キジカクシ・アスパラガス・クサスギカズラはいずれもキジカクシ科キジカクシ属に含まれる多年草で、非常に細い刺針状の「葉」のようなものが束生しているのが何よりの特徴でしょう。実際はこれは「枝」が変化したものであり(葉状枝と呼ばれる)、本物の葉は小さく退化しています。アスパラガスは非常に身近な野菜ですが、野生化することもあり、在来種の2種と混同される可能性があります。これら3種は主に葉状枝を確認することで区別できます。本記事ではキジカクシ属の分類・形態について解説していきます。
キジカクシ・アスパラガス・クサスギカズラとは?
キジカクシ(雉隠) Asparagus schoberioides は日本の北海道・本州・四国・九州;朝鮮・中国・モンゴル・ロシアに分布し、丘陵から山地の草原や明るい林内に生える多年草です。
オランダキジカクシ(阿蘭陀雉隠・和蘭雉隠) Asparagus officinalis は一般名アスパラガス。ヨーロッパ・西アジア・中央アジア原産で、日本を含む世界中で観賞用、または野菜の一種として食用に栽培され、一部が逸出し野生化している多年草です(RBG Kew, 2024)。
クサスギカズラ(草杉蔓) Asparagus cochinchinensis var. lucidus は別名テンモンドウ(天門冬)。日本の本州・四国・九州・琉球;朝鮮・台湾~東南アジアに分布し、海岸の林縁や岩場に生えるつる性多年草です。
いずれもキジカクシ科(クサスギカズラ科)キジカクシ属(クサスギカズラ属)に含まれる多年草で、非常に細い刺針状の「葉」のようなものが束生しているのが何よりの特徴でしょう。
ただし、植物学的にはキジカクシ属に生える「葉」のようなものは「小枝」であり、「葉状枝(擬葉)」と呼ばれるものです。本物の「葉」は葉状枝の生え際に広卵形で膜質のものに変化して残存しており、「鱗片葉(袴)」と呼ばれています。
3種の中でもアスパラガスは苗を植えてから3年目以降に出る若芽を食用にし、独特の風味から野菜として、また利尿作用と媚薬としての機能から薬として使用されてきました。
アスパラギン酸(名前はアスパラガスに由来、うま味成分のひとつ、ヒトでは中枢神経系の興奮性神経伝達物質として作用)のほか、ビタミン類、葉酸、ルチンなど注目すべき栄養素を含む野菜です。
歴史的にはエジプト初期王朝時代(紀元前3000年)のフリーズ(建造物の装飾の一部)に既に供物として描かれています。古代ローマ人や古代ギリシア人も食用にしていた記録があります。日本では江戸時代(1781年以降)にオランダ船によって渡来し、観賞用として栽培されましたが、食用としては明治時代(1871年)に北海道開拓使によって導入されてからです。
このように人類と馴染み深いアスパラガスですが、日本国内でも野生化しており、日本の在来種であるキジカクシやクサスギカズラと混同されることがあります。
キジカクシ・アスパラガス・クサスギカズラの違いは?
これら3種は最初にキジカクシ・アスパラガスとクサスギカズラに大別できます(神奈川県植物誌調査会,2018)。
キジカクシとアスパラガスでは主茎が直立し、葉状枝が3~8本束生し、稜(立体的に突出する角の部分)がないのに対して、クサスギカズラでは主茎がつる性で、葉状枝が1~3本束生し、3稜があるという違いがあります。
主茎に1本だけ葉状枝が確認できるようならクサスギカズラとしてよいでしょう。
キジカクシとアスパラガスに関しては、キジカクシでは葉状枝が3~7個束生し、かま形に湾曲し平べったいのに対して、葉状枝が5~8本が束生し、まっすぐで細いという違いがあります。
なお、「葉状枝がかま形に湾曲し平べったい」のはクサスギカズラも同様なので注意しましょう。
花に関してはキジカクシとアスパラガスは鐘形ですが、クサスギカズラは花弁が開いている開放形であるという違いもあります。
キジカクシ属はこの他にも観賞用の園芸種として多数の種類が知られていますが、数が多いのでここでは省略します。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
RBG Kew. 2024. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/