スベリヒユ・ハナスベリヒユ(ポーチュラカ)・マツバボタンはいずれもスベリヒユ科スベリヒユ属に含まれ、葉に光沢があり多肉質になっている草本であることが大きな特徴です。その丈夫さから都市部でも栽培されたり帰化しており、特にハナスベリヒユとマツバボタンは花が大きいことから観賞用として人気があります。しかし、これら3種は混同されることがあるかもしれません。3種は葉と花の大きさを確認するだけで簡単に区別することができます。ハナスベリヒユは一説ではスベリヒユとマツバボタンの雑種で中間的な特徴と考えれば覚えやすいでしょう。3種はC4型光合成とベンケイソウ型有機酸代謝(CAM)型光合成を両立することが知られており、過酷な環境での生育を可能にしています。
スベリヒユ・ハナスベリヒユ・マツバボタンとは?
スベリヒユ(滑莧) Portulaca oleracea はヨーロッパ・アフリカ・西アジア原産で、世界中の温帯~熱帯に帰化し、日本では北海道・本州・四国・九州・琉球に分布し、路傍や畑に普通に生える一年草です(神奈川県植物誌調査会,2018;RBG Kew, 2025)。和名の由来は昔から食用とされており、茹でて食べる野菜の「ヒユ」に姿が似ているが、ヒユよりも粘り気が強いことから「ぬめりひゆ」と呼ばれたことにあるといいます。
ハナスベリヒユ(花滑莧) Portulaca oleracea x P. grandiflora は別名ポーチュラカ。スベリヒユとマツバボタンの園芸で人工的に生み出された交雑種の一年草です。世界中で観賞用に栽培されます。『Ylist』を始めいくつかのサイトで Portulaca oleracea x P. pilosa subsp. grandiflora という学名で紹介されていますが、これはマツバボタンをヒメマツバボタンの亜種とする措置に従ったものであり、整合性がとれません。『神奈川県植物誌2018』では P. oleracea ‘Wild Fire’ として扱われておりこちらはスベリヒユの園芸品種という見解です。
マツバボタン(松葉牡丹) Portulaca grandiflora は別名ホロビンソウ(不亡草)。南アメリカ原産で、世界の一部地域で帰化し、日本では観賞用に栽培される一年草です。
いずれもスベリヒユ科スベリヒユ属に含まれ、葉に光沢があり多肉質になっている草本であることが大きな特徴でしょう。葉は互生で花は茎頂に集まってつきます。この葉は後述のように特別な光合成のために進化しています。
ハナスベリヒユとマツバボタンでは放って置いても大丈夫なほど強いことに加えて花が白色・黄色・ピンク色・赤色と多彩な品種が存在することも魅力の一つでしょう。
果実は熟すと横に裂け、上部が脱落する蓋果で、中には黒い種子が多数入っています。この種子の多さが繁殖力にも繋がっています。
さらにスベリヒユ属の中でも3種は地を這う性質があるという点も共通です。
しかし、園芸ではハナスベリヒユを属名である「ポーチュラカ」と呼び、同じ属に含まれるマツバボタンや、原種で自然に生えているスベリヒユと混同されることがあるかもしれません。
スベリヒユ・ハナスベリヒユ・マツバボタンの違いは?
これら3種のうち、スベリヒユとマツバボタンは全くの別種なので違いは明らかです(Flora of North America Editorial Committee, 2004)。
スベリヒユでは葉が平たくへら形で基部はくさび形であるのに対して、マツバボタンでは細く先が尖る円柱形であるという違いがあります。
外観としてはスベリヒユは箆のような状態でマツバボタンは葉が針のような状態に見えるでしょう。スベリヒユの葉は特徴的でこれだけでスベリヒユだとわかるほどです。マツバボタンも「松葉」という和名通りです。
花もスベリヒユでは黄色固定で直径6〜8mmであるのに対して、マツバボタンでは白・黄・ピンク・赤色と様々な色の品種があり直径30mm以上であるという違いがあります。
ハナスベリヒユ(ポーチュラカ)は一説ではスベリヒユとマツバボタンの雑種なので2種の中間的な特徴を示します。
ハナスベリヒユの葉はスベリヒユに近く平たいですがスベリヒユほどへら形ではなく卵形に近いという違いがあります。
ハナスベリヒユの花はマツバボタンに近く大型で白・黄・ピンク・赤色と様々な色になっています。
したがって、花が大きく卵形に近い葉だったものはハナスベリヒユと言えるでしょう。













マツバボタンとヒメマツバボタンの違いは?
ヒメマツバボタン Portulaca pilosa というマツバボタンに似た種類が栽培・野生化していることも知られています。ヒメマツバボタンもマツバボタンと同様に太い針状の葉を持っています。
しかし、マツバボタンでは花の直径3cm以上であるのに対して、ヒメマツバボタンでは花の直径1cmと小さいという違いがあります。
『神奈川県植物誌2018』では他にヒメマツバボタンでは葉の基部に縮れた長毛が目立つという違いを示していますが、私が撮影したマツバボタンには縮れた長毛が目立つものの花が大きい個体があるのでこの点だけでは区別できないかもしれません。
スベリヒユ類はC4型光合成とCAM型光合成を両立していた!?
これら3種を含むスベリヒユ属はC4型光合成を行うC4植物でありながら、ベンケイソウ型有機酸代謝(CAM)型光合成を行うCAM植物であるという特徴を持っています(Ferrari et al., 2020; Guralnick et al., 2020)。
通常C4型光合成とCAM型光合成は1個の細胞では両立できませんが、ベンケイソウ属では1枚の葉の中で役割分担を行い両立しています。
C4型光合成は一般に、高温で高光量の環境においての生理学的適応です。
CAM型光合成は一般に、夜間に二酸化炭素(CO2)吸収を行い昼間の蒸散を抑えることができるため、主に陸上の多肉植物が厳しい水分環境にさらされる高温・半乾燥環境において水を確保する生理学的適応と捉えられ、直接土壌からの水分を吸収しにくい場所や塩分濃度の高い土壌に生育するのに有利です。これに加え、組織の多肉化も水分の貯蔵能力を高めるために進化しています。これら3種でもこのような特徴を反映していると言えるでしょう。
スベリヒユ属がこれほどの能力を得ている理由は分かりませんが、とても過酷な環境で進化してきたのかもしれません。あちこちで野生化したり世界中で栽培が可能なのはこのような進化によって得た光合成が大きく影響していると考えて良さそうです。
引用文献
Ferrari, R. C., Bittencourt, P. P., Rodrigues, M. A., Moreno-Villena, J. J., Alves, F. R., Gastaldi, V. D., … & Freschi, L. 2020. C4 and crassulacean acid metabolism within a single leaf: deciphering key components behind a rare photosynthetic adaptation. New Phytologist 225(4): 1699-1714. https://doi.org/10.1111/nph.16265
Flora of North America Editorial Committee. 2004. Flora of North America: North of Mexico; Volume 4: Magnoliophyta: Caryophyllidae, part 1 (Flora of North America, Vol. 4) Oxford University Press, 584pp. ISBN: 9780195173895
Guralnick, L. J., Gilbert, K. E., Denio, D., & Antico, N. 2020. The development of crassulacean acid metabolism (CAM) photosynthesis in cotyledons of the C4 species, Portulaca grandiflora (Portulacaceae). Plants 9(1): 55. https://doi.org/10.3390/plants9010055
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
RBG Kew. 2025. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/