ノゲシ(ハルノノゲシ)・オニノゲシ・ アキノノゲシ・ホソバアキノノゲシの違いは?似た種類の見分け方を解説

植物
Lactuca indica

ノゲシ(ハルノノゲシ)・オニノゲシ・ アキノノゲシ・ホソバアキノノゲシはキク科で日本では都市部でも非常に一般的に観察される上に名前がよく似ていますが、ノゲシ・オニノゲシとアキノノゲシ・ホソバアキノノゲシでは全く異なる属に含まれています。その区別は花か果実で行うのが確実です。また、ノゲシとオニノゲシは茎の基部の葉で見分けるのがおすすめです。ノゲシとつく種類の中でもアキノノゲシは生態がよく調べられています。人間に見えない紫外線色がある上に、蜜を吸いやすいテーブル状の露出型で甲虫、チョウ、ハナアブ、ハナバチなどを呼び込みます。しかし不思議なことになぜか一度自分の雄しべの花粉を自分の雌しべの花粉につけるというまどろっこしいことを行っているようです。本記事ではノゲシ(ハルノノゲシ)・オニノゲシ・ アキノノゲシの分類・送粉生態・種子散布を解説していきます。

スポンサーリンク

ノゲシ類とアキノノゲシ類の違いは?

ノゲシ(野芥子) Sonchus oleraceus は別名ハルノノゲシ(春の野芥子)。ヨーロッパ原産で現在は世界中に帰化分布し、低地~丘陵地、山地帯下部の道ばた、林縁、畑地、土手などに普通に生える1年草または越年草です。

オニノゲシ(鬼野芥子) Sonchus asper はヨーロッパ原産の帰化植物で明治時代に渡来し、道ばたや畑地などに普通に生える1年草または越年草です。

アキノノゲシ(秋の野芥子) Lactuca indica は日本全土・朝鮮・中国・台湾・東南アジアなどに広く分布し、日当たりのよい荒れ地や草地など生息する1〜2年草です(Wu et al., 2011; 林ら,2013)。日本へは稲作とともにやってきた史前帰化植物であると考えられています(前川,1943)。

以上の3種ノゲシ(ハルノノゲシ)・オニノゲシとアキノノゲシは同じくキク科で名前は似ているものの属レベルではノゲシ(ハルノノゲシ)・オニノゲシとアキノノゲシは全く異なる分類がなされます(神奈川県植物誌調査会,2018)。アキノノゲシはむしろレタスと非常に近い仲間です。茎から乳液も出します。

植物学的に重要な点として指摘されているのは、ノゲシ・オニノゲシでは果実が細い棒状で突き出ている部分がないのに対して、アキノノゲシでは偏平でバナナ状になり、先端が嘴のように突き出ているという形の違いです。

なお、よく誤解されますが、ここでいう果実とは綿毛(冠毛と言います)がついた「種(たね)」と誤解される部分のことですのでご注意ください。

ただ勿論、果実を観察しても良いですが、中々時期が限られているので難しいでしょう。他にも沢山の相違点があるので大丈夫です。

まず名前の通り、ノゲシとオニノゲシは花期が4~10月であるのに対して、アキノノゲシは花期が9~11月です。しかし、花期が被っており、ノゲシのことを「ハルノノゲシ」と呼ぶのは本来かなり無理があります。

花の形は全く異なっています。ノゲシとオニノゲシでは頭花は80以上の小花(舌状花)から構成されており、緻密な印象を受けますが、アキノノゲシはそれほど多くなく、疎らな印象を受けます。また、アキノノゲシはノゲシとオニノゲシに比べて色が薄く、淡黄色でクリーム色に近いものとなっています。

葉はノゲシ・オニノゲシでは葉縁に刺が多く、茎を明らかに抱きますが、アキノノゲシでは刺は少なめで、茎をあまり抱きません。

以上を注目すれば2グループについては区別が付きます。

ノゲシとオニノゲシの違いは?

ノゲシとオニノゲシについては、ノゲシでは茎の中部の葉は基部が尖った3角形の耳状になって茎を抱き、葉は淡緑色で光沢は少なく痩果は縦の肋の間に横すじがあるのに対して、オニノゲシは茎の中部の葉は基部が丸い耳状になって茎を抱き、葉は深緑色で光沢が強く、痩果の縦の肋の間に横すじはないという違いがあります。

特に茎の中部の葉の形と葉の光沢は重要と言えるでしょう。

少し分かりにくいかもしれませんが、大雑把に言ってノゲシは刺のような鋸歯が多いものの、触っても柔らかいに対して、オニノゲシは刺が明らかに固く細く長く突き出ており、触っても痛いという判別方法もあります。ただしこの判別方法はかなり曖昧で例外もある上、怪我する可能性もあるので参考程度に行ってください。

なお、アキノノゲシにはホソバアキノノゲシ var. laciniata という変種がいます。これは葉は広線形で、茎の下部のものから上部のものまで、切れ込みがまったくないアキノノゲシの変種で、他は全く同じです。

またリュウゼツサイ(龍舌菜) var. dracoglossa と呼ばれる変種もいます。こちらは明治初年台湾から入ってきたとされ、ニワトリなどの家畜の餌ように人為選択されたため、ホソバアキノノゲシのように葉が細いものの、明らかに大きく長さ23~40cmあり、遠目にも葉が目立ちます。稀に逸出しているようです。現在ではペットのリクガメの餌として有名です。

他にも日本にはノゲシ属にはハチジョウナ、アキノノゲシ属にはヤマニガナ、トゲチシャなどが居ますがここでは省略します。詳しく知りたい人は神奈川県植物誌調査会(2018)を参照してみてください。

ノゲシの葉
ノゲシの中部の葉:尖った3角形の耳状
ノゲシの頭花
ノゲシの果実
オニノゲシの全形
オニノゲシの葉上面
オニノゲシの葉上面:葉はよく尖っている
オニノゲシの葉下面
オニノゲシの葉下面
オニノゲシの基部の葉
オニノゲシの中部の葉:明らかに半円形をしている
オニノゲシの頭花(咲きかけ)
オニノゲシの頭花(咲きかけ)
オニノゲシの果実
アキノノゲシの葉
アキノノゲシの葉:切れ込みあり
アキノノゲシの頭花
ホソバアキノノゲシの葉
ホソバアキノノゲシの葉:切れ込みなし
ホソバアキノノゲシの頭花
ホソバアキノノゲシの頭花

アキノノゲシの花冠中心部は紫外線を吸収していた!?

ノゲシ・オニノゲシ・アキノノゲシに限らずキク科は「頭花(頭状花序)」を咲かせます。頭花とはキク科に多く見られ、他の植物における花が集合している花序(=花の並び)のことです。その証拠にそれぞれの花に雄しべと雌しべの構造があり、特別に「小花」と呼ばれることもあります。普通の人は頭花のことを「花」と呼びますが、本来は異なります。ノゲシ・オニノゲシ・アキノノゲシでは小花は舌状花のみで構成されます。

ノゲシは花期が4~10月。頭花は黄色で直径約2cm。舌状花は多数あります。総苞は長さ1.2〜1.5cm。花柄と総苞にはしばしば腺毛があり、粘ります。

オニノゲシは花期が4~10月。頭花は黄色で直径約2cm。舌状花は多数あります。花柄と総苞片にはときに腺毛があります。

アキノノゲシは名の通り花期が9~11月で秋のみに咲き、頭花はふつう淡黄色、まれに白色、淡紫色で一般的なキク科と違って淡黄色で、クリーム色に近いものになっている点は趣深いです。舌状花は上記2種より少ないです。昼間開き、夕方にはしぼみます。総苞は長さ約1cm。総苞片は覆瓦状に重なりあい、ふちは黒っぽいです。

アキノノゲシには少し特殊なことがあります。人の目からはわかりませんが、花冠先端部は紫外線を反射し、中心部が吸収するようになっているのです(山岡,2009)、昆虫からは中心の色は濃く見えるものと思われ、昆虫を惹き寄せるのに役立っているものと思われます。

アキノノゲシの頭花
アキノノゲシの頭花

なぜか雄しべの花粉を雌しべに移してから花粉を昆虫に渡していた!?

アキノノゲシは受粉の仕方も少し変わっています(田中・平野,2000)。筒状の雄しべから雌しべが飛び出て、雄しべから受け継いだ花粉をまとっています。虫がやってきた時にこれを体につけさせます。そして時間が経つと、雌しべの先端が左右に裂けていき、中にある柱頭(=雌しべの花粉を受け取る部分)が顔を出し、今度は虫の体についている他の株の花粉を受け取るようになります。

なぜこんなまどろっこしいことをするのでしょうか?

これは一度自家受粉を防ぐ部分的な「雄性先熟」の一種であると考えられるかもしれません。

アキノノゲシの場合はさらに時間が経つと更に先端が裂けていき、自分の花粉を柱頭につけるようになるので、自家受粉を最後の手段として行っている可能性があります。この自家受粉を効率よく行うために、まず雌しべに花粉を移しておく、ということなのかもしれません。これは1日の間しか咲かないことが関係していると言われています。しかしこれがどれほどアキノノゲシにとってメリットがあることなのはまだよく分からない部分があります。

頭花に様々な種類が訪れるが偏りあった!?

アキノノゲシに訪れる虫の種類については比較的よく研究されていて、誰でも蜜を吸いやすいテーブル状の露出型のため、甲虫、チョウ、ハナアブ、ハナバチなど様々な昆虫が来ます(田中,1997;桜谷ら,1999;久松,2010)。しかし、割合はハナアブが半数を占め、ハナバチはセイヨウミツバチが殆どという結果もあるので(横井ら,2008;由利・北村,2014)、思ったより種類には偏りがあります。昆虫にとっての餌として魅力の違いであったり、紫外線色も含めた色の好みなど人間に分からない部分もあるのかもしれませんね。

しかし極めて一般的な形と色をしているノゲシとオニノゲシの頭花との比較はまだ行われていないようです。微妙な色や形の違いがやってくる昆虫に影響するのか気になるところです。

果実は痩果で種子は風散布

ノゲシ・オニノゲシ・アキノノゲシは果実の形に違いはあるものの、いずれも痩果と呼ばれ、冠毛がつき風によって飛ばされます。これは種子に見えますが厳密には種子ではなく、痩果の中に種子が入っているので外からは種子は見えません。

果実の形態の違いにとって飛行能力等に違いがあるのかなどの研究はまだ行われていないようです。

引用文献

林弥栄・門田裕一・平野隆久. 2013. 山溪ハンディ図鑑 1 野に咲く花 増補改訂新版. 山と渓谷社, 東京. 664pp. ISBN: 9784635070195

久松正樹. 2010. 茨城県におけるハナバチ群集と開花植物相の関係. 茨城県自然博物館研究報告 13: 33-64. ISSN: 1343-8921, https://www.nat.museum.ibk.ed.jp/wp-content/uploads/2021/03/2021-03-17_17-23-20_483986.pdf

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

前川文夫. 1943. 史前帰化植物について. 植物分類、地理 13: 274-279. ISSN: 0001-6799, https://doi.org/10.18942/bunruichiri.KJ00002992577

桜谷保之・西中康明・岩崎江利子. 1999. 近畿大学奈良キャンパスのチョウ類相. 近畿大学農学部紀要 32: 21-35. ISSN: 0453-8889, http://id.nii.ac.jp/1391/00004859/

田中肇. 1997. エコロジーガイド 花と昆虫がつくる自然. 保育社, 東京. 197pp. ISBN: 9784586312054

田中肇・平野隆久. 2000. 花の顔 実を結ぶための知恵. 山と渓谷社, 東京. 191pp. ISBN: 9784635063043

山岡景行. 2009. 文系学生のための生物学教材の改良 (4) 被子植物の蜜標(その2)蜜標の疑似紫外線カラー画像. 東洋大学紀要 自然科学篇 53: 69-87. ISSN: 1346-8987, http://id.nii.ac.jp/1060/00002546/

横井智之・波部彰布・香取郁夫・桜谷保之. 2008. 近畿大学奈良キャンパスにおける訪花昆虫群集の多様性. 近畿大学農学部紀要 41: 77-94. ISSN: 0453-8889, http://id.nii.ac.jp/1391/00005214/

由利萌・北村俊平. 2014. 石川県立大学キャンパスにおけるキク科アキノノゲシとセイタカアワダチソウの訪花昆虫の多様性. 石川県立自然史資料館研究報告 4: 45-53. ISSN: 2187-7289, https://www.n-muse-ishikawa.or.jp/wp-content/uploads/2019/06/BIMNH_No4_p45-53_Yuri.pdf

Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. 2011. Flora of China Volume 20-21 (Asteraceae). Science Press, Beijing & Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781935641070

出典元

本記事は以下書籍に収録されるものを大幅に加筆したものです。

タイトルとURLをコピーしました