ヘビイチゴ・ヤブヘビイチゴ・オヘビイチゴの違いは?似た種類の見分け方を解説!意外に区別は難しい?

植物
Potentilla indica

ヘビイチゴ・ヤブヘビイチゴ・オヘビイチゴはいずれもバラ科キジムシロ属に含まれ、キジムシロ属の中でも匍匐茎を発達させて、地面に這うように広がっていく3種として知られている日本の春の代表的な雑草です。稀にキイチゴ属の仲間とともに「野イチゴ」と呼ばれることがあります。これらは図鑑でよく紹介されていますが、その区別は意外に植物学者の人でも迷うことがあります。ヘビイチゴ・ヤブイチゴとオヘビイチゴの区別は簡単で葉の状態を見れば分かります。ヘビイチゴとヤブヘビイチゴを区別するには赤い集合果に無数についている「ツブツブ」の表面の状態の違いが最も重要です。このツブツブは植物学的には真の果実に当たります。ただ、集合果がない場合は葉や花から総合的に調べる必要がありますが、中間的な個体も見られるためあまり確実ではありません。本記事ではキジムシロ属のヘビイチゴ類について解説していきます。

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ヘビイチゴ・ヤブヘビイチゴ・オヘビイチゴとは?

ヘビイチゴ(蛇苺) Potentilla hebiichigo は日本の北海道・本州・四国・九州・琉球;朝鮮・中国(南部)・台湾・東南アジアなどに分布し、落葉樹林の林床から陽光草地にまで生える常緑多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。

ヤブヘビイチゴ(藪蛇苺) Potentilla indica は北海道・本州・四国・九州・琉球;朝鮮・中国・東南アジア・インド等に分布し、林縁や竹薮などの林床に生える常緑多年草です。園芸用としてヨーロッパや北アメリカで栽培され、逸出・帰化しています。

オヘビイチゴ(雄蛇苺) Potentilla anemonifolia は日本の本州・四国・九州;朝鮮・中国・インドシナ半島・インドネシア・インドに分布し、田の畦・河川敷など陽光多湿な草地に多く生える常緑多年草です。

いずれもバラ科キジムシロ属に含まれ、キジムシロ属の中でも匍匐茎を発達させて、地面に這うように広がっていく3種として知られている日本の代表的な雑草です。稀にキイチゴ属の仲間とともに「野イチゴ」と呼ばれることがあります。

「ヘビイチゴ」という和名の由来は「蛇が出るような場所に生える苺だから」という説や、「人が食べない(蛇が食べるような)苺だから」という説があります。個人的にはヘビのように這って生長することも名前の由来になっているようにも思います。なお、ヘビが実際にヘビイチゴ類を食べることはありません。

花期は4〜6月の春で5枚の花弁から構成される黄色い花を咲かせます。受粉すると後に真っ赤に熟したものを付けますが、これは「集合果」と呼ばれるものであり、真の果実ではありません。集合果は花床かしょう花托かたく)と呼ばれる部分が肥大して、これに本物の果実である痩果そうか(「ツブツブ」の部分)が多数付着することによってできています。これは「イチゴ状果(etaerio)」と呼ばれる特殊な構造で他のキジムシロ属やデザートになるオランダイチゴなどと同様の構造です。ただし、オランダイチゴの仲間のように花床は甘くなく食べても美味しくはありません。

これら「ヘビイチゴ類」はとても身近ではあるものの、その区別方法はあまり知られていないかもしれません。

ヘビイチゴ・ヤブヘビイチゴ・オヘビイチゴの違いは?

これら3種の区別はよく図鑑で紹介される割には少し難しいです(神奈川県植物誌調査会,2018)。

ただ、オヘビイチゴを区別することは簡単です。

ヘビイチゴとヤブヘビイチゴでは葉が三出複葉(1つだった葉が3枚に別れた状態)であるのに対して、オヘビイチゴでは五出掌状複葉ごしゅつしゅじょうふくよう(1つだった葉が5枚に別れた状態)であるという違いがあります。

この区別は葉を見るだけで簡単にできるでしょう。また、オヘビイチゴの方は完全に匍匐しないことも多いです。

問題はヘビイチゴとヤブヘビイチゴの違いです。

この2種の最も重要な違いは集合果につく果実(痩果)の表面にあります。

ヘビイチゴで痩果の表面が表面に光沢がなく、明らかなこぶ状の小突起があるのに対して、ヤブヘビイチゴでは痩果の表面が表面に光沢があり、ほとんど平滑であるという違いがあります。

集合果を付けている時期(5~6月)にはこの点を確認すれば確実に区別することができるでしょう。

しかし、それ以外の時期には区別することが難しいことがあります。

よく図鑑に挙げられている他の違いとしては、ヘビイチゴでは頂小葉(3枚の小葉のうち一番上にある小葉)が広卵形の鈍頭で、葉縁はしばしば重鋸歯状となり、花弁はより幅広く倒心臓形(ハート形)であるのに対して、ヤブヘビイチゴでは頂小葉が菱形状長楕円形の鋭頭で、葉縁は重鋸歯状となることは殆どなく、花弁はより細長く、狭倒卵形というものがあります。

ただ、中間的な形質をもつ個体が発見されることも多く、植物図鑑をつくる人でも判断に迷う場合があります。

果実がない場合は、これら3つの特徴を確認して総合的に判断するしかなさそうです。

生息地の違いも知られており、ヘビイチゴでは田の畦など陽光で湿ったところに多く、ヤブヘビイチゴでは日陰の場所に多いです。この点も参考にはなるでしょう。

なお、4〜6月で花をつけているにも関わらず、果実が全く発見できない場合は、アイノコヘビイチゴ Potentilla x hara-kurosawae というヘビイチゴとヤブヘビイチゴの雑種である可能性が高いです。アイノコヘビイチゴは不稔で種子を作って子孫を残すことはありません。

ヘビイチゴの葉:頂小葉は円に近く、葉先は鈍頭|By Alpsdake – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=26791925
ヘビイチゴの花:花弁はハート形|By Alpsdake – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=64141863
ヘビイチゴの集合果:「つぶつぶ」が果実にあたる、表面はざらざら|By Alpsdake – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=64142001
ヤブヘビイチゴの葉:頂小葉は長楕円に近く、葉先は尖る(この個体はそうでもない)
ヤブヘビイチゴの花:花弁は狭倒卵形
ヤブヘビイチゴの集合果:「つぶつぶ」が果実にあたる、表面はつるつる
オヘビイチゴの葉:五出掌状複葉
オヘビイチゴの花

他に似た種類はいる?キイチゴ・エゾヘビイチゴとの違いは?

「苺」と呼ばれる仲間はバラ科には他にも多数あり、キイチゴ属やオランダイチゴ属のエゾヘビイチゴなどが代表的でしょう。

それらとの区別方法は別記事で紹介しているのでそちらをご参照ください。

引用文献

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

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