キレンジャクとヒレンジャクの違いは?分布は?夏と冬の生態は?冠羽や赤い蝋状物質の役割とは?蝋状物質で「年齢」が分かる!?

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キレンジャクとヒレンジャクはどちらも赤や黄色など色鮮やかで冠羽を持つレンジャク属の冬鳥でよく似ており、区別に迷うことがあるかもしれません。しかし、尾羽の先端を確認すれば確実に判別できますし、細かい色彩も異なります。分布は大きく異なり、キレンジャクは全北区に分布しヨーロッパ・北アメリカなどでも見られますが、ヒレンジャクは旧北区の極東にのみ見られます。越冬地では漢字で「連雀」と書くように100羽以上の群れを形成することもあり、植物の果実のみを食べ、移動します。番はこの時にできます。繁殖地では弱いコロニーを形成し、昆虫も餌メニューに加わります。一夫一妻で針葉樹に営巣し繁殖します。レンジャク類には雌雄差のある、かなり目立つ冠羽や黒い喉や黄色・赤色の羽毛がありますが、これらの役割は強い社会性を持っていることと関係しており、メスでは同性間で、オスでは同性間と異性間の闘争で利用することが分かっています。また、レンジャク類共通で存在する赤い蝋状物質については餌の果実から生成され、「年齢」を示すものである可能性が高いことが分かっています。赤い蝋状物質がはっきり出ている個体は老齢で身体的・経験的に子育てが得意である可能性があります。本記事ではキレンジャクとヒレンジャクの分類・生活環・食性・繁殖生態・形態的適応について解説していきます。

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赤や黄色など色鮮やかで冠羽を持つ冬鳥2種

キレンジャク(黄連雀) Bombycilla garrulus は全北区に分布し、繁殖分布はスカンジナビア半島、シベリア、中国北部、北アメリカ大陸北部で、ヒレンジャクよりかなり広い分布城を持ちます(中村・中村,1995)。越冬分布は繁殖地から南下し、ヨーロッパ全域、イラン、中国、日本、サハリンです。日本には冬鳥として11月ごろに渡来し、 4月ごろまでとどまることがありますが、渡来数は年によって異なります。北海道、東北、北陸、山陰地方の落葉広葉樹林や市街地の公園、村落付近に生息します。

ヒレンジャク(緋連雀) Bombycilla japonica は旧北区に分布し、繁殖分布はシベリア、中国北部、アムール川周辺、ウスリーです。越冬分布は繁殖地から南下し、中国南部、台湾、サハリン、日本などです。極東だけの特産種で、英語では「Japanese waxwing」と呼ばれます。日本には冬鳥として、沖縄県中部以北に渡来しますが、渡来数は年によって著しく異なり、まったく観察されない年もあります。11月ごろに現れ、5月ごろまで平地の農耕地周辺、山ぎわの集落や木の多い市街地、公園などに生息します。

どちらもスズメ目レンジャク科レンジャク属で、日本では冬鳥で色鮮やかで冠羽を持つ点はよく似ており、区別に迷うことがあるかもしれません。

キレンジャクとヒレンジャクの違いは?

しかし、以下の点を確認すればこの2種を区別できます(Birder,2014)。

キレンジャクとヒレンジャクの最も大きな違いは、キレンジャクでは尾羽の先端は黄色であるのに対して、ヒレンジャクでは尾羽の先端は赤色であるという点です(森岡・宇田川,2003)。

ただし、キレンジャクにもヒレンジャクと同様に次列風切の先端に赤い蝋状物質があるので、きちんと尾羽に着目することが大事です。

また、キレンジャクでは黒い過眼線が冠羽まで到達して無いのに対して、ヒレンジャクでは黒い過眼線が後ろまで長く伸び、冠羽の下部まで黒くなっていっています。

更にキレンジャクでは腹部に何もありませんが、ヒレンジャクでは腹部が黄色くなっています。尾羽が確認できない場合は参考になるでしょう。

分布については日本国内では西日本ではヒレンジャクが、東日本ではキレンジャクが多く観察されるという点は観察する上で重要な指標になるでしょう。しかし、両種は混群を形成する場合もあります。

なお、ヒメレンジャク Bombycilla cedrorum という種類はキレンジャクと同じく尾羽の先端は黄色ですが、アメリカ大陸のみに見られ小型です。

キレンジャク成鳥の全形|By User Snowyowls on zh.wikipedia – Originally from zh.wikipedia; description page is (was) here11:58 2005?2?13? Snowyowls 1581×862 (809,217??), CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=809018
ヒレンジャク若鳥の全形|CC BY-SA 1.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=14812

越冬地での生活は?

レンジャクは漢字で「連雀」と書きます。これは「連なったスズメ(小鳥)」という意味で(大橋,2016)、特に大きな群れを作る習性がよく知られています。この点が最もこのグループを象徴しているでしょう。100羽以上になることもあり、極端な例では2004~2005年の冬にドイツだけで50万羽以上のキレンジャクが記録されたことがあります(Fouarge & Vandevondele, 2005)。

キレンジャクとヒレンジャクはどちらも越冬地では群れとなって暮らし、餌となる植物に生った果実を求めて広く移動します。赤い果実も好みますが、黒や白の果実も食べています。

キレンジャクではナナカマド、ズミ、イボタノキ、カキノキ、ヤドリギなどの果実を食べるとされています。

ヒレンジャクではネズミモチ、イボタノキ、ニシキギ、ヤドリギなどの果実をよく食べるとされています。

特にレンジャク類はヤドリギ Viscum album の果実が好物とされ、食べた後は種子についた繊維に由来するネバネバの糞をすることが知られています。これによりヤドリギの種子散布を特によく促進していると考えられています(安藤ら,2016)。

日本ではその餌メニューの中にピラカンサがあり、ピラカンサを食べることで突然死が起こるという説がありますが、個人的には疑わしく思っています。

どちらの種類も採食はもっぱら樹上で、水を飲むとき以外は地上に下りることはありません。果実をついばみながら枝渡りして採食します。果実は糖分は豊富ですが、他の栄養素が不足しているため、大量に食べる必要があるというデメリットもあります。ヒトに例えればお菓子ばかり食べている状態です。冬は昆虫が居ないので仕方ないのですが、想像以上の苦労があるといえるでしょう。

雌雄の番(カップル)は越冬地で形成され、木の果実などの餌を含む小さなプレゼントを雌雄で相互に何度も受け渡し、求愛給餌に似た独特の求愛ディスプレイを行うことが知られています。

繁殖地での生活は?

繁殖地に移動すると、番は巣のごく近くの地域以外はなわばり防衛を行わず、一部の地域では、まとまりの弱いコロニーを形成します。

繁殖地では植物の果実に加えて、小型のハエを主とした昆虫やクモも食べます。

キレンジャクは北欧圏では6月中旬ごろから産卵を始め、ふつう年に1回、一夫一妻で繁殖します。

営巣木として針葉樹を好み、地上から3~15mぐらいの高さの枝上に、コケ類、枯れ葉、まれに地衣類を材料にして椀形の粗雑な巣を作ります。

巣づくりには雌雄とも関わりますが殆どの仕事はメスが行います。1巣卵数は5~6個、メスだけが14~15日抱卵し、その間メスは抱卵中のオスに餌を運びます。育雛日数は14~15日ですが、悪天候の場合は17日以上にもなります。雌雄とも雛に給餌します。

ヒレンジャクの繁殖生態はよく分かっていませんが、キレンジャクと類似しているとされています。

冠羽や黒い喉や黄色・赤色の羽毛の用途は?

レンジャクの仲間は装飾がかなり多い鳥であると言えるでしょう。頭部にある冠羽に加えて、黒い喉や黄色・赤色の尾羽・初列風切羽を持つなどおしゃれな装いです。

これらにはどのような役割があるのでしょうか?

完全に分かっているわけではありませんが、これはレンジャク属が繁殖地でも弱いコロニーを作り、社会性を持っていることと関係しているようです。

ただし、オスとメス、それぞれ少し別の用途があるようです。その証拠にオスとメスでは少し模様が異なります。キレンジャクのメスは尾端の黄色は淡くて幅が狭いこと、ヒレンジャクでは初列風切の先端に白斑がなく、翼と下尾筒の紅色部が小さいことが知られています。更に2種共通でオスは喉の黒い部分の境目がはっきりしており、メスはその境目が不明瞭にぼやけています。これはオスの方がよりこれらの模様を使用するため、性選択を受けて模様が強くなった結果であると考えるのが一般的でしょう。

具体的には以下のような模様の使用例が見られています(Meaden & Harrison, 1965)。

メスの場合は繁殖地で営巣地を巡って、メス同士で競争が発生することがあり、その際にライバルに向かって背が高く細く見えるように直立し、羽毛や冠羽を低く下げ、黒い喉を見せつけて、嘴を開き鳴いてディスプレイを行います。

オスの場合は繁殖地でメスを巡ってオス同士で競争が発生することがあり、その際にやはりライバルに向かってメスと同様のディスプレイを行います。

しかし、オスはこれに加えてメスへの求愛ディスプレイにも体の模様を利用しています。この求愛ディスプレイは敵対ディスプレイとはほぼ逆で、オスは羽毛や冠羽を垂直になるまで立て体をメスに見せびらかします。この際、メスから顔を背けますが、これは体全体をメスに見えやすくするためでしょう。

メスにアピールするキレンジャクのオス|Meaden & Harrison (1965): Plate 39Aより引用

その後、メスが同様に羽を立て受けいれる素振りを見せると、上述のようにオスとメスでお互いに餌を含む小さなプレゼントを開いた嘴の中に入れて贈り合います。最大で14回まで連続して行われることが確認されており、このディスプレイ中に全く鳴くことはありません。しかし、これだけの長期の愛の確かめ合いを行っても、ある観察では交尾に至ったのは10%であったと言います。かなり厳しい審査が行われているのかもしれません。

このように体の装飾はオス間、メス間、雌雄間の競争のためであると考えるのが自然でしょう。装飾がしっかりしている方が、それだけ健康で強い個体であることを示すことが出来るのです。ただ、キレンジャクとヒレンジャクではなぜ色が異なったのでしょうか?種間交雑を防ぐためだとも考えられそうですが、まだきちんとした研究は無いようです。

赤い蝋状物質にはどのような役割がある?実は年齢が分かるものだった!?

レンジャク属の仲間は、上述のように装飾が沢山ありますが、次列風切の先端に赤い蝋状物質は共通で存在することが知られています。

この色はアスタキサンチンによって着色され、他の鳥類の羽毛にも確認されているカロテノイド色素です。この色素の前駆体は餌の植物の果実に由来すると考えられています。

この赤い蝋状物質にはどのような役割はあるのでしょうか?この点に言及している日本語の文献は見たことがありません。

かつては羽の摩耗を防ぐためとも考えられていました。しかし、生きた鳥や博物館の標本を調べたところ、先端の色と羽毛の摩耗の間に明らかな関係は見つかず否定されています。

カナダのクイーンズ大学によって、より有力な役割がオンタリオ州の調査から提唱されています(Mountjoy & Robertson, 1988)。

それは「年齢」のディスプレイです。

この研究では国立野生生物保護区でヒメレンジャクを捕獲し、幼鳥または成鳥か、抱卵斑からオスかメスかを判断し、これが赤い蝋状物質とどのような相関関係があるかを調べました。

その結果、雄雌ともに成鳥ではこのような赤い蝋状物質を持ちますが、2齢までの若鳥には通常全くないか、数本しかないことが分かったのです。これは、雌雄ともに「遅延羽色成熟(delayed plumage maturation, DPM)」を示す鳥類として、初めて報告された例です。

つまり、赤い蝋状物質の具合によって年齢(あるいは蝋状物質を作り出せるその年齢に相応な健康状態を持っているか)が分かるということですが、そのことにはどのような意味があるのでしょうか?

それは端的に言って、「年上の方がモテる」可能性が高いということです。

高齢の鳥は若年の鳥よりも早く巣作りを始める傾向が知られており、このペアは1シーズンに2回子育てするチャンスがあります。その場合は高齢の鳥をパートナーと選びたいと思いますし、そのことをアピールする価値はあるでしょう。

この他にも高齢の鳥は繁殖成功率が高いと考えられています。

その理由としては、メスの場合、高齢のメスの方が若年のメスよりも卵巣が大きく、一巣卵数が多く、卵が大きく、雛の巣立ち成功率が高いことが考えられます。

一夫一婦制の種類では、メスが子育て上手であるかがオスの子供の数に直結します(一夫多妻制なら浮気をすれば良いことになります)。そのため、交尾の機会が限られている場合、オスは交尾相手を選ぶ際に年上をパートナーにしたいと考えるのかもしれません。

ヒトのオスの場合は出産年齢や閉経の関係から若い女性を重視する風潮もありますが、レンジャク類ではそのような制約は少なく、身体的な成熟度の観点が重要とされているのでしょう。

一方、オスの場合も高齢な方が繁殖成功率が高いと考えられます。オスは抱卵中にメスの餌のほとんどを提供し、メスよりも頻繁に雛に餌を与えます。高齢のオスの場合、より雛を世話をし、より効率的にメスに餌を提供するため、メスが子育てで負担するコストが減り、結果として雛が立派に育つ可能性が高いのです。

そのため、メスにとっても年上をパートナーにしたいという動機があります。これはメスは「子育てパパ」を求めているということであり、こちらは現代人にとっても分かりやすいでしょう。

レンジャク類を観察するときは「赤い蝋状物質」に着目してみると、その個体がどのような地位にいるのか分かり、面白いかもしれません!

引用文献

安藤正規・鍵本忠幸・加藤正吾・小見山章. 2016. 落葉樹林の林冠構造がヤドリギの分布に与える影響. 日本森林学会誌 98(6): 286-294. https://doi.org/10.4005/jjfs.98.286

Birder. 2014. 冬の人気者、レンジャク2種を徹底比較. Birder 28(1): 1-4. ISSN: 0913-5219

Fouarge, J. & Vandevondele, P. 2005. Synthèse d’une exceptionnelle invasion de Jaseurs boréaux (Bombycilla garrulus) en Europe en 2004-2005. Aves 42(4): 281-312. https://aves.natagora.be/fileadmin/Aves/Bulletins/Articles/42_4/42_4_281.pdf

Meaden, F. M. & Harrison, C. J. O. 1965. Courtship display in the Waxwing. British Birds 58 (6): 206-208. ISSN: 0007-0335, https://britishbirds.co.uk/wp-content/uploads/article_files/V58/V58_N06/V58_N06_P206_208_A046.pdf

森岡弘之・宇田川竜男. 2003. 原色新鳥類検索図鑑. 北隆館, 東京. 358pp. ISBN: 9784832607521

Mountjoy, D. J., & Robertson, R. J. 1988. Why are waxwings “waxy”? Delayed plumage maturation in the cedar waxwing. The Auk 105(1): 61-69. https://doi.org/10.1093/auk/105.1.61

中村登流・中村雅彦. 1995. 原色日本野鳥生態図鑑 陸鳥編. 保育社, 大阪. 301pp. ISBN: 9784586302055

大橋弘一. 2016. 野鳥の呼び名事典 由来がわかる. 世界文化社, 東京. 127pp. ISBN: 9784418164134

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