アジサイ・ガクアジサイ・ヤマアジサイ・カシワバアジサイ・アメリカノリノキ(アナベル)の違いは?花の殆どはただの「飾り」だった!?普段見られない果実はどんな形?

アジサイ科
Hydrangea macrophylla f. macrophylla

アジサイ・ガクアジサイ・ヤマアジサイ・カシワバアジサイ・アメリカノリノキ(アナベル)はいずれもアジサイ科アジサイ属で、町中では頻繁に栽培され、発見できる種類です。特にアジサイは日本を代表する植物でしょう。いずれも梅雨の時期頃に、萼が大きく発達することでできた「装飾花」をつける点で共通しているため種類を判断するのが難しいかもしれません。しかし、花ではなく葉に注目することで確実に区別することができます。地味で後に種子をつける「両性花」と、花序の周縁で花弁はなく萼のみから構成され、昆虫へのアピールを増やすのみで種子をつけない「装飾花」で花序が構成されており、ハナバチを効率的に呼びます。普段選定されてしまい見かけることの少ない果実は蒴果で、種子は粉のようで翼があり、自然界では風に乗って飛んでいきます。本記事では町で見かけるアジサイ属の分類・形態・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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アジサイ・ガクアジサイ・ヤマアジサイ・カシワバアジサイ・アメリカノリノキとは?

アジサイ(紫陽花) Hydrangea macrophylla f. macrophylla は下記のガクアジサイが品種改良されて生まれた落葉〜半常緑低木です(茂木ら,2000)。観賞用に栽培され、日本の個体群が世界中で栽培されているという意味で、特異な植物です。

ガクアジサイ(額紫陽花) Hydrangea macrophylla f. normalis は日本の房総半島、三浦半島、伊豆半島、和歌山県上島、足摺岬に分布し、林内に生える落葉〜半常緑低木です。観賞用に栽培されます。

ヤマアジサイ(山紫陽花) Hydrangea serrata var. serrata は日本の関東地方以西〜九州の山地の谷沿いや湿った斜面などに生える落葉低木です。観賞用に栽培されます。

カシワバアジサイ(柏葉紫陽花) Hydrangea quercifolia は北アメリカ東南部に分布し、落葉樹林、マツ・オーク林、渓谷、岩場に生える落葉低木です(Flora of North America Committee, 2009)。日本では観賞用に栽培されます。

アメリカノリノキ(亜米利加糊木) Hydrangea arborescens は北アメリカ東部に分布し、湿潤から乾燥した落葉樹の森や林、湿った斜面、日陰の断崖、岩棚、川岸に生える落葉低木です。日本では稀に観賞用に栽培されますが最近増えています。アナベル ‘Annabelle’ はアメリカノリノキの園芸品種です。

これら5種はいずれもアジサイ科アジサイ属で、町中では頻繁に栽培され、発見できる種類です。形態的にはいずれも梅雨の時期頃に、萼が大きく発達することでできた「装飾花」をつける点で共通していますが、これだけでは判別は難しいです。園芸サイトなどでは花には注目してるものの、葉まで写真を写しているものは少なく、種類を見分けるのが難しいかもしれません。

アジサイ・ガクアジサイ・ヤマアジサイ・カシワバアジサイ・アメリカノリノキの違いは?

しかしこれらの種類には明確な違いがあります。アジサイ類は花が綺麗な植物ですが、その違いを知るには葉に注目しなければなりません(林,2019)。

日本にはアジサイ属が約16種自生する上に園芸種も知られ、更に細かい変種も存在するので、ここで全ての種類の区別を書くことは不可能ですが、今回は園芸種として町中で見られる可能性が高い5種に注目して書いてみます。

まずアジサイ・ガクアジサイ・ヤマアジサイ・アメリカノリノキでは葉は不分裂葉である(切れ込みがない)のに対して、カシワバアジサイでは葉が分裂葉である(切れ込みがある)という明確な違いがあります。これに関しては一目瞭然です。

残り4種に関しては、アジサイ・ガクアジサイ・ヤマアジサイでは葉柄が1~5cmと短く、葉の基部が楔形であるのに対して、アメリカノリノキでは葉柄が4~15cmと通常明らかに長く、葉の基部が湾入するか丸いという違いがあります。こちらも一目瞭然でしょう。

なお、アナベルは装飾花のみを持つアメリカノリノキの品種とされます。

最後にアジサイとガクアジサイに関してですが、アジサイでは両性花と装飾花があるのに対して、ガクアジサイでは装飾花しかないという違いがあります。こちらは分類学的は同じ種類とされ、葉は全く同じ形をしています。セイヨウアジサイ f. hortensia は欧米で品種改良されたアジサイを指しますが、形態的な判別方法は不明です。

残りのアジサイ・ガクアジサイ・ヤマアジサイに関しては、アジサイとガクアジサイでは葉は厚く光沢があり、下面は無毛であるのに対して、ヤマアジサイでは葉は薄く光沢はなく下面には毛があるという違いがあります。また一般的にはヤマアジサイの方が鋸歯は鋭く、葉先は尾状に伸びます。

花の色に関しては、カシワバアジサイとアメリカノリノキは白色のみですが、他の種類は様々な色に品種改良されているので、参考にはならないでしょう。

以上で町中のアジサイ類の種類で迷うことは無くなるでしょう。しかし、アジサイやヤマアジサイには多数の変種、品種が知られています。こちらは別記事で改めて解説しようと思います。

アジサイの葉
アジサイの花
セイヨウアジサイ(?)の葉
セイヨウアジサイ(?)の花:萼がかなり小さく品種改良されたものなのかもしれない
ガクアジサイの葉
ガクアジサイの花
ヤマアジサイ(藍姫) ‘Aihime’ の葉
ヤマアジサイ(藍姫)の未熟果
カシワバアジサイの葉上面
カシワバアジサイの葉下面
カシワバアジサイの花
アメリカノリノキの葉上面
アメリカノリノキの葉下面
アメリカノリノキの花
アメリカノリノキ(アナベル)の葉
アメリカノリノキ(アナベル)の花

花の構造は?

アジサイ属では地味で後に種子をつける「両性花」と、花序の周縁で花弁はなく萼のみから構成され、昆虫へのアピールを増やすのみで種子をつけない「装飾花」で花序が構成されているものが殆どです。

アジサイは花期が6~7月。枝先に直径10~20cmの集散花序を出し、花序の周囲には装飾花のみを密集してつけます。装飾花はほぼ4数性、萼片は3~5個つき、白色~青紫色、長さ1.5~2.5cmの広卵形~円形です。

ガクアジサイはアジサイとほぼ同じですが、花序の周囲には装飾花、中央に多数の両性花を密集してつけます。両性花はほぼ5数性、長さ約1.5mmの倒円錐形、萼片は4~5個、花弁は5個、長さ約3mmの卵状長楕円形。雄しべは10個で、花弁より長いです。花柱は3~4個。

ヤマアジサイは花期が6〜7月。枝先に直径5〜10cmの集散花序を出し、両性花のまわりを装飾花が取り囲みます。装飾花は直径1.5〜3cm。萼片は3〜4個、楕円形〜円形で、基部は細まります。はじめ白色〜淡青色で、のちに淡紅色に変わるものが多いです。両性花の花筒は長さ約1.5mm。花弁は5個。雄しべは10個。

カシワバアジサイは花期が5~7月。枝先に長さ15~30cm、幅8~13cmの円錐花序を上向きに出し、花を多数つけます。花は初期に緑色を帯び、乳白色~白色になり、後に紫色を帯び、淡い茶色~赤さび色に退色して冬まで残ります。原種は外側に大きな装飾花を多数つけ、内側に小さな両性花がつきます。園芸品種は装飾花だけのものが多く、八重花の品種もあります。

アメリカノリノキは花期が5~7月。本年枝の枝先に花序を出します。散房花序は幅5~15cmの半球形~球形、普通、両性花はなく、あっても数個。装飾花は直径1cm以下。アナベルは装飾花のみを持ちます。

受粉方法は?

アジサイの花の色が主に土壌中のアルミニウムイオン(Al3+)総量と、アルミニウムイオンが影響を与えた土壌pHによって決まり、アントシアニンの色が変わることで花の色も変わることはとても有名です(Moll, 2022)。筆者は『アニメ 名探偵コナン』第695話「葡萄畑に薔薇の花」のトリックで出てきたのが印象的でよく覚えていますね。

土壌pHが低い場合(酸性、pH = 4.5~5.5)、アルミニウムイオンの蓄積量が多くなり、青い花が咲き、土壌pHが高い場合(アルカリ性、塩基性)、ピンクの花が咲きます。ただし品種よって例外はあります。

ただこのことが生態上どのような影響があるのかは不明です。「二色効果」と呼ばれるコントラスト効果によって目立つことを狙っているとも考えられますが、かなり偶然性に左右されますし、単に花の色を作り出す際の化学的な制約なのかもしれません。

アジサイ属は少なくともアジサイとヤマアジサイは自家不和合性であるため、昆虫による他家受粉が不可欠です(巣山,2018)。

花に主に訪れる昆虫は主にハナバチであると考えられています(細田,1993;田中,1997;Wong Sato & Kato, 2019)。ただそれぞれのアジサイ属の種ごとにやってくるハナバチの種類に違いがあるのかはよく分かっていません。

昆虫への報酬は基本的に花粉ですが、ノリウツギとツルアジサイのみは蜜も作ります。

上述のように種子をつけるのは「両性花」のみで、「装飾花」は萼のみで花序の周縁でハナバチなどの昆虫へのアピールを増やします。この効果はダーウィン以来長い間仮説のみでしたが、最近になって9種で実験を装飾花を切り取った花序を作り出し、元と比較することで実際に効果があることが確認されています(Wong Sato & Kato, 2019)。

更にそれだけではなく、ガクウツギ H. scandens、コガクウツギ H. luteovenosa、ガクアジサイの3種では装飾花の萼が花序を覆っており、昆虫に着地を促す平面構造としても機能していることがわかりました。

このように装飾花の有用性の証拠がある一方で、コアジサイ H. hirta は装飾花がありません。これは匂いや色が影響しているともされます。もしかしたら訪花昆虫にも違いがあるのかもしれません。興味深い事実です。

アジサイやアナベルについては品種改良されて両性花が無いので、種子をつくることはなく現在ではヒトに対してのみ機能していると言えるでしょう。

果実の構造は?

果実はアジサイ属共通で蒴果です。蒴果は乾いた果実(乾果)の一種で、一つの果実が複数の癒着した袋状果皮からなります。

園芸ではアジサイは次年の花つきを維持するため、普通花後に剪定を行ってしまうので、果実を見ることができません。その代わり挿し木などの方法で繁殖します。しかし、自然界や品種改良では重要な働きを担い続けています。

ガクアジサイの蒴果は長さ6〜9mmの卵形〜楕円形で、11〜12月に熟し、萼片と花柱が残ります。種子は長さ1mm以下の楕円形で、両端は短い突起状の翼になります。アジサイは蒴果を付けません。

ヤマアジサイの蒴果は長さ3〜4mmの卵形〜楕円形で、10〜11月に熟します。種子は楕円形で小さく、両端は突起状の翼となります。

カシワバアジサイの蒴果は暗褐色で半球から顆粒状。幅1.5~2.5×高さ2~2.5mm。種子は0.6〜0.8 mm。

アメリカノリノキの蒴果は半球状で、幅1.2〜2.1×高さ1.7〜2.5mm。種子は0.3〜0.6(~0.8)mm。

種子散布方法は?

アジサイ属の蒴果は熟すと乾燥し、裂けて内部から種子を零します。このことで重力散布は行われるでしょう。

更に種子は粉のように小さく無数にある上に翼がある場合があり、これらの種類については風を受けて、風散布も行っていると考えられます(Kaneko & Homma, 2006)。

引用文献

Flora of North America Committee. 2009. Flora of North America Volume 12 Magnoliophyta: Paeoniaceae to Ericaceae. Oxford University Press, Oxford. 585pp. ISBN: 9780195340266

林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447

細田裕貴子. 1993. ヤマアジサイの訪花昆虫について(ミツバチ・訪花・送粉). 日本応用動物昆虫学会大会講演要旨 37: 17.

Kaneko, Y., & Homma, K. 2006. Differences in the allocation patterns between liana and shrub Hydrangea species. Plant Species Biology 21(3): 147-153. https://doi.org/10.1111/j.1442-1984.2006.00160.x

茂木透・太田和夫・勝山輝男・高橋秀男・城川四郎・吉山寛・石井英美・崎尾均 ・中川重年. 2000. 樹に咲く花 離弁花2 第2版. 山と溪谷社, 東京. 719pp. ISBN: 9784635070041

Moll, M. D. 2022. Cultivation and utilization of Hydrangea macrophylla subsp. serrata as feedstock for dihydroisocoumarins and its quality-assessment through non-invasive phenotyping (Doctoral dissertation, Universitäts-und Landesbibliothek Bonn). https://doi.org/10.3390/agronomy11091743

巣山拓郎. 2018. アジサイ属植物の種間交雑における育種技術に関する研究. 福岡県農林業総合試験場特別報告 (8): 1-60. https://www.farc.pref.fukuoka.jp/farc/kenpo/nourintokukenp/tokuhou8.pdf

田中肇. 1997. エコロジーガイド 花と昆虫がつくる自然. 保育社, 東京. 197pp. ISBN: 9784586312054

Wong Sato, A. A., & Kato, M. 2019. Pollination-related functions of decorative sterile flowers of nine Japanese Hydrangea species (Hydrangeaceae). Botany 97(10): 521-528. https://doi.org/10.1139/cjb-2018-0208

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