ヒイラギ(オニヒイラギ)とヒイラギモクセイはいずれもモクセイ科モクセイ属に含まれ、町中でも栽培されているのを見かけます。ヒイラギに関しては林内で幼木を頻繁に見かけるときもあります。形態的にはどちらも葉に鋸歯があり、そのため、これら2種は混同されることは多いでしょう。しかも、この他にもヒイラギモチ・セイヨウヒイラギ・ヒイラギナンテンなど「ヒイラギ」と名前がつく植物が多数存在し、これらとも頻繁に混同されています。しかし、葉・花・果実をしっかり観察することで明確な違いがあることが分かるでしょう。ヒイラギやヒイラギモチは不思議なことに鋸歯葉と全縁葉の2種類が確認されていますが、これはニホンジカなどの草食性哺乳類の摂食が関係しているのだと考えられます。本記事ではヒイラギによく似た種類の分類・生態について解説していきます。
ヒイラギ(オニヒイラギ)・ヒイラギモクセイとは?
ヒイラギ(柊) Osmanthus heterophyllus は別名オニヒイラギ(鬼柊)。日本の本州(関東地方以西)・四国・九州に分布し、やや乾燥した丘陵の斜面などに生える常緑小高木です。園芸でも観賞用に庭でよく植栽され、逸出しています。
ヒイラギモクセイ(柊木犀) Osmanthus x fortunei はヒイラギとギンモクセイ Osmanthus asiaticus の推定雑種。公園・街路・庭などに栽培され、ときに逸出します。
いずれもモクセイ科モクセイ属に含まれ、町中でも栽培されているのを見かけます。ヒイラギに関しては林内で幼木を頻繁に見かけるときもあります。
形態的には、葉に鋸歯があり、花冠に筒部と4裂片があり、果実が核果という共通点があります(神奈川県植物誌調査会,2018)。
そのため、これら2種は混同されることは多いでしょう。しかも、この他にもヒイラギモチ・セイヨウヒイラギ・ヒイラギナンテンなど「ヒイラギ」と名前がつく植物が多数存在し、これらとも頻繁に混同されています。
ヒイラギとヒイラギモクセイの違いは?
ヒイラギとヒイラギモクセイは葉の形で区別することができます(林,2019)。
具体的には鋸歯がある葉において、ヒイラギでは大きめの鋸歯が3~5対あるのに対して、ヒイラギモクセイでは細かめの鋸歯が6~10対という違いがあります。
これはヒイラギモクセイが粗い鋸歯葉があるヒイラギと細かい鋸歯葉があるギンモクセイの雑種であることを考えれば、分かるでしょう。
また、あまり指摘されていませんが、花の形にも違いがあるようです。
ヒイラギでは花冠裂片がそり返り、雄しべが花冠から明らかに突き出ているのに対して、ヒイラギモクセイでは花冠裂片が平らで、雄しべが花冠内に普通収まっています。
これも、ヒイラギモクセイがギンモクセイの花の要素を受け継いだ結果であると考えられるでしょう。
ヒイラギとヒイラギモチ・セイヨウヒイラギの違いは?
ヒイラギに名前が類似している種類として、ヒイラギモチやセイヨウヒイラギも挙げられます。
ヒイラギモチ(柊黐) Ilex cornuta は標準和名ヤバネヒイラギモチ(矢羽根柊黐)、別名ヒイラギモドキ(柊擬き)、シナヒイラギ(支那柊)。中国~朝鮮半島原産で、時に庭木・生垣・鉢植えで観賞用に栽培される常緑低木です。
セイヨウヒイラギ(西洋柊) Ilex aquifolium は別名セイヨウヒイラギモチ(西洋柊黐)、クリスマスホーリー。ヨーロッパ~西アジア原産で、観賞用に栽培される常緑低木です。クリスマスの装飾に使用されます。
これらの種類もヒイラギのように葉に鋭い鋸歯があることから命名され、常緑樹でもあることから、混同される原因になっているでしょう。
しかし、そもそも分類がかなり違います。ヒイラギは上述のようにモクセイ科であるのに対して、ヒイラギモチとセイヨウヒイラギはモチノキ科です。
科が異なると、花や果実が大幅に異なるのが普通です。
花に関しては、ヒイラギでは雌雄異株であるため1つの花に雄しべか雌しべのどちらかしか存在しないのに対して、ヒイラギモチとセイヨウヒイラギでは雌雄同株であるため1つの花に雄しべと雌しべ両方存在するという違いがあります。また、花期もヒイラギでは11〜12月であるのに対して、ヒイラギモチとセイヨウヒイラギでは4~5月です。
果実に関しては、ヒイラギでは5〜7月に紫黒色に熟すのに対して、ヒイラギモチとセイヨウヒイラギでは11~12月に赤く熟すという違いがあります。
冬に真っ赤に熟した果実があれば、ヒイラギでは絶対にありません。
また、葉でも違いがあります。ヒイラギやヒイラギモクセイでは葉柄が4~15mmあるのに対して、ヒイラギモチとセイヨウヒイラギでは葉柄が2~5mmしかありません。
ヒイラギモチの葉の形が四隅に刺があり長方形というのはヒイラギモチにもセイヨウヒイラギにもなく唯一無二でこれも重要な区別点でしょう。
ヒイラギとヒイラギナンテンの違いは?
ヒイラギナンテン(柊南天) Berberis japonica もまたヒイラギを混同される種類でしょう。
しかし、ヒイラギナンテンはメギ科で、モクセイ科のヒイラギとは全く異なるグループです。
ヒイラギナンテンは奇数羽状複葉という、1枚の葉が5~9対の「小葉」に別れた形になっており、単葉のヒイラギとは異なります。
花もヒイラギナンテンでは黄色ですが、ヒイラギでは白色です。
よく観察すれば簡単に区別できるでしょう。
なお、ヒイラギナンテン属には他にもホソバヒイラギナンテンやナリヒラヒイラギナンテンも存在しているので、これらとの区別はまた別に必要です。
ヒイラギにはなぜトゲのある葉とない葉があるのか?
ヒイラギにはなぜトゲのある葉(鋸歯葉)とない葉(全縁葉)があることが知られています。
ヒイラギは幼木のうちは鋸歯葉が多く、老木になるほど全縁葉が多くなっていきます。
なぜヒイラギは2種類の葉があり、加齢するにつれて全縁葉が多くなるのでしょうか?
これは実際の実験があるわけではありませんが、若いうちは樹高が低く、ニホンジカなどの草食性哺乳類によって摂食されるリスクが高いですが、年をとるとともに樹高が高くなるため、摂食されることは減っていくことが想定されるでしょう(園池,2016)。
そのような場合は若いうちは鋸歯葉をつけることで摂食されることを防ぐことが重要になります。しかし、おそらく鋭く硬い刺を作るのには生産コストが高くエネルギーを沢山消費することになるので、老木になるほど無駄を減らした全縁葉が増えていくのだと考えられます。
種子散布方法は?
ヒイラギの種子散布方法は詳しくは分かっていませんが、鳥散布で、少なくともヒヨドリが食べることが知られています(上田,1999)。
ヒイラギの幼木を林内のあちこちで見かけることがありますが、これも明らかに鳥の糞から発芽したものであると考えられるでしょう。
引用文献
林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
園池公毅. 2016. 植物の形には意味がある. ベレ出版, 東京. 293pp. ISBN: 9784860644703
上田恵介. 1999. 種子散布 助けあいの進化論 1 鳥が運ぶ種子. 築地書館, 東京. ISBN: 9784806711926