キンケイギク・オオキンケイギク・ハルシャギク・ホソバハルシャギクはいずれもキク科ハルシャギク属に含まれ、特徴は少ないものの、「非常に派手な黄色の一重咲き~二重咲きのキク」という印象を受ける一年草または越年草です。特にオオキンケイギクは特定外来生物として指定され注目される種類です。これらはよく環境省や地方自治体で似た種類として紹介されており、かえって混同する人が多いかもしれません。しかし、ハルシャギクとホソバハルシャギクはオオキンケイギクやホソバハルシャギクと花の色が異なっており、見間違うことは少なそうです。オオキンケイギクとホソバハルシャギクの区別はかなり難しそうですが、現状群生するのは殆どオオキンケイギクと考えて良さそうです。キバナコスモスとは生態・形態ともにかなり異なるので混同しないようにしましょう。本記事ではハルシャギク属の分類について解説していきます。
キンケイギク・オオキンケイギク・ハルシャギク・ホソバハルシャギクとは?
キンケイギク(金鶏菊) Coreopsis basalis は北アメリカ(アメリカ合衆国)原産で、開けたしばしば攪乱される砂地に生える一年草または越年草です。ヨーロッパや日本を含む東アジアの一部で鑑賞用に園芸で栽培されたものが帰化しています(Flora of Northa America Committee, 2006;神奈川県植物誌調査会,2018;RBG Kew, 2023)。
オオキンケイギク(大鶏菊) Coreopsis lanceolata は北アメリカ(カナダ~アメリカ合衆国)原産で、砂地、側溝、道路脇、その他攪乱地に生える多年草です。世界中で鑑賞用や緑化用に栽培されたものが帰化しています。日本では最も一般的に帰化し特定外来生物に指定されています。
ハルシャギク(波斯菊) Coreopsis tinctoria は北アメリカ(カナダ~メキシコ)原産で、湿った砂質または粘土質の土壌、アルカリ性の平地、草原、側溝、攪乱地に生える一年草または越年草です。世界中で鑑賞用に園芸で栽培されたものが帰化しています。日本では逸出する程度です。
ホソバハルシャギク(細葉波斯菊) Coreopsis grandiflora は北アメリカ(カナダ~アメリカ合衆国)原産で、砂地、側溝や道端、その他の攪乱地、花崗岩や砂岩の露頭に生える多年草です。ユーラシア大陸や南アメリカの一部で鑑賞用に園芸で栽培されたものが帰化しています。日本では栽培されることは少なく、逸出は確認されていません。
いずれもキク科ハルシャギク属に含まれ、特徴は少ないものの、「非常に派手な黄色の一重咲き~二重咲きのキク」という印象を受ける一年草または越年草です。
特にオオキンケイギクは外来生物法に基づき特定外来生物として指定され、栽培・譲渡・販売・輸出入などが原則禁止されています。日本の侵略的外来種ワースト100にも選定されたことから駆除対象になることもあります(ただし駆除の義務があるわけではありません)。いずれにせよ多種との区別が重要な種類であると言えるでしょう。
ハルシャギク属はキク科の中でも葉が対生、花床に鱗片があり円盤状、総苞片は1~2列で草質~膜質、痩果には長い嘴がないなどの点から区別されています。
この4種はよく環境省や地方自治体で似た種類として紹介されており、かえって混同する人が多いかもしれません。
キンケイギク・オオキンケイギク・ハルシャギク・ホソバハルシャギクの違いは?
しかし、この4種は意外にもかなり違いがあります。
まず、4種は共通した特徴として、一見「花」に見えるものありますが、これは花の集まり(花序)である「頭花」です。これはキク科で共通です。頭花は中央にある「筒状花」とそれを囲む「舌状花」から構成され、舌状花の花冠が美しさを生み出している部分に当たります。
オオキンケイギクとホソバハルシャギクではこの筒状花と舌状花が全て黄色であるのに対して、キンケイギクとハルシャギクでは筒状花は紫褐色で舌状花は先端部は黄色であるものの基部は紫褐色であるという違いがあります。
つまり、外観としてはキンケイギクとハルシャギクでは明らかに頭花の中央部が紫色で、先端部の黄色と2色のコントラストがあります。オオキンケイギクとホソバハルシャギクではこれがありません。これは一目瞭然です。
そのため、インターネットの記事で紹介されるほど「混同される」種類とは言えないと思います。
一方、オオキンケイギクとホソバハルシャギクに関しては確かに判断が難しい部分があります。
オオキンケイギクとホソバハルシャギクの大きな違いとして指摘されているのが、オオキンケイギクでは葉は茎の下半に偏ってつくのに対して、ホソバハルシャギクでは葉は茎全体につくという点です。
これは文字通りですが、慣れないと少し判断が難しいかもしれません。
他にも違いがあり、オオキンケイギクでは葉の裂片が楕円形で粗い毛があるのに対して、ホソバハルシャギクでは葉の裂片は細い線状披針形でそれほど毛が目立ちません。これは大きな判断材料になるでしょう。
しかし、栽培品種ではこれらの特徴は例外が多いとする考えもあるようです。
実際のところ、ホソバハルシャギクは栽培されるのは稀ですし、安定的な帰化している例は現在のところ殆どないようです。
上記2点も確認した上でですが、日本国内で群生しているものは殆どオオキンケイギクと考えても良さそうです。
なお、キンケイギクとハルシャギクの違いとしては、キンケイギクでは茎の葉の裂片は長楕円形~卵形で、植物体は有毛であるのに対して、ハルシャギクでは茎の葉の裂片は線形で、植物体は無毛という違いがあります。
オオキンケイギクとキバナコスモスの違いは?
オオキンケイギクとキバナコスモスの違いもインターネットではよく検索されているようです。
確かに、キバナコスモス Cosmos sulphureus もキク科でよく似た黄色い頭花をつけるため混同されることがあるかもしれません。
しかし、分類上はオオキンケイギクはハルシャギク属ですが、キバナコスモスはコスモス属です。そのため、大きな違いがあることが予想されるでしょう。
そもそもオオキンケイギクの花期は初夏(5~7月)ですが、キバナコスモスの花期は「コスモス」ですから秋(8~10月)です。そのため普通は見られる時期にずれがあります。
形態的にもオオキンケイギクでは筒状花が平べったく並び、舌状花の花冠の先は不規則に細かく切れ込みますが、キバナコスモスでは筒状花が盛り上がって並び、舌状花の花冠の先の切れ込みは少なくフォークのようにも見えます。
色も普通はキバナコスモスの方が濃い黄色です。
葉もキバナコスモスの方が多く切れ込みます。
果実の痩果についても、キバナコスモス(コスモス属)では長い嘴(尖った部分)がありますが、オオキンケイギク(ハルシャギク属)ではこれがありません。
以上のように全く違う種類であることが分かるでしょう。
コスモス属の種類が知りたい人は別記事を御覧ください。
引用文献
Flora of North America Committee. 2006. Flora of North America, Volume 21 Magnoliophyta: Asteridae, Part 8: Asteraceae, Part 3. Oxford University Press, Oxford. 616pp. ISBN: 9780195305654
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
RBG Kew. 2023. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/