フジウツギ・フサフジウツギ(ブッドレア)・コフジウツギ・トウフジウツギの違いは?似た種類の見分け方を解説!花に訪れるのは蝶だけじゃない!?種子は風に飛ばされる?

植物
Buddleja davidii

フジウツギ・フサフジウツギ(ブッドレア)・コフジウツギ・トウフジウツギはいずれもゴマノハグサ科フジウツギ属で、茎頂に花序を出し、それぞれの花は長い花筒を持っている点が一番の特徴的です。フサフジウツギは匂いの強さから園芸で特に人気があるでしょう。しかし、特に身近なフジウツギとフサフジウツギについてはインターネットではかなり混同されています。これら4種に判別は確かに難しいですが違いははっきりと確認されています。区別するには茎にある稜と葉の間にある付属体、葉の形がとても重要なのできちんと記録しましょう。ただフサフジウツギは他種とはかなり異なった特徴があるので一目瞭然です。花は派手で花筒が長く匂いが強いことからチョウが主に訪れると考えれてきましたが、種類によってはハナバチばかりである例も研究が進み知られるようになりました。ただフサフジウツギについては多くの蝶を呼び寄せることができそうです。果実は蒴果で、熟すと中を開いて翼を持った種子が風によって飛ばされます。本記事ではフジウツギ属の分類・送粉生態・種子散布について解説しています。

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フジウツギ・フサフジウツギ・コフジウツギ・トウフジウツギとは?

フジウツギ(藤空木) Buddleja japonica は日本の本州(東北地方~近畿地方の太平洋側)、四国に分布し、山野の陽地、川の岸、崖下などのやや岩礫の水質地に生える落葉低木です。観賞用に栽培も行われます。

フサフジウツギ(房藤空木) Buddleja davidii は中国に分布し、山の斜面の藪、山の斜面の側面に生える落葉低木です(Wu & Raven, 1996)。日本では観賞用に栽培され、野生個体は栽培個体が逸脱したものという説がある一方、本州中部の石灰岩地に自生する在来植物とする説もあります。

コフジウツギ(小藤空) Buddleja curviflora は日本の四国南部、九州南部~奄美大島に林縁や荒れ地などにやや稀に生える落葉低木です。

トウフジウツギ(唐藤空木) Buddleja lindleyana は中国に分布し、山の小道脇、小川沿いの低木、森の縁に生える落葉低木です。日本では観賞用に栽培されます。

「ブッドレア」はフジウツギ属の総称ですが、園芸ではフサフジウツギを指すことが一般的です。

いずれもゴマノハグサ科フジウツギ属で、茎頂に花序を出し、それぞれの花は長い花筒を持っている点が一番の特徴的です。しかし、特に身近なフジウツギとフサフジウツギについてはインターネットではかなり混同され、その具体的な違いを示しているサイトは少ないと思われます。中にはフサフジウツギをフジウツギとして掲載しているサイトも見られます。

フジウツギ・フサフジウツギ・コフジウツギ・トウフジウツギの違いは?

これら4種に判別は確かに難しいですが違いははっきりと確認されています(神奈川県植物誌調査会,2018;林,2019)。

まず、フジウツギとトウフジウツギでは茎枝に稜があるのに対して、フサフジウツギとコフジウツギでは茎枝に稜がないという違いで大別されます。ただしフサフジウツギには弱い稜がある場合があります。

りょうというのは少し分かりにくいかもしれませんが、茎のかど、尖っている部分のことを指します。

フジウツギとトウフジウツギに関しては、フジウツギでは対生している葉の間に半円形の緑色の付属体があり、ほぼ全縁の葉もあるものの不揃いな荒い鋸歯のある葉が多いですが、トウフジウツギでは対生している葉の間に付属体がなく、全縁に近い葉が多いという違いがあります。

フサフジウツギとコフジウツギに関しては、フサフジウツギでは葉に細かい鋸歯が多数並び、花筒はまっすぐであるのに対して、コフジウツギでは葉に普通は全縁であっても鈍い鋸歯がある程度で、花筒は曲がります。

以上で確実に区別できるでしょう。特にフサフジウツギの花が花筒はまっすぐであることは、4種のうち唯一なので、花があれば混同しないと思います。

なお、在来種はフジウツギとコフサフジウツギのみで、他のフジウツギ属は全て園芸種であるということも参考になるでしょう。ただし、フジウツギは栽培されることもあります。フサフジウツギは最も園芸で用いられる種類であると言っていいでしょう。

コフジウツギにはウラジロフジウツギ f. albiflora という葉の下面の白みが強い鹿児島・屋久島でよく見られる品種が知られています。

フジウツギの花:花筒は曲がる|By I, KENPEI, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4459254
トウフジウツギの葉:茎に稜あり、対生している葉の間に付属体はない|By Ptelea – Own work, CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15563763
トウフジウツギの花|By Ptelea – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16342714
フサフジウツギ紫色花型の葉:右上の対生している葉の間に緑色の付属体が見える、枝に稜はない
フサフジウツギ紫色花型の花:花筒はまっすぐ
フサフジウツギ白色花型の葉:細かい鋸歯が目立つ
フサフジウツギ白色花型の花

フジウツギ属の他の種類は?

この他、日本で見られることは少ないですが、いくつか園芸種が知られています。

タイワンフジウツギ Buddleja asiatica は茎に稜が無く、白~黄色の花が咲きます。

アフリカフジウツギ Buddleja madagascariensis は茎に稜があり、オレンジ色の花が咲きます。

ベニバナフジウツギ Buddleja colvilei は茎に稜があり、大型の紅色の花が咲きます。

花の構造は?

フジウツギ属は共通で大きな花序を作り、花冠は長い花筒を持つことがなによりの特徴です。

フジウツギは花序は頂生、円錐花序、長さ20cm以下、花が多数、密につきます。花は薄いライラック色です。

フサフジウツギは花期が5~10月。花序は頂生、総状花序や密穂花序のように見え、長さ4~30cm、幅2~5cm。下部の苞は葉状、その他の苞は小さく、線形。萼は鐘形、長さ2~3.5mm、外面は星状毛があるかまたは無毛です。萼片は狭い三角形、長さ0.5~2mm。花冠は紫色~暗ピンク色、ときに白色、のど部が橙黄色、長さ0.8~1.4cm、外面は無毛または星状毛があり、腺毛があります。花筒は狭い筒形またはほぼ筒形、長さ6~11.5mm、幅1~1.5mm、内側は基部を除いて柔らかい軟毛で覆われます。花冠裂片は類円形、長さ1.5~3mm、幅1.5~3mm、外面は無毛。雄しべは花筒の中間~基部近くにつきます。葯は長楕円形。子房は卵形、無毛~短軟毛があり、ときに腺毛があります。柱頭は棍棒形です。

コフジウツギは花序は頂生、穂状花序または密錐状集散花序、長さ5~20cm、幅2~4cm。萼は鐘形、長さ2~3.5mm、外側には星状毛と小さな腺毛があります。萼片は卵形~三角形、長さ0.5~1mm、内側は無毛。花冠は紫色、長さ1.1~2cm、花冠筒部は膨らみ、曲がり、先は直径1.4~2.5mm、基部は直径1.2~1.5mm。花冠裂片は類円形、長さ1.5~2.5mm、幅1.5~2.5mm、外側には星状毛と短毛があり、小さな腺毛が混じります。雄しべは花冠筒部の中間または中間近くにつきます。葯は長楕円形。雌しべは無毛。

トウフジウツギは花期が4~10月。花序は頂生、穂状の集散花序、長さ4~20cm、幅2~4cm。下部の苞は葉状、しばしば線形、長さ1~10mm。萼は鐘形~つぼ形、長さ2~4mm。萼片は広三角形長さ0.2~1mm、幅0.5~1mm、外面は短毛、腺毛があり、しばしば星状毛があります。花冠は紫色、長さ1.3~2cm、筒部は長さ1.1~1.7cm、中間より下部は曲がり、先は直径2.5~4mm、基部は幅1~1.5mm、外面に短毛と腺毛があります。花冠裂片は類円形で長さ2~3.5mm、幅2~3mm。雄しべは花冠筒部の基部または基部近くにつきます。葯は長楕円形~卵形。雌しべは無毛。

受粉方法は?

フジウツギ属は共通で英語で「バタフライブッシュ(Butterfly Bush)」と呼ばれるように主にチョウの仲間を引き寄せ、受粉に利用すると考えられてきました。

共通で花筒が長いですが、これもチョウの口吻の長さに対応するための適応であると考えられるでしょう(Chen et al., 2012)。鮮やかな色も色覚が発達したチョウのためだということです。また匂いが強くこの点もチョウに対する適応であると考えられてきました。

野外での調査でもフジウツギではツマグロヒョウモン、イチモンジセセリが訪花していた記録があります(福田ら,2016)。

フサフジウツギでは日本での記録になりますが、17種類の様々なグループのチョウがやってきている記録があります(溝田ら,2008)。

しかし、最近の研究ではタイワンフジウツギなど野生種5種についてはチョウは殆ど訪れず、中舌の長い大型ハナバチが殆どでチョウはほぼ訪れないことが分かっています(Gong et al., 2015)。

これは今までの考えを覆すもので、形はフサフジウツギと大きな違いがないのに不思議な結果に思えますが、その原因は匂いの成分の違いにあると考えられています。

コフジウツギやトウフジウツギがチョウとハナバチどちらで受粉するのかは不明ですが、コフジウツギやトウフジウツギではハナバチ類が訪れている記録があることからも(幾留,1992;2005;幾留・村尾,2021)、これらの種類でも中舌の長いハナバチ類に少なくとも部分的に受粉を頼っていると考えるでしょう。

とはいえ、園芸種として一般的なフサフジウツギについては庭に植えれば沢山のチョウを呼び込むことが期待できそうです。

果実の構造は?

フジウツギ属の果実は一部の例外を除いて蒴果です。

トウフジウツギの蒴果は楕円形、長さ4~6mm、幅1.5~2mm、腺毛またはたまに無毛。種子は淡褐色、斜めの四面体、角に翼があります。

コフジウツギの蒴果は楕円形、長さ5~7mm、幅2~3mm、無毛。種子は斜めの楕円形、長さ1.2~1.5mm、両端に翼があります。

フサフジウツギの蒴果は褐色、狭楕円形~狭卵形、長さ5~9mm、幅1.5~2mm、無毛またはまばらに星状毛があります。種子は楕円形、長さ2~4mm、幅約0.5mm、両端に長い翼があります。

種子散布方法は?

種子に翼があることからも想像できるように、フジウツギ属は一部の例外を除いて普通は風散布であると考えられています(Lindstrom et al., 2004)。

蒴果は熟すと内部を露出することで種子を零し、風に運ばれていきます。

引用文献

Chen, G., Gong, W. C., Ge, J., Dunn, B. L., & Sun, W. B. 2012. Floral scents of typical Buddleja species with different pollination syndromes. Biochemical Systematics and Ecology 44: 173-178. https://doi.org/10.1016/j.bse.2012.05.010

福田晴夫・守山泰司・金井賢一. 2016. 鹿児島県三島村の硫黄島及び竹島のチョウ類 2015年の調査結果とチョウ相成立史の検討. 鹿児島県立博物館研究報告 35: 1-14. http://www.pref.kagoshima.jp/bc05/hakubutsukan/shien/documents/30802_20160330174812-1.pdf

Gong, W. C., Chen, G., Vereecken, N. J., Dunn, B. L., Ma, Y. P., & Sun, W. B. 2015. Floral scent composition predicts bee pollination system in five butterfly bush (B. uddleja, Scrophulariaceae) species. Plant Biology 17(1): 245-255. https://doi.org/10.1111/plb.12176

林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447

幾留秀一. 1992. 都市型自然公園の環境とハナバチ相 ―鹿児島市城山公園における調査結果― 附.鹿児島県本土のハナバチ類改訂目録. 鹿児島女子短期大学紀要 27: 99-135. http://id.nii.ac.jp/1121/00000877/

幾留秀一. 2005. 屋久島人里地域における野生ハナバチ相の生態的研究. 鹿児島女子短期大学紀要 40: 1-20. http://id.nii.ac.jp/1121/00000469/

幾留秀一・村尾竜起. 2021. 屋久島の Lasioglossum コハナバチ属(ハチ目:コハナバチ科). Nature of Kagoshima 47: 349-354. https://journal.kagoshima-nature.org/047-060/

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

Lindstrom, J. T., Bujarski, G. T., & Burkett, B. M. 2004. A novel intersectional Buddleja hybrid. HortScience 39(3): 642-643. https://doi.org/10.21273/HORTSCI.39.3.642

溝田浩二・遠藤洋次郎・宮川歩. 2008. 宮城教育大学バタフライガーデンのチョウ類. 宮城教育大学環境教育研究紀要 10: 33-42. http://id.nii.ac.jp/1138/00001005/

Wu, Z. Y., & Raven, P. H. 1996. Flora of China. Vol. 15 (Myrsinaceae through Loganiaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. 387pp. ISBN: 9780915279371

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