、光合成も可能であることが分かっています。本記事ではスノードロップとスノーフレークの分類・生態について解説していきます。
スノードロップ・スノーフレークとは?
マツユキソウ(待雪草) Galanthus nivalis は別名スノードロップ、ガランサス。ヨーロッパ(スペイン~ウクライナ)原産で、道端・開けた森林に生え、世界中で観賞用に栽培される多年草です。
オオマツユキソウ(大待雪草) Leucojum aestivum は別名スノーフレーク、スズランスイセン(鈴蘭水仙)。ヨーロッパ(イギリス~ウクライナ)・トルコ・イラン原産で、道端・畑・荒れ地に生え、世界中で観賞用に栽培される多年草です。
いずれもヒガンバナ科に含まれ、日本では冬に開花する観賞用の園芸植物として極めて一般的に栽培されています。
世界的にも主にヨーロッパ原産ということもあり、ヨーロッパと関わりが深く、特にスノードロップはキリスト教の伝説に多く登場し、修道院に植えられることが多いです。
形態的にも、葉は単子葉に典型的な平行脈を持ち、花の形も白をベースに緑色の斑点がある上に、名前も似ていることから混同されることがあるかもしれません。
スノードロップとスノーフレークの違いは?
しかし、これら2種は全くの別種です。
これはスノードロップがマツユキソウ属、スノーフレークがオオマツユキソウ属に含まれることからも分かるでしょう。
具体的な違いとしてはいくつも挙げることが出来ます(Flora of North America Editorial Committee, 2002)。
花序に関しては、スノードロップでは1つの花序あたり1つしか花が無いのに対して、スノーフレークでは1つの花序あたり2~7個も花があります。
花茎に関しては、スノードロップでは中空、つまり中身が空洞ですが、スノーフレークでは中身が詰まっています。
花被片(花びらに当たる部分、萼と区別がつかないのでこう呼ばれる)に関しては、スノードロップでは非対称な2タイプの花被片が存在し、3枚ずつの長い外花被と短い内花被からなるのに対して、スノーフレークでは全て同じ形をした6枚の花被片からなります。
文字にするとややこしいかもしれませんが、花の形を見れば一目瞭然でしょう。
花期も日本ではスノードロップは2~3月、スノーフレークは3~4月と少しズレがあります。
なお、名前の由来はスノードロップは16~17世紀にかけて人気のあった涙滴型の真珠のイヤリングであるドイツの「Schneetropfen(Snow-drop)」に由来し、スノーフレークは「雪片」を意味する英語の「snowflake」に由来するとされています。
スノードロップにはこの他にオオユキノハナ(大雪の花、ジャイアント・スノードロップ) Galanthus elwesii という近縁種が知られていますが、オオユキノハナでは内花被片の基部と先端(あるいは基部~先端全体)が緑色になる点がスノードロップと異なります。スノードロップは内花被片の先端のみが緑色です。
スノードロップの受粉方法は?花被片の緑色は「蜜標」と「光合成」の役割があった!?
スノードロップはまだ寒い晩冬から花を咲かせることになりますが、どのように受粉するのでしょうか?
園芸個体のみしか見られない日本ではうかがい知ることはできませんが、ヨーロッパでは自然状態でのスノードロップが盛んに研究されています。
これらの研究によると、スノードロップは主にセイヨウミツバチとマルハナバチ属によって送粉・受粉されると考えられています(Prokop et al., 2020)。マルハナバチ属は具体的にはセイヨウオオマルハナバチ Bombus terrestris などです。
スノードロップは内花被片の先端が緑色になりますが、これらは予てから送粉者(ポリネーター)を惹き寄せる機能がある、つまり「蜜標」になると言われてきましたが、近年のセイヨウオオマルハナバチを利用した実験でもそのことが証明されました。
ただ、この緑色の役割はただ蜜標になるだけではないようです。
別の研究ではこの緑色の部分にはクロロフィルが含まれていることが分かっており、つまり光合成が可能なのです(Aschan & Pfanz, 2006)。ここでの光合成量はそれほど多くないでしょうが、補助的に生長するためのエネルギーの保存に利用できるでしょう。
このことを踏まえると、この緑色の部分は蜜標としての役割を持ちつつ、冬の日光の減少にも対応した一石二鳥の存在であるということになります。
普通の植物の場合、蜜標の色素を合成するにはかなり大きなエネルギーを使用するわけですから、とても合理的な進化であると言えるでしょう。緑色の蜜標を持つ植物はスノーフレークのように他にもいくつか見られるので、収斂進化が起こっているのかもしれません。
スノードロップが下向きに咲くのはなぜ?
ところで、スノードロップの花は下を向いていますが、これにもなにか意味があるのでしょうか?
一般的に下を向く花というのは筋力が強く、ぶら下がることが可能なハナバチによる受粉に適応した種類である場合が多く、マルハナバチ属がやってくるスノードロップでもよく当てはまっているようにも感じます。
しかし、実験によると、セイヨウオオマルハナバチの場合はむしろ人工的に上向きにしたスノードロップの花の方を好むという結果が出たのです(Prokop et al., 2020)。
このことから、順序としては下向きの花になった後、それでもマルハナバチ属にも注目してもらえるように緑色の蜜標をつけるように進化したと考えられるようになっています。
ただ、そうだとするとそもそもなぜ下向きの花になったのでしょうか?
研究者は今のところ、雪害を回避するためだと考えています。確かに晩冬から開花するスノードロップなので、雪が積って視認性の低下・重み・低温の影響を受けることを回避するためには下向きに咲くことは合理的であるように感じます。
引用文献
Aschan, G., & Pfanz, H. 2006. Why snowdrop (Galanthus nivalis L.) tepals have green marks?. Flora-Morphology, Distribution, Functional Ecology of Plants 201(8): 623-632. https://doi.org/10.1016/j.flora.2006.02.003
池田健一. 2020. 2006年に確認されていた神戸市でのセイヨウオオマルハナバチの訪花記録. きべりはむし 43(2): 56-57. ISSN: 1884-9377, https://www.konchukan.net/pdf/kiberihamushi/Vol43_2/kiberihamushi_43_2_56-57.pdf
Flora of North America Editorial Committee. 2002. Flora of North America, Vol. 26: Liliidae. Oxford University Press, Oxford. 752pp. ISBN: 9780195152081
Prokop, P., Zvaríková, M., Ježová, Z., & Fedor, P. 2020. Functional significance of flower orientation and green marks on tepals in the snowdrop Galanthus nivalis (Linnaeus, 1753). Plant Signaling & Behavior 15(11): 1807153. https://doi.org/10.1080/15592324.2020.1807153