オクラとトロロアオイ(花オクラ)の違いは?利用方法は?花はハナバチが大好きだった!?放置したオクラの未熟果はどうなっていく?

植物
Abelmoschus esculentus

オクラとトロロアオイはどちらもアオイ科トロロアオイ属で、植物体の一部に粘性があることから人に利用されていることに加えて、形態としても葉は3~9裂する掌状葉で、花は雄しべと雌しべが合体した「蕊柱」が突き出し、花冠は白色である点が共通しているなど混同されやすい2種です。しかし、萼状総包片・葉・果実をよく観察することで区別できます。利用方法としてはオクラは主に未熟果が食用されるのに対して、トロロアオイでは根の粘液が和紙製造の際に用いられてきたという大きな違いがあります。どちらの種類も花は白色と中央の濃紫色からなる花冠が特徴的で、自家受粉も可能ですが、海外の研究ではハナバチ類が訪れることで種子生産率が上がっています。果実はオクラでは普通未熟果で収穫されてしまいますが、熟すると子房室に沿って裂け種子を零すことで種子散布します。ただ、利用状況を考えるとヒトの手による播種が最も効率の良い種子散布方法になっているでしょう。本記事ではオクラとトロロアオイの分類・利用方法・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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オクラ・トロロアオイとは?

アメリカネリ(亜米利加粘材) Abelmoschus esculentus は一般名オクラ(陸蓮根・秋葵)。原産地はエチオピアと断定されることもありますが、実際は不明でインドである可能性も指摘されています(Benchasri, 2012;Singh et al, 2014; Mohammed et al., 2020)。野生個体は存在せず、現在では日本、トルコ、イラン、西アフリカ、ユーゴスラビア、バングラデシュ、アフガニスタン、パキスタン、ミャンマー、マレーシア、タイ、インド、ブラジル、エチオピア、キプロス、アメリカ合衆国南部で栽培される多年草です。ただし日本では冬越しできず一年草です。オクラはガーナのトウィ語「nkrama(ンクラマ)」に由来します。アメリカネリは日本に幕末ごろアメリカから渡来したことに由来します。

トロロアオイ(黄蜀葵) Abelmoschus manihot は別名ハナオクラ(花オクラ)。中国、インド、ネパール、フィリピン、タイ北部に分布し草原、川沿い、農場の縁辺に生える多年草または一年草です(Wu et al., 2007)。日本への正確な渡来時期は不明ですが、室町時代後期の木彫刻にその姿があることからそれ以前であると推察されています(増田,2009)。和名は根や果実が粘液質であるとろろ(ヤマノイモやナガイモをすり下ろしたもの)に似たアオイである事に由来します。

どちらもアオイ科トロロアオイ属で、植物体の一部に粘性があることに加えて、形態としても葉は3~9裂する掌状葉で、花は雄しべと雌しべが合体した「蕊柱」が突き出し、花冠は白色である点は共通しています。そのため区別に迷うことがあるかもしれません。

オクラとトロロアオイの違いは?

しかし、オクラとトロロアオイには大きな違いがあります(Wu et al., 2007)。

まず植物学的に重要視されるのはアオイ科共通に存在する萼状総包片(epicalyx lobe、副萼、epicalyx)です。萼状総包片は萼の下に細い葉のようなものが伸びた構造で、副萼という別名の通り外観としては2重の萼があるように見えます。

萼状総包片はオクラでは7〜10本に分かれ糸状~線形で幅は1~2.5mmであるのに対して、トロロアオイでは4または5裂で長楕円形の披針形と葉のような形で幅は4~5mmになるという違いがあります。

花の裏側を確認することになるので中々注意がいかないかもしれませんが、これが最も確実な同定方法になります。萼状総包片は蕾~未熟果までずっと付いているので確認できる機会自体は多いでしょう。

ただ違いは勿論これだけではなく、葉や果実にも違いがあります。

葉に関しては、オクラでは掌状に3~7裂しそれぞれの裂片は普通太く、葉縁はやや尖った鋸歯があるのに対して、トロロアオイでは掌状に5~9裂しそれぞれの裂片は普通細く、葉縁は鈍鋸歯があります。

果実に関しては、オクラでは食卓で見るように円筒形~塔形で長さ10~25×幅1.5~2cmと長く、先はくちばし状になっているのに対して、トロロアオイでは卵形~楕円形で、長さ4~5×幅2.5~3cmと短く、先は丸く尖っていません。

いずれかを確認すれば確実に区別できるでしょう。

オクラの葉上面
オクラの葉下面
オクラの花
オクラの未熟果1
オクラの未熟果2
トロロアオイの葉上面
トロロアオイの葉下面
トロロアオイの花
トロロアオイの未熟果

オクラとトロロアオイの利用方法の違いは?

オクラは未熟果が野菜となり食用されます(Singh et al, 2014)。イラン、エジプト、レバノン、イスラエル、ヨルダン、イラク、ギリシャ、トルコなど地中海東部では、野菜や肉と一緒に作る濃厚なシチューに広く使われています。 インド料理ではソテーしたり、グレービーベースの調理に加えたりして、南インドで非常に人気があります。20世紀末から日本料理では、醤油や鰹節と一緒に食べたり、天ぷらにしたりして、人気の野菜となりました。アメリカ料理のチャールストン・ガンボでも用いられ、 アメリカ南部では、パン粉をつけて揚げたものが食べられています。

世界的にはオクラの葉は、ビートやタンポポの青菜と同じように調理することができ、生でサラダにすることもあります。 またオクラの種子は焙煎して粉にすると、カフェインを含まないコーヒーの代用品になることでも知られています。

一方、トロロアオイの未熟果は太くて短く、剛毛が多いうえ固いため食用にはなりませんが、日本では根から抽出される粘液は「ねり(糊)」と呼ばれ、ノリウツギとともに和紙製造時の紙漉きの際にコウゾ、ミツマタなどの植物の繊維を均一に分散させるための添加剤として利用されてきました(町田,2000)。現在では合成ねりが用いられることが多いです。

その他「花オクラ」の別名のように花が食用されサラダ、おひたし、天ぷらに用いられたり、フィリピンでは葉が料理やサラダに用いられることがあります。

花の構造は?

アオイ科は共通で雄しべと雌しべが合体した「蕊柱」を持っています。オクラでもトロロアオイでも中央から突き出した蕊柱が確認できます。

オクラは花期が5~9月で、花は単生で葉腋につきます(Wu et al., 2007)。花柄は(0.5~)1~2(~5)cmで、まばらな剛毛があります。萼状総包片は7〜10(~12)個、糸状で、長さ5〜18×幅1〜2.5mm、粗いしわがあります。萼片は2~3cmの円錐形で、密に星状毛に覆われます。花冠は黄色または白色で中心が濃紫色で、直径5~7cm、花弁は長さ3.5~5×幅3~4cmの鈍形です。花糸管は2~2.5cm。

トロロアオイは花期が8~10月で、花は単生で葉腋につく他、茎頂に末広がりの総状花序も形成します。花弁は1.5〜4cm。萼状総包片は4〜5裂し卵状披針形で、長さ15〜25×幅4〜5mmでまばらに長い刺があります。萼片は光沢があり5裂し、ほぼ全体が萼状総包片より長く、柔毛があるのみで剛毛はなく早落性です。花冠は黄色で中心が紫色で直径約12cmです。雄しべは1.5〜2.5cmで、葯はほぼ無柄です。柱頭は紫黒色でへら状~円盤状です。

殆ど色や構造は同じですが、花の付き方や萼状総包片、萼片には違いがあります。花冠中心の濃紫色は昆虫を惹き寄せる「蜜標」として働いていると考えられるでしょう。

受粉方法は?ハナバチ類が大好きだった?

受粉方法ですがオクラでは自家受粉が可能ですが、自家受粉の場合、種子収量や種子サイズを減少することが知られており、品種にもよると思われますが、一定の虫媒が必要であると世界的には考えられています(Nandhini et al., 2018)。研究では他家受粉によって果実あたり約73~84%の種子を得ることができ、自家受粉で得られた果実あたり57%の種子に比べ、高い確率で種子を得ることができるとしています。

オクラでは重要な作物であるため沢山の研究があり、主にハナバチ類によって送粉されることが分かっています(Azo’o et al., 2011; 2012; Nandhini et al., 2018)。インドではトウヨウミツバチや、アトジマコハナバチ属によって、カメルーンではハキリバチ属、アトジマコハナバチ属、クマバチ属、セイヨウミツバチ、Eucara macrognathaTetralonia fraterna によって送粉されていることが分かっています(Azo’o et al., 2011; 2012)。南インドの別の研究でもミツバチ属が送粉しています(Nandhini et al., 2018)。ただし日本での研究はなく日本でも同様であるかは不明です。

トロロアオイでもオクラとともに自家受粉も可能ですが、他家受粉も可能で、やはり虫媒による他家受粉で種子収量が安定します(桑田,1962; Qian et al., 2023)。

トロロアオイの送粉昆虫は研究が不足していますが、ミツバチ、スズメバチ、コウチュウ、チョウやガの一部の種によって送粉されるとされますが(Tyagi, 2002)、比率を示した確実な研究はないようです。

また、オクラでは萼片に花外蜜腺を形成しアリがやってきます。日本でも『Google画像検索』を行うといくつか事例が見つかります。アリが受粉を行うという考えもありますが(Nandhini et al., 2018)、一般的にはアリは受粉への貢献度が低いとされ、そうではなく盗蜜を防止するといった働きも考えられますが研究は進んでいません。海外では攻撃性の高いことで知られるヒアリ Solenopsis invicta が訪れる例も知られており、他の昆虫に及ぼす影響は大きそうです。

果実の構造は?

果実はトロロアオイ属共通で蒴果です。蒴果は乾果の一種で、一つの果実が複数の癒着した袋状果皮からなるものです。

オクラの蒴果は円筒形~塔形、長さ10~25×幅1.5~2cm、先はくちばし状になっています。種子は暗褐色または灰色で、球形から腎形、1個につき5~15個、直径(3~)4~5(~6)mm、条痕があり、細かくいぼがあります。

トロロアオイの蒴果は卵形~楕円形で、長さ4~5×幅2.5~3cm、綿毛が密生しています。種子は多数で、数列の毛があり、腎形です。

普段利用されるオクラの未熟果はペクチンとムチレージを含む粘液によって水分を含んでいます。粘液は水分の貯蔵を助け、植物内での水分拡散を減少させ、種子の散布と発芽を助け、膜の増粘剤や栄養の貯蔵するとされます(Gerrano, 2018)。これは熱帯でも生育可能なことと関連している可能性があります。

種子散布方法は?

収穫せずに放置していると熟果になり子房室に沿って裂け、種子を零します(Rao, 1991)。重力散布することは間違いないですが、風散布を行うかは不明です。しかし、現在では大部分がヒトの手によって収穫され、種子散布されていると言えるでしょう。

引用文献

Azo’o, M. E., Fohouo, F. N. T., & Messi, J. 2011. Influence of the foraging activity of the entomofauna on okra (Abelmoschus esculentus) seed yield. International Journal of Agriculture and Biology 13(5): 761-765. https://www.researchgate.net/publication/289381083

Azo’o, M. E., Fohouo, F. N. T., & Messi, J. 2012. The importance of a single floral visit of Eucara macrognatha and Tetralonia fraterna (Hymenoptera: Apidae) in the pollination and the yields of Abelmoschus esculentus in Maroua, Cameroon. African Journal of Agricultural Research 7(18): 2853-2857. http://doi.org/10.5897/AJAR12.359, https://academicjournals.org/journal/AJAR/article-full-text-pdf/B2E531436937

Benchasri, S. 2012. Okra (Abelmoschus esculentus (L.) Moench) as a valuable vegetable of the world. Ratarstvo i povrtarstvo 49(1): 105-112. https://doi.org/10.5937/ratpov49-1172

Gerrano, A. S. 2018. Agronomic performance, nutritional phenotyping and trait associations of Okra (Abelmoschus esculentus) Genotypes in South Africa. pp.69-96. In: Grillo, O. Rediscovery of Landraces as a Resource for the Future. Intechopen, London. ISBN: 9781789237245, https://doi.org/10.5772/intechopen.70813

桑田晃. 1962. トロロアオイの着、落蒴に関する研究 ―とくに生育段階ならびに環境条件との関係―. 日本作物学会紀事 30(3): 211-214. https://doi.org/10.1626/jcs.30.211

増田勝彦. 2009. トロロアオイを知っていますか. 学苑 828: 100-105. ISSN: 1348-0103, http://id.nii.ac.jp/1203/00004689/

町田誠之. 2000. 和紙の道しるべ その歴史と化学. 淡交社, 京都. 298pp. ISBN: 9784473017390, https://cp.cm.kyushu-u.ac.jp/archive/Tips/japanese/washi/washi(5+6).pdf

Mohammed, W., Amelework, B., & Shimelis, H. 2020. Simple sequence repeat markers revealed genetic divergence and population structure of okra [‘Abelmoschus esculentus‘] collections of diverse geographic origin. Australian Journal of Crop Science 14(7): 1032-1041. https://search.informit.org/doi/abs/10.3316/informit.794714875294279

Nandhini, E., Padmini, K., Venugopalan, R., Anjanappa, M., & Lingaiah, H. B. 2018. Flower-visiting insect pollinators of okra [Abelmoschus esculentus (L.) Moench] in Bengaluru region. Journal of Pharmacognosy and Phytochemistry 7(2): 1406-1408. ISSN: 2349-8234, https://www.phytojournal.com/archives?year=2018&vol=7&issue=2&part=T&ArticleId=3548

Qian, W., Hu, Y., Lin, X., Yu, D., Jia, S., Ye, Y., … & Gao, S. 2023. Phenological Growth Stages of Abelmoschus manihot: Codification and Description According to the BBCH Scale. Agronomy 13(5): 1328. https://doi.org/10.3390/agronomy13051328

Rao, L. J. 1991. Induced mutations recovered in M2 and subsequent generations in three varieties of okra (Abelmoschus esculentus (L.) Moench). pp.83-86. In: Horticulture — New Technologies and Applications. Kluwer Academic Pub, Dordrecht. ISBN: 9780792312796, https://doi.org/10.1007/978-94-011-3176-6_15

Singh, P., Chauhan, V., Tiwari, B. K., Chauhan, S. S., Simon, S., Bilal, S., & Abidi, A. B. 2014. An overview on okra (Abelmoschus esculentus) and it’s importance as a nutritive vegetable in the world. International journal of Pharmacy and Biological sciences 4(2): 227-233. ISSN: 2321-3272, https://ijpbs.com/ijpbsadmin/upload/ijpbs_53df5a2907b19.pdf

Tyagi, A. P. 2002. Cytogenetics and Reproductive Biology of some BELE (Abelmoschus manihot Linn., Medic Sub-Species manihot) Cultivars. The South Pacific Journal of Natural and Applied Sciences 20(1): 4-8. https://doi.org/10.1071/SP02002

Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. eds. 2007. Flora of China. Vol. 12 (Hippocastanaceae through Theaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781930723641

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