クチナシとコクチナシの違いは?品種は?似た種類の見分け方を解説!利用方法は?甘い香りはスズメガのためだった!?果実の色素の自然界での役割は?

植物
Gardenia jasminoides var. radicans f. simpliciflora

クチナシは野生植物としても園芸植物でも食品添加物としても日本人に欠かすことのできない植物ですが、コクチナシという種類も知られ、花の形に違いはなく、葉も対生または三輪生し、常緑樹であるため、光沢があり、全縁で葉先が普通は尖る点も共通しています。区別に迷うことがあるかもしれませんが、クチナシとコクチナシは樹高・葉・花の大きさに大きな違いがあります。品種も一重咲きのものと八重咲きのものなどいくつか知られています。園芸でも広く栽培されますが、元々は黄色の着色料として日本では古代から利用され続けており、薬用としては漢方でも利用されます。花は一重咲きでは基部は筒状で花冠は分かれ白く、匂いもあります。主にスズメガによって送粉され受粉するとされますが、他の昆虫も補助的に受粉を行っている可能性があります。果実は液果で残存する萼片が特徴的です。鳥が食べ種子散布すると考えられていますが、その具体的な種類はまだ分かっていません。本記事ではクチナシとコクチナシの分類・利用方法・送粉生態・種子散布を解説していきます。

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クチナシ・コクチナシとは?

クチナシ(梔子)(狭義) Gardenia jasminoides var. jasminoides は日本の本州の静岡県以西・四国・九州、南西諸島;朝鮮、インドシナ半島(ベトナム、ラオス、カンボジア)、ネパール、インド、パキスタンに分布し、沿海~丘陵の照葉樹林内や乾いたアカマツ林に生える常緑低木です(Wu et al., 2011;林,2019)。ヨーロッパ、北アメリカ、太平洋の島々などでも観賞用に栽培されます。

コクチナシ(小梔子) Gardenia jasminoides var. radicans は中国原産とされ、日本では庭木、生垣、グランドカバーにやや普通に栽培される常緑低木です。ただし、中国の文献ではクチナシと区別されず、正確な分布は不明です(Wu et al., 2011)。

これらはアカネ科クチナシ属に含まれ、クチナシ(広義)Gardenia jasminoides に含まれています。したがって、種としては同じで生物学的には大きな違いが少なく、変種レベルの差であるとされています。

そのため白い一重または八重咲きの花の形に違いはなく、葉も対生または三輪生し、常緑樹であるため、光沢があり、全縁で葉先が普通は尖る点も共通しており、初めて見た人は違いが分からないかもしれません。

クチナシとコクチナシの違いは?

これら2変種には形態上は明らかな違いが見られます(林,2019)。ただし、その違いは大きさが主なものです。

まず、クチナシでは葉身長6~17cmと明らかに大型であるのに対して、コクチナシでは葉身長2.5~7cmと明らかに小型です。

また、クチナシでは葉の側脈が目立ち側脈の間が膨らみますが、コクチナシでは側脈は目立たず側脈の間は平滑です。

花もクチナシでは直径5~7cmと大型であるのに対して、コクチナシでは直径3~4cmと小型です。

樹高もクチナシでは1~2(亜熱帯では~5)mありますが、コクチナシでは30~50cm前後しかありません。

クチナシの全形
クチナシの葉上面
クチナシの葉下面
クチナシの花|By Bernard Loison – http://www.mytho-fleurs.com/, CC BY-SA 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1653300
クチナシの未熟果
クチナシの果実|By Imuzak – Own work, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=123990999
コクチナシの葉上面
コクチナシの花

クチナシの品種は?

以上でクチナシとコクチナシは簡単に判別可能ですが、花が一重咲きか二重咲きかやその他の形態によって品種が存在します。

一重咲きか八重咲きかで和名と学名をつけることがありますが、その関係は少しややこしいことになっています。

クチナシの原種は一重咲きで、八重咲きは ヤエクチナシ ‘Flore-pleno’ と呼ばれます。

しかし、コクチナシの原種 f. radicans は八重咲きとされ、一重咲きはヒトエノコクチナシ f. simpliciflora と呼ばれます。

この違いは学名が付けられた順番に由来しますが、マニアの人以外は特に意識する必要はないかもしれません。

この他、クチナシには葉の外縁部分が白いフクリンクチナシ(斑入りクチナシ) ‘Albomarginata’ 、葉先が丸いマルバクチナシ ‘Maruba’、果実が小形球状で直径1.2cmくらいのマルミノクチナシ f. globicarpa も知られます(佐方,1958)。

ヤエクチナシの花
ヒトエコクチナシの葉上面
ヒトエコクチナシの葉下面
ヒトエコクチナシの花
マルバクチナシの花|『園芸ネットプラス楽天市場店』より引用・購入可能
フクリンクチナシの葉|『ハッピーガーデン楽天市場店』より引用・購入可能

利用方法は?

クチナシとコクチナシは鑑賞用に頻繁に栽培されます。

しかし、着色料として利用されていることが有名でしょう。熟した果実はクロシン(crocin)とクロセチン(crocetin)というカロテノイド系の色素を含み、日本では元々は繊維を染める染料として利用され、奈良県の下池山古墳から出土した繊維片から、クチナシの色素成分が検出されるなど、日本における染色用色素としてのクチナシの利用は、遅くとも古墳時代に遡ります(佐藤,1999)。乾燥果実の粉末は奈良時代から使われ、平安時代には十二単など衣装の染色で支子色と呼ばれていました。

現代でも無害の天然色素として、正月料理の栗金団など、料理の着色料としても使われています。食品添加物としては「クチナシ色素」と表記され、サツマイモやクリ、和菓子、沢庵などを黄色に染めるのに用いられています。イリドイド配糖体の一種であるゲニポシド(geniposide)が腸内で変化したゲニピン(genipin)は青色色素にもなります。

薬用としても利用され、果実に含まれるクロセチンとゲニピンが薬用成分とされます(八木ら,2021)。天日または陰干しで乾燥処理したものは「山梔子」と呼ばれ、消炎、止血薬とし、充血、炎症を治すとして黄疸、吐血などに用いられ、漢方でも同様の目的で処方されます(白瀧,2018)。胆管や腸管のせばまりを拡張させる作用があるともされます。

近年では花は香りが良いためエッセンシャルオイル(精油)としても利用されます。

花の構造は?

クチナシは花期が6~7月で、葉腋から短い柄を出し、一個ずつ芳香がある花を咲かせます。花の直径は5~8cmで、萼、花冠の基部は筒状です。花冠の色は開花当初は白色ですが、徐々に黄色がかるように変化していきます。普通一重咲きですが、八重咲きのヤエクチナシ ‘Flore-pleno’ もあります。一重咲きでは花冠は大きく6裂または5~7裂に分かれます。6本の花粉を多数含んだ雄しべと1本の太い雌しべがあります。雄しべは花冠と並行に生えます。萼片は細く長く、6枚あります。

コクチナシについては花の直径が3~4cmであること以外はクチナシと同じです。

受粉方法は?

クチナシは明らかに昆虫媒ですが、訪花昆虫の研究は進んでいません。

しかし、クチナシの花は基部が筒状で蜜を吸うには非常に長いストロー状の口が必要なこと、匂いが強く、白色であることから、典型的なスズメガ媒の花の特徴と一致し、いくつかの研究ではスズメガ媒であると推察されています(Okamoto et al., 2008; Raju et al., 2022)。スズメガは夕方~夜間にかけて行動する口吻が極端に長い蛾の一種です。色が変わっていく点はスズメガ媒のスイカズラともよく似ています。

一方で、わずかですが、リュウキュウヒメカミキリという甲虫が訪れた例もあり(茶木・水流,2021)、スイカズラのように複数の昆虫のグループによって送粉されている可能性もあります。

また、ハナアザミウマ Thrips hawaiiensis やヒラズハナアザミウマ Frankliniella intonsa という小型昆虫が花粉を食べにやってくることが知られており(黒沢,1968;高橋,1984)、筆者も無数に群がる様子を何度も確認したことがあります。

クチナシに訪れるハナアザミウマ

アザミウマはとても小さいため1匹ではあまり花粉を運びませんが、特定の時期がやってくるとアザミウマは1~2週間で成虫になり、1回の開花期に数世代を繰り返すため、大量の個体が生まれ、花粉の運び手として貢献する可能性があり、同じスズメガ媒のサギソウでは作った全ての種子のうち、1/4に関して受粉に貢献していた記録もあります(Shigeta & Suetsugu, 2020)。しかし、花粉を食べるために花粉を花の中で移動させてしまうため、自家受粉を促しやすいというデメリットもあります。まだ検証されていませんがクチナシでもアザミウマは補助的な受粉を促している可能性があります。

果実の構造は?

クチナシの果実は肉質の液果です。長さ2~3cmの楕円形で、5~7の稜があり、子房下位なので上部に萼片が残ります。秋の終わりに橙色に熟します。八重咲きのヤエクチナシ ‘Flore-pleno’ では結実しないとされています。しかし一部では野生の個体群が確認されており、これらは結実していることが確認されています(宮崎ら,2016)。種子は多数が果肉に埋まっており、中型で楕円形、扁平です。

種子散布は?

クチナシの果実の橙色はクロシン(crocin)とクロセチン(crocetin)というカロテノイド系の色素によるもので、サフランの雌しべに含まれる色素の成分でもあります(市ら,1993)。

明らかに果実は橙色に変わることから視覚が発達し、赤色に反応する鳥が食べることが推察されます。そのため、種子は鳥散布されるとされていますが(宮崎ら,2016;森定ら,2020)、具体的に種子散布に貢献する鳥の研究は行われていないと思われます。肉質の液果で鳥散布する特徴はアカネ科で広く見られます(Bremer & Eriksson, 1992)。

薬用作用のあるゲニポシドは本来は哺乳類に食べられることを避けるためとも考えられますが、研究はありません。

引用文献

Bremer, B., & Eriksson, O. 1992. Evolution of fruit characters and dispersal modes in the tropical family Rubiaceae. Biological Journal of the Linnean Society 47(1): 79-95. https://doi.org/10.1111/j.1095-8312.1992.tb00657.x

茶木慧太・水流尚樹. 2021. 夜間、クチナシに訪花したリュウキュウヒメカミキリ. 月刊むし 608: 58. ISSN: 0388-418X

林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447

市隆人・片山豪・多田幹郎. 1993. クチナシ果実の発育に伴うカロテノイドパターンの変化. 岡山大學農學部學術報告 82: 9-15. https://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/905

黒沢三樹男. 1968. 日本産総翅類の研究. Insecta matsumurana. Supplement 4: 1-92. http://hdl.handle.net/2115/22225

宮崎寛・金谷整一・河原畑濃・松永順・松永道雄. 2016. 現存する 「立田山ヤエクチナシ」 の由来および特徴. 森林総合研究所研究報告 15(3): 81-90. https://doi.org/10.20756/ffpri.15.3_81

森定伸・野崎達也・小川みどり・鎌田磨人. 2020. 高知県大岐浜におけるクロマツ林から照葉樹林への遷移過程. 景観生態学 25(1): 75-86. https://doi.org/10.5738/jale.25.75

Okamoto, T., Kawakita, A., & Kato, M. 2008. Floral adaptations to nocturnal moth pollination in Diplomorpha (Thymelaeaceae). Plant species biology 23(3): 192-201. https://doi.org/10.1111/j.1442-1984.2008.00222.x

Raju, A. S., Kumar, S. S., Grace, L. K., Punny, K., Raliengoane, T. P., & Prathyusha, K. 2022. Zoophily and nectar-robbing by sunbirds in Gardenia latifolia Ait. (Rubiaceae). Journal of Threatened Taxa 14(8): 21642-21650. ISSN: 0974-7893, https://doi.org/10.11609/jott.2022.14.8.21487-21750, https://www.threatenedtaxa.org/JoTT/article/download/7930/8745

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Shigeta, K., & Suetsugu, K. 2020. Contribution of thrips to seed production in Habenaria radiata, an orchid morphologically adapted to hawkmoths. Journal of plant research 133(4): 499-506. ISSN: 0918-9440, https://doi.org/10.1007/s10265-020-01205-z

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Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. eds. 2011. Flora of China. Vol. 19 (Cucurbitaceae through Valerianaceae, with Annonaceae and Berberidaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781935641049

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