ヤマツツジとレンゲツツジの違いは?似た種類の見分け方を解説!蝶を呼ぶことに特化したはずの花にはマルハナバチも不可欠だったことが研究で判明!

植物
Rhododendron kaempferi var. kaempferi

ヤマツツジは日本の野生ツツジの代表種で、レンゲツツジは毒性がある種類として有名です。いずれもツツジ科ツツジ属で、赤い野生のツツジとして代表的な種類のため、迷うことがあるかもしれませんが、葉の形の花の付き方を確認すれば区別できます。これら2種の花はツツジ属共通のチョウに花粉が付きやすくなる特徴に加えて、真っ赤になることでチョウへの特化を行っています。しかし、研究が進み近年ではマルハナバチもやってきて、受粉に重要な役割を持っている可能性が指摘されつつあります。本記事ではヤマツツジ・レンゲツツジの違い、花の受粉生態について解説していきます。

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野生のツツジの代表種

ヤマツツジ(山躑躅) Rhododendron kaempferi var. kaempferi は北海道南部、本州、四国、九州に分布し、低山地の疎林内、林縁、日当たりのよい尾根筋、草原などに生息する半常緑低木です(西田,2000;茂木ら,2003)。日本の野生ツツジでは分布域が最も広く、酸性土壌に向くツツジの一種で、日本の野生ツツジの代表種です。春に出て秋に落葉する春葉と、夏から秋に出る夏葉とがあり、夏葉の多くは越冬するという特徴を持ち、この点は少し変わっています。

レンゲツツジ(蓮華躑躅) Rhododendron molle subsp. japonicum(シノニム:Rhododendron japonicum)は北海道南西部、本州、四国、九州に分布し、高原の放牧地や湿原など、冷涼で日当たりのよいところに群生する落葉低木です。毒性があり、花にロドジャポニン、葉にアンドロメドトキシン、根皮にスパラソールを含むことが知られています。

いずれもツツジ科ツツジ属で、赤い野生のツツジとして代表的な種類のため、区別に迷う場合があるかもしれません。

ヤマツツジ・レンゲツツジ・オオヤマツツジの違いは?

しかしこの2種は以下のように区別できます。

まず、ヤマツツジにはオオヤマツツジ Rhododendron transiens という近縁種がいますが、ヤマツツジは雄しべが5本なのに対して、オオヤマツツジは雄しべは10本(ときに6~9本)であることから簡単に区別が付きます(神奈川県植物誌調査会,2018)。

ヤマツツジとレンゲツツジについては、ヤマツツジは葉は整った卵形~楕円形で両面に褐色の毛がやや多いという特徴を持つのに対して、レンゲツツジは特に細長い葉をもち、葉先が丸いヘラ形で、表面はシワが目立つという特徴を持っているのでこちらも簡単に区別が付きます(林,2014)。ただしレンゲツツジの若い葉は葉先が尖るものもあるようです。

ヤマツツジの春葉上面
ヤマツツジの春葉下面
ヤマツツジ幼木の春葉
ヤマツツジの樹皮
ヤマツツジの花
ヤマツツジ幼木の花:個体差かやや色が薄い
レンゲツツジの花|By ‘Uncle Carl’ (カールおじさん). – ‘Kusabana Photo Studio’ (草花写真館) / kusabanaph.web.fc2.com, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1060902

他に似た種類はいる?

ツツジ属は極めて膨大なグループで花の形はそっくりであるため他にも迷う種類がいるかもしれません。

他のツツジ属については別記事を御覧ください。

クルメツツジとヤマツツジはやや似ますが、クルメツツジは植栽のみで黄色い短毛が多いのに対して、ヤマツツジは自生するものが普通で白い長毛があるという違いがあります。

日本の自然下で見られる真っ赤な花

ヤマツツジやレンゲツツジの花は真っ赤で、この2種の最大の特徴です。日本の山でこれほど赤い花を持つ種類は少ないでしょう。

ヤマツツジやレンゲツツジともにツツジ科ツツジ属なので花の基本構造は同じです。花冠は漏斗形で、合弁花なので根本はくっつき、5裂して、見かけ上5枚に見えます。萼も5裂します。雄しべは5本で、雌しべは1本が雄しべより長く突き出ています。

蜜はどこにあるのでしょうか?少しわかりにくい場所にあります。花冠(花びら)上側の裂片には1本の筋があることが外側から観察すると分かります。この筋の断面はΩ状の形をしていて、つまり管になっているのです(田中,2001)。この管は裂片がより合わさって皺となって形作られています。この管の奥に蜜があるのです。

つまり蜜を吸うためには管を通すための、とても細長くて長い口を持っている必要があります。このような昆虫は非常に限られることになるでしょう。

ヤマツツジでは4〜6月に咲き、花の色は基本的には朱色で、花冠上側の裂片には濃色の斑点があります。

レンゲツツジでは5~6月に咲き、花は2~8個横向きに輪状に並ぶことが多く、このことがレンゲ(ゲンゲ)の花の形に似ていることが名前の由来となっています。花の色は濃淡には差があるものの、基本的には朱橙色となっています。花冠上側の裂片には橙黄色の斑点があります。

この2種は微妙な差異はあるものの、花についてはかなり類似しており、基本的な生態は類似していることが予想されます。

ツツジ科の花はチョウ専門

ヤマツツジやレンゲツツジを含むツツジ属の仲間の花は園芸種も多く、馴染み深いため、逆に特別な特徴の無い花、という印象を持つかもしれません。しかし、雄しべと雌しべを長く前方に突き出し、花びらに細い管を持つ点は明らかに自然界では特別な構造であると言えます。また、園芸種に用いられるということはつまり、他の植物に比べて鮮やかな花の色をしているということです。このような花にはどのような昆虫がやってくるのでしょうか?

これらの植物には基本的にはチョウの仲間、特にアゲハチョウの仲間がやってくると考えられています(田中,2001)。

アゲハチョウは非常に長い口吻をもっており、普通の花では蜜だけを盗まれて、雄しべや雌しべに接触しないため、受粉に貢献してもらえません。そこで、対抗するように蜜までの管や雄しべや雌しべを長くして、アゲハチョウの体に接触しやすくしているのです。

雄しべには他の植物にはない、特別な工夫がなされています。雄しべの先端には褐色の小さなツボ(葯)が二個並んでいます。葯には蓋がなく白い花粉が見えているのです。

人間がその花粉をとがったピンセットでつまみだすと、沢山の花粉が繋がって、するすると出てきます。これは「粘着糸」と呼ばれる糸で花粉が繋がったものです。

アゲハチョウが蜜目当てに花にやってくると、体が葯の先から少し見えている白い花粉に接触し、そこから粘着糸によって、するすると花粉の塊が出ていき、アゲハチョウの体に花粉が張り付き、花粉が受け渡されます。

そんなにうまく雄しべに接触するのかな?と感じるかもしれませんが、この点も一工夫されています。花冠は大きくラッパのように開いていますが、こうすることで花冠を足場にできないようになっています。一方、雄しべと雌しべは上方にせり上がり、蜜までの管の入り口の下方に配置されています。これにより、蜜を吸うためには必ず雄しべを足場にしなければならないようになっています。

また、鮮やかな色もチョウへの特化です。特にヤマツツジやレンゲツツジの赤色は特別な意味を持っています。あまり知られていませんが、花に訪れる昆虫の中で赤色が見えるのはチョウなどごく一部のみで、ハナバチは赤が認識できません。そのため、ヤマツツジはチョウを強く引き寄せるのです。

花びらにある濃色や橙黄色の斑点についても「蜜標」と呼ばれ、蜜へ続く花びらの管への入り口をわかりやすくしていると考えられています。

具体的な種類としてはヤマツツジではジャコウアゲハ Atrophaneura alcinous alcinous やナミアゲハ Papilio xuthus(横川・堀田,1995)、ウスバシロチョウ Parnassius glacialis やミヤマカラスアゲハ Papilio maackii の記録があります(Takahashi & Itino, 2017)。

ジャコウアゲハの雌雄成虫(参考写真)
ナミアゲハの成虫(参考写真)

レンゲツツジではミヤマカラスアゲハ Papilio maackii の記録があります(Takahashi & Itino, 2017)。

ただ、これらは高山地帯での記録なので平地ではもっと一般的なアゲハチョウの仲間が訪れている可能性が高そうです。

マルハナバチもやってくるがヤマツツジには望まれていない?

このようにチョウに特化したヤマツツジやレンゲツツジですが、全く別の昆虫もやってくることが確認されています(田中,2001)。

それはマルハナバチです。マルハナバチの口の長さは様々ですが、トラマルハナバチのような種類は口が長く、ぎりぎりヤマツツジの管の奥まで届くようです(田中,1997)。また、色については紫外線色も反射しているため、赤の見えないマルハナバチでも花を確認することができるようです(田中・平野,2000)。

口がチョウほど長くないとはいえ、きちんと雄しべと雌しべの上に乗ってくれるので問題なく受粉はしてくれそうです。しかしヤマツツジにとってはマルハナバチは好ましくないという説があるのです。それはなぜでしょうか?

マルハナバチは効率的に近くの花を順番に訪れていきます。そのため隣にある自分の花にまた訪れてしまう可能性が高いのです(隣花受粉)。そうすると自家受粉が発生して、遺伝的な多様性を持つことが出来ません。一方、チョウはふらふらと飛び回り、比較的ばらばらの個体の花に訪れるため遺伝的な多様性を保つことが出来るのです。

と思いきや、やっぱりマルハナバチも必要?

しかし、本当にヤマツツジ(およびレンゲツツジ)はマルハナバチには依存していないのか?という点を更に調べた信州大学の研究が、2017年に発表されました(Takahashi & Itino, 2017)。この研究は長野県の中部山岳地帯で行われました。長野県の山岳地帯は長野県が国内では北部にあることに加え、山岳地帯であることから気温が低いという特徴があります。

このような地点では低温への耐性の関係から、チョウの多様性は低く、マルハナバチの多様性が高くなっています。しかし、ヤマツツジとレンゲツツジはこの地点でも普通に見られる種類です。このような地点ではどちらの方が多く花に訪れているのでしょうか?

このことを知るためにこの研究では花にやってくる昆虫、花蜜の糖度(昆虫によって好きな蜜の糖度が違う)が調べられました。

その結果、ヤマツツジにはコマルハナバチ Bombus ardens とトラマルハナバチ Bombus diversus の2種が、レンゲツツジにはコマルハナバチとトラマルハナバチとオオマルハナバチ Bombus hypocrita の3種がチョウよりも多い頻度で現れていました。また、マルハナバチは花粉を体中に纏っていました。

モチツツジに訪花するコマルハナバチの雄成虫(参考写真)
キレンゲショウマに訪花するトラマルハナバチの成虫(参考写真)

花蜜の糖度はヤマツツジでは51~54%、レンゲツツジでは30~45%でした。マルハナバチが好む糖度は30~55%、チョウが好む糖度は17~40%ですので、ヤマツツジではマルハナバチ好みの糖度となっており、レンゲツツジでは両方をカバーする糖度でした。

これらの結果から長野県の山岳地帯ではマルハナバチが思った以上に受粉において重要な役割を持っている可能性が高そうです!

これはヤマツツジの花の柔軟さを示す結果です。元々チョウで受粉するために進化した花の形だと思われますが、山岳地帯でマルハナバチで受粉できるように何らかの変化を起こした可能性があります。どのように隣花受粉を回避しているのかについても分かっていません。今後研究が進めば更に詳しいことがわかってくるかもしれませんね!

なお、花蜜の糖度についてはかなりばらつきが大きく、開花後、急激に糖度が増えていくことも報告されており、このデータを見る際には注意する必要があるかもしれません。この点も謎として残されています。

果実は蒴果で種子は風散布される

果実はツツジ属共通で蒴果です。蒴果は一般に果皮の鞘が破れて内部の種子が飛び散っていきます。

ヤマツツジの蒴果は卵形で、先は狭まり、褐色の扁平な毛があります。8〜10月に熟し、裂開します。

レンゲツツジの蒴果は長さ2~2.5cmの円柱形、褐色の剛毛が密生します。種子は長さ約2mm、翼があり、基部の付属片には鋸歯があります。

ツツジ属の蒴果は特別な構造はありませんが、種子が非常に小さいことと、翼がある場合があることから単に重力散布だけではなく、風散布も行うと考えられていて、熟して裂開した果実から種子が飛んでいきます(小林,2007)。

引用文献

林将之. 2014. 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類. 山と溪谷社, 東京. 759pp. ISBN: 9784635070324

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

小林正明. 2007. 花からたねへ 種子散布を科学する. 全国農村教育協会, 東京. 247pp. ISBN: 9784881371251

西田尚道. 2000. 日本の樹木. 学研プラス, 東京. 256pp. ISBN: 9784054011199

Takahashi, K., & Itino, T. 2017. Visitation frequencies of bumblebees and swallowtail butterflies to flowers and the nectar sugar concentration of Rhododendron kaempferi and R. japonicum in mountains of central Japan. Journal of Pollination Ecology 21: 92-97. ISSN: 1920-7603, https://doi.org/10.26786/1920-7603(2017)438

田中肇. 2001. 花と昆虫、不思議なだましあい発見記. 講談社, 東京. 262pp. ISBN: 9784062691437

田中肇・平野隆久. 2000. 花の顔 実を結ぶための知恵. 山と渓谷社, 東京. 191pp. ISBN: 9784635063043

茂木透・高橋 秀男・勝山 輝男・石井英美. 2003. 樹に咲く花 合弁花・単子葉・裸子植物. 山と溪谷社. 東京, 719pp. ISBN: 9784635070058

横川水城・堀田満. 1995. 西南日本の植物雑記 II. 霧島山系におけるミヤマキリシマ、キリシマツツジ、ヤマツツジ諸集団の形質変異. 植物分類、地理 46(2): 165-183. ISSN: 0001-6799, https://doi.org/10.18942/bunruichiri.KJ00001079099

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