ホタルブクロとヤマホタルブクロの違いは?ツリガネソウとの違いは?花・果実の構造は?ホタルが入るほど長い花に来るのはマルハナバチだけ!?種子は海をも超えていく!?

キキョウ科
Campanula punctata var. punctata f. rubriflora

ホタルブクロとヤマホタルブクロはいずれもキキョウ科ホタルブクロ属の多年草で、日本では野草としても栽培種としても非常に身近な植物です。分類上は同じ種類に含まれており、変種レベルの違いです。花冠が壺状で白色~赤紫という特徴も全く同じで区別が難しいですが、萼片の間で反り返る付属片を確認することで確実に区別することができます。「カンパニュラ」、「ツリガネソウ」とも呼ばれるフウリンソウとは花の向き、形が全く異なります。壺状の花の中にやってくるのはホタルではなく、殆どがトラマルハナバチというハナバチ1種類のみです。内部には毛が生えており、これを足場にして侵入したときに背中に花粉がついたり、雌しべの柱頭に触れて受粉します。果実は蒴果で熟すると塵のように小さな種子を零し、風に乗せて分散します。中には海を超えるものもあります。本記事ではホタルブクロとヤマホタルブクロの分類・形態・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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ホタルブクロ・ヤマホタルブクロとは?

ホタルブクロ(蛍袋) Campanula punctata var. punctata は日本の北海道(南西部)、本州、四国、九州;朝鮮、中国に分布し、低地~山地までの草原や林縁、明るい林床、崩壊裸地、石垣などに生える多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。比較的低地を好みます。市街地でも生え、観賞用に栽培されています。

ヤマホタルブクロ(山蛍袋) Campanula punctata var. hondoensis は日本の本州(東北地方南部~近畿地方)に分布し、丘陵地や山地に生える多年草です。比較的高地を好みます。

和名は子どもが本種の袋のような花にホタルを入れて遊んだことに由来するとする説と、「火垂る袋」で提灯を意味するとする説があります。

いずれもキキョウ科ホタルブクロ属の多年草で、日本では非常に身近な植物です。野草として生える他、特にホタルブクロは観賞用に栽培もされているため、都市部でも見かける機会が多いです。しかし、ヤマホタルブクロとの区別は難しいかもしれません。ホタルブクロとヤマホタルブクロは分類上は同じ種類に含まれており、変種レベルの違いです。花冠が壺状で白色~赤紫という特徴も全く同じですし、葉の形に違いは発見されていません。

ホタルブクロとヤマホタルブクロの違いは?

ホタルブクロとヤマホタルブクロの違いはわずかではありますが、花が咲く時期であればきちんと区別することができます。

具体的には、ホタルブクロでは萼裂片の間に反り返る付属片があるのに対して、ヤマホタルブクロでは萼裂片の間に反り返る付属片がないという違いがあります。

この「反り返る付属片」という表現は様々な図鑑でなされていますが、分かりにくいかもしれません。言い換えると、萼片(萼の1枚1枚のこと)と萼片の間に反り返った部分が存在しているということです。

写真で見れば明らかなので萼の形をよく確認してみてください。

また、他にもホタルブクロでは種子にほとんど翼がないのに対して、ヤマホタルブクロでは種子に狭い翼があります。

この点を観察するのは難しいでしょうが、時間があれば見てみると面白いでしょう。

なお、生息地に関してはホタルブクロでは比較的低地に多く、ヤマホタルブクロでは比較的高地に多いという違いはありますが、分布が被ることは多いので参考程度に留めておりましょう。市街地で栽培されている個体の多くはホタルブクロであると考えて良いと思われますが、形態の確認をした方が確実です。

ホタルブクロの葉
ホタルブクロの花:萼片の間の反り返りあり
ムラサキホタルブクロの葉上面
ムラサキホタルブクロの葉下面
ムラサキホタルブクロの花:萼片の間の反り返りあり
シロバナヤマホタルブクロの花:萼片の間の反り返りなし
シロバナヤマホタルブクロの花の内部

ホタルブクロの品種は?

ホタルブクロ類にはいくつか品種が知られています。

ホタルブクロには花に斑がないフナシホタルブクロ f. inpunctata、葉に光沢があるテリハホタルブクロ f. lucida、花が紫色のムラサキホタルブクロ f. rubriflora があります。

ヤマホタルブクロには花が白色のシロバナヤマホタルブクロ f. albiflora があります。

ホタルブクロとヤマホタルブクロの花の色はどちらも白色~赤紫と変異が確認されていますが、ホタルブクロでは原種が白色、ヤマホタルブクロでは原種が紫色とされているので、少しややこしいことになっています。これは科学的に記載された順番が関係しています。

他にも別種ですが、伊豆諸島ではシマホタルブクロ Campanula microdonta、竹島ではタケシマホタルブクロ Campanula takeshimana も知られています。

カンパニュラ・ツリガネソウとの違いは?

園芸では「カンパニュラ」としてフウリンソウ(ツリガネソウ)Campanula medium など様々な外来種が栽培され、今回は全ての紹介は省略しますが、花冠はホタルブクロ類のように袋にできるほど長いものはなく、横~上を向くものが多いので普通は簡単に区別できます。

フウリンソウの葉と花

花の構造は?

ホタルブクロ属の花は基本的に花冠が鐘形です。しかしその中でもホタルブクロは下を向き、細長く、形は壺状に近いという点で特徴的です。

ホタルブクロは茎の上部に穂状に数個、下向きに花をつけます(Wu et al., 2011)。花冠は長さ3~6.5cm、大きな釣鐘形、先が浅く5裂し、赤紫色または白色、内面に斑点があり、長毛が密生します。雄しべ5個。雄しべ先熟、蕾の中で花粉を出します。雌しべの花柱に花粉をつけて開花し、開花後に柱頭を開きます。萼は5裂し、萼片は狭い長三角形、萼片の間の湾入部分に反り返った付属片があり、縁に毛が多いです。

ヤマホタルブクロは花冠は長さ4~5cmで、他はホタルブクロとほぼ同じですが、萼片の間に反り返った付属片はありません。

受粉方法は?

ホタルブクロの本州に分布する個体群の大部分は自家不和合性を持っています。そのため昆虫による他家受粉が不可欠です。しかし、和名の由来通りホタルが自然に入ってくることはありません。

ホタルブクロには本州の低地ではトラマルハナバチ Bombus diversus diversus のみが訪れることが分かっています(Inoue & Amano, 1986; Kobayashi et al., 1999; 田中,2001;Nagano et al., 2014)。

トラマルハナバチ(参考写真、筆者撮影)

ホタルブクロの花は「雄性先熟」という性転換の一種を行い、性的な役割を時間的にオス→メスに変化させます(田中,2001)。蕾の段階では雄しべを成熟させていますが、開花すると雄しべの花粉を雌しべの花柱についている集粉毛に一度移します。こうして花粉を雌しべに集約してハナバチに渡す準備を行うのです(雄性期)。このように花粉の移動を行う花は珍しいでしょう。

やってきたハナバチは蜜腺を求めて、花冠内部に生えている毛を足場にして、花冠の奥に侵入します。このとき中央にある花粉がついてる雌しべの花柱が背中に接触し、ハナバチに送粉してもらうことになります。

3日ほどで花粉はなくなり雄性期が終了すると、雌しべの先(柱頭)が3つに割れ雌性期に移ります。

ハナバチは同様に蜜腺を求めて花冠内部の奥に侵入しますが、今度は侵入するときに、ハナバチの背中が反り返った柱頭に接触し、別個体の花粉を受け取り、受粉することになります。

ホタルブクロの花(雄性期)にやってくるハナバチの送粉方法
Nagano et al. (2014): Figure 2 より引用

本州では訪花昆虫はトラマルハナバチだけですが、興味深いことに、トラマルハナバチが少ない、または居ない本州中部の山岳地帯ではヒメマルハナバチ Bombus beaticola beaticola がやってきます(Nagano et al., 2014)、

また、シマホタルブクロ Campanula microdonta というホタルブクロから進化した種類が分布する伊豆諸島の大島ではコマルハナバチ Bombus ardens ardens やコハナバチ科の仲間が、新島・小豆島・八丈島ではコハナバチ科の仲間のみがやってくることも分かっています(Inoue & Amano, 1986)。

これに伴い、花のサイズもこれらのハナバチのサイズに適応するように変化しています。さらにシマホタルブクロでは自家不和合性も減少し、自家受粉が可能になっています。これは訪花昆虫がやってこないリスクをケアしたものであると考えられるでしょう。様々な植物で確認されている訪花昆虫に伴った花の小進化がホタルブクロでも確認されたことになります。辺境の地でも受粉を可能にするホタルブクロ類の柔軟さを示していると言えるでしょう。

果実の構造は?

ホタルブクロ属の果実は共通で蒴果です。蒴果は乾いた果実(乾果)の一種で、一つの果実が複数の癒着した袋状果皮からなります。

ホタルブクロの蒴果は鐘形または逆円錐形で、種子は灰褐色、平滑、長さ約1mmの惰円形です。

ヤマホタルブクロの蒴果はホタルブクロとほぼ同じですが、種子には狭い翼があります。

種子散布方法は?

蒴果は乾燥すると内部から種子を零し、少なくとも重力散布は行われるものと思われます。

しかし、ヤマホタルブクロでは翼がある点は興味深いでしょう。もしかしたらヤマホタルブクロでは風散布により適応しているのかもしれません。ただどちらも塵状で非常に小さく風の影響はそもそも受けやすいので誤差レベルである可能性もあります。

ヤマホタルブクロでは記録はありませんが、シマホタルブクロやタケシマホタルブクロでは風散布や水流散布であることが指摘されています(Oiki et al., 2001; Cheong et al., 2020)。タケシマホタルブクロの祖先では風に乗って海を超えた長距離種子散布が行われたようです。

引用文献

Cheong, W. Y., Kim, S. H., Yang, J., Lee, W., Pak, J. H., & Kim, S. C. 2020. Insights from chloroplast DNA into the progenitor-derivative relationship between Campanula punctata and C. takesimana (Campanulaceae) in Korea. Journal of Plant Biology 63: 431-444. https://doi.org/10.1007/s12374-020-09281-3

Inoue, K., & Amano, M. 1986. Evolution of Campanula punctata Lam. in the Izu Islands: changes of pollinators and evolution of breeding systems. Plant Species Biology 1(1): 89-97. https://doi.org/10.1111/j.1442-1984.1986.tb00018.x

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

Kobayashi, S., Inoue, K., & Kato, M. 1999. Mechanism of selection favoring a wide tubular corolla in Campanula punctata. Evolution 53(3): 752-757. https://doi.org/10.1111/j.1558-5646.1999.tb05369.x

Nagano, Y., Abe, K., Kitazawa, T., Hattori, M., Hirao, A. S., & Itino, T. 2014. Changes in pollinator fauna affect altitudinal variation of floral size in a bumblebee-pollinated herb. Ecology and Evolution 4(17): 3395-3407. https://doi.org/10.1002/ece3.1191

Oiki, S., Kawahara, T., Inoue, K., Ohara, M., & Maki, M. 2001. Random amplified polymorphic DNA (RAPD) variation among populations of the insular endemic plant Campanula microdonta (Campanulaceae). Annals of Botany 87(5): 661-667. https://doi.org/10.1006/anbo.2001.1389

田中肇. 2001. 花と昆虫、不思議なだましあい発見記. 講談社, 東京. 262pp. ISBN: 9784062691437

Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. eds. 2011. Flora of China. Vol. 19 (Cucurbitaceae through Valerianaceae, with Annonaceae and Berberidaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781935641049

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