ウラジロチチコグサ・チチコグサモドキ・ウスベニチチコグサ・タチチチコグサの違いは?似た種類の見分け方を解説!新命名のキタウラジロチチコグサとミナミウラジロチチコグサとは?

植物
Gamochaeta coarctata

ウラジロチチコグサ・チチコグサモドキ・ウスベニチチコグサ・タチチチコグサは近年では都市部のあちこちで見かける多年草ですが、日本確認されたのは昭和からのことです。いずれも花序は穂状で葉状苞は穂の所々につく点が共通しており、意識しないと区別するにはかなり難しいです。ここでは一番わかり易い特徴に絞って区別方法を完結方法に述べました。従来ウラジロチチコグサとされた種は、近年の研究ではキタウラジロチチコグサとミナミウラジロチチコグサの2種に分かれることが分かっています。このことは研究者や野草好きの人の間で広く知られていないようです。筆者はこの2種と思われる写真を撮影しているので、今後の研究のためにここで紹介しておきます。本記事ではチチコグサモドキ属の分類・生態について解説していきます。

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ウラジロチチコグサ・チチコグサモドキ・ウスベニチチコグサ・タチチチコグサとは?

ウラジロチチコグサ(裏白父子草)は後述のように2020年に2種に分かれることが判明したので、ここでは「ウラジロチチコグサ類」と呼んでいきます。

ウラジロチチコグサ類は南アメリカ原産で、日本では昭和40年代後半(1965年~)から、関東地方から九州地方にかけて急速に分布を広げ、東北全域に侵入しつつあります(清水ら,2001)。帰化種として荒地、市街地などに生える多年草とされてきました。

チチコグサモドキ(父子草擬き) Gamochaeta pensylvanica は北アメリカ原産で、日本では大正中期から昭和初期に渡来し、戦後急速に分布を広げました(林ら,2013)。帰化種としてシイ・カシ帯の乾いた路傍、空閑地にきわめて普通に映える1~越年草です。

ウスベニチチコグサ(薄紅父子草) Gamochaeta purpurea は北アメリカ原産で、日本では1930年代に茨城県や兵庫県で採集され、1987年に整理されました。帰化種として関東から九州にかけて広く帰化しており、芝生、道ばたなどでチチコグサモドキよりはるかに普通に見られるようになっている1〜越年草です。

タチチチコグサ(立父子草) Gamochaeta calviceps は別名ホソバノチチコグサモドキ。北アメリカ原産で、日本では帰化種として路傍、空閑地に生える越年草です。

いずれもキク科チチコグサモドキ属で、花序は穂状で葉状苞は穂の所々につき、冠毛は基部が環状に合着している点などが共通で、チチコグサ属やハハコグサ属などからは区別されます。

チチコグサモドキ属はとても類似しており、生息地も全く同じなので、かなりしっかり観察しないと区別するのは難しいでしょう。

ウラジロチチコグサ・チチコグサモドキ・ウスベニチチコグサ・タチチチコグサの違いは?

これらの区別方法は植物学的には部分ごとにかなり沢山確認でき、細かい部分の観察を求める図鑑が多いですが、実用的にするためにここでは外観で分かる要素を絞りたいと思います。

まず、タチチチコグサでは花序の葉は線形または狭披針形で、茎の下部の葉より著しく細いのに対して、ウラジロチチコグサ類・チチコグサモドキ・ウスベニチチコグサでは花序の葉はへら形で、茎の下部の葉とほぼ同じ形という違いがあります。

これはタチチチコグサの別名であるホソバノチチコグサモドキというネーミングからも分かるでしょう。

残り3種に関しては、ウラジロチチコグサ類とチチコグサモドキでは頭花が淡褐色~濃褐色であるのに対して、ウスベニチチコグサでは頭花が紅色という違いがあります。

頭花というのはキク科特有の花の集合体(花序)で、一見花に見える部分のことです。

ウラジロチチコグサ類とチチコグサモドキに関しては、ウラジロチチコグサ類では葉上面に毛が無毛~白くなる程度の毛があり、葉下面と茎には綿毛が密生し隙間がないほど真っ白になるのに対して、チチコグサモドキでは葉上面に葉からはみ出るほどの綿毛があり、葉下面にも綿毛がありますが毛の間から緑色が見える程度の密度で、茎も白い毛がありますが外観としては緑色という違いがあります。

もっと詳しく知りたい人は別の図鑑も参照してみましょう。

チチコグサモドキの葉|By Andrés González – http://floranativadeuruguay.blogspot.com.ar/2012/07/gamochaeta-pensylvanica-asteraceae.html permiso en http://floranativadeuruguay.blogspot.com.ar/2012/09/eryngium-stenophyllum-apiaceae.html, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=28318671
ウスベニチチコグサの茎葉上面
ウスベニチチコグサの茎葉下面
ウスベニチチコグサの頭花
ウスベニチチコグサの果実
タチチチコグサ(ホソバノチチコグサモドキ)の茎葉|By Harry Rose from South West Rocks, Australia – Gamochaeta calviceps flowerhead2 Dungog, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=40470595
タチチチコグサ(ホソバノチチコグサモドキ)の頭花|By Harry Rose from South West Rocks, Australia – Gamochaeta calviceps flowerhead4 Dungog, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=40470597

ウラジロチチコグサ類は近年の研究で2種に分かれていた?区別方法は?

いままでは「ウラジロチチコグサ」は以下のように解説されてきました。

茎は基部から横に分岐して叢生し、高さ80cmほどになる。また短いストロンで分株を生じる。葉の表面には毛が少ないが、葉の裏や茎に密着した白毛を布き白い。茎につく葉の縁は波打つ。頭状花は茎の上部に集まり、直径4mmほどで、総苞片は光沢のある黄緑色。冠毛は約13本あり、そう果から容易に外れる。本属の帰化植物の中では最も遅くまで花をつけている。花期は夏。

『日本帰化植物写真図鑑 plant invader 600種 改訂』

しかし、近年ウラジロチチコグサと呼ばれたものは、従来キタウラジロチチコグサ Gamochaeta chinoesthes とミナミウラジロチチコグサ Gamochaeta coarctata の2種が混在していることが確認されています(髙橋,2020)。上記の生態はどちらの種を指すのかまだ分かっていません。

2種の区別方法について髙橋(2020)で詳しく書かれているので抜粋しておきます。

キタウラジロチチコグサ Gamochaeta chinoesthes ……葉の表面は通常クモ毛が薄くある.総苞の外片は卵形、先は通常鋭形、中片と内片は長楕円形で先は鋭形から鋭尖形。痩果は紫色。

ミナミウラジロチチコグサ Gamochaeta coarctata ……葉の表面は無毛かときに中肋沿いに細かなクモ毛がある。総苞の外片は卵形から広卵形で先は鈍形かときに鋭形、中片は長楕円形で先は鈍形、内片は線状長楕円形で先はやや横に丸く張り出してから微凸型に終わる。痩果は淡黄褐色。

「岐阜県植物誌で用いたキタウラジロチチコグサとミナミウラジロチチコグサ(キク科チチコグサモドキ属)」

簡単な識別方法としては、葉上面の毛を確認するのが良いと思われます。

筆者は東京でミナミウラジロチチコグサ、大阪でキタウラジロチチコグサと思われる個体を確認していますので撮影した写真を掲載しておきます。髙橋(2020)からそれぞれの種を私が同定しましたが、研究不足の種ですのでよくご確認の上参考にしてください。機会があれば改めて報告したいと考えています。

ミナミウラジロチチコグサの茎葉上面(東京都産)
ミナミウラジロチチコグサの茎葉下面(東京都産)
ミナミウラジロチチコグサの根生葉(東京都産)
ミナミウラジロチチコグサの頭花と果実(東京都産)
キタウラジロチチコグサの根生葉(大阪府産)
キタウラジロチチコグサの頭花(大阪府産)

送粉方法は?

花はキク科共通の頭花で、チチコグサモドキ属では花弁がない筒状花となっています。頭花には総苞があり、卵形です。

生態については殆ど分かっていないようです。

この花や同じ属の仲間で訪れる昆虫に関する記録はかなり調査しましたが、確認できませんでした。身近に生える植物なのでよく観察してみると何か分かってくるかもしれません。自家受粉の可能性もあります。

種子散布方法は?

果実は共通で痩果で、基部が環状に合着している冠毛がついています。

この冠毛があることから、風によって運ばれる風散布であると考えられます。

引用文献

林弥栄・門田裕一・平野隆久. 2013. 山溪ハンディ図鑑 1 野に咲く花 増補改訂新版. 山と渓谷社, 東京. 664pp. ISBN: 9784635070195

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七. 2001. 日本帰化植物写真図鑑 plant invader 600種 改訂. 全国農村教育協会, 東京. 553pp. ISBN: 9784881370858

髙橋弘. 2020. 岐阜県植物誌で用いたキタウラジロチチコグサとミナミウラジロチチコグサ(キク科チチコグサモドキ属). 植物地理・分類研究 68(2): 99-102. ISSN: 0388-6212, https://doi.org/10.18942/chiribunrui.0682-04

引用元

本記事は以下書籍に収録されてたものを加筆したものです。

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