ハナズオウ・アメリカハナズオウ・セイヨウハナズオウはいずれもサクラのように展葉前に春にピンク~紫色のマメ科特有の蝶形花だけが密生しているのが最大の特徴です。昔から栽培されるハナズオウは有名ですが、近年アメリカハナズオウやセイヨウハナズオウが見られる機会も増えています。これらは混同されつつあります。しかし、そもそも元の分布地が大きく異なり、形態的にも葉の形・樹形・花の形をしっかり観察すれば明確に区別できます。本記事ではハナズオウ属の分類・形態について解説していきます。
ハナズオウ・アメリカハナズオウ・セイヨウハナズオウとは?
ハナズオウ(花蘇芳) Cercis chinensis は別名ハナズホウ、スオウバナ(蘇芳花)。中国東部に分布し、朝鮮半島・コーカサス・ウクライナに導入され、日本では古くから観賞用に庭などに植栽されている落葉低木~小高木です(RBG Kew, 2025)。
アメリカハナズオウ(亜米利加花蘇芳) Cercis canadensis はアメリカ合衆国東部に分布し、コーカサス・ウクライナ・ルーマニアに導入され、日本では稀に観賞用に栽培される落葉低木~小高木です。
セイヨウハナズオウ(西洋花蘇芳) Cercis siliquastrum は別名ユダの木。地中海沿岸のヨーロッパ(フランス~ブルガリア)と西アジア(トルコ~アフガニスタン)に分布する落葉低木~小高木です。「ユダの木」という名前はユダがハナズオウに首を吊り、その花が赤みを帯びたという信仰に由来するとされることもありますが、おそらく翻訳ミスから生じたものとされ、本来は「ユダヤの木」だったとされます。
いずれもマメ科ハナズオウ属に含まれ、葉の展開前に、前年枝や古い枝に紅紫色の花が束生するのが最大の特徴です。
そのためサクラのように春にピンク~紫色のマメ科特有の蝶形花だけが密生しているのを見かけるとすぐにハナズオウの仲間であると分かります。和名は花の色が同じくマメ科の染料植物スオウ Biancaea sappan で染めた蘇芳染の汁の色に似ていることによります。
更に葉全体が円形で基部(葉脚)がハート型に湾入する点もかなり独特です。
このように比較的別のグループからの識別は容易ですが、近年アメリカハナズオウが栽培されるようになり混同されることが増えています。
更に園芸サイトではアメリカハナズオウとセイヨウハナズオウが同種であるかのように書かれてるものも見かけます。
ハナズオウ・アメリカハナズオウ・セイヨウハナズオウの違いは?
しかし、ハナズオウ・アメリカハナズオウ・セイヨウハナズオウは全く異なる別種です(茂木ら,2000;Flora of North America Editorial Committee, 2023; Ali, 1973)。
大前提として、ハナズオウは中国原産、アメリカハナズオウはアメリカ合衆国原産、セイヨウハナズオウはヨーロッパ~西アジア原産です。これらは地理的にも離れており、おそらく祖先が分断された結果、もはや全く異なる種類です。
ただ区別が難しい場合があるのも事実です。
3種を正確に区別するには開花後に展葉してくる葉を観察する必要があります。
葉はいずれも丸みを帯びていますが、ハナズオウとアメリカハナズオウでは葉先が尾状に伸びるのに対して、セイヨウハナズオウでは葉先が尾状に伸びないという違いがあります。この違いは明確です。
ハナズオウとアメリカハナズオウを比較すると、ハナズオウでは葉下面の葉脈の基部に毛があるのを除いてほぼ無毛であるのに対して、アメリカハナズオウでは葉下面全体に毛がある場合があるという違いがあります。
しかし、アメリカハナズオウの葉下面は毛がないという個体差もあるのでややこしいです。いくつかの葉の確認が必要でしょう。ハナズオウとアメリカハナズオウの葉はかなり類似しています。
とはいえ、判断材料はこれだけではなく樹形も観察すればより正確です。
樹形に関しては、ハナズオウは株立ちであるのに対して、アメリカハナズオウ・セイヨウハナズオウは一本立ちであるという違いがあります。
株立ちというのは植物の根元から複数の幹が立ち上がっている樹形のことを指します。
そのため、ハナズオウは樹形が一本の幹がしっかりと立っている普通にイメージする樹木とはかなり異なっています。樹形は通年観察できるのも良い点です。
したがって、葉と樹形を確認すれば間違えることは少ないでしょう。
花に関しても違いがあります。
ハナズオウとセイヨウハナズオウでは花弁が紅紫色であるのに対して、アメリカハナズオウでは薄いピンク色であるという違いがあります。
ハナズオウとセイヨウハナズオウを比較すると、ハナズオウでは色が濃い蜜標(昆虫を惹き寄せるための模様)が旗弁にあるのに対して、セイヨウハナズオウでは特別な模様はヒトの目では見当たらないという違いがあります。
ところで、ややこしいのですが通常のマメ科の旗弁は翼弁の外側にありますが、ハナズオウ属では翼弁の内側にあります。この点は細かいことなのでハナズオウでは「花に模様があるんだな」くらいの認識で結構です。










引用文献
Ali, S. I. 1973. Flora of Pakistan Volume 54: Convallariaceae. University of Karachi, Karachi. 47pp. http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=5&taxon_id=10142
Flora of North America Editorial Committee. 2023. Flora of North America North of Mexico Volume 11: Magnoliophyta: Fabaceae, Parts 1 and 2. Oxford University Press, Oxford. 1108pp. ISBN: 9780197619803
茂木透・太田和夫・勝山輝男・高橋秀男・城川四郎・吉山寛・石井英美・崎尾均・中川重年. 2000. 樹に咲く花 離弁花 2 第2版. 山と溪谷社, 東京. 719pp. ISBN: 9784635070041
RBG Kew. 2025. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/