キントラノオとコウシュンカズラはキントラノオ科の中では日本で最もポピュラーな2種で、よく園芸で観賞用に栽培されますが、混同される2種でもあります。キントラノオではキントラノオは常緑低木、コウシュンカズラは木性つる植物というのが最も大きな違いですが、小花柄や葉でもある程度区別することができます。そんなよく似た2種ですが、これらは新世界と旧世界で全く別の経緯を辿って、現在の形になっています。元々キントラノオ科の祖先は油を好む特殊なハナバチに受粉を頼っていたのですが、様々な地域に拡散する中で普通の花の形に戻っていったのです。本記事ではキントラノオとコウシュンカズラの分類・送粉生態・種子散布について解説していきます。
キントラノオ・コウシュンカズラとは?
キントラノオ Galphimia glauca は漢字で「金虎の尾」。メキシコと中央アメリカに分布し、米国(フロリダ)、キューバ、セント・クロイ島、ペルーなどに帰化している常緑低木です。日本では観賞用に園芸で栽培されます。森林、乾燥地、道路に生えます。
コウシュンカズラ Tristellateia australasiae は漢字で「恒春葛」。マレーシア、タイ、南ベトナム、熱帯オーストラリア、太平洋諸島、台湾、日本では沖縄県以南に分布する木性つる植物です(Wu et al., 2008; 大川・林,2016)。園芸種としてもよく栽培されています。
日本ではキントラノオ科として以上2種が園芸に用いられることから有名です。しかししばしば混同されており、インターネットでも混乱し、正しく区別できている人が少ない印象です。
キントラノオとコウシュンカズラの違いは?
キントラノオとコウシュンカズラの違いとして最も特徴的なのはキントラノオは常緑低木で自立しているのに対して、コウシュンカズラは木性つる植物で他の植物や物に絡みついています。そのため外観である程度区別できるでしょう。
花が咲いていれば更にわかりやすくなります。小花柄(花が植物体についている細い部分)が、キントラノオでは8〜12mmしかないのに対して(Rojas-Sandoval, 2017)、コウシュンカズラでは15〜30mmとかなり長くなっています(Wu et al., 2008)。
葉は少し分かりにくいですが、ややコウシュンカズラの方が光沢が強い印象があります。以上を確認すれば確実に区別できるでしょう。
なお、北アメリカでは Galphimia gracilis という種類が園芸で用いられる際、キントラノオと混同されていることがあります。
検索表によると(Anderson, 2007)、キントラノオは花弁は果実の下に広がり、果実が落ちた後も残り、側花弁の辺縁は長さ7.5〜15.5mm、萼腺はなく、子房と果実はつやがあるとされているのに対して、Galphimia gracilis は花弁は落ち、側花弁の辺縁は長さ4.5〜8.5mm、萼腺はあるかないかで、子房と果実は毛深いか光沢があるとされています。筆者が確認する限り、日本の種類はキントラノオと思われますが、混在している可能性もあり、注意が必要です。
キントラノオ科の共通祖先は油を分泌していた?
このキントラノオとコウシュンカズラが含まれるキントラノオ科の共通祖先は新世界(アメリカ大陸)で多様化しましたが、その花の多くは蜜を作らず油を分泌し、それを好む一部の特殊なハナバチを呼ぶことに特化しており、日本では考えにくい、非常に特殊な関係を持っています(Zhang et al., 2012)。このハナハチ達は油を花粉と混ぜて幼虫の餌に用いています(Anderson, 1979)。
花の形も一般的には5裂し、基部が細まったフリルのある花びらで構成されていることが多く、正面から見ると隙間が多く、特殊な形と言えるでしょう。
「先祖返り」した花
ところが、これらの種の一部が新世界から旧世界(ユーラシア大陸、アフリカ大陸)に移動した後、進化が起こり大きく花の姿を変えました(Zhang et al., 2012)。これらの種は日本でサクラなど馴染みのある一般的な放射対称の花になっており、蜜も通常通り分泌するという「先祖返り」を起こしています。
特にコウシュンカズラが含まれるTristellateia属の仲間はその中でも劇的に変化しており、見た目は普通の花そのもので蜜も分泌しています。雄しべの花粉を生産する場所である葯も大きくなっており、虫の餌としての役割も増やしていると思われます。このような「先祖返り」という進化は7回も旧世界の別々の場所で起こっているのです。
では新世界に分布するキントラノオではどうなのでしょうか?
キントラノオが含まれる属では新世界に居ながら油を求めるハナバチが居ないなど何らかの理由で、旧世界の種類とは独立にやはり普通の花のように進化したのです。やはり葯が大きくなり油もなくなっています。
コウシュンカズラとキントラノオは全く別の場所で同じような形に進化していたのです!
全く異なる経緯を辿ったのにキントラノオとコウシュンカズラの似た花
キントラノオは6~11月に総状花序をつけ、黄色の花が咲き、花びらは5裂し、矢じり形状卵形です。
コウシュンカズラは8月(暖地では4~12月)に総状花序をつけ、やや薄い黄色の花が咲き、花びらは5裂し、矢じり形状卵形です(Wu et al., 2008)。
かなりよく似ていますが、上述のように全く別の経緯を持った結果似ています。
具体的な訪花記録はキントラノオでは発見できませんでした。
コウシュンカズラではニューカレドニアとシンガポールでは具体的な種類が特定されていないハナバチの記録が1例ずつあり(Donovan et al, 2013; Soh et al., 2013)、インドではコミツバチの記録が1例あります(Shivalingaswamy et al., 2020)。
情報が少ないので断定はできませんが、新世界でみられた油を好むハナバチが殆ど居ないので、旧世界で見られる一般的なミツバチのような蜜や花粉への依存度が高いハナバチに適応したと考えるのが自然でしょう。
「普通の花」であることが逆に珍しい花なのです。少し哲学的かもしれません!
果実は分離果で種子は風散布や水流散布される
キントラノオは分離果の小乾果(coccus)で、風と水によって散布されます(Rojas-Sandoval, 2017)。
コウシュンカズラは果実は翼果(samaras)でかつ分果(mericarps)であるため、おそらく風による散布が行われると思われます。
引用文献
Anderson, W. R. 1979. Floral conservatism in neotropical Malpighiaceae. Biotropica 11(3): 219-223. ISSN: 0006-3606, https://doi.org/10.2307/2388042
Donovan, B. J., Munzinger, J., Pauly, A., & McPherson, G. 2013. Flower-Visiting Records of the Native Bees of New Caledonia. Annals of the Missouri Botanical Garden 99(1): 19-43. ISSN: 0026-6493, https://doi.org/10.3417/2010076
Rojas-Sandoval, J. 2017. CABI Compendium: Galphimia glauca (goldshower). https://doi.org/10.1079/cabicompendium.119814
大川智史・林将之. 2016. 琉球の樹木 奄美・沖縄〜八重山の亜熱帯植物図鑑. 文一総合出版, 東京. 487pp. ISBN: 9784829984024
Shivalingaswamy, T. M., Udayakumar, A., Gupta, A., & Anjanappa, R. 2020. Non-Apis bee diversity in an experimental pollinator garden in Bengaluru–a Silicon Valley of India. Sociobiology 67(4): 593-598. ISSN: 2447-8067, https://doi.org/10.13102/sociobiology.v67i4.5023
Soh, Z. W. W., & Ngiam, R. W. J. 2013. Flower-visiting bees and wasps in Singapore parks (Insecta: Hymenoptera). Nature in Singapore 6: 153-172. ISSN: 2010-0515
Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. 2008. Flora of China. Vol. 11 (Oxalidaceae through Aceraceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. 622pp. ISBN: 9781930723733
Zhang, W., Kramer, E. M., & Davis, C. C. 2012. Similar genetic mechanisms underlie the parallel evolution of floral phenotypes. PLoS one 7(4): e36033. ISSN: 1932-6203, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0036033
出典元
本記事は以下書籍に収録されているものを大幅に加筆したものです。