アシタバ・シシウド・ハマウドはいずれもセリ科シシウド属でいずれも茎太く葉身が広い中大型の多年草です。セリ科特有の葉・花・果実の構造はいずれもよく似ています。更に葉柄の基部が膨らんだ袋状である点や果実が扁平である点はこの仲間の代表的な特徴です。しかし、葉の毛の生え具合や小総苞片の有無を確認することで区別することができます。散形花序から構成された花は小さく性転換します。果実は分果で扁平で膜質のやや広い翼を持っています。本記事ではアシタバ・シシウド・ハマウドの分類・形態について解説していきます。
アシタバ・シシウド・ハマウドとは?
アシタバ(明日葉・鹹草) Angelica keiskei は日本の本州(関東地方南部、伊豆諸島、東海地方、紀伊半島)、小笠原に分布し、海岸に生える多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018;大橋ら,2017)。
シシウド(猪独活) Angelica pubescens var. pubescens は日本の本州、四国、九州に分布し、沖積地を除く全域の林縁や草地に生える多年草です。
ハマウド(浜独活) Angelica japonica は日本の本州(関東地方以西)、四国、九州、琉球;朝鮮に分布し、海岸に生える多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018;林ら,2013)。
いずれもセリ科シシウド属で茎太く葉身が広い中大型の多年草です。セリ科特有の葉・花・果実の構造はいずれもよく似ています。
シシウド属は共通で果実は扁平で無毛、膜質のやや広い翼を持っています。また、シシウド属の中でも特に上記3種は大散形花序の柄には短毛か毛状突起が全体または内側にある点、葉柄の基部が膨らんだ袋状である点が類似しています。そのため、判断に迷うことがあるかもしれません。
アシタバ・シシウド・ハマウドの違いは?
シシウド属は日本には23種が自生しており、ここで全ての種類を扱うことはできませんが、ここで挙げた3種類について考えてみます。
まず、シシウドでは小総苞片はなく、葉下面の葉脈上には縮れた細毛が多いのに対して、アシタバとハマウドでは小総苞片があり、葉下面は無毛という違いがあります。
「小総苞片」というのは聞き慣れないかもしれませんが、小花柄(花と植物体をつなぐ細い部分)の根元に生える細い葉のような緑色の構造のことで、セリ科の一部の種類で見られます。アシタバとハマウドには、外観としては花の中に細い緑色の葉のようなものが混ざっていることが確認できるでしょう。
アシタバとハマウドに関しては、アシタバでは葉上面の主脈上、葉軸上面はほとんど無毛であるのに対して、ハマウドでは葉上面の主脈上や葉軸上面には短毛が密生するという違いがあります。
他にも、アシタバでは葉が質厚く、茎を切ると黄色の汁が出て、花は淡黄緑色であるのに対して、ハマウドでは葉が質厚いほどではなく、花は白色で、茎を切っても黄色の汁がないという違いがあります。
なお、シシウドの変種であるミヤマシシウド var. matsumurae は茎が無毛です。
これで3種については区別できますが、純粋に形だけで判断する場合はノダケ・イワニンジン・シラネセンキュウ・アマニュウなどとも区別する必要が出てくるので注意しましょう。詳しく知りたい人は神奈川県植物誌調査会(2018)や大橋ら(2017)を御覧ください。
他に似た種類はいる?
上述のようにシシウド属は日本には多数自生しています。
ノダケとシシウドの違いについては別記事を御覧ください。
花の構造は?
花は多くのセリ科と同様に散形花序を作ります。
花は雄しべや花弁をつけたのち、脱落して雌しべが発達し、雌しべの一部である光沢があり蜜を分泌する「柱下体」または「柱基」と呼ばれるセリ科共通の構造(清水,2001)が発達します。私の写真は後半の状態です。
このように雄しべを最初につけた後、雌しべをつけることを「雄性先熟」と言い、セリ科では一部の種類で見られ、自家受粉を防いでいます(渡辺,1999)。
アシタバは花期が8〜10月。複散形花序は総苞片がなく、小総苞片は数個あります。淡黄色の花をつけ、萼歯片はありません。
シシウドは花期が8~11月。大散形花序に小さな白花を多数つけます。大散形花序の柄は長さ3~18cmと不揃いです。総苞も小総苞片も無い。花弁は3~5個で、先が2裂し、やや内側に曲がり、わずかに黄色を帯びることもあります。
ハマウドは花期が4〜6月。枝先から複散形花序を出し、白色の小さな花を密につけます。花柄の基部につく総苞片、小花柄の基部の小総苞片はいずれも細長いです。
果実の構造は?
果実はセリ科の多くの種類と同じく分果です。分果は裂開果の一種で、複数の心皮からできていて、成熟すると心皮の数だけの分果が中軸から離れて裂開するものでセリ科に広く見られます。
シシウド属では共通で果実は扁平で無毛、膜質のやや広い翼を持っています。
アシタバの果実は長楕円形、両翼はそれほど広くありません。2個の扁平な分果がくっついています。油管は各背溝下に1個、合生面に4個あります。分果の翼状の部分はハマウドほど広くありません。
シシウドの果実は長さ7~9(~11)mm、幅5~7mm、翼は広く、2個の扁平な分果がくっついています。果実の表面の油管が明瞭に見えます。
ハマウドの果実は扁平な広楕円形、2個の扁平な分果がくっついています。分果は長楕円形で、両側の隆起線が広く翼状にはりだして軍配のように見えます。
引用文献
林弥栄・門田裕一・平野隆久. 2013. 山溪ハンディ図鑑 1 野に咲く花 増補改訂新版. 山と渓谷社, 東京. 664pp. ISBN: 9784635070195
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
大橋広好・門田裕一・邑田仁・米倉浩司・木原浩. 2017. 改訂新版 日本の野生植物 5 ヒルガオ科~スイカズラ科. 平凡社, 東京. 760pp. ISBN: 9784582535358
清水建美. 2001. 図説植物用語事典. 八坂書房, 東京. xii, 323pp. ISBN: 9784896944792
渡辺修. 1999. 北海道産主要セリ科検索図譜 その1 大型種 葉で見分ける植物 2. 知床博物館研究報告 20: 15-32. ISSN: 0387-8716, https://shiretoko-museum.jpn.org/media/shuppan/kempo/sm20_02.pdf