オランダイチゴ(苺)とキイチゴ・ノイチゴ(野苺)・ラズベリー・ヘビイチゴの違いは?似た種類の見分け方を解説

植物
Fragaria x ananassa 'Amaou'

オランダイチゴ(苺)・キイチゴ(木苺)・ノイチゴ(野苺)・ラズベリー・ヘビイチゴ(蛇苺)はいずれもバラ科に含まれ、大雑把にツブツブが付いた赤い実のようなものを付けた「イチゴ」の仲間として認識されているでしょう。しかし、この内ノイチゴとラズベリーは科学的な名前ではなくキイチゴに含まれる仲間のうち、生息地によって大雑把に呼び分けられています。オランダイチゴ・キイチゴ・ヘビイチゴは植物学的にも明らかな違いがあり、具体的には集合果と果実の構造が明らかに異なっています。本記事ではオランダイチゴ・キイチゴ・ノイチゴ・ラズベリー・ヘビイチゴの分類・形態について解説しておきます。

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オランダイチゴ・ノイチゴ・キイチゴ・ヘビイチゴとは?

オランダイチゴ(和蘭陀苺) Fragaria x ananassa とは現在では一般名がいちご、英名ストロベリー。1750年代のフランス(ブルボン朝)のブルターニュ地方で、北アメリカ原産のバージニアイチゴ Fragaria virginiana と北アメリカ~南アメリカ原産のチリイチゴ Fragaria chiloensis が交雑させられて生まれた園芸雑種です(Darrow & Wallace, 1966)。日本を含む世界中で集合果をデザートとして食用にするために栽培されます。園芸では定義によって果樹とも野菜ともされますが、植物学的には草本なので、樹木になることはありません。あまおう ‘Amaou’ は代表的な園芸品種です。

キイチゴはキイチゴ属 Rubus に含まれる種類の総称です。クサイチゴ Rubus hirsutus は日本でよく見られる代表的な種類です。

ノイチゴ(野苺)は一般名で生物学的な1種類を指す言葉ではなく、オランダイチゴに対して日本の自生種のうちヒトが食べる事のできる赤い液果を作るバラ科の一部の種類の総称です。一般的にはキイチゴ属の一部を指します。稀にヘビイチゴ属を含める場合もあります。

ラズベリーは一般名で生物学的な1種類を指す言葉ではなく、オランダイチゴに対してヨーロッパの自生種のうちヒトが食べる事のできる赤い液果を作るバラ科の一部の種類の総称です。一般的にはキイチゴ属の一部を指します。ただし、普通はヨーロッパキイチゴ Rubus idaeus であることが多いです。世界中で集合果が食され、デザートのケーキなどで使用されます。

ヘビイチゴ(蛇苺)は普通キジムシロ属に含まれるヘビイチゴ Potentilla hebiichigo という1種のみを意味しますが、キジムシロ属に含まれる種類のうち匍匐性の地上茎をもつ仲間を指し、ヤブヘビイチゴ Potentilla indica ・オヘビイチゴ Potentilla anemonifolia なども含む総称である場合もあります。

いずれもバラ科に含まれ、大雑把にツブツブが付いた赤い実のようなものを付ける植物を「イチゴ」の仲間として総称されていることが多いでしょう。

正式にイチゴと呼ばれる仲間の定義はありませんが、複数雌しべを持つ1つの花から発達した複数の果実が「果床(果托)」などを土台として合体した「集合果」をつけることは共通しています。

しかし、似たような呼称であるため、その正確な違いについて理解している人は少ないかもしれません。

オランダイチゴ属・キイチゴ属・ヘビイチゴ類の違いは?

これらは明確な形態上の違いがあります(神奈川県植物誌調査会,2018)。

上述のように、ノイチゴとラズベリーはキイチゴ属の仲間の一部のことで、生物学的な正式名称でありません。生息地で大雑把に呼ばれています。

残りのオランダイチゴ属・キイチゴ属・ヘビイチゴ類は何が異なるのでしょうか?

最も重要な違いは果実の構造の違いです。

まず大前提として、これらのイチゴと呼ばれる仲間の可食部は植物学的には「集合果」と呼ばれるものにあたります。

これは複数雌しべを持つ1つの花から発達した複数の果実が果床(果托)などを土台として合体した結果、作り出されたものです。

したがって、デザートに出てくる「イチゴ」は集合果であり、1つ1つの粒の「種」と呼ばれる部分が本来は「果実」である、ということになります。

しかし、同じ集合果でもオランダイチゴ属・キイチゴ属・ヘビイチゴ類では更に構造が異なります。

具体的には、オランダイチゴ属やヘビイチゴ類では花床(花托)と呼ばれる部分が肥大して、果実は粒であるのに対して、キイチゴ属では花床は肥大ぜず、果実が肥大するという違いがあります。

これは文字にするとややこしいかもしれませんが、デザートに出てくるオランダイチゴとラズベリーの集合果を想像すれば、簡単にわかります。

オランダイチゴの集合果は甘い大きな赤い部分の中に種子のようにも見えるつぶつぶの果実がありますが、ラズベリーの集合果ではイクラのようなプチプチとした甘い液を含む球形の果実が集まっていることが観察できるでしょう。これが2つのグループの決定的な違いということになります。

専門的には、前者は「イチゴ状果(etaerio)」、後者は「キイチゴ状果(etaerio of drupelets)」と呼ばれています。

なお、ヘビイチゴ属に関しては、オランダイチゴ属と同じように花床が肥大しますが、オランダイチゴ属のように液状にならないという違いがあります。そのため、ヘビイチゴは食べられますが美味しくありません。

他にも、オランダイチゴ属やヘビイチゴ類では草本で茎にとげはありませんが、キイチゴ属では木本で茎に刺があります。この点も大きな違いでしょう。これは「木苺」という名前の通りです。また、「蛇苺」も名前の通り、茎が匍匐して生えます。

オランダイチゴ属・キイチゴ属・ヘビイチゴ類に含まれる種類はかなり沢山あるため、その区別方法については別記事で紹介します。

以下は代表的な種類を1種類ずつ写真を置いておきます。

オランダイチゴの葉
オランダイチゴの花
オランダイチゴ(あまおう)の集合果:果床が発達するイチゴ状果
オランダイチゴ(あまおう)の果実:痩果、「種」とよく誤解されるので注意
クサイチゴの全形
クサイチゴの花
クサイチゴの集合果:果床が発達せず果実が液果になるキイチゴ状果
ヤブヘビイチゴの葉
ヤブヘビイチゴの花
ヤブヘビイチゴの集合果:果床が肥大するものの液状ではない

引用文献

Darrow, G. M., & Wallace, H. A. 1966. The Strawberry: History, Breeding, and Physiology. Holt, Rinehart and Winston, New York. 447pp. ISBN: 9780817340117

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

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