シソ(紫蘇)・エゴマ(荏胡麻)・レモンエゴマの違いは?似た種類の見分け方を解説

植物
Perilla frutescens var. crispa 'Discolor'

シソ・エゴマ・レモンエゴマはいずれもシソ科シソ属に含まれ、独特の匂いや味を持つ一年草です。特にシソとエゴマは古代から栽培され、現代では梅干しやドレッシングを中心に利用され、日本人には極めて身近な植物であると言えるでしょう。しかし、シソとエゴマは交雑しやすく、中間的な個体が多く区別に迷うことは多いでしょう。「レモンエゴマ」という名前もエゴマと混同しやすいです。しかし、生息地に加えて、茎の毛の状態や苞の形に着目するとシソ・エゴマとレモンエゴマは区別できるでしょう。シソとエゴマの違いは含まれている成分の違いが最も大きく、葉の状態や果実の大きさなども異なります。ただ、個体によっては明確な区別は難しいかもしれません。利用方法もその成分の違いからシソは葉を直接食用にしますが、エゴマは日本国内では「エゴマ油(シソ油)」として利用されてきました。本記事ではシソ属の分類と利用方法について解説していきます。

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シソ・エゴマ・レモンエゴマとは?

シソ(紫蘇) Perilla frutescens var. crispa は中国中南部また日本原産の一年草です(RBG Kew, 2023)。日本では縄文時代の遺跡で種子が見つかっている他、平安時代の文献に記述があり古代から利用されていきました(村上,2023)。食用に栽培されているものが頻繁に逸脱し、農耕地周辺や山麓、丘陵地の道端や林縁などの半陰地で野生化しています(神奈川県植物誌調査会,2018)。アオジソの葉は「大葉(おおば)」の名前で販売されています。

エゴマ(荏胡麻) Perilla frutescens var. frutescens はヒマラヤ・東アジア・東南アジア・南アジアに分布し、東南アジア原産ともされる一年草です。日本では縄文時代の遺跡で種子が見つかっている他、飛鳥時代の木簡にも記述があることから古代から利用されてきました(村上,2021)。食用に栽培されているものが山地~丘陵地の麓の林道、農道脇などに逸出しています(神奈川県植物誌調査会,2018)。

レモンエゴマ(檸檬荏胡麻) Perilla citriodora は日本の本州(関東地方以西の太平洋側)、四国、九州に分布し、シイ・カシ帯上部~ブナ帯下部の林縁に生える一年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。

いずれもシソ科シソ属に含まれ、独特の匂いや味を持つ一年草です。

分類学上は萼は唇形で上唇は3裂、下唇は2裂し、花冠は明らかに唇形で、葯は2室である点、1年草で、分果は表面に網目模様がある点が重要です。

特にシソとエゴマは古代から栽培され、現代では梅干しやドレッシングを中心に利用され、日本人には極めて身近な植物であると言えるでしょう。

しかし、シソとエゴマは分類学上は同種で変種の関係にあることから交雑しやすく、中間的な個体が多く区別に迷うことは多いでしょう。

またレモンエゴマという名前はまるで外来種のように思える上に、エゴマと混同しやすいネーミングとなっています。

これらのことから混同されやすい3種となっています。

シソ・エゴマとレモンエゴマの違いは?

まず、3種はシソ・エゴマとレモンエゴマに大別できます(神奈川県植物誌調査会,2018)。

シソとエゴマでは茎の中下部には短毛、縮れた長毛が疎生し、苞は緑色か紅紫色で、苞は卵形~広卵形で横に広い楕円形のものが出ることはありません。

それに対して、レモンエゴマでは茎の中下部には下向きの短毛が密生し、苞は白色で、花序の下部の苞は横に広い楕円形となるという違いがあります。

「苞」というのは分かりにくいかもしれませんが、ここでは花や果実を下から包むように存在している葉のような構造のことです。シソ属はかなり目立ちます。特にレモンエゴマでは横に広い楕円形になる関係から殆ど花や果実を覆うように存在しています。

染色体の数からシソ・エゴマは栽培種であるとされるのに対して、レモンエゴマは野生種であるとされています。「レモンエゴマ」というネーミングに対して意外にも野生種なのです。あくまでレモンのような匂いがすることから名付けました。

そのため、生息地としてもシソとエゴマは人里に近い場所にも生えていますが、レモンエゴマは普通やや標高が高く自然度の高い山地に生えています。この点も抑えておきましょう。

なお、別種のトラノオジソ Perilla hirtella は葉身の基部まで鋸歯があることで、セトエゴマ Perilla setoyensis は花が白く萼に毛があることで区別されます。

レモンエゴマの葉上面
レモンエゴマの葉上面
レモンエゴマの茎:未熟果を包む苞はかなり大きい、茎は毛が多い
レモンエゴマの未熟果

シソとエゴマの違いは?

シソとエゴマの区別は思っている以上に難しいです。それは分類学上は同種で変種の関係にあることから交雑しやすく、中間的な個体が多いためです。

最も基本的な違いは「含有成分」やそれに由来する「匂い」にあります。

シソはペリルアルデヒドを含んでおり(精油では約55%)、梅干しを食べる時に感じる匂いがあるのに対して、エゴマはペリラケトンやエゴマケトンを含んでおり、やや不快な匂いがあります。

そのためアレロパシーがあり、他の植物の生長を抑制する作用や殺菌作用があります(Komai et al., 1989)。シソではこの作用から漬物に利用されます。

ただこれだけだと生きてる植物体の匂いを直接嗅ぐ必要があり、少し不便です。

形態的にもいくつか違いが確認されています。

シソでは葉身は膜質で縮れるか平らで紅紫色か緑色で、萼は果時に長さ5~6mm、分果は長さ0.7~1.5mmであるに対して、エゴマでは葉身はやや厚い膜質で平らでふつう緑色、萼は果時に長さ8~9mmで、分果は長さ1.5~2mmです。

したがって、明らかに赤みが強い場合はシソであると判断できるでしょう。

しかし、上述のように交雑するため、上記の特徴にあてはまらないものが多く見られ、中間的な匂いや形をしたものが多く確認されています。匂いはエゴマとシソの中間的な匂いのもの、ほとんど匂わないもの、レモンエゴマに近いがやや青臭い匂いのものなどが知られています。

そのため、栽培個体以外はどちらであるか断言できるものは少ないかもしれません。

チリメンジソの葉上面:しわがある、仮にチリメンジソとしているが、明らかにシソの雑種(エゴマではない)
チリメンジソの葉下面
エゴマの葉:葉身はやや厚い膜質で平らでふつう緑色
エゴマの花|By Dalgial – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5645058

シソとエゴマの用途の違いは?

シソとエゴマではどちらも食用に利用されることがある点は同じですが、用途に違いがあります。

シソはペリルアルデヒドの味によって、葉・若芽・花穂・果実がそのまま食用されることが多く、主に刺身や手巻き寿司、冷奴などの料理の香味付けや彩りなどの添え物、魚の臭み消しなどに使われます

料理としては、柴漬け・梅干しが代表的で、しそドレッシング・しそふりかけ・しそジュースなども販売されています。

一方、エゴマはペリラケトンやエゴマケトンがあるため、そのまま食べるよりも精油され、エゴマ油として利用される方が有名です。日本では平安時代までは灯火用としても使われ、ナタネ油が普及するまでは最も一般的に利用されてきました。ナタネ油が普及した後は一度利用は下火になりましたが、必須脂肪酸の一種であるα-リノレン酸が多く含まれていることから、再評価され現在ではかなり市場でも見かけるようになりました。「シソ油」という名前で販売されることもありますが、普通はシソではなくエゴマ油そのものです。α-リノレン酸は心血管疾患予防や抗うつ作用があるとされ研究が進んでいます。

朝鮮では葉がサムギョプサルで利用され、サンチュなどと同様に肉や漬けた食品をエゴマの葉で包んで食べます。エゴマ油は「チャソオイル」と呼ばれ、日本より昔から利用されています。

シソの品種は?

シソにはいくつか品種が知られています。

アカジソ Perilla frutescens var. crispa f. purpurea は葉が浅い鋸歯をもち皺がなく、赤紫色の品種です。

アオジソ Perilla frutescens var. crispa f. viridis は葉が浅い鋸歯をもち皺がなく、緑色の品種です。

マダラジソ Perilla frutescens var. crispa f. rosea は葉が浅い鋸歯をもち皺が少なく、葉上面が緑色で葉下面が赤紫色の品種です。

チリメンジソ Perilla frutescens var. crispa f. crispa は葉が深い鋸歯と皺をもち、赤紫色の品種です。

チリメンアオジソ Perilla frutescens var. crispa ‘Viridi-crispa’ は葉が深い鋸歯と皺をもち、緑色の品種です。

カタメンジソ Perilla frutescens var. crispa ‘Discolor’ は葉が深い鋸歯と皺をもち、葉上面が緑色で葉下面が赤紫色の品種です。

ただし、この区分は連続的で明確な区別は難しいところです。入り混じった明らかな雑種もあります。

チリメンアオジソの葉上面
チリメンアオジソの葉下面
チリメンアオジソの若葉
チリメンアオジソの花
カタメンジソの葉上面
カタメンジソの花

引用文献

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

Komai, K., Hamada, M., Iwamura, J., & Shindo, T. 1989. Allelopathic substances in egoma, Perilla frutescens var. japonica. Memoirs of the Faculty of Agriculture of Kinki University 22: 23-29. https://kindai.repo.nii.ac.jp/records/4989

村上守一. 2021. 表紙について エゴマ. 富薬 43(11): 28. https://www.tomiyaku.or.jp/file_upload/100809/_main/100809_02.pdf

村上守一. 2023. 表紙について シソ. 富薬 45(9): 24. https://www.tomiyaku.or.jp/file_upload/101122/_main/101122_02.pdf

RBG Kew. 2023. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/

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