トケイソウとパッションフルーツ(クダモノトケイソウ)の違いは?似た種類の見分け方を解説!「時計」のような花が好きなのはクマバチだった!?果実は本当は鳥が食べていた!?

植物
Passiflora caerulea

トケイソウとパッションフルーツ(クダモノトケイソウ)はいずれもトケイソウ科トケイソウ属のつる性常緑多年草で、南米原産です。日本では観賞用として町中で見つけることができます。しかしその違いについてはよく知られていないかもしれません。トケイソウとパッションフルーツは種としては全く別物です。具体的には葉・花・果実全てにその違いが現れています。花の構造は名前の通り時計のようでかなり複雑ですが、中でも放射状に生える雄しべと雌しべと「糸状の小花冠」の存在はトケイソウ属を特徴づける構造です。糸状の小花冠にはクマバチが主に惹き寄せられ、蜜を吸うときにちょうど雄しべ雌しべがクマバチの背中に接触して受粉します。果実は甘酸っぱく丸い液果で、種子は仮種皮に覆われています。ヒトも食べますが本来は南米の小さな鳥によって食べられ種子散布されます。本記事ではトケイソウとパッションフルーツの分類・形態・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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トケイソウ・パッションフルーツ(クダモノトケイソウ)とは?

トケイソウ(時計草) Passiflora caerulea は南アメリカ(アルゼンチン北部、ブラジル南部)に分布し、攪乱地、開けた森林地帯に生えるつる性常緑多年草です(Wu et al., 2007; Flora of Northa America Committee, 2015)。日本を含む世界中で観賞用に栽培されます。アメリカ先住民の間では未熟果や熟果が食用されます。

クダモノトケイソウ(果物時計草) Passiflora edulis は別名パッションフルーツ。南アメリカ(おそらく南ブラジル)原産で、山間の谷の森に生えるつる性常緑多年草です。日本を含む世界中で観賞用および食用に栽培されます。中南米、東南アジアを中心に栽培され、日本でも南西諸島や東京都の島嶼部、鹿児島県、沖縄県で栽培されます。本来植物としてはクダモノトケイソウが標準和名ですが、ここでは分かりやすさを優先してパッションフルーツと呼んでいくことにします。英名はpassion 「(キリストの)受難」の意味で、「情熱」ではありません。中南米に派遣されたイエズス会の宣教師が花の形がキリスト教の十字架など、聖なる存在が組み合わさったものであると信じたことに由来します。

いずれもトケイソウ科トケイソウ属のつる性常緑多年草で、南米原産です。日本では観賞用として町中で見つけることができます。しかし、「パッションフルーツはトケイソウの仲間である」とはよく園芸サイトなどに書かれていますが、具体的な違いに関する記述は少なく、見たことがない人は「トケイソウ=パッションフルーツである」と誤解する人がいるかもしれません。

トケイソウ・パッションフルーツ(クダモノトケイソウ)の違いは?

しかし、トケイソウとパッションフルーツは種としては全く別物で、どちらもトケイソウ属というグループに含まれていると言うだけです。

トケイソウ属は日本には自然分布はありませんが、南西諸島にミスミトケイソウ、クサトケイソウなどが帰化しています。園芸種としては多数が栽培され、和名と学名の対応リストである『Ylist』では15種が登録されています。今回は最も栽培される2種のみに絞って区別点を書いていきます。

トケイソウでは葉は(3~)5(~9)裂の掌状で、それぞれの裂片は全縁であるのに対して、パッションフルーツでは葉は深く3裂し、それぞれの裂片は鋸歯があるという違いがあります。

これがもっともわかりやすい判別点でしょう。

他にも、トケイソウでは葉柄に2~4(~6)本の花外蜜腺があり、托葉は大きく、腎形で、合掌するように合わさっているの対して、パッションフルーツでは葉柄の先端に2本だけ花外蜜腺があり、托葉は小さく、線形~半球状であるという違いもあります。

花に関してはトケイソウでは糸状の小花冠(放射状に伸びている細い構造)の先が真っ直ぐであるのに対して、パッションフルーツでは糸状の小花冠の先が歪んで先細りになっているという違いがあります。

また、果実にも違いがあります。トケイソウでは熟すと黄色~橙黄色で、ヒトが食べると味気ない~甘いとされるのに対して、パッションフルーツでは熟すと紫色で、ヒトが食べると芳醇な香りと鮮烈な酸味がします。

したがって、パッションフルーツの果実はヒトの手による品種改良も加わって、他のトケイソウ属のものとは全く異なるものになっていると言えるでしょう。

トケイソウの葉
トケイソウの花
トケイソウの果実|By No machine-readable author provided. Taka assumed (based on copyright claims). – No machine-readable source provided. Own work assumed (based on copyright claims)., CC BY 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=360498
パッションフルーツの葉上面
パッションフルーツの葉下面
パッションフルーツの花|『苗木部楽天市場店』より引用・購入可能
パッションフルーツの果実|『Itanse楽天市場店』より引用・購入可能

花の構造は?

トケイソウ属の花の構造は複雑に見えますが、萼、花弁、雄しべ、雌しべによって構成されているのは他の花と同じです。しかし、異なるのはほぼ同じ形をしている萼5枚と花弁5枚が交互に放射状に配列され、その上に「糸状の小花冠(corona, coronal filaments)」があるということです。これが何層かになって立体的に配列されています。

また雄しべと雌しべの根本は合体し、「雌雄しべ柄(androgynophore)」となっています。雌雄しべ柄の上部には「蓋(operculum)」という小さな小花冠があり、それを囲むように蜜腺の「盤(limen)」があり、ここから蜜を分泌します。更にこれを「滑車(trochlea)」が輪状に囲んでいます。

トケイソウの花の構造|『GardenDesign.com』より引用

かなり独特の構造が多く把握するのが大変です。トケイソウの名前の由来は花が時計のように見えることからですが、萼と花弁が「歯車」、糸状の小花冠が「文字盤」、雄しべと雌しべの先端が「時針」に当たるということなのでしょう。

トケイソウは花期が5~9月。花は巻きひげに対生します。苞は長さ2~3cm、全縁。花柄は長さ3~4cm。花は直径6~8(~10)cm。萼片は長さ3~4.5cm、外側が淡緑色、内側が白色、長さ2~3mmの芒があります。花弁は長さ2.5~4cm、白色~淡緑色。糸状の小花冠は3~4列あります。外側の2列は長さ(0.6~)1~1.5cm、基部は暗紫色、中間は白色、先は青色。内側の1~2列は長さ1~2mm、基部は淡緑色、先は頭状、白色。雌しべと雄しべのつく柄は高さ8~10mm。花糸は扁平、長さ約1cm、葯は長さ1.3cmの惰円形。子房は卵形。花柱は長さ6~8mm、紫色。柱頭は腎形。

パッションフルーツは花期が4~6月または8~11月。花序は小さくなった集散花序、中央の花は発達せず、1個の側部の枝が巻きひげに変わり、花は巻きひげに対生します。苞は緑色、広卵形または菱形、 長さ1~1.2cm、縁は不規則な細鋸歯。花柄は長さ4~4.5cm、先に2腺があります。花は直径4~7cm。花托筒は長さ0.8~1cm×幅1~1.2cm。萼片は外側が緑色、内側は薄緑色または白色、長さ2.5~4cm×幅約1.5cm、芒は長さ2~4mm。花弁は長さ2.5~3cm×幅約8mm。糸状の小花冠は4または5列につきます。外側の2列は舌形で上半分が糸状、長さ2~2.5cm、基部は薄緑色、中間は紫色、先は白色。 内側の2または3列は糸状、長さ1~3mm、緑色と紫色。蓋は反曲し、長さ1~1.2mm、縁は全縁または先が不規則に裂かれます。盤は高さ約4mm、膜質。雌雄しべ柄は高さ1~1.2cm。滑車は盤のすぐ上にあります。花糸は長さ5~6mm、平ら基部で密着します。葯は黄緑色、長円形、長さ5~6mm。子房は倒卵形、長さ約8mm、無毛~有毛。花柱は平ら。柱頭は腎形。

受粉方法は?

トケイソウ属の仲間は一般的には自家不和合性として知られており、結実には動物による他家受粉が欠かせません。

トケイソウ属の送粉動物は様々であり、大型のミツバチ上科によって受粉するグループや中型のミツバチ上科によって受粉するグループの他、花が非常に長くなり、口の長いハチドリによって受粉するグループまで知られています(Amela García & Hoc, 2000)。トケイソウとパッションフルーツは大型のミツバチ上科を利用し、花のサイズもちょうどそのハナバチにフィットするサイズとなっています。

トケイソウではクマバチ属 Xylocopa の仲間である X. augustiX. frontalisX. nigrocincta、花油を集めるハナバチのCentris属が訪れることがアルゼンチンでの研究で分かっています(Aquino & Amela García, 2019)。

パッションフルーツでも同様にクマバチ属がもっとも重要である他、Centris属、Epicharis属、Eulaema属、マルハナバチ属 Bombus の仲間もやってくるという、ブラジルでの記録があります(Yamamoto et al., 2012)。

糸状の小花冠の先端の色は、クマバチを惹き寄せることに利用されるのでしょう。

そして、「時計の針」のように放射状に伸びてる雄しべが、クマバチ類が蜜を求めて花の中央にやってきた際に花粉を胸部背面に付着させることになります(Aquino & Amela García, 2019)。クマバチ自身も花粉を後脚の「花粉かご」と呼ばれる剛毛に積極的に移動させます。このクマバチが別の花の雌しべに接触した際に受粉します。これはトケイソウ属ほど複雑な花ではありませんが、ホトトギス属とよく似た送粉・受粉方法です。

トケイソウの花は時間的に変化し、第1段階では、雌しべの先端である柱頭は直立し、クマバチの接触から遠ざかり、雄しべの先端で花粉を含む葯のみがクマバチに接触するので、花粉提供者としての役割のみを果たします。第2段階では、クマバチが花粉の付着と除去の両方を行うことができるように、柱頭は葯の高さまで折れ曲がります。第3段階に入ると、またクマバチが接触できない位置まで柱頭が上昇し、花粉提供者としての役割のみを果たします。

これは「雄性先熟」であると考えられ、一般的には時間的に性別を変化させることで自家受粉を防ぐ役割があると考えられています。トケイソウという命名は花の構造からでしょうが、時間的に確かに「針」に移動があるというのは面白い点です。もっとも、これはZ軸方向での話になります。

特にパッションフルーツの栽培では昆虫は重要な存在ということになりますが、原産地では森林伐採や農薬使用が訪花昆虫の減少に繋がっているとされています(Yamamoto et al., 2012)。

受粉方法ではありませんが、トケイソウ属の多くの種類では雄しべや雌しべに斑点模様があり、これは一説では「アリ擬態(ant mimicry)」で、花がアリに集られている状態を演出し、チョウのような草食性(花食性)昆虫から身を守っていると考えられています(Lev-Yadun, 2009)。パッションフルーツの花ではもしかしたらアリ擬態を行っているのかもしれません。

果実の構造は?

トケイソウ属の果実は普通液果です。

トケイソウの液果は長さ約6cm、熟すと黄色~橙黄色、卵形で、無毛です。種子は長さ約5mm、倒心臓形です。

パッションフルーツの液果は長さ5~6cm、熟すと紫色卵形、直径3~4cm。種子は多数、卵形です。

パッションフルーツの堅い果皮は滑らかで普通濃紫色ですが、黄色い果皮のイエローパッションフルーツもあります。内部に小さくて堅い種子を多く含み、種子を包む黄色いゼリー状の「果肉」に当たる仮種皮(種衣)と果汁があります。果汁と仮種皮は強い香気をもつものが多いです。

仮種皮とは子房または珠柄に由来した可食部となる種子の付け根を部分的に包む、または種子全体を包む組織のことを指します。

パッションフルーツの果実断面|『まるみつ青果楽天市場店』より引用・購入可能

種子散布方法は?

液果で熟すと色が変わることから種子は明らかに動物被食散布です。

トケイソウの果実はヒトが食べると諸説ありますが味気ない~甘いとされるのに対して、パッションフルーツでは芳醇な香りと鮮烈な酸味がします。

トケイソウの液果はアメリカ先住民によって食用にされ、未熟果では調理され、熟果では生のまま食べられています(Mendiondo & García, 2006)。

パッションフルーツの液果はもっとメジャーで世界中で食べられています。生食もされますが、世界の生産量の9割ほどが加工品として利用されており、菓子、ジュースの材料として流通しています。ケーキやペイストリーの具材、ゼリー、カクテル用のリキュールやシロップなどが作られます。

このような事実からは自然界でも哺乳類によって食べられ種子散布されているのだと思われるかもしれませんが、ヒトが食べる場合、酸味が強く、美味しく食べるには基本的に加工する必要があります。そのため、本来は無加工でも美味しく食べている鳥によって種子散布されていると考えるのが普通でしょう。

実際、トケイソウについてはアルゼンチンの研究によるとキバラオオタイランチョウ Pitangus sulphuratus、マミジロマネシツグミ Mimus saturninus、ナンベイコマツグミ Turdus rufiventris が仮種皮に覆われた種子を食べた記録があります(Mendiondo & García, 2006)。また、頻度は不明ですが、ハキリアリも仮種皮に覆われた種子を運ぶことがあるようです。

ただパッションフルーツについてはよりヒトでも食べやすくなっているという事実は鳥散布から哺乳類散布への中間にあることを示しているのかもしれませんし、ヒトの品種改良の結果かもしれず、自然界での役割はよく分かりません。パッションフルーツの種子散布に関する研究は発見できませんでした。

トケイソウやパッションフルーツでは仮種皮が取り除かれることによって種子の発芽が促進されます。したがって、自然界では動物に食べられることがとても重要なのです。

引用文献

Amela García, M. T., & Hoc, P. S. 2000. Pollination of Passiflora: do different pollinators serve species belonging to different subgenera? (VIII International Symposium on Pollination-Pollination: Integrator of Crops and Native Plant Systems). Acta Horticulturae 561: 71-74. ISSN: 0567-7572, ISBN: 9789066057654, https://doi.org/10.17660/ActaHortic.2001.561.10

Aquino, D. S., & Amela García, M. T. 2019. Pollen dispersal in a population of Passiflora caerulea: spatial components and ecological implications. Plant Ecology 220: 845-860. https://doi.org/10.1007/s11258-019-00958-5

Flora of Northa America Committee. 2015. Flora of North America, Volume 6 Magnoliophyta: Cucurbitaceae to Droseraceae. Oxford University Press, Oxford. 496pp. ISBN: 9780195340273

Lev-Yadun, S. 2009. Ant mimicry by Passiflora flowers?. Israel Journal of Entomology 39: 159-163. https://www.esalq.usp.br/lepse/imgs/conteudo_thumb/Ant-mimicry-by-Passiflora-flowers.pdf

Mendiondo, G. M., & García, M. T. A. 2006. Emergence of Passiflora caerulea seeds simulating possible natural destinies. Fruits 61(4): 251-258. https://doi.org/10.1051/fruits:2006022

Wu, Z. Y., Raven, P. H. & Hong, D. Y. 2007. Flora of China. Vol. 13 (Clusiaceae through Araliaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781930723597

Yamamoto, M., da Silva, C. I., Augusto, S. C., Barbosa, A. A. A., & Oliveira, P. E. 2012. The role of bee diversity in pollination and fruit set of yellow passion fruit (Passiflora edulis forma flavicarpa, Passifloraceae) crop in Central Brazil. Apidologie 43: 515-526. https://doi.org/10.1007/s13592-012-0120-6

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