ハナハマセンブリとベニバナセンブリの違いは?似た種類の見分け方を解説、薬草になるって本当?ベニバナセンブリ属は環境によって花の大きさを変え、受粉戦略を変更していた!?

植物
Centaurium tenuiflorum

ハナハマセンブリとベニバナセンブリはヨーロッパ原産のピンクの可愛い花をつける2種として知られ、近年日本でもよく見かけます。そうなったのは、1960年以降のことです。この2種は生活型、根生葉、花冠を詳しく観察することによって区別することが出来ます。ベニバナセンブリはあまり日本では知られていませんが、ヨーロッパでは薬草として知られ、その苦味の成分が主に胃腸薬として用いられ、この他にも多様な疾患を治療するものとして現在でも用いられています。これは東アジアのセンブリと全く同じ用途で、近い仲間の利用方法が別々の地域で独自に発達しているという点で興味深いです。そんなベニバナセンブリが含まれるベニバナセンブリ属には90%ハナアブ科が訪れることがベルギーの研究で明らかになっています。しかし、実際は自家受粉も行っています。そこで様々な環境に生息するベニバナセンブリ属の自家受粉と他家受粉の割合の傾向を比較した所、植生が乏しく、訪花昆虫が少ないような不安定な環境に生きる種ほど、花は小さく自家受粉の割合が大きくなり、植生が豊かで、訪花昆虫が多数存在する安定的な環境に生きる種であるほど、花は大きく自家受粉の割合が小さくなっていました。これはベニバナセンブリ属の生息環境に対する進化の結果と考えられそうです。本記事ではハナハマセンブリとベニバナセンブリの分類・歴史・薬効・送粉生態について解説していきます。

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ヨーロッパ原産のピンクの可愛い花をつける2種

ハナハマセンブリ(花浜千振) Centaurium tenuiflorum は西ヨーロッパ~地中海沿岸原産で、北部フランスから南部、西部ヨーロッパに分布し、オーストラリア、ニュージーランド、日本にも帰化しており、海に近い砂地や草原を好む夏型一年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。『神奈川県植物誌1988』で日本新産の帰化植物として確認されました。

ベニバナセンブリ(紅花千振) Centaurium erythraea はヨーロッパ、西アジア、北アフリカ原産で、ヨーロッパ、南西アジア、パミール地方に分布し、北アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアにも帰化しており、乾燥した草地や砂地を好む越年草(冬型一年草)です。日本では大正時代(1912~1926年)中頃に鑑賞用として輸入されたものが広まり、1960年頃、初めて広島県呉市に帰化したものが確認されました。

どちらもリンドウ科ベニバナセンブリ属で草地で野生化し、茎が直立し、よく分枝し、葉は対生し無柄で、花はピンクまたは白色の小型のものであるため非常によく似ており、同定が難しい2種です。

ハナハマセンブリとベニバナセンブリの違いは?

しかし、いくつかの特徴の違いが確認されています。

まず生活型に関しては、ハナハマセンブリでは春に発芽する夏型一年草であるのに対して、ベニバナセンブリでは秋に発芽に発芽する越年草(冬型一年草)です。

夏型一年草は春に発芽し、冬までに開花・結実・枯死します。一方、越年草(冬型一年草)は秋に発芽し、夏までに開花・結実・枯死します。

つまり、ハナハマセンブリでは冬に地表に植物体がないのに対して、ベニバナセンブリではあるということになります。

しかし文献によってはハナハマセンブリが越年草であることもあるとしており(清水ら,2001)、実際はよく分からない所です。

根生葉に関しては、ハナハマセンブリでは下部の茎葉と同長か小さく、楕円形~卵状楕円形で鈍頭、花時には枯れるのに対して、ベニバナセンブリでは茎葉よりも大きく、へら状楕円形で円頭、花時にも存在します。

花冠に関しては、ハナハマセンブリでは径9~11mm、裂片は狭長楕円形、花冠中央は白色であるのに対して、ベニバナセンブリでは径11~13mm、裂片は狭卵形、花冠中央もピンクで他の部分と同色とされます。

ただし実際に写真を見ると、ベニバナセンブリでも花冠の最も中央は白くなっています。しかし、ベニバナセンブリはハナハマセンブリほど白色は太くなく、ハナハマセンブリのようにはっきりと白いリングを形成することはありません。

少し細かい部分を見る必要がありますが、以上で区別がつきます。基本的にはハナハマセンブリが多数派で、ベニバナセンブリは公式な記録としては三重県、兵庫県、神奈川県と非常に帰化地点が限られていることも頭に入れておくと良いでしょう。

なお、かつては屋久島~琉球の塩沼地に生えるシマセンブリ Schenkia japonicaCentaurium属に含めて「シマセンブリ属」と呼称されてきましたが、現在では分子系統解析によりシマセンブリ属 Schenkia として独立しており、Centaurium属に含まれません。

ハナハマセンブリの花
ハナハマセンブリの花
ベニバナセンブリの花|By Picture taken by BerndH – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=45478

ベニバナセンブリはヨーロッパでは薬草だった!?

ハナハマセンブリ、ベニバナセンブリという和名は、同じリンドウ科のセンブリ(千振)Swertia japonica から来ていて、その由来は全草が苦く、千回振り出しても(振り出すとは、熱湯の中に薬草を浸して成分を溶かし込むこと)まだ苦いということで千振(せんぶり)という名前の由来になっています。

ハナハマセンブリとベニバナセンブリでは花がピンク色であるのに対して、センブリでは白色なので、簡単に区別がつきます。

この和名は花の形の類似性から連想した命名にも思われますが、実はベニバナセンブリについてはヨーロッパでは長い伝統を持つ古代の薬用植物として扱われてきました。やはり苦味があります。このことは日本ではあまり知られていませんが、もしかしたらむしろこのことと関係したネーミングかもしれません。

ローマ帝国期のギリシア語著述家、医者、薬理学者、植物学者であるペダニウス・ディオスコリデス(40年頃~90年)の『薬物誌』(『ギリシア本草』とも)には既に登場し(Simonović et al., 2020)、煎じてハーブティーという形で、特に胃腸薬として利用されてきました。

ベニバナセンブリには、全草にフェノール酸、アルカロイド、モノテルペノイド、トリテルペノイド、セコイリドイド配糖体、キサントン、フラボノイドなどの生理活性物質を含んでいます。また、花と茎にはイリドイド配糖体を多く含んでいます(Budniak et al., 2021)。

セコイリドイド配糖体とイリドイド配糖体はセンブリにも含まれ、苦味の主成分です

現代では、アルコール中毒による代謝障害、貧血、白血病、癌などに利用されます。また、肝臓、胆道、腎臓、痔、糖尿病の疾患にも用いられます。

含まれている生理活性物質は、消化管の腺の分泌に影響を与え、胆汁分泌を増加させ、子宮筋の収縮を高め、抗炎症、鎮痛、弱い下剤効果、抗酸化活性があります。

セコイリドイド配糖体の一種であるスベルチアマリンは生体内でゲンチアニンに変換され、中枢神経系を落ち着かせる効果があり、ヒステリー、神経衰弱、神経症に使用されることがあります。また、ゲンチアニンはアルカロイドなので駆虫作用もあります。

セコイリドイド配糖体は味覚受容体を刺激し、胃液が反射的に分泌されることで、食欲を増進させ、強壮作用があります。イリドイド配糖体についても、様々な研究により胃の分泌機能に影響を与えることが示されています。

これは東アジアに分布してるセンブリの利用ととてもよく似た利用方法です。全く別の地域でも似た植物が似た利用方法が見出されたのは面白いことですね。

ハナハマセンブリとベニバナセンブリの花の形は?

ハナハマセンブリは花期が6〜7月で、花序は密、普通、頭が平ら。直径9~11mm(8mmほどとも)のピンク色の5裂した花を多数つけます。花冠は基本的にピンク色ですが、中心部が白色は太く目立ちます。ちなみに私の写真の6枚の花弁はあまり報告がなく、珍しいのかもしれません。

ベニバナセンブリは花期が7~9月で、花序は2出集散花序(全体で散房花序状)、密、頭が平ら。直径11~13mm(12~15mmとも)の薄赤色~暗ピンク色の5裂した花を多数つけます。花冠は基本的に薄赤色~暗ピンク色ですが、中心部の内部へ折り返した部分は白くなっています。

この2種の花の上述以外の違いとしては花期がずれている点も挙げられます。しかし、実際は地域によっても多少異なることはあるでしょう。

ハナハマセンブリの花
ハナハマセンブリの花

花に訪れる昆虫の90%がハナアブだった!?

この小さくて可愛らしい花はどのような昆虫が訪れるのでしょうか?

ハナハマセンブリに訪れる昆虫の記録は確認できませんでしたが、ベニバナセンブリについてはベルギー南西部のウェスト=フランデレン州にあるオーストダインケルケからデ・パンネの沿岸部で研究が行われています。

その結果、オドリバエ科やニクバエ科、ハナバチ類、チョウの仲間など様々な分類群の昆虫が訪れていましたが、割合でいうと、ハナアブ科が90%を占めているという結果になりました(Brys & Jacquemyn, 2011)。

これはハナアブの仲間にかなり大きな割合で受粉に頼っていると言えそうです。ハナアブというのはハナバチに擬態した姿をしたハエの仲間で、攻撃性はなく、一般的には舌が短く平らな花ばかりに訪れます。

確かにベニバナセンブリの花は平らに開き、舌がそれほど長くないハナアブの仲間でも蜜や花粉が食べやすそうです。しかし、なぜハナバチや他のハエの仲間より優先するのかという点はまだ良くわかっていません。

ハナハマセンブリでも花の形はそっくりなので同様の結果になる可能性は高そうです。

目立つ花なのになぜか自家受粉も行っていた?

しかし、話はそんなに簡単ではないことが同じベルギーの研究から明らかになっています。

ベニバナセンブリが含まれるベニバナセンブリ属の仲間の多くは自家受粉も行っているのです。この場合、昆虫は不要で自分の花粉を自分の雌しべにつけるだけということになり、一見昆虫を引き付ける花は全く機能していないということにもなります。

結局、ベニバナセンブリ属は昆虫に頼る他家受粉と昆虫に頼らない自家受粉の2通りの方法で種子を作ってます。

ベニバナセンブリ属の受粉戦略のグラデーション

ではどのような時、他家受粉と自家受粉をそれぞれ行うのが良いのでしょうか?

このことについてベルギーの研究では、ベニバナセンブリに加えて、日本には分布しない、Centaurium pulchellumCentaurium littorale を加えて3種の調査が行われました。

その結果、ベニバナセンブリ属では生息環境によって、花の大きさと自家受粉率に大きな差があることがわかりました。

ベニバナセンブリはよく発達した後期遷移種の豊かな砂丘草地に生えます。

Centaurium pulchellum は潮間帯の厳しい開拓地に生え、あまり発達していない開けた植生という条件下で生きています。

Centaurium littorale は砂丘礫地に生え、植物の多様性が低いことが多く、荒涼になっているという条件下で生きています。

つまり植生の豊かさは Centaurium pulchellumCentaurium littorale < ベニバナセンブリ となっています。

花の大きさは Centaurium pulchellumCentaurium littorale < ベニバナセンブリ となっています。

そして今回の調査で自家受粉率は ベニバナセンブリ < Centaurium littoraleCentaurium pulchellum となることが分かりました。

このことはどのように考察できるでしょうか?

おそらく、植生が乏しく、訪花昆虫が少ないような不安定な環境に生きる種ほど、花は小さく自家受粉の割合が大きくなり、自分自身で繁殖します。一方、植生が豊かで、訪花昆虫が多数存在する安定的な環境に生きる種であるほど、花は大きく自家受粉の割合が小さく、他家受粉を行い、昆虫の力に頼るようになっているのだと考えられます。

一般的には他家受粉は他個体と遺伝子を交換し、子孫に多様性を持たすことで、寄生生物や環境の変化に適応できるようにするため必要な場合が多いと考えられています。

植生が乏しい環境では他家受粉が難しいので、最低限種子を作るために自家受粉を発達させたのでしょう。

一方、植生が豊かな環境ではより昆虫にアピールするために花を大きくしていったのです。

ベニバナセンブリの花が大きいのは昆虫へのアピール力を増やすためであると言えるでしょう。

ところで今回の研究では扱われていませんが、ハナハマセンブリはベニバナセンブリよりも花が小さいです。

以上の研究を踏まえると、ハナハマセンブリは自家受粉の割合が高いのかもしれません。

このことはハナハマセンブリがベニバナセンブリよりも日本で優占することとも関係してきそうです。まだ全く分かっていませんが、今後の研究が楽しみです。

果実は蒴果

果実はどちらも蒴果です。

ハナハマセンブリでは蒴果は長さ8~9mm程度。種子は直径0.25~0.35mm、網目があり、淡褐色~赤褐色です。

ベニバナセンブリでは蒴果は長さ6~8(~9)mm、萼に包まれます。種子は長さ0.4mm×幅0.3mm、網目があり、赤褐色です。

熟して乾燥すると先が2つに割れて、種子を散布します。重力散布だと思われますが、詳しいことは分かっていません。

引用文献

Brys, R., & Jacquemyn, H. 2011. Variation in the functioning of autonomous self-pollination, pollinator services and floral traits in three Centaurium species. Annals of Botany 107(6): 917-925. ISSN: 0305-7364, https://doi.org/10.1093/aob/mcr032

Budniak, L., Slobodianiuk, L., Marchyshyn, S., & Klepach, P. 2021. Investigation of the influence of the thick extract of common centaury (Centaurium erythraea rafn.) herb on the secretory function of the stomach. Pharmacologyonline 2: 352-360. https://pharmacologyonline.silae.it/files/archives/2021/vol2/PhOL_2021_2_A038_Budniak.pdf

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七. 2001. 日本帰化植物写真図鑑 plant invader 600種 改訂. 全国農村教育協会, 東京. 553pp. ISBN: 9784881370858

Simonović, A. D., M. Trifunović-Momčilov, M., Filipović, B. K., Marković, M. P., Bogdanović, M. D., & Subotić, A. R. 2020. Somatic embryogenesis in centaurium erythraea Rafn—current status and perspectives: a review. Plants 10(1): 70. https://doi.org/10.3390/plants10010070

出典元

本記事は以下書籍に収録されたものを大幅に加筆したものです。

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