ヒサカキ・ハマヒサカキ・サカキはいずれもサカキ科(モッコク科)に含まれ、特にヒサカキとサカキは古代から神道において神霊の「依り代」と考えられており、日本では伝統的に植栽されています。しかし、名前も類似しており、混同されることは多いかもしれません。ただ、これらの違いは比較してみるとかなり明らかです。これらはヒサカキ・ハマヒサカキとサカキの2グループに大別され、葉のつき方や葉縁、性システムに大きな違いがあります。ヒサカキとハマヒサカキは名前の通り生息地の他、やはり葉脈や葉先、葉縁をきちんと観察することで確実に区別することができるでしょう。早春に咲くヒサカキの花は寒さに強い小型のハチとハエに受粉を頼っているようです。本記事ではヒサカキ属とサカキ属の分類・形態・生態について解説していきます。
ヒサカキ・ハマヒサカキ・サカキとは?
ヒサカキ(姫榊・非榊・柃) Eurya japonica は別名ホソバヒサカキ。日本の本州(岩手県、秋田県以南)・四国・九州・琉球・小笠原;朝鮮(南部)に分布し、ブナ帯を除いて広く分布している常緑小高木または低木です。
ハマヒサカキ(浜姫榊) Eurya emarginata は日本の本州(千葉県以西)・四国・九州・沖縄;朝鮮半島・中国に分布し、海岸に多く生える常緑小高木です。公園植栽や街路樹としても使われています。
サカキ(榊) Cleyera japonica は別名ホンサカキ(本榊)・マサカキ(真榊)。日本の本州(南西部)・四国・九州・琉球;朝鮮・中国・台湾に分布し、山地に生える常緑小高木です。
いずれもサカキ科(モッコク科)に含まれ、特にヒサカキとサカキは古代から神道において神霊の「依り代」と考えられており、神社で盛んに植栽されている他、家庭の神棚にも捧げられ、「榊立て」という陶器製の花立てに入れて置かれます(ただし現在では中国の個体が利用されていることが多いです(戴・藤島,2010))。
形態的にもいずれも常緑樹で、花は萼・花弁ともに5枚で基部でそれぞれ互いに合着し、果実は黒色に熟す点も共通しています。
更に名前も類似しており、混同されることは多いかもしれません。葉に特徴が少なく、花も果実もかなり地味であることも区別の難しさを助長しているでしょう。
ヒサカキ・ハマヒサカキ・サカキの違いは?
ただ、これら3種はどれもモッコク科ではありますが、ヒサカキとハマヒサカキはヒサカキ属に含まれるのに対して、サカキはサカキ属に含まれることから形態的にはかなり違いがあります(神奈川県植物誌調査会,2018)。
まず、ヒサカキとハマヒサカキでは葉が2列に並び、葉縁に鋸歯があるのに対して、サカキでは葉が螺旋状につき、葉縁は全縁であるという違いがあります。
これが最も分かりやすい違いで、見分ける場合はこれだけでも十分です。
一応、他にも上げておくと、ヒサカキとハマヒサカキでは花は単性花で、雌雄異株であるのに対して、サカキでは花が両性花で、雌雄同株であるという違いがあります。
つまりヒサカキとハマヒサカキの1つの花は雄しべか雌しべのどちらかしか持っていないのに対して、サカキでは雄しべと雌しべどちらも備え付けています。
この点でもこれらが属レベルで異なることが理解できるでしょう。
ヒサカキとハマヒサカキに関しても葉の形で見分けるのが分かりやすいと思います。
ヒサカキでは葉先は尖り、葉脈は目立たず、葉縁は平らであるのに対して、ハマヒサカキでは葉先は凹み、葉脈は凹んで目立ち、葉縁は裏側に反り返るという違いがあります。
こちらも一応、ヒサカキでは若枝が無毛で、ときに上部のみに疎らに毛があり、長く緑色のままであるのに対して、ハマヒサカキでは若枝には密に毛があり、すぐに灰褐色になるという違いもありますが、参考程度で良いでしょう。
上述のように野生個体では、ヒサカキは林内に、ハマヒサカキは海岸に生える傾向にあります。
ヒサカキの受粉方法は?
ヒサカキは雌雄異株で、花期が3〜4月(茂木ら,2000)。葉腋に鐘形〜壺形の花を1〜3個束生します。花は直径2.5〜5mmで、下向きに咲き、強い臭気があります。雌花のほうが小さいです。花弁は帯黄白色で5個。基部はわずかに合着します。萼片は暗紫色で5個。花柄は長さ2mmと短いです。
雄花には雄しべが12〜15個ありますが、雌花では退化しており、雌しべは1個、雄花では退化します。雌しべの花柱は深く3裂してそり返ります。
ヒサカキは春になると真っ先に咲き、林内~神社にもよく生えているので目立ちます。明らかに虫媒花ですが、どのような昆虫によって受粉しているのでしょうか?
興味深い点としては、ヒサカキが雌雄異株であるということにもあります。雌雄異株の場合、気温が低い時期の受粉は訪花の活動を制限してしまうため、一般的には受粉が難しいと考えられていますが、ヒサカキはそのようなことはなく、沢山の個体が見られます。
この点に関して最近日本で研究が行われました(Tatsuno et al., 2023)。
この結果によると、ハエ目(特にオドリバエ科とユスリカ科)とハチ目が主に訪花していることが分かりました。そして、膜翅目の訪問者は高温でより活動的でしたが、双翅目は低温でも観察されました。
更に興味深いことに、双翅目の訪問者がより豊富な場所では、結実率と種子数が増えていたのです。
ハエ目(双翅目)は通常花粉を広げるという観点では、社会性のある(子育てをする)ハチ目(膜翅目)にかなり劣ります。しかし、花にやってくる個体数がとても多くその欠点を補っていました。
つまり、ヒサカキは2グループの昆虫を巧みに利用することで、昆虫の少ない時期でもきちんと受粉に成功していたのです。
ヒサカキの種子散布方法は?
ヒサカキの果実は液果で、直径4〜5mmの球形で、10〜11月に黒紫色に熟し、中には多数の種子が入っています。
ヒサカキの果実はほとんど鳥によって食べられて種子散布する、つまり鳥散布すると考えられています(真鍋ら,1993;今西,2006)。具体的にはヒヨドリ・シロハラ・ムクドリ・メジロなどです。
ヒサカキは二次林のあちこちで幼木を見かけますが、それは鳥によって種子散布された影響は大きいでしょう。
引用文献
戴松君・藤島廣二. 2010. 中国におけるサカキ類産地の輸出戦略と収益性. 農業市場研究 19(1): 42-47. https://doi.org/10.18921/amsj.19.1_42
今西亜友美. 2006. ヒサカキ(Eurya japonica Thunb.). 日本緑化工学会誌 32(2): 374. http://www.jsrt.jp/pdf/dokomade/32-2hisakaki.pdf
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
真鍋徹・山本進一・千葉喬三. 1993. コナラ二次林におけるヒサカキ(Eurya japonica)の種子散布特性. 日本緑化工学会誌 18(3): 154-161. https://doi.org/10.7211/jjsrt.18.154
茂木透・太田和夫・勝山輝男・高橋秀男・城川四郎・吉山寛・石井英美・崎尾均・中川重年. 2000. 樹に咲く花 離弁花 2 第2版. 山と溪谷社, 東京. 719pp. ISBN: 9784635070041
Tatsuno, M., Sueyoshi, M., & Osawa, N. 2023. Pollination ecology of the early-spring-blooming dioecious shrub Eurya japonica (Pentaphylacaceae). Botany 101(5): 164-175. https://doi.org/10.1139/cjb-2022-0083