クサギ・アマクサギ・ショウロウクサギ・シマクサギの違いは?葉は本当に臭い?クサギの花は蛾と蝶両方に受粉を頼っていた!?(花の生態がわかる写真図鑑 45)

植物
Clerodendrum trichotomum var. trichotomum

クサギは葉が臭いことから名付けられた東アジアに分布する樹木です。変種や近縁種がいくつか知られています。これらは主に花の雄しべの長さや、葉の毛の量や形で区別することが出来ます。葉は臭いがしますが、必ずしも臭いと感じるわけではなく、人によってはピーナッツバターのように良い香りだと感じることもあります。この臭いには昆虫から身を守る効果がありそうです。クサギの花はとても雄しべが長いですが、これは夜間はスズメガという蛾に、日中は蝶によって送粉・受粉するための適応であると考えられています。本記事ではクサギの分類・分布・特徴・送粉生態・種子散布について解説します。

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東アジアの林縁に生息する臭い木?

クサギ(広義) Clerodendrum trichotomum は漢字で「臭木」。朝鮮・中国・日本(北海道~沖縄)に分布し、道端の茂みや林縁、荒廃した森林に生息する落葉小高木です(佐竹,1999)。

シソ科クサギ属に含まれる小高木ですが、幼木が足元で見られることも多いです。

葉は丸みのある三角形状でやや大きいです。幼木や若木は鈍い鋸歯のある葉が多いですが、成木では全縁の葉が増えます(林,2014)。

葉を揉むなどの刺激を与えると特有の臭みがあり、このことが名前の由来となっています。

クサギ・アマクサギ・ショウロウクサギ・シマクサギの違いは?

いくつかの変種が確認されており、クサギ(狭義)Clerodendrum trichotomum var. trichotomum は北海道~九州に分布し、日本国内では最も一般的に見られる変種です。葉は両面とも有毛です。なお、特に葉の下面に毛が密生するものをビロードクサギ f. ferrugineum といいますが、変化は連続的なようです(神奈川県植物誌調査会,2018)。

また、アマクサギ(甘臭木) Clerodendrum trichotomum var. fargesii は九州南部・沖縄に分布し、クサギとは葉がほぼ無毛でやや厚いことから区別できます(林,2014)。伊豆諸島への移入も知られます(水澤,2017)。

ショウロクサギ(松露臭木)Clerodendrum trichotomum var. esculentum は別名ショウロウクサギ。四国南部・九州南部・沖縄に分布し、クサギ・アマクサギとは葉がやや長くて匂いが弱いことから区別できます(林,2014)。

ただし、以上の変化も明瞭に区別しにくい場合があるようです。

シマクサギ(島臭木) Clerodendrum izuinsulae は本州(伊豆諸島、三浦半島)に分布し、クサギとは別種とされています。クサギ(広義)との違いとしては、クサギ(広義)では花の雄しべが花筒から15~35mm突き出ていて、葉の上面は通常有毛で光沢はないのに対して、シマクサギでは雄しべが花筒から5~15mm出る程度と短めで、葉の上面は殆ど無毛でやや光沢があります。また、花筒および萼片の色についても、クサギ(広義)では赤みを帯びるのに対して、シマクサギはほとんど赤みを帯びません(水澤,2017)。

クサギ(狭義)の葉
クサギ(狭義)の幼木
クサギ(狭義)の花序
クサギ(狭義)の花
クサギ(狭義)の果実
アマクサギの葉上面
アマクサギの葉下面:クサギ(狭義)では葉脈に毛があるが全く見られない
アマクサギに見られた謎の虫こぶ?フシダニ科か?
シマクサギの花
By ゆうき315 – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=21399437

クサギは本当に臭い?臭いにはどんな役割がある?

上述のようにクサギは揉むなどの刺激を与えると特有の臭みがあります。葉の下面には微小な腺点と少数の大きな腺点があり(茂木ら,2003)、ここから臭いの成分を分泌しているものと思われます。

しかし、クサギは本当に臭いのでしょうか?

先入観のない人が嗅ぐと、3人に1人は「結構いい匂い」という評価もあるそうです(林,2021)。また、英語では「ピーナッツバターツリー(peanut butter tree)」とも呼ばれ、ピーナッツ風の香りに感じる人もいるといいます。

いずれも主観ですが、どうせ嗅ぐなら肯定的に捉えてみるのも悪くないと思います。

ところで、この臭い・匂いはどのような役割があるのでしょうか?

直接昆虫や哺乳類からの食害を防いでいるという研究については筆者は発見できませんでしたが、興味深い事実があります。それはニホンカブラハバチ Athalia rosae ruficornis という草食性のハチが成虫になってから、クサギやセイヨウジュウニヒトエが葉から分泌するネオクレロダンジテルペノイド(クレロダノイド)という物質をわざわざ摂取しにいき、体内に蓄えているということです(Kawai et al., 1998)。

なぜニホンカブラハバチはクレロダノイドを体内に取り込むのでしょうか?ハチのような完全変態の昆虫は基本的には成長を幼虫の間に完了させてしまうので、栄養素を求めているわけではなさそうです。もしかしたら防御物質として役に立っているのかもしれません。

これを調べるためにクレロダノイドを摂取したニホンカブラハバチと摂取していないニホンカブラハバチが、ハラビロカマキリ Hierodula patellifera にどれくらい捕食されやすいか比較されました(Singh et al., 2022)。

その結果、クレロダノイドを摂取したニホンカブラハバチの方が捕食されにくく、また捕殺されてしまっても、体を食べられることが少なかったのです。

この事実はニホンカブラハバチがクレロダノイドを捕食からの防御物質として使用しており、その分泌元であるクサギの臭い・匂いについても少なくとも昆虫に対しては身を守るために有効であると考えられます。

哺乳類に対しては分かりませんが、ヒトにとって違和感があるということはある程度は効果があるのかも知れません。

クサギは古くはクマツヅラ科でしたが、現在の分類ではシソ科に含まれています。シソといえば、共通して葉に腺点があり、匂いがしており、更に食害に強いことで馴染み深いと思います。シソ科だということを踏まえればむしろそれほど特殊な特徴ではないのかもしれません。

雄しべが異様に長いクサギの花には夜行性のスズメガがやってくる!?

枝先や上部の葉腋から集散花序をだし、甘い匂いがする花を多数つけます。花冠は5裂し、裂片が花びらのようになっています。裂片は白色で長さ1.1〜1.3cmの広線形となり、花筒は紅紫色で細いです。

クサギ(狭義)の花

この花の最も大きな特徴は異様に長い雄しべです。雄しべは4個あり、花柱は花冠から2.5〜3.5cm突き出ています。

花は3日ほど咲き、その状態は雄性(雄しべを伸ばす)→中性(雄しべを丸めつつ、雌しべのやや伸ばす)→雌性(雄しべを完全に丸め、雌しべを真っ直ぐ伸ばす)と変化していきます(田中,1973;住吉・川窪,1995)。このような花の変化を「雄性先熟」と言います。

このような「雄性先熟」はオスとして花粉を他の個体に渡す期間と、メスとして他の個体の花粉を受け入れる期間をわける働きがあり、こうすることで自家受粉を防いでいると考えられています。

特徴的なクサギの花にはどのような昆虫が訪れるのでしょうか?

一般的に花が甘い匂いがして、白く、花筒が長く、雄しべや雌しべが長いという特徴は口吻が長く薄暮性~夜行性の蛾であるスズメガを呼び込む花の共通の特徴として知られています(送粉シンドローム)。

このような花の場合、スズメガが長い口吻を利用し、できるだけ遠くから蜜を吸おうとしても、それに対応するように雄しべや雌しべも長くなっているので、スズメガの体に花粉が強制的に付着しやすくなっています。

クサギの花はこれらの特徴をよく満たしており、スズメガがやってくることが予想されるでしょう。

実際、日本の研究によると、確かにスズメガが訪れていました(田中,1973;Sakamoto et al., 2012)。具体的には、薄暮性のクロホウジャク Macroglossum saga、夜行性のコスズメ Theretra japonica が見られ(田中,1973)、クロホウジャクでは68.1%、コスズメでは81.3%が雄しべや雌しべに確かに触れることが確認されており、間違いなく受粉を担っていると考えてよいでしょう。

日中は蝶が一番の受粉の担い手だった!?

ところが、クサギは日中にも咲いています。もしスズメガだけで受粉を完了させているのだとしたら、日中に咲く必要がありません。しかしそうではないことを踏まえると、日中にも昆虫が花に訪れていると考えられます。では日中ではどのような昆虫が訪れるのでしょうか?

日中に花に訪れる昆虫にフォーカスして調べた2012年に発表された岐阜県での研究によると花にやってくる昆虫は森林性の黒いアゲハチョウの仲間が41%、ホシホウジャク Macroglossum pyrrhosticta(スズメガの仲間)が46%、キムネクマバチ Xylocopa appendiculata circumvolans が8%という結果になっていました(Sakamoto et al., 2012)。

ホシホウジャク(参考写真、筆者撮影)
クロアゲハ♂(参考写真、筆者撮影)
キムネクマバチ(参考写真、筆者撮影)

このことはクサギがスズメガだけに受粉を頼っているわけではないということを示しています。

ところで、日中に訪れる昆虫について知ると割合的に、「ホシホウジャクが日中では一番大事な訪花昆虫なのかな?」と思われるかもしれません。

しかし実際はもっと複雑です。ホシホウジャクは沢山やって来てくれるのですが、どうも連続して同じ個体の花に訪れる「癖」があるようで、自家受粉を促してしまうのです(隣花受粉)。また、花粉に触れることも少ないです(田中,1973)。

一方、チョウはそうではなく、様々な個体の花に訪れるため、一番他の個体との花粉の交換に貢献してくれるのです。そのため日中においては訪れる割合としては2番目ではあるものの、最も受粉の役に立っている昆虫であるといえます。

元々チョウは他の昆虫に比べても口吻が著しく長いため、蜜だけ奪って花粉を運ばないことも多く、チョウを送粉者として利用するには特殊な適応が必要であることが多いです。そのような意味でクサギが受粉をチョウにも頼っているというのは意外な結果であるといえます。

最後にキムネクマバチですが、こちらは逆に「8%ならそんなに大事な訪花昆虫じゃないのかな?」とも思えますよね。実際、管に穴を開けて蜜だけを奪う「盗蜜」を行うため、大事じゃないどころか、害があるとすら思えます。しかし、意外にもきちんと雄しべや雌しべに触れるため、そのようなデメリットを加味しても一応受粉の役に立っていると考えられています。

その他にこの研究では記録はありませんでしたが、東京都ではオオスカシバ Cephonodes hylas もとても沢山の個体がやってきた記録があります。こちらも受粉率は高いものでした。

このように明らかにスズメガに適応していると思われたクサギの花ですが、日中と夜間、蝶と蛾を巧みに利用して受粉していたのです。これは偶然ではなく、一日中咲いているという生理的な性質からも(住吉・川窪,1995)、狙って行っていると考えるのが自然でしょう。

なお、シマクサギは雄しべが短くなっています。この点で訪れる昆虫はクサギとは何か異なる点があるのでしょうか?まだ研究されていないと思われ気になるところです。

クサギの果実はどぎつい色の対比で鳥にアピールしていた!?

花のあと萼は濃紅色になり、深裂して星状に開き、中央に果実があります(茂木ら,2003)。果実は核果で、直径6〜7mmの球形となり、10〜11月に熟すと光沢のある藍色になります。この藍色の成分は「トリコトミン」として知られています(Iwadare et al., 1978)。

萼の色が濃紅色ととても鮮やかな色に変わるというのはとても変わっていますが、何か役割があるのでしょうか?

植物にはクサギ以外にも果実以外の果柄・小果柄・残存する萼片などの付属器官が赤などの目立つ色になるものがあり、これらは「形態的な二色(morphological bicolor)」と呼ばれます(紙谷,1999)。

このような「形態的な二色」を持つことでどぎつい赤い萼と青い果実の対比で果実食の鳥に対して目立ちやすくすることができると考えられています。

このような変化はミズキやタラノキの果実でも知られています。

人間の目にも明らかに自然の中では異質に感じますし、目立つことは間違いないでしょう。ところが、シマクサギは萼が赤くなりません。なぜこのようなことになっているのでしょうか?何らかの理由で鳥にアピールする必要性が増したのだと思われますが、この点もまだ研究されておらず、非常に興味深い謎として残されています。

引用文献

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林将之. 2021. おもしろ樹木図鑑 びっくり!ヘンテコ!不思議?. 主婦の友社, 東京. 255pp. ISBN: 9784074455645

Iwadare, S., Shizuri, Y., Yamada, K., & Hirata, Y. 1978. Synthesis of trichotomine, a blue pigment obtained from Clerodendron trichotomum Thunb. Tetrahedron 34(10): 1457-1459. https://doi.org/10.1016/0040-4020(78)80166-5

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

Kawai, K., Amano, T., Nishida, R., Kuwahara, Y., & Fukami, H. 1998. Clerodendrins from Clerodendron trichotomum and their feeding stimulant activity for the turnip sawfly. Phytochemistry 49(7): 1975-1980. https://doi.org/10.1016/S0031-9422(98)00431-2

紙谷智彦. 1999. 果実の二色ディスプレイ戦略. pp.52-63. In: 上田恵介. 種子散布 助けあいの進化論 1 鳥が運ぶ種子. 築地書館, 東京. ISBN: 9784806711926

水澤玲子. 2017. 伊豆諸島八丈島において人為的に移入したと思われる アマクサギ(シソ科)の生育を確認. 分類 17(1): 75-81. https://doi.org/10.18942/bunrui.01701-12

茂木透・高橋秀男・勝山輝男・石井英美. 2003. 樹に咲く花 合弁花・ 単子葉・裸子植物. 山と溪谷社, 東京. 719pp. ISBN: 9784635070058

Sakamoto, R. L., Ito, M., & Kawakubo, N. 2012. Contribution of pollinators to seed production as revealed by differential pollinator exclusion in Clerodendrum trichotomum (Lamiaceae). PloS one 7(3): e33803. ISSN: 1932-6203, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0033803

佐竹義輔. 1999. 日本の野生植物 木本 2 新装版. 平凡社, 東京. 305pp. ISBN: 9784582535051

Singh, P., Grone, N., Tewes, L. J., & Müller, C. 2022. Chemical defense acquired via pharmacophagy can lead to protection from predation for conspecifics in a sawfly. Proceedings of the Royal Society B 289(1978): 20220176. https://doi.org/10.1098/rspb.2022.0176

田中肇. 1973. クサギの蛾による花粉媒介. 植物研究雑誌 48(7): 209-214. ISSN: 0022-2062, https://doi.org/10.51033/jjapbot.48_7_6289

住吉啓三・川窪伸光. 1995. クサギ Clerodendrum trichotomum Thunb. の雄性先熟と花蜜分泌. 鹿児島大学教育学部研究紀要 自然科学編 47: 47-55. http://hdl.handle.net/10232/7233

出典元

本記事は以下書籍に収録されたものを大幅に加筆したものです。

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