キブシとハチジョウキブシの違いは?キブシ属の種類は?似た種類の見分け方を解説!果実はお歯黒になる?花は昼と夜、別の昆虫を引き寄せる戦略を持っていた!?

植物
Stachyurus praecox var. ovaliflius

キブシはかつて日本固有種とされていた種類で、日本では広く分布しています。種としては2種類しかいないものの、その変種はかなり多様で、判別が難しいものになっています。これらの変異には連続性があり、区別しない考え方もありますが、本記事ではあえて区別し、その違いについて詳説しました。主に分布と葉の形と花序の長さを記録すれば概ね区別はできるでしょう。文化的にはキブシは五倍子というヌルデに形成された虫こぶ)からつくるお歯黒の代用品として用いられてきました。その和名もこのことに由来しています。古くから日本に馴染みが強いキブシですがその生態について注目されることは少ないですが、興味深いものがあります。雌雄別株で雌花と雄花を別々の個体がつけ、穂状花序と呼ばれる垂れた花序を葉が出ない早春のうちから作ることで壮観な光景を作り出します。なぜこのようなことをしているのかというと、研究によると日中に寒さに強いことで有名なハエの仲間と行動時期の早い単独性ハナバチを呼び寄せるためであると考えられています。更にそれだけではなく、別の研究では、夜間には早春に現れる蛾がやってくることも分かりました。つまり、昼と夜どちらも昆虫を呼んでいることになりますが、結局どちらがキブシにとって大事なのでしょうか?これらを踏まえてどちらが重要な花粉の運び手であるかを調べる研究が更に行われています。この結果、受粉には日中の昆虫が大きな役割を担っていることがわかりましたが、夜の蛾についても最低限の受粉を保証しているようです。これらのことからキブシは昼と夜の両方重視した受粉戦略を持っていると言えそうです。果実は乾いた液果で鳥によって散布されますが、タヌキやテンにも食べられてます。この記事ではキブシの分類・文化・歴史・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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地域ごとに固有の変種があり判別が難しい種類

キブシ科キブシ属で日本にはキブシ(広義) Stachyurus praecox とナガバキブシ(広義) Stachyurus macrocarpus の2種のみが分布しています。

キブシ(広義) Stachyurus praecox は北海道西南部、本州(伊豆諸島)、四国、九州(奄美大島・徳之島まで)に分布し、雑木林や林縁、山地の道端などの湿り気と日陰を好む落葉低木または小高木です(茂木ら,2000)。従来日本固有種とされてきましたが、韓国の全羅南道莞島郡の無人島でも発見されています(Chan-Jin et al., 2021)。

ナガバキブシ(広義) Stachyurus macrocarpus は小笠原諸島に分布し、比較的日当たりのよい下層のある低木地の林内を好む常緑低木です(Abe et al., 2008)。

しかし、キブシ(広義)の中にはハチジョウキブシを代表として、かなり沢山の地域固有の変種や園芸品種がいることが知られています。これらを特別に区別しないという考え方もあります。

キブシ(広義)の変種としては、キブシ var. praecox、ケキブシ var. leucotrichus、ハチジョウキブシ  var. matsuzakii、エノシマキブシ var. ovaliflius、ヒメキブシ var. parviflorus、ナンバンキブシ var. lancifolius、コバノキブシ f. microphyllus、マルバキブシ f. rotundifolius、ニシキキブシ f. bicolor、フクリンキブシ f. marginatus が知られています。

また、ナガバキブシ(広義)にも変種があります。

ナガバキブシ(広義)の変種としては、ナガバキブシ var. macrocarpus(絶滅危惧IA類:CR)、ハザクラキブシ var. prunifolius(絶滅危惧IA類:CR)が知られています。

キブシとナガバキブシの違いは?

まず、別種として扱われているキブシ(広義)とナガバキブシ(広義)の違いから見ていきましょう(大橋ら,2016)。

キブシ(広義)では北海道〜奄美大島に分布し、果実が狭卵形または楕円形で長さ0.7~1.2cmであるのに対して、ナガバキブシ(広義)では小笠原に分布し、果実が広卵形で長さ1.2~2cmという違いがあります。

また上述のようにキブシ(広義)では落葉低木で林縁を好むのに対して、ナガバキブシ(広義)では常緑低木で林内を好むという違いもあります。

ナガバキブシ(広義)は名前通り、7~14cmと葉が長めではありますが、キブシ(広義)の葉の長さの変異も大きく、同じくらいのこともあるためあまり参考にはなりません。

ナガバキブシ(広義)はナガバキブシとハザクラキブシに分かれます。

違いとしては、ナガバキブシでは小笠原諸島(父島・兄島)に分布し、葉が厚く、鋸歯が荒く、狭長楕円形または狭卵状超楕円形で、側脈が少ない(数は不明)のに対して、ハザクラキブシでは小笠原諸島(母島)に分布し、葉が薄く、鋸歯が細かく、狭楕円形から長楕円形で、側脈が7~11対と多いという点が挙げられます。

キブシとハチジョウキブシの違いは?その他変種との違いは?

キブシとハチジョウキブシの違いについて検索する人が多いようですが、近い変種が多いのでまとめて説明することにします。

キブシ(広義)には多数の変種がいますが、このうち、キブシ、コバノキブシ、エノシマキブシ、ハチジョウキブシ、ナンバンキブシについてまず考えていきます(神奈川県植物誌調査会,2018)。

これらはいくつかの特徴から大別されます。

キブシ・コバノキブシでは果枝の葉は葉柄とともに長さ3~14cm、幅3~5cm、花序は長さ5~7cmで、花はやや疎らにつき、花は長さ約7mm、枝は細く丸く、皮目が目立たず、1年生枝は淡褐色で太さ2~3mm、葉は薄くて光沢がなく、花序の小苞は斜上するのに対して、エノシマキブシ・ハチジョウキブシ・ナンバンキブシでは果枝の葉は葉柄とともに長さ15~18cm、幅さ6~7cm、花序は長さ9cm以上で、花は花序に密接してつき、花は長さ8~10mm、枝は太く皮目が明らかで、1年生枝は紫褐色を帯び、太さ3mm以上で稜があり、葉は厚くて光沢があり、花序の小苞は反曲します。

項目が多く難しく感じるかもしれませんが、実用的にはエノシマキブシ・ハチジョウキブシ・ナンバンキブシの方がキブシ・コバノキブシより花序が長く葉に光沢があるいう理解で構いません。

キブシとコバノキブシに関しては、キブシでは国内に広く分布し、葉は長さ7cm以上であるのに対して、コバノキブシでは本州の東海地方に分布し、葉は長さ3~6cmという違いがあります。

エノシマキブシ・ハチジョウキブシに関しては、エノシマキブシでは関東地方南部に分布し、下面主脈側方に毛があり、基部は円脚からやや心脚になるのに対して、ハチジョウキブシでは伊豆諸島に分布し、葉身が細長く、下面がほとんど無毛で、基部はくさび形です。

また、ナンバンキブシに関しては、エノシマキブシ・ハチジョウキブシと異なり、本州の山口県、四国の南岸、九州、奄美大島、徳之島に分布し、葉の鋸歯は葉の基部ほど細かく次第に不明瞭になります。

その他の変種・品種についても見ていきます。

ケキブシは本州の東北地方の日本海側、北陸地方に分布し、日本海側の多雪地帯にのみ産する地方型で、葉の裏面の脈上や脈沿いに白色の軟毛が密生します。

ヒメキブシは広島県西部に分布し、花崗岩地帯に見られる葉がコバノキブシより小型のものです。

マルバキブシは九州に分布し、葉身がほぼ円形で先端は急に細まって、尾状に1~3cm伸び、葉下面は無毛あるいは白細毛があるものです。

しかし以上の変種には連続性が大きく、区分が難しい場合もあり、特別に区別しない考えもあります。

ニシキキブシ(赤花キブシ)は花が赤い色に品種改良された園芸品種です。

フクリンキブシは葉の縁が黄色く彩られた園芸品種です(檜山,1961)。

キブシの葉|『トオヤマグリーン楽天市場店』より引用・購入可能
キブシの花|『日本花卉ガーデンセンター・アネックス楽天店』より引用・購入可能
エノシマキブシの若葉上面:光沢あり
エノシマキブシの若葉下面
エノシマキブシの花序
エノシマキブシの花
ニシキキブシの花|『石田精華園楽天市場店』より引用・購入可能
フクリンキブシの葉|『日本花卉ガーデンセンター・アネックス楽天店』より引用

果実はお歯黒の代用品だった?

キブシはどのように人間に利用されてきたのでしょうか?

果実は日本では昔から染色の材料として有名な五倍子(別名ヌルデミミフシ。ウルシ科ヌルデに形成された虫こぶ)の代用として活用されてきました(長澤,2001;山村,2016;藤吉,2019)。これが「木五倍子」という名前の由来となっています。

特にお歯黒の「五倍子粉」として用いられ、五倍子粉と米の研ぎ汁に酢、茶汁、古鉄、酒などを密封して発酵させた「お歯黒水」と混ぜると、五倍子粉に含まれるタンニンと化学反応をおこし、インクのように用いることができるようになります。

このように代用品という形ですので、少し地味な利用だったのかもしませんが、地域によってはかなり重要だったのかもしれません。

現在ではこのような用途は廃れてしまいましたが、植栽として庭木や公園樹にして植えられたり、花材などにも利用されています。

ナガバキブシはなぜ絶滅危惧種?

ナガバキブシとハザクラキブシはどちらも環境省レッドリストで絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。

2007年1月でナガバキブシの父島での個体数は68個体確認され、現存する個体は推定100個体以下とされています。

なぜ絶滅危惧種になってしまったのでしょうか?

絶滅の原因は、種子生産が非常に低いこと(雌株の7.4%しか結実しない)、年間死亡率が13.6%であるのに対し、苗木の加入率が2.4%と低いことの2点が挙げられています(Abe et al., 2008)。

ただ、その理由は、送粉がうまくいかないからではなく、種子を作るための資源の不足にあるという実験の結果示唆されています。

更に、ヒトの手やヒトが連れてきたヤギが植生を破壊したり、ネズミが果実を食べていることも影響していると言われています。また外来植物も影響があるとされています。

これらを踏まえると、元々何らかの要因で栄養がなく絶滅しそうだったところに、ヒトの手やヒトが連れてきたネズミやヤギがやってきて追い打ちをかけたと言えそうです。

なお、ハザクラキブシは更に少なく、母島での個体数は15個体となっています(安部・星,2008)。

垂れ下がってた花序の構造は?

キブシは花期は3〜4月です(茂木ら,2000)。葉の展開前に開花し、長さ4〜10cmの穂状花序が垂れ下がってつきます(長さは変種によって変わります)。

早春~春に咲き、この時期には林縁であちこちで垂れ下がっている様子が見られ、印象的ですね。

雌雄別株なので「雄の木」=雄株と「雌の木」=雌株が存在します。雄株では雄花序(厳密には退化した雌しべが残っているので両性花序)、雌株では雌花序となっており、雄花序の方が雌花序より長いです。これは雌花として種子をつくるには沢山のエネルギーが必要であるのに対して、雄花は種子を作らない分、花の数を増やすことにエネルギーを割り振ることができるからだと考えられています。また、雄花序の雄花は淡黄色、雌花序の雌花は淡黄緑色となってるので、微妙に色が違っています。

構造は共通で花は長さ6〜9mmの鐘形です。花弁は4個。萼片は4個、外側の2個は小さく、内側の2個は大きくて花弁状です。

雄花は淡黄色、雄しべは8個、雌しべは雄しべより少し短いです。一方、雌花は淡黄緑色、雌しべは花の外へ少しつきでており、雄しべは退化して短いです。

日中の花は早春の小型昆虫に暖かさを提供していた?

この花にはどのような昆虫が訪れるのでしょうか?

この花が咲く時期である早春はまだ出現や行動を開始している昆虫が少ないです。したがって、寒さに強い種類であることが予想できそうです。

実際、茨城県筑波山で、花にやってくる昆虫の種類を調べた研究ではツリアブ属、ハナアブ科、ニクバエ科、ガガンボ科のハエ目と、コハナバチ科とハキリバチ科の小型の単独性ハナバチが大部分を占めていました(Abe,2007)。

中でもハエ目が大多数で、単独性ハナバチはハエ目に比べるとわずかでした。

ハエの仲間は寒さに強いことで知られており、単独性ハナバチは行動時期の早いことが知られています。これらは比較的体が小さな種類が多いです。花が小さめの鐘形であることから同じくらい小さな体であるか、小さな花に差し込める一定の長さの口を持った種類に適応しており、やってくる虫に非常にマッチした形だと考えられます。

更にキブシはまだ寒い時期に太陽光がよく当たる林縁に沢山の花を咲かせています。こうすることでよく目立ち、更に暖かいので昆虫がやってきやすいといったメリットがあるのでしょう。非常に戦略的ですね。

夜間は夜行性の蛾が花に訪れていた?

このような研究がある一方で、夜間キブシに訪れる昆虫を調べた別の研究ではまた別の結果が出ています(池ノ上,2003;池ノ上・金井,2010)。

こちらの研究では日本南西部で24年間もの間行われた様々な植物の花にどのような蛾が訪れたのかが調査されています。キブシはその中の1種として扱われています。

この結果によると、夜間は上記のようなハエやハナバチは訪れず、早春に現れるヤガ科やシャクガ科を中心とした蛾の仲間が訪れていることが分かっています。

蛾は夕方暗くなった直後の時間帯に最も多く見られ、その後も吸蜜を目的とした飛来は明け方まで続けて観察されるようです。池ノ上・金井(2010)にはアカバキリガ Orthosia carnipennis という蛾が訪れる写真も残されています。

日中の訪花昆虫と夜間の訪花昆虫は結局どっちが大事?

このように2つの研究は異なる結果を示しています。どちらも事実であることは間違いないのですが、どちらの受粉が大事なのか?というのは気になる所です。しかし別々に行われた研究なので、単純比較するのは難しいでしょう。

そこでこの疑問に答えるために、兵庫県武田尾と京都大学の芦生研究林で研究が行われ、改めて昼と夜の訪花昆虫を調べ、その割合についても考察が行われました(Funamoto & Sugiura, 2021)。

また、日中に花序を一週間袋がけして受粉できないようにした個体群と、夜間に花序を袋がけして受粉できないようにした個体群を2つ用意し、種子の生産量を比較することで、日中の訪花昆虫と、夜間の訪花昆虫のどちらが重要であるかについて調査が行われました。

その結果、日中の訪花昆虫は筑波山での研究に比べると小型の単独性ハナバチが多くなっていたものの、おおよそ同じ結果で、夜間の訪花昆虫についても全てが夜行性の蛾で、これも日本南西部で行われた研究と一致しています。日中の訪花昆虫と夜間の訪花昆虫の個体数は1~2日間で、大体20~40個体で、比は大体同じであると言えそうな結果でした。

蛾の場合は花粉を口吻に運び、小型ハナバチとハナアブは花粉を頭、胸部、脚などの体の様々な部分につけて運んでいます。

この結果だけだと、日中の訪花昆虫と夜間の訪花昆虫の受粉効果は同じであると思えるかもしれません。

しかし、袋がけ実験では異なる結果が出ています。

夜間の訪花昆虫を制限し日中の訪花昆虫に受粉させた個体群の方が、日中の訪花昆虫を制限し夜間の訪花昆虫に受粉させた個体群よりも顕著に多く種子を作っていたのです。

つまりこれは日中の訪花昆虫(小型ハナバチとハナアブ)の方がキブシの受粉に大きく貢献しているということを意味しています。

とはいえ、夜間の訪花昆虫(夜行性の蛾)についても部分的には種子生産に貢献していたことから、受粉効果もゼロというわけではありませんでした。

結局、偏りは確認されたものの、昼・夜どちらでも受粉できるようにし機会を増やすことはキブシの戦略上は大事であると言えそうです。

なぜ日中と夜間の訪花昆虫のどちらにも受粉を頼るのか?

なぜ、キブシは日中の訪花昆虫と夜間の訪花昆虫のどちらにも受粉を頼っているのでしょうか?

その理由としては早春には訪花昆虫の活動が予測できないということが挙げられます。

別の研究から、小型ハナバチは外温性であるため、暖かく晴れた日にしか採餌せず、周囲温度が13°C未満のとき花にやってこないことが分かっています。一方、夜行性の蛾は内温性であるため、周囲温度が10℃未満でも飛翔が可能です。

そのため気温の変化が激しい早春にはハナバチだけに頼らず、様々な昆虫に受粉を頼るのは得策と言えるでしょう。

キブシは小型ハナバチが活動を行う前から開花を始めますが、この頃既に夜行性の蛾は活動を行っています。小型ハナバチの活動に完璧に開花時期を合わせていないのは、夜行性の蛾も重要視している証拠なのかもしれません。

なお、雄花と雌花の色の違いですが、こちらは詳しいことは分かっていないようです。まだ知られていない戦略があるのかもしれません。

ナガバキブシの訪花昆虫はキブシと違いがあるのか?

ではナガバキブシではどのような昆虫が訪れるのでしょうか?

ナガバキブシではきちんと調査が行われてはいませんが、比較的日当たりのよい下層のある低木地を好むため、湿り気と日陰を好むキブシとは違いがある可能性があります。また小笠原諸島特有の問題があるかもしれません。

父島の場合、適切な日中の訪花昆虫がいないようです(Abe et al., 2008)。そのため、主要な送粉者は夜行性の蛾であると考えられています。

果実は液果で種子は鳥や哺乳類によって散布される

果実はかたく乾いた液果となっています。直径7〜12mmの楕円状球形で、7〜10月に黄褐色に熟します。

キブシの未熟果

この果実は基本的には鳥によって食べられて種子が散布されると考えられています。種子に湿潤処理と酸処理を行った所、発芽が促進される(休眠打破する)ことが日本の研究によって明らかになっています(Abe & Matsunaga, 2007)。これはつまり鳥に食べられて、胃酸による刺激を受け、適度な湿度があると初めて発芽するということです。

散布された種子が発芽に適さない場所ですぐに発芽してしまうと、小さな苗木が冬を越せなくなる危険性があります。そのため、このような休眠打破のトリガーが用意されていると考えられています。種子の生理的寿命は少なくとも2年であり、発芽に適さない環境下では、種子は生存可能なシードバンクとしてより地中で長い期間生存し続け、適期を待っているのです。

実際、具体的な種類は不明ですが、鳥の糞の中にキブシの種子が確認されたり(平田ら,2006)、別の研究ではシジュウカラ Parus major の糞からキブシの種子が確認されています(Fujita & Takahashi, 2009)。まだ良くわかっていませんが、おそらくもっと色んな種類の鳥が好んでいるのでしょう。

ところが、様々な研究を総合すると、タヌキ Nyctereutes procyonoides やテン Martes melampus のような哺乳類も好んでいることも分かってきました(Sasaki & Kawabata, 1994;加藤ら,2000;Tsuji et al., 2014;高槻,2018;Takatsuki et al., 2018)。

特に山岳地帯のタヌキは冬になるとキブシの乾燥した古い果実を食べるようになり、重要視されるようになる傾向があり、寒い季節に最も重要な食物の一つになっていたと言います(Sasaki & Kawabata, 1994)。様々な論文を参照し、タヌキの食性を検証した論文でも「高頻度で検出された果実」の一つとしてキブシが挙げられています(高槻,2018)。

熟しても赤くならず、ヒトが想像する甘い果実とは違い、水分はなく乾燥してるにも関わらず、鳥からも哺乳類からも人気があるのは不思議な感じがします。このような果実は一般的に脂質が多いといった成分上の違いがあるのですが、キブシではまだ良くわかっていないようです。

引用文献

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