ヘクソカズラとハマサオトメカズラの違いは?変種・品種は?悪臭の成分は?花は小型ハナバチ専用だった!?果実は鳥が大好き?

アカネ科
Paederia scandens

ヘクソカズラとハマサオトメカズラはいずれもアカネ科ヘクソカズラ属でつる性の草本です。葉などをつぶすと、強い悪臭を放つ点が有名ですが、2種の葉の全体的な形は似ており、花は全く同じです。分類が混乱していることも相まって、混同されることがあるかもしれませんが、葉の光沢や毛を確認すれば区別できます。ハマサオトメカズラはヘクソカズラの1変種で他にも多数の変種・品種が知られています。悪臭の成分はメタンチオールで身を守るアレロパシーとして働きます。花は白色と中心部の紅紫色の対比が印象的な筒状花で、その小さな筒にはほぼ100%ハナバチがやってきて、特にコハナバチ科を中心とした小型のハナバチが重要なようです。果実は核果で、球形で熟すと黄褐色になる果実は鳥が好んで食べますが、その具体的な鳥の種類に関しては不明な点が多いです。本記事ではヘクソカズラ属の分類・毒性・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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ヘクソカズラ・ハマサオトメカズラとは?

ヘクソカズラ(屁糞葛) Paederia foetida は別名ヤイトバナ(灸花)、サオトメカズラ(早乙女蔓)。日本の北海道、本州、四国、九州、琉球;東南アジアに広く分布し、林縁や藪に生えるつる性多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。町中でもよく見かけます。米国南部とハワイに帰化し外来種として問題になっています(Liu et al., 2006)。

ハマサオトメカズラ(浜早乙女蔓) Paederia scandens var. maritima は日本の本州、四国、九州、奄美に分布し、海岸に生えるつる性多年草です。

和名は葉などをつぶすと、強い悪臭を放つことから「屁糞かずら」の意味で名付けられたもので、元々は「屁臭(へくさ)」だったものが転訛したともいわれています。

いずれもアカネ科ヘクソカズラ属でつる性の草本です。ただし一部木質化することがあります。葉が全縁の狭卵形~広卵形で、花は鐘形で、先は浅く5裂して中心部が毛深く紫色である点は完全に同じで似ています。分類が混乱していることも相まって、混同されることがあるかもしれません。

ヘクソカズラとハマサオトメカズラの違いは?

ハマサオトメカズラはヘクソカズラの海岸型であると考えられています。そのため、ヘクソカズラとハマサオトメカズラの違いはわずかしかありません。サオトメカズラはヘクソカズラの別名です。

それなのになぜ学名が異なるのかと言うと、研究者による科学的な改名が遅れているからです(異分類)。

ヘクソカズラとハマサオトメカズラは葉にのみ違いが確認されています。

ヘクソカズラでは葉は薄く、多少有毛で、光沢がないのに対して、ハマサオトメカズラでは葉は厚く、無毛で、光沢があるという違いがあります。

これらの形態は日光が強い海岸で、光を跳ね返すための典型的な適応です。

他の花などの形態では全く違いは確認されていません。

ヘクソカズラの葉上面:光沢がない
ヘクソカズラの葉下面:有毛であることが確認できる
ヘクソカズラの花
ヘクソカズラの果実

ヘクソカズラの変種・品種は?

ヘクソカズラにはこの他にも沢山の変種・品種が知られています。

ホソバヤイトバナ(コバノヤイトバナ)P. scandens var. mairei f. microphylla は葉が細く、基部が円形のものですが、葉の幅は連続的に変化していて明確には分けられません。

ビロードヤイトバナ P. scandens f. velutina は葉が長卵形で基部は心形、葉に毛の多いものですが、中間的なものもあります。

ツツナガヤイトバナ P. scandens var. longituba は葉が長卵形で基部は心形、花筒の長さが、幅の3倍以上ある型ですが、本来は品種程度のものです。ツツナガヤイトバナにもホソバヤイトバナ型、ビロードヤイトバナ型などがあり、明確に分けるのは難しいです。

アケボノヤイトバナ P. scandens f. rubescens は蕾の状態の時から、外面も内面同様に顕著な紅紫色になっているものです(淺井,1988)。

コバノヘクソカズラ P. foetida f. microphylla は宮島と金華山(岐阜県岐阜市)の2ヶ所のみに分布し、基本種のヘクソカズラに比べて葉が小型になります。ホソバヤイトバナと学名が重複していますが、別品種のようです。

サメハダヘクソカズラ P. scandens var. villosa は筆者元記載未確認。沖縄以南と台湾に分布します(Genkei, 1955)。

ホシザキハマサオトメカズラ P. scandens var. maritima f. rubrae-stellaris はハマサオトメカズラのうち、花冠の5裂した部分まで紅紫色になり、星型に着色されているように見えるものです。

以上の変種・品種の学名もハマサオトメカズラと同様に異分類状態にあり、全て同じ種類に相当しますが、正しい学名への変更が遅れています。

ヘクソカズラの悪臭の成分は?

和名の由来となった悪臭はどのような成分によるものでしょうか?

独特の悪臭成分はメタンチオール(メチルメルカプタン)で、ヘクソカズラに含まれる物質のペデロサイドが酵素によって分解されて生成される事がわかっています(藤井,2019)。

この悪臭成分は、食害を受ける害虫などから身を守るアレロパシーであると考えられています。実際、ヘクソカズラの葉が穴だらけになっている様子はあまり見かけないでしょう。

しかし、蛾の一種であるホシホウジャク・ホシヒメホウジャクの幼虫、近年日本に帰化したヘクソカズラグンバイ、ヘクソカズラヒゲナガアブラムシは本種にヘクソカズラに寄生します。何らかの対抗手段を持ち合わせているのでしょう。葉がまだらに白くなるのはヘクソカズラグンバイの寄生によるものが多いです。

ホシホウジャク成虫(参考、筆者撮影)
ホシヒメホウジャク成虫(参考、筆者撮影)
ヘクソカズラグンバイ成虫(参考、筆者撮影)
ヘクソカズラヒゲナガアブラムシ成虫(池田,2020)

花の形態は?

ヘクソカズラの花期は8〜9月(林ら,2013)。葉腋から短い集散花序を出し、灰白色の花をまばらにつけます。花冠は長さ約1cmの釣鐘状で先は浅く5裂して平開します。喉と内側は紅紫色です。内部はかなり毛深いです。

ただし上述のように花筒の長さが異なるもの、紅紫色の範囲が異なるものも知られています。

受粉方法は?

ヘクソカズラは自家不和合性があるため、自家受粉はできず、昆虫による他家受粉が不可欠です(Liu et al., 2006)。

この紅紫色が印象的な筒状の花にはどのような昆虫が訪れるのでしょうか?

奈良県で行われた研究によるとなんとハナバチ類が100%であるという顕著な結果が出ています(横井ら,2008)。

多くの植物の花ではある特定の昆虫のグループに受粉を依存しているように見えて、副次的に別グループの昆虫にも受粉してもらっていることが分かりつつあります。ところが、この事実はヘクソカズラはそうではなく、ハナバチへの依存が極めて強いということを示しています。ハナバチは蜜と花粉、両方をヘクソカズラから報酬として貰っていることが確認されています。

具体的な種類まで調べた日本の研究ではニッポンメンハナバチ Hylaeus transversalis、アカガネコハナバチ Halictus aerarius、ニッポンチビコハナバチ Lasioglossum japonicum、ヒラタチビコハナバチ Lasioglossum taeniolellum が訪れた例があります(根来,1999)。これらのハナバチは全て小型・短舌という特徴があります。

また、別の研究でもシロスジフトハナバチ Amegilla quadrifasciata とトラマルハナバチ Bombus diversus diversus が訪れた例(松村,2007)、キムネクマバチ Xylocopa appendiculata circumvolans が訪れた例があります(市川ら,2011)。こちらは比較的大型のハナバチです。ただし、穴を開けて蜜だけ吸い、受粉には貢献しない「盗蜜」である可能性が高いでしょう。

ヘクソカズラが外来種になっているアメリカ合衆国で行われた研究でもやはり約3%のチョウ目を除いて、約97%がハナバチ類が花に訪れます(Liu et al., 2006)。構成は地点によってかなりばらつきがありますが、基本的には日本と同じくコハナバチ科が多く訪れるようです。しかし、セイヨウミツバチも多く都市部では90%も占める点は日本とは異なる可能性があります。

これらの結果を総合すると花の形はコハナバチ科を中心とした小さなハナバチに最も適応しているのかもしれません。確かに花の筒のサイズは小さなハナバチが侵入するのにちょうど良い大きさであるように感じます。ヘクソカズラの雄しべと雌しべは短いので、中舌の長さを活かして遠方から蜜を吸うハナバチより、中舌が短い小さなハナバチが直接内部に侵入してくれる方が、ヘクソカズラとしては受粉しやすくありがたい存在でしょう。

花冠の紅紫色はハナバチを惹き寄せるためだと考えられます。花冠内部の毛の役割は不明ですが、ハナバチのクッションや足場になっているのかもしれません。

ただ、上述のように花のサイズが異なる変種や品種もいくつか確認されています。この事実は個体群によって受粉に頼っているハナバチ類が異なる可能性を示しています。今後この点に関して研究が進めば面白いことが分かるかもしれませんね。

果実の構造は?

ヘクソカズラ属は共通で果実は核果です。核果は種子を包む内果皮が硬化して「核」となり、核を囲む中果皮がふつう多肉質(果肉)となる果実のことです。ウメやアンズを想像すれば分かりやすいでしょう。

ヘクソカズラの核果は直径約5mmの球形。熟すと黄褐色になります。中には2個の核があり、それぞれに種子が1個ずつ入っています。

種子散布方法は?

多肉質で、熟すと黄褐色であることからも想像できるように、明らかに動物にアピールするもので、実際様々な調査から鳥散布であることが明らかになっています(唐沢,1978;高槻,2021;2023)。しかし多くは糞を調査した研究であるため、具体的にどのような鳥が好むかは明らかになってません。実験でメジロに与えたところ食べた例がある程度です(平尾ら,2021)。

ヘクソカズラの葉は冬は枯れていますが、茎は他の植物や柵などに残っており、果実は冬の間もついています。この時に樹木を訪れる鳥類が採食すると推察されています(高槻,2023)。

ヘクソカズラは果肉がついたままでは全く発芽せず、更に果肉除去種子よりも糞内種子の方が高い発芽率が高いです(唐沢,1982)。これは、単に鳥によって果肉部が除去されたこと以外に、消化作用に伴う何らかの影響、もしくは鳥の嘴でついばまれる際に種子に傷がつくなどにより発芽が促進されたことが考えられています。これは鳥が居なければヘクソカズラは生存できないことを示しています。

一方で、哺乳類であるタヌキが利用していた例が1つだけあります(高槻,2018)。ヘクソカズラの果実は非常に小さく採餌効率が悪いようにも思えますが、哺乳類の利用も稀にあるのかもしれません。

引用文献

淺井康宏. 1988. 新品種アケボノヤイトバナ. 植物研究雑誌 63(2): 54-54. https://doi.org/10.51033/jjapbot.63_2_8125

藤井義晴. 2019. ヘンな名前の植物 ヘクソカズラは本当にくさいのか. 化学同人, 京都. 244pp. ISBN:
9784759819892

Genkei, M. 1955. Enumeratio Tracheophytarum Ryukyu Insularum (VII). The science reports of the Kanazawa University 4(4): 45-134. https://doi.org/10.24517/00011478

林弥栄・門田裕一・平野隆久. 2013. 山溪ハンディ図鑑 1 野に咲く花 増補改訂新版. 山と渓谷社, 東京. 664pp. ISBN: 9784635070195

平尾多聞・平田令子・伊藤哲. 2021. メジロ体内における種子体内滞留時間に対する種子サイズの影響. 日本森林学会大会発表データベース 132: 449. https://doi.org/10.11519/jfsc.132.0_449

市川俊英・倉橋伴知・幾留秀一. 2011. 香川県で採集された訪花ハナバチ類とキムネクマバチによる新奇な授粉様式の可能性. 香川大学農学部学術報告 63(116): 43-59. ISSN: 0368-5128, http://id.nii.ac.jp/1731/00003553/

池田健一. 2020. 奈良県未記録のカメムシ目(半翅目). ニッチェ・ライフ 8: 13-18. ISSN: 2188-0972, https://media.niche-life.com/series/008/Niche008_05.pdf

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

唐沢孝一. 1978. 都市における果実食鳥の食性と種子散布に関する研究. 鳥 27(1): 1-20. https://doi.org/10.3838/jjo1915.27.1

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松村雄. 2007. ハナバチ類の生態 ―千本松牧場のハナバチ類調査を軸として―. 那須野が原博物館紀要 3(1): 1-18. https://doi.org/10.34372/nasunogahara.3.1_1

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高槻成紀. 2018. タヌキが利用する果実の特徴―総説. 哺乳類科学 58(2): 237-246. ISSN: 0385-437X, https://doi.org/10.11238/mammalianscience.58.237

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横井智之・波部彰布・香取郁夫・桜谷保之. 2008. 近畿大学奈良キャンパスにおける訪花昆虫群集の多様性. 近畿大学農学部紀要 41: 77-94. ISSN: 0453-8889, http://id.nii.ac.jp/1391/00005214/

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